僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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お久しぶりです。色んなの書いたりしてたら遅くなりました。

ちょっとだけ書き方変えました。読みにくかったら申し訳ないです。


第25話 ─轟VS緑谷─

試合開始少し前。生徒用の観客席にて。

 

「2人まだ始まっとらん?」

 

控え席から戻ってきた麗日は飯田にそう話しかける。

試合開始直前。2人が入場してきたところでまだ戦い始めてはいない。

 

「見ねば。」

「どうした麗日くん!?目を潰されたのか!!早くリカバリーガールの元へ!!!」

 

腫れぼったいまぶたを見て飯田はそう叫ぶ。

麗日はここへ戻ってくるまでの間、父親からの電話を受け、緑谷の前では耐えていた試合の悔しさに泣いてしまっていた。

それによってのものであるが、飯田はそれに気づいていなかった。

麗日は目を潰されたことを否定し、席に座る。

 

「今は悔恨より、この試合を糧にすべきだ。」

 

近くに座っていた常闇が声をかける。

 

「うん……あの氷結、デクくんどうするんだろ……?」

 

緊迫して観戦する。

 

「香月はどっち応援する?」

 

別の席で上鳴が香月に話しかけた。

 

「クラスメイトだしどっちも応援してるぞ?」

「や、まぁそりゃそうだけどさ……なんか、あるじゃん?」

「なにかとはなんだなにかとは。……でもまぁ──」

 

話しかけられた上鳴から目線を外し、ステージにいるふたりに目線を戻して。

 

「なにかあの2人には近しいものを感じてな。どちらと選び難いというのは本当だよ。」

「それは香月とってこと?」

「はは、違ぇよ。2人が似てるってことだ。だが強いて言うなら……緑谷だな。」

 

強烈な代償を伴う力だからな、とそう呟いた。

そしてプレゼントマイクの宣言により試合開始のゴングが鳴る。

緑谷は開始直後に氷結が来ることを予見。轟は超パワーを好きに使わせることを危険視し、開幕直後に巨大な氷結を放った。

速い。高速で緑谷に近づいてくる氷結。

 

(間に合え!!!)

 

そう考えながら手を前に、中指を親指に引っ掛け、デコピンを構える。

そして、"個性"を発動して放つ。

 

─SMASH!!!─

 

強烈な衝撃が氷結を吹き飛ばし、観客席に寒風を巻き起こす。

 

《おォォォ!A組緑谷!轟の初動を破ったァ!!》

 

氷結は全て吹き飛ばされ、緑谷に届くことは無かった。

 

「やっぱそう来るか……。」

 

自損覚悟の打ち消し。それが緑谷の選んだ最初の択だった。

確かに轟がどの規模で攻撃して来るか不明である以上、回避を選ぶより打ち消しの方が有効だ。

そして打ち消すならば制御可能な範囲である5%よりも、100%ぶっ放しの方がいい。

衝撃で吹き飛ばされないよう、背に氷壁を発生させて再び氷結を放つ轟。

それを、今度は人差し指を用いたデコピンで緑谷は吹き飛ばした。

 

─SMASH!!!─

《まァァァた破ったァ!!》

 

緑谷は苦痛に耐えながら思考する。

轟は知りうる限り全てが短期決戦で終えている。全てが一瞬で、情報が少ない。

 

(情報を……この戦いの中で隙を見つけなくちゃ……!)

 

緑谷はそこで初めて轟の背の氷壁に気がつく。

吹き飛ばされることの対策を立てられていたのなら、指を犠牲にする選択は正しかったと言える。

腕を犠牲にした攻撃でも対策される可能性が高いからだ。

 

(見極めろ、考えろ、見つけるんだ……!あと、6回の中で!!)

