僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮) 作:楽園の主
入試の日からしばらく。入学式の日がやってきた。
雄英高校の制服を着て彼は校内の廊下を歩いていた。
初登校ということもあり、少し緊張している。
彼は1-Aと書かれた教室を目指し、歩いているのだが如何せん雄英高校は土地が広く、正門から靴箱まで長々と歩いていた。
広すぎだろう、と内心で愚痴を言ったくらいだ。
どんな奴がいるんだろうか、なんてことを考えながら靴箱で靴を履き替えていると、バッタリと、ある人に出会った。
「君は…」
「君はあの時の…」
冴えない顔つきをしており、入試にて巨大な仮想敵を一撃で討伐した彼だった。
「君も受かってよかった、僕は緑谷 出久。よろしく」
「香月 玲だ」
そう言って自身の名前を言い合うだけの自己紹介をした。
緑谷自身、香月を見て怖いと思わないのか、というと最初は怖いとは思っていた。
香月自身、初対面からはヤンキーだとか、怖そうだとかと思われるタイプの人間だった。
しかし、試験開始前、声をかけてくれたことや試験中に助けてくれたこともあって悪い人ではない、本当は優しい人なのかも、という感じに彼を捉えていた。
では逆に、香月が緑谷をどう思っているか。
最初は冴えない感じで、覇気もなく、弱腰でヒーローを目指しているともヒーローらしくも全くない、と思っていた。
しかし、今こうしてあってみれば多少なりとも自信がついたのか試験時よりもいい顔つきをしていることや、自身を省みず女子を助けたこと、などもあっていいやつなんだ、という風に思っている。
そんな彼が靴を履き替えて、廊下を歩き出した。
クラスは同じだから仲良くしよう、なんて会話をしてながら教室までの道を歩く。
そしてしばらく。1-A教室の前についた。
ドアをガラ、と開くとそこに広がる光景は。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよてめーどこ中だ端役が!!」
眼鏡をかけた男と机に足をかけた男が言い合っている光景だった。
眼鏡をかけた男は髪もきちんと整え、制服も乱すことなくキッチリと着ており、真面目な人っぽい、と香月は一目で分かった。
対して机に足をかけた男は。
髪はツンツンに逆だっており、制服はといえばボタンは止めているのは下の方だけだしズボンは腰履き。
誰が見たとしても明らかに不良に見える風貌だ。
「ボ…俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
「聡明~!?クソエリートじゃねぇかブッ殺し甲斐がありそだな!!」
「君ひどいな!本当にヒーロー志望か!?」
コントのような雰囲気を繰り出す2人。
その時、飯田天哉は緑谷に気付いて彼の方へと歩いてくる。
この分だと自分に用はないと思ったのか、香月は緑谷を置いて自分の机へと向かった。
出席番号は10番。右から二列目の後ろから2番目の席。
後ろの席は非常に孤立した席だったので、出席番号11番でなくてよかった、と彼は少々11番の人を憐れみながらそう思った。
席に座り、鞄を机に置いて時を待つ。
おそらく、入学式やらガイダンスなどで今日は終わる。
早めに帰ることになるなら買い物にでも行こうかな、なんてことをぼーっと考える香月。
その時一言、声が教室に響いた。
「お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここは…ヒーロー科だぞ」
声の元は廊下のすごく低い位置。
随分身長の低い先生なのかと思いきや、どうやら寝転んでいたようで、寝袋を着用したまま立ち上がって教室の中へと入ってきた。
まるで芋虫のような動きに若干の嫌悪を感じたのは香月だけなのだろうか。
「ハイ 静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠けるね」
寝袋を脱ぎながらそう、教卓の向こうに立って言った。
髪はボサボサで長く、ヒゲも伸ばしっぱなし。どうやら先生のようだがこんなくたびれた人がそうだと言われても少々信じ難い。
しかし、彼は言った。
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
皆がマジで担任なのか、と驚く。
緑谷も驚いていたが、担任だとすればこの人もプロヒーローなのか、と仮説を立てていた。
香月は、というと見た目で一人思い当たる存在がいたが、確信が持てないでいた。
その、相澤先生はさらに続けてこう言う。
「早速だが…体操服を着てグラウンドに出ろ」
説明もなく、それだけ告げて彼は出ていった。
訳が分からないが、担任だという男の言うことならば聞かなければならない。
皆は疑問符を頭に浮かべつつも更衣室へ向かう。
「…なんなんだろうね、急に。」
「…さぁな。入学式はどうするんだろうな」