 

苦痛に歪む顔で、轟を見据える。

6回。自損覚悟で打てる攻撃の回数だろう。

最も、その内に隙を見つけたところで突くことが出来るかどうかは不明だが。

 

「お前は……。」

 

轟が呟き、再び氷結を放つ。が、もちろん。

 

「んぬ゙ッ!!」

─SMASH!!!─

 

今度は薬指でのSMASHで氷結を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「いいねェ、緑谷。」

 

観客席ではそのさまを見ていた香月が、口角を上げながらそう呟く。

 

「ゲッ!始まってんじゃん!」

 

腕相撲対戦から戻ってきた切島だ。

 

「切島!惜しかったな!」

「おう!悔しいけどあいつのが上手だったぜ。香月、戦えねぇのは残念だけどあいつも手強いぜ!」

 

瀬呂の言葉に負けたながらも清々しそうな顔で言葉を返した。

その後、自身に勝った鉄哲が戦う対戦相手である香月に言葉を続ける。

 

「つってもなー……爆豪にしても轟にしても香月にしてもよー。強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー……。」

 

爆豪は爆破。轟は広範囲凍結。香月に関しては障害物レースのロボインフェルノで見た剣撃、及び剣閃を指してのことか、切島はそう呟く。

それを聞いていた瀬呂は苦々しい顔をしながら同意した。

予選で大規模な氷結を食らったからだろう、実感の籠った言葉だ。

 

「ポンポンじゃねぇよナメんな。」

「ん?」

 

爆豪は返答を返す。

筋肉を酷使すれば筋繊維は切れるし、走り続けりゃ息は切れる。

"個性"だ、といってもそれは身体機能と言って差支えはない。

つまり、"個性"とて同じことだ、ということだ。

 

「こいつにも奴にも限度ってもんがあるハズだろ。」

 

もちろんそれは爆豪とて同じ。威力には限界がある。

だからこそ、コスチュームは許容超過の爆破をノーリスクで撃てるように考えてのデザインだったのだ。

 

「そうとも。俺にも限度はあるさ。」

 

ふふ、と笑いながら香月はそう返した。

その間にも試合は進む。

 

 

 

 

 

 

「考えりゃそうか!じゃあ緑谷はこの瞬殺マンの轟に──」

 

耐久戦を仕掛けているのだ。

 

「すぐ終わらせてやるよ。」

 

再び放たれる氷結、"個性"でかき消す緑谷。

同じことが続いているが、違うことといえば。

緑谷の右手の指が全滅したというところだ。

 

《轟!緑谷のパワーに怯むことなく近接へ!!》

 

氷結を発生させながら駆ける轟。

もちろん緑谷は打ち消しを選択。右手の指で"個性"を放った。

その瞬間、轟は氷結を駆け上がり、衝撃波を飛び越えて緑谷へと接近。

空から地へ、叩きつけるように振るわれる拳。当たればダメージだけでなく氷結も免れない。

 

「ッぶなっ!!」

 

緑谷は大きく飛び退いて回避、対する轟は瞬時に氷結を緑谷へと放つ。

距離が近づいてしまえば対処は難しくなる。

ズア、と氷結が緑谷へと近づく。

 

(ダメだ!近っ──)

 

氷結が足先を捕える。このままだと氷漬けにて勝負ありだ。

緑谷は咄嗟の判断で、左腕を振るった。もちろん、"個性"を使って。

指先で弾いた時よりも格段に大きな衝撃が走る。

轟は氷壁を背に発生させてノックバックを防いだ。

 

「……さっきより随分高威力だな。近づくなってか。」

「うゔゔっ……!」

 

しかしこれで、緑谷は左腕を潰してしまった。

指で取れるはずの選択を、これ以上取れない。

 

("個性"だけじゃない……判断力、応用力、機動力……すべての能力が……強い……!!)

 

轟の"個性"は強力だ。しかし、それを鑑みなくとも、その能力たるや、ほかとは一線を画す。それはNo.2の血か、才能か、本人の努力か。

 

「守って逃げるだけでボロボロじゃねぇか。」

 

轟はぶる、と身震いしながらそう言った。

 

(!震え……。そういう事か……!?)

 

緑谷はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

 

「もうそこらのプロ並みだよ、アレ……。」

「さすがNo.2の息子って感じだ。」

 

ざわめく観客席からそんな言葉が放たれる。

 

 

 

 

 

「悪かったな、ありがとう緑谷。おかげで──」

 

ちら、と轟は緑谷から目線を外して観客席へと向ける。

 

「奴の顔が曇った。」

 

そこには彼の父親。No.2ヒーローであるエンデヴァーがいた。

轟の言葉のとおり、彼の顔は不満そうだ。

轟が全力をださない。炎を使わないからだろう。

 

「その両手じゃあ戦いにならねぇだろ。……終わりにしよう。」

 

そう言いながら止めの氷結を緑谷に向けて放つ。

圧倒的な攻めを続けた彼の、この試合最後の一撃。

かと、思われた。

 

「どこ見てるんだ……!!」

 

腕、指。全て壊れたと思われた彼から、また一撃放たれ、氷結を打ち消した。

 

「てめェ、なんでそこまで……。」

 

壊れた指で、もう一度放ったのだ。

 

「震えてるよ、轟くん。」

 

緑谷は気づいていた。轟が震えていることに。

"個性"といえど身体機能のひとつ。轟とて冷気に耐えられる限度というものがある。

それは、左。つまり、熱気を使えば解決出来ることだ。

戦闘において左は使わない。そのような轟の、自分に課した枷がそうさせなかっただけなのだ。

 

「みんな本気でやってる……勝って、目標に近づくために!1番になるために!!半分の力で勝つ!?まだ僕は君に傷1つ付けられちゃいないぞ!」

 

壊れた指を無理矢理動かし、グッと拳を握る。

 

「全力で!!!かかってこい!!!」

 

緑谷の言葉は大きく場内に響いた。

轟はこの時、何故か。

 

─焦凍、おまえは────……─

 

幼い頃、母にかけられた言葉を思い出していた。

しかし、この先をいつの間にか忘れてしまっていた。

 

「なんのつもりだ。全力……?クソ親父に金でも握らされたか……?」

 

苛立ちながら轟は駆け出す。氷結での攻撃をやめ、近距離戦を仕掛けていた。

近距離からばもう緑谷に対応の目はないと考えてのことだ。

しかし、予想を裏切って緑谷は同じく轟へと接近した。タイミングは轟の足が上がった瞬間。

 

 

 

 

「さて、俺はいくつか予測を立てたが……八百万はここで轟に対して気づくことはあるか?」

「……動きが鈍いですわね。霜が降りてからでしょうか?」

「そうだな。そこから推察できるのは?」

「長期戦に弱い、でしょうか?」

「意見が近しいな。氷結にしろ炎にしろ轟の"個性"は体温に大きく影響があるようだ。本当に炎を使わないなら"個性"を使い続ける消耗戦に弱い。」

 

逆に炎のみでも体温上昇によって氷結と同じく消耗戦に弱い。

両方使うとするならどちらかを使わせない状況を作るというのも有効だろう。

と、香月は続けた。

 

(醤油顔の時の規模がおよそ最大限か……!?)

 

爆豪も真剣に考察と対策を考え続ける。

轟の力は、それだけ注目されるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

《モロだぁーー!!生々しいの入ったぁ!!》

 

緑谷は"個性"を何とかコントロールし、轟に重い一撃を加える。

轟は後ろへと飛ばされる。しかし緑谷も壊れた腕で攻撃してる分自身にもダメージは帰ってくる。

どうみても緑谷の方がボロボロなのに反撃し、攻勢に出る様は観客からも驚きの声が上がっていた。

轟は体勢を立て直し、氷結での反撃に出るが、緑谷は簡単に避けた。

氷の勢いも弱まってるということだ。

 

「……止めますか?ミッドナイト。」

 

セメントスの声がミッドナイトに届く。ミッドナイトは、答えない。

今はアドレナリンが大量に出ていて痛みはさほどでもない上に、後でリカバリーガールに治してもらえるからこその戦術かもしれないが、ここまでの重傷だと1度では完治は不可能。

もし勝てたとしても次の試合は出られないかもしれないのだ。

しかしこれでも緑谷は無茶苦茶やっている訳では無い。

勝つ為に現時点で出来る最善、最大限。相応の覚悟を持って自ら激痛へと向かっているのだ。

 

(握れない……!)