なぜこんなことをさせるのか、と言ったことを2人で話し合いつつ着替え、相澤の言う通りにグラウンドに出た。
「今からやってもらうのは、個性判断テストだ」
入学式も、ガイダンスも無視をして1-Aのみがそれを行うようだ。
曰く、ヒーローになるならガイダンスや入学式なんて悠長な行事に出る時間はない、という。
それで大丈夫なのか。しかし、心配はない。
雄英は自由が校風であるのか売り文句。それは先生側もまた然り。
先生がクラスをどのように教育するかも完全に自由。
学校側からしてもそれでも全くもっておかしなことはないのである。
「中学からやってるだろ?"個性"禁止の体力テスト」
50m走、握力測定、立ち幅跳び、反復横飛び、ソフトボール投げ、上体起こし、長座体前屈、持久走。
超常現象をこの世に起きて、それが日常と化した今でも続けられている体力テスト。
"個性"によっての不公平を無くすための"個性"禁止。
先生が言うには、国は未だに画一的な記録を取って平均を作り続けていることは合理的じゃなく、文部科学省の怠慢だ、という。
「爆豪…中学の時のソフトボール投げは何mだ」
「67m」
「じゃあ"個性"をつかってやってみろ。円からでなきゃ何でもいい、早よ。思いっ切りな」
そういうと、相澤先生は爆豪にボールを渡す。
するとぐっ、と腕の準備体操をしながら円の中心に立った。
その表情は、ニヤリとしていた。まるで悪役のように。
楽しいのか、"個性"を使っていいことが嬉しいのか。
それはともかく、彼はぐっ、と構えてボールを投げる。
もちろん、ただ投げるだけではない。
彼、爆豪勝己の"個性"は【爆破】。
手のひらの汗腺からニトロのようなものを分泌し、爆破させることが出来る。
爆風を、球威にのせたのだ。
「死 ね え !!!」
爆発とともに見ている生徒達に強風が吹き、ボールは空を飛んでいく。
掛け声の相応しさはともかく、記録は驚くべきものだった。
その記録は705.2m。規格外、である。
「まず自分の最大限を知る…それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ。」
確かにそうだ。自分が何を出来るか、だけではなく自分がどこまで出来るか、というのも知っていないと伸ばすべき部分が見えてこないこともある。
頭でわかっていても、他に綻びがある可能性だってある。
最初にそれらを知ることは他に対してアドバンテージになる。
「なんだこれ!!すげー面白そう!」
「705mってマジかよ!」
「"個性"思いっ切り使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」
皆は嬉しそうに口々にいった。
当然、中学では"個性"が使用禁止だからだ。もちろん、社会に出ても。
ヒーローの資格を持たない者は"個性"を公に使うことは禁止されている。
しかし、ヒーロー科では違った。
それに皆は歓喜している。自分の"個性"を、身体的特徴を存分に発揮することが出来るから。
中学のように、"個性"が使えたら、なんて思いはしなくていいのだ。
しかし、それらの発言に、特に面白そう、という単語に相澤先生は反応した。
「……面白そう…か」
ボソリ、とそう呟いた。
「ヒーローになる為の3年間…そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
皆は驚きの声をあげる。当たり前である。
入学式の日に除籍なんて事がありうる事が提示されたのだから。
実のところ、相澤消太という男は雄英高校に着任してから、実に154回も除籍指導を行っているのだ。
生徒の如何だって先生の"自由"。それが雄英なのだ。
「最下位除籍って…!」
「入学初日ですよ!?いや初日じゃなくても…理不尽すぎる!!」
そう抗議の声を上げる生徒がいた。こちらも当然だ。
憧れの雄英に入って1日で除籍。倍率の高い入試に勝ち取ったのにも関わらずそれは理不尽すぎる。
しかし。自然災害、大事故、身勝手な敵達…いつどこから来るかわからない厄災。
この世には理不尽にまみれている。
そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。
ここで躓いていてはヒーローになる素質はない、ということ。
「放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから3年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。"Plus ultra"さ。全力で乗り越えて来い。」
この言葉に感じるのは恐怖か、不安か、奮起か。
なんにせよ、1-A生徒ほぼ全員の心を動かした。
皆は文句を言うこともなく、第一種目の準備に取り掛かる。
そして、除籍と存続をかけた体力テストが始まった───
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