 

もう緑谷の手は握れないところまで来ていた。

そこへ、氷結が迫る。

 

「ううっ!!」

 

緑谷は親指を口でくわえ、弾いた。握れなければ、口でデコピンと同じ要領で弾けば良いと考えたのだ。

 

 

 

 

 

「あんな無茶苦茶な……。」

「腕と手が壊れただけだ。動くなら撃てるさ。弓がボロボロでも矢を番えることが出来れば放てはするだろ?」

 

上鳴の言葉に軽くそういう香月。

 

「簡単に言うけどエグいってそれ……。」

「でもあれじゃ後に影響がありすぎじゃない?」

 

耳郎が香月に問うように話しかけた。

 

「おそらくだがあれでも無茶苦茶してるわけじゃあない。今できる、勝つ為の最善手があれだ。」

 

もしこれが現場なら。緑谷がヒーローで轟が敵なら。

この後の救助だとか、他の敵がだとか考えられる状況では無いのだ。

自身に対し、相手は強者。打てる手を最善で打たなければ、自身だけでなく他も危険に晒す。

他、というのは民間人であったり、住居であったり。

とにかく被害は大きくなる。

という考えもある、という話だ。

 

「確かに……。」

「まぁ、試合という観点では悪手だというのは確かにそうだけどな。」

 

試合から視線を外さずに香月は説明するように答えた。

 

 

 

 

 

「なんでそこまで……。」

 

緑谷の放った暴風とも言えるそれを耐えながら轟はそう呟く。

何が緑谷を突き動かしているのか。それは。

"彼"のように、なりたいという意思。そのためには、1番になるくらいじゃないといけない。復讐心に燃える轟に比べれば、些細な動機かもしれない。

そして。

 

「期待に応えたいんだ!」

 

そう、言いながら駆ける。

 

「笑って、応えられるような……カッコイイ人に!なりたいんだ!!」

 

彼の脳裏には、1人の男が浮かぶ。

笑顔を絶やさない、平和の象徴が。

 

「だから全力でやってんだ!皆!!」

 

放ったのはたいあたり。駆け引きも何も無いそれ。

何かを思い返す轟は攻撃に当たってしまう。

 

「君の境遇も君の決心も、僕なんかに計り知れるもんじゃない……でも……全力も出さないで1番になって、完全否定するなんて、ふざけるなって、今は思ってる!」

 

緑谷の言葉に、轟は過去を思い返させられる。

9年か、10年ほど前だ。5歳にして過酷な訓練を父親に強いられてきた轟焦凍。

胃の中身をひっくり返されてなお立てと言われる。

母はまだ5歳だ、と庇ってくれていた。

その母を、父は叩き、もう5歳なのだ、邪魔をするなと一蹴。

父のようになりたくない、と思うようになった。

彼には兄や姉がいるが、みんなは外で元気に遊んでいた。

羨むように見ていると、父からは住む世界が違うから見るな、と。

そんな生活が続き。母は精神的に疲れ果ててしまった。

自身の子供達が夫のように。轟焦凍の"左側"が醜く見えてしまっていた。

そして。母は焦凍に煮え湯を浴びせた。今まで深く残る火傷の跡だ。

父はそれを知り、母を病院へ。焦凍は子供ながらにわかっていた。父のせいだと。

その時から、深く憎むようになった。

 

「うるせぇ……!」

 

苛立つように言葉を放つ。体の右側は、さらに霜が降りてきていた。

 

「だから……僕が勝つ!君を越えて!!」

 

再び攻撃を受け、轟は大きく下がる。

 

「親父を───」

 

何かを、口にしようとした。

 

「"君"の!!力じゃないか!!!」

 

それがきっかけだったのだろう。

父のようになりたくない。母を害する、そんな男には。

そう、母に言った時。

 

─でも、なりたいんでしょう?ヒーローに。─

 

ちょうどその時、オールマイトがTVに出ていた。

そして、彼はこう言った。

"個性"とは確かに親から子に受け継がれるものだ。

しかし、本当に大事なのはその繋がりではなく、自分の血肉、自分であると認識すること。

そういう意味もあって、彼は言い続けるのだ。

 

─私が来た!ってね。─

─いいのよ、おまえは。血に囚われることなんてない。なりたい自分になっていいんだよ。─

 

轟は思い出した。いつの間にか忘れてしまった、それを。

その時、ゴオ、とフィールドから激しい炎が発生した。

 

「勝ちてぇのに……敵に塩を送るなんてどっちがふざけてるって話だ……。」

 

震える声で、轟はそう話す。

 

「俺だって……ヒーローに……!」

 

ここが真の始まりか。轟は炎を使い始めた。2人は口角を上げ、向き合う。

 

 

 

 

 

 

「焦凍ォォォオオオ!!」

 

観客席から、大きな声が上がった。1人の男性のものだ。

1部が声の元へと視線が吸い寄せられる。

 

「やっと己を受け入れたか!!そうだ、良いぞ!!ここからがお前の始まり!!」

 

他でもない、彼の父親。No2ヒーロー、エンデヴァー。轟 炎司だ。

ゴオ、と、身に纏う炎を荒らげながら観客席の階段をおり、フィールドにより近いところへと歩を進める。

 

「俺の力を持って俺を越えていき……俺の野望をお前が果たせ!!!」

 

自身の息子、轟焦凍へ向けた言葉だ。

しかし彼は緑谷と向き合ったまま、返事はない。

 

《エンデヴァーさん急に……"激励"?か?親バカなのね。》

 

明らかにその熱量では無いような気迫だが、プレゼントマイクはそう呟く。

エンデヴァーのヒーロー像は熱血かつ厳格。その姿はオールマイトとは対照的に威圧感を感じる様となっている。

その外面と外見を合わせて近寄り難い雰囲気だが、迅速且つ的確な仕事ぶりからサイドキックはもちろん、彼の管轄内の警察からも厚い信頼を得ている。

しかしながら万人受けするタイプでは無いため、トップ層には劣るものの、その炎を纏った苛烈な戦闘スタイルやストイックさから熱狂的な支持者もいるわけだ。

その彼が、息子に声を荒らげて激励するというのは珍しく映る。

さて内容を考えれば激励か?というところはさておきだが。

 

 

 

 

 

目の前の、炎が燃え盛る様に、緑谷は。

 

「すご……。」

 

と言葉を漏らす。口角は上がったままだ。

 

「なに笑ってんだよ。その怪我で、この状況でお前……イカれてるよ。どうなっても知らねぇぞ。」

 

炎を纏った今、彼の体に降りた霜も消えた。

炎も氷結も、今から彼は十全に扱えるだろう。

氷結のみでここまで追い込まれた緑谷にとっては、絶望的な状況。

それでも、彼は笑っていた。

2人は動き出す。

その四肢に"個性"を、方や氷炎の"個性"を発し、最終局面へと突入する。

 

「ミッドナイト!!」

 

セメントス先生がそう叫ぶと同時に、試合を近くで監視する2人は動き出す。

ミッドナイト先生は服のタイツを破り、"個性"を彼らへかけようとし、セメントス先生は"個性"で防壁を作ろうとした。

しかしすでに本人らは動き始めている。

緑谷に至ってはなるべく近くで"個性"を打つ為か両足を犠牲にして跳躍し、接近。

 

「緑谷。」

 

轟は氷結を放った後、炎を纏った腕を伸ばし。

 

「ありがとな。」

 

双方、全力でそれを放った。

"個性"同時がぶつかり合い、大爆発が発生。彼らを中心に、スタジアム全体に豪風が起きる。

観客席にいた峰田に至っては吹き飛ばされて宙を舞いそうになっているくらいだ。

それを近くにいた障子が足を掴んで防いでいた。

これまでの戦い、そして炎の前に放たれた氷結で散々冷やされた空気が、後に放たれた炎によって瞬間的に熱され、空気が加速度的に膨張した結果だ。

 

《オイオイなんて爆風だよどんだけ高熱だったんだァ?ったくなんも見えねー。オイコレ勝負はどうなって──》

 

風と共に水蒸気はだんだん晴れ、見えたのは緑谷の足。

しかし、そこは場外。爆風により吹き飛ばされ、場外の壁まで叩きつけられる結果となった。

 

「緑谷、大丈夫……なわけはないな。」

 

その背後にはなぜか香月がいた。壁と緑谷の間に割り込んでおり、少しでも衝撃を吸収しようとした結果だろう。

既に緑谷は気を失っており、香月に抱えられてゆっくりと地に寝かせられた。

 

「緑谷くん、場外。轟くん、三回戦進出!!」

 

ミッドナイト先生がそう宣言する。

熱い展開、ド派手な見た目。その試合の結末に観客は大いに沸いた。

 

「申し訳ないです、ミッドナイト先生。出過ぎた真似をしました。」

 

香月は勝手にフィールドに侵入したことを素直に謝った。

 

「いいえ、大丈夫よ。少しでも衝撃が軽減されただろうし……。もう担架は呼んでるわ。」

 

言葉通りに、マシンのようなものが2つ、担架を運んでやってきていた。

香月は緑谷を再度抱え、担架に乗せる。

 

「ありがとうございます。それでは。」

 

そのまま担架と共にフィールドから去っていった。

 

 

 

 

 

「緑谷のやつ、煽っといてやられちまったよ。」

「策があった訳でもなく、ただ挑発しただけ?」

「轟に勝ちたいんだか負けたいんだか……。」

「なんにせよ恐ろしいパワーだぜ、ありゃ。」

「気迫は買う。」

「騎馬戦までは面白いやつだと思ったんだがなぁ。」

 

一般観客席からざわざわと声が上がる。全体的には、低めの評価だ。

当たり前だ、彼にどんな思惑があって、どんなやり取りが詳細にあったかなんてわかりやしないんだから。

そして生徒側の観客席では。

 

「え、香月なんであんなとこにいんだ?いつのまに?」

 

少し離れて座っていた切島が眺めながら口を開く。

 

「さ、さっきさ───」

 

未だに驚いた声色のまま、葉隠は先程の状況を説明する。

2人が"個性"を発動しようと構えた直後。

一言だけ、やばいな、と呟いた。

葉隠が何かを聞こうとした直後、香月は椅子から飛び上がり、空中で何かを蹴ってそのままフィールドへと侵入。

大爆発が起きるその一瞬前には、緑谷の後ろに位置していたという。

 

「マジか!?」

「なんつかー速ぇな、色々。」

 

なんて会話をしているうちに緑谷を心配した数名が立ち上がり、バタバタと急いで救護室へと向かっていった。

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「邪魔だ、とは言わんのか。」

 

轟がゲートをくぐり抜け、退場をしたそこに、彼の父親は立っていた。

満足気な笑みをしながら、通り道のど真ん中に。

 

「炎熱(左)のコントロール……ベタ踏みでまだまだ危なっかしいもんだが、子どもじみた駄々を捨て、ようやくお前は完璧な俺の上位互換となった!」

 

足を止めていた轟焦凍に近づきながら語る。

す、と手を差し伸べ。

 

「卒業後は俺の元へ来い!俺が覇道を歩ませてやる!!」

 

傲慢とも言える態度に轟焦凍は。

 

「捨てられるわけねぇだろ。」

 

一蹴した。しかし、その表情や感情は、恨みなどのそれではなく。

深く落ち着いたそれであった。

 

「そんな簡単に覆るわけねぇよ。ただ、あの時、あの一瞬だけは……お前を忘れた。」

 

自身の左手に、"個性"を見つめるように目線を向ける。

 

「それが良いことなのか悪ィ事なのか……少し考える。」

 

そう言いながら彼は父親の隣をすり抜け、控え室へと向かった。

父であるエンデヴァーは、何も告げなかった。

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

一方出張保健所では。

 

「「「「緑デ谷クくちゃくん!!」」」」

 

蛙水、峰田、飯田、麗日が各々の名称で緑谷を呼びながら扉を勢いよく開く。

そこには香月と、見知らぬやせ細った男性がいた。

 

「びっくりした……。」

「初めまして……。」

 

麗日が誰だろう、と疑問に思いつつも会釈をした。

 

「みんな……次の試合は……?」

 

先程目が覚めたのだろう、皆の姿を見ながら苦しそうに口を開く。

 

「大崩壊した為しばらく補修タイムだ。」

「だからみんな心配して来たんだ!」

 

飯田が情報を、麗日が理由を告げた。

 

「香月くんもごめん……ありがとう……。」

「ん?ああー……どういたしまして?」

 

ケラケラと笑いながら香月は謝意を受け取る。

 

「怖かったぜぇ緑谷。あれじゃあプロも欲しがん──」

─スパァン─ドッ─

 

いつも通りの感じで峰田が正直なことを言おうとした瞬間、香月と蛙水の攻撃が刺さった。

香月は左から顔を軽く叩き、蛙水は舌で右頬を刺す

 

「塩を塗り込んでいくスタイル感心しないわ。」

「今言うことじゃねぇだろ。」

「で、でもそうじゃんかよ。」

 

実際、"個性"の爆発的な威力と自傷ダメージがでかいことだけでも意見が大きく分かれるのは事実だ。

だがしかし、大怪我をしている状態の彼に直接言うのは如何なものか。

しかし、このスパッと本音を言えるところも峰田のいい所ではある。

 

「さ、ここからは手術になるらしいからな。帰るぞー。」

「そうさね!心配するのはいいがこれからすぐだ!」

「「「「シュジュツーッ!?」」」」

 

思わぬ言葉が出たからだろう、かなり大袈裟とも言えるような驚きを4人は見せた。

香月にとってはここに着いた地点でリカバリーガールに既に聞いており、直ぐに帰ろうとしたところで彼らが来たから先に知っていた情報だ。

 

「そんな重傷なのか!?」

「デクくんこの後大丈夫なん!?」

「入院か!?何日くらいかかんだこれ!?」

「試合は見に行けるのかしら……?」

 

4人は口々に心配を放つ。

 

「あーはいはい大丈夫大丈夫リカバリーガールを信じろ!帰るぞ!」

 

香月は半ば無理矢理、皆を外へと連れ出した。

リカバリーガールの"個性"もあるが手術となればこんな大勢が居る訳にも行かない。

その辺を彼は考えて早々に撤退させたのだ。

パタン、と扉を閉めてみなと共に観客席へと戻っていく。

緑谷が心配で彼の話で4人は話し合う。

が、リカバリーガールを信用しているのもあり、しばらくで話の先は香月へと向いた。

 

「あの時玲ちゃん、よーわかったね。」

「そうだよ、すげー判断っつか行動力だな。」

 

観客席へと戻る道中。麗日は香月にそういった。

咄嗟に飛び出し、緑谷の背後へと行った時の話だ。

緑谷が飛ばされること、そして飛ばされる場所までわかったのか、と思いそう発言した。

 

「あー……ほぼ直感だけどな。」

 

付け加えて説明するなら、彼は攻撃手段についてちょうど結末がどうなるか予測していたからだ。

あの、2人がラストアタックになる局面だと緑谷は近づいて全力で"個性"を振るうしか選択肢がない。

ならなるべく近づくためにまずは飛び込むはずだ。

それなら緑谷の体は地から離れている。

ここまで予測が経つなら爆発の瞬間、吹き飛ばされるなら緑谷なのは明白だ。

例え緑谷が完全に打ち勝ち、轟を吹き飛ばしたとしても彼には既に氷結による壁が十分に背後にあった。

それならより重傷になる可能性のある緑谷を庇った方がいい、ということになる。

 

「しかしクラスメイトのためとはいえ傍から見れば生徒の出る幕じゃ無いはずだし、やってはならないことだとは思うけどな。」

「そんなことないわ。素晴らしいことよ、友達を思って動けることは。」

 

蛙水が、考えるようにいう香月にそう言った。

 

「ああ、きっとそういった行動もヒーローたり得るものだろう。誇れることだと俺も思う。」

 

飯田もそれに同意するように追って言う。

 

「そう、か?ま、ありがとよ。」

 

頭をかきながら少し笑い、彼はそう言った。

 

「まぁさておき。次の試合は飯田だろ?お互いA組だからお前だけとは行かんが、応援してるぜ。」

 

そんな話をした。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「……右手の粉砕骨折。もうコレキレイに元通り、とはいかないよ。彼にも説明したけど、破片が関節に残らないよう摘出しないと……。治癒はその後だ。」

 

扉から離れ、緑谷の隣へと移動しつつ説明を始めた。

 

「憧れでこうまで身を滅ぼす子を発破かけて焚き付けて……嫌だよあたしゃあ。やりすぎだ、アンタもこの子も。」

 

説教のように、とはいえ少し悲しげな表情と声色であるが、それを2人に声掛ける。

 

「あんた、コレを褒めちゃいけないよ。」

 

もう1人の細身の男性。オールマイトは真剣に、考えるように緑谷の怪我を見つめる。

リカバリーガールの言葉には、何も言い返さなかった。

いや。言い返せないのかもしれない。

 

「すみません…………果たせなかった……。」

 

体育祭前。緑谷はオールマイトに、"君が来た!ということを世に知らしめて欲しい!"と言われていた。

しかし、結果はこれだ。十分とも言えるが、彼自身は納得できない数字。

 

「黙っていれば……轟くんにあんなこと言っておいた、僕は……。」

 

轟の"個性"や過去について試合中何も触れなければ、あのまま緑谷は勝てていたかもしれない。

氷結のみであれば、あのあと"個性"の出力は低下していく。

たしかに多大な自傷ダメージを食らっていたが有利に運ぶことはできただろう。

しかし、彼は出来なかった。

 

「君は、彼になにかをもたらそうとしていた。」

 

オールマイトは確かめるように、彼にそう告げる。

 

「……たしかに、轟くん……悲しすぎて……余計なお世話を、考えてしまった……。」

 

でも、それ以上に。

 

「悔しかった。周りも先も……見えなくなってた……ごめんなさい……。」

 

理由を答え、謝る緑谷。それにオールマイトは。

 

「確かに、残念な結果だ。馬鹿をした、と言われても仕方がない結果だ。」

 

辛い、しかし現実を彼へと言い放つ。

 

「でもな。余計なお世話ってのは──」

 

他でもないオールマイトの。No.1ヒーローの言葉。

 

「──ヒーローの本質でもある。」

 

それが緑谷の心へ落ち、声にならない声を上げる。

緑谷 出久。ベスト8 敗退。

 




また続き書きますね。ではまたいつか。
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