僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮) 作:楽園の主
好きなこと書くぞ〜。
「ってか、帰ってくんの遅くない……?」
ふと、耳郎がそう呟く。
爆豪に関しては次の試合も出るため、控え室にいたままで帰ってこないことは充分有り得る。
むしろ試合までの時間を考えれば帰って来ずに精神統一する、という方がいいというまである。
だが香月はこの後に試合は無い。
ステージの修復も終わり、もうすぐ観客向けの決勝直前のトイレ休憩も終わる頃だ。
「飲みもんでも買ってんじゃね?」
楽観的に瀬呂。
「リカバリーガール……はないか。」
「致命的なダメージ受けてないしな。」
「ま、もう暫くしたら来んだろ。」
そんな会話の後、香月の話は流れ、次の試合はまだかまだかと試合展開の会話となっていった。
「……や、ウチ見てくるわ。」
「私も行きますわ。」
「俺も。なんかあったかもしれねぇし。」
USJの1件があったからだろう。
耳郎、上鳴、八百万の3人は神妙な面持ちで立ち上がって控え室へと向かう。
その足は少し急いでおり、速足だ。
「俺救護室行ってくる!」
「じゃあ私たちは控え室へ。」
「両方に手分けして行こっか。」
「わかりましたわ。」
道中、通るであろう場所の廊下を歩くがその本人は見当たらなく、2人は控え室まで到達してしまった。
耳郎は中にいる轟に聞いたが。
「いや、見てない。すれ違いもしなかった。」
とのこと。今はあまり関わりたくは無いがもう一方の控え室に着いた八百万は爆豪に聞いた。
「あ゙ぁ゙!?知らねェよ!!!俺が知りてェくらいだ!!!!!」
案の定である。俺が知りたいくらいだ、ということに関しては恐らく試合中のあーだこーだについて詰め寄りたいといったところか。
上鳴も救護室へ到着したがリカバリーガールも試合後は見ていないし、救護室には来ていないと答えた。
「居ねぇな。案外もう入れ違いで戻ってんじゃね?」
ここまで見つからないなら大丈夫だろうと、安堵の息を漏らす上鳴。
「そうですわね。」
彼の言葉に確かにそうかもしれない、と考え、次の試合も始まるから戻るという選択をした。
「だと、いいんだけどね。」
引っかかる気がしているのか耳郎は納得は仕切っていない様子。
しかし見つからない以上どうしようもない。
3人は共に観客席へと戻っていく。
耳郎はその時、ふと、観客席へと向かう道とは違う道に目線を向けた。
その道の少し遠くに、何かが落ちている。彼女の足が止まる。
「どしたよ耳ろ───」
「香月!!!」
耳郎の不安は的中、控え室から少し逸れた廊下の端で倒れていた。
名を呼びながら走りよる。上鳴と八百万も遅れてそれを追う。
「香月!!大丈夫!?」
「香月さん!!上鳴さん、先生を!」
「お、おう!」
すぐさま上鳴はリカバリーガールの元へと走る。
「香月、やば、血が……!」
うつ伏せで倒れる香月の口元から血が出ていた。多量に出ている訳では無いが、それでもUSJの結末を知るに放置はまずいと理解した。
しかし、外傷でないならできることは少ない。
「心拍と呼吸の確認ですわ。やれる事をやりましょう!」
「わ、わかった!」
2人は心拍と呼吸の確認に入る。呼吸は少し荒いもののそこまで大きく荒い訳では無い。心拍も速いが重篤なほどでは無い。
ということを確認したあと、一旦うつ伏せの状態から体を起こそうとした、その時。
ガンッ、と。床に大きな音が響いた。うつ伏せに倒れた香月、手が地を掴み、そこに亀裂が走った。
2人はそれに驚き、手が止まる。
─ザザッザザザッ─
ノイズのような音がどこからか聞こえる。
2人の聴覚にはそれが届いていた。
─ザザッ─
『チッ、情けない──』
ノイズ音に紛れて、声が小さく響く。他に人がいる環境であるならば何も気にする事はない。
しかし、他に人がおらず、スタジアムの声が遠く聞こえるこの場所においては酷く耳に残った
─ザザザッ─
声、ノイズ、双方の元は他でもない香月。その声は香月のものではなく、知らぬ者の声。ノイズが走っているせいで正確性は無いかもしれないが声質からして女性に聞こえた。
一体何が起きているのか。耳郎は八百万の方を見る。
八百万もまた、耳郎の方を見ていた。
たった一言しか聞こえなかったが、双方が顔を合わせているに気のせいではないのだろう。
「あ゙ー……誰だ、お前は。」
ぐぐ、と体を起こしながらそういう香月。はっ、と2人は視線を戻した。
ぬぅ、と壁に体重を預けながら彼は立ち上がる。
「……耳郎と八百万か。ん゙ん゙ッ……次の試合は?」
視線だけで2人を確認したあと、ずず、と歩き出しながらどこかへ向かおうとする香月。その方向は救護室では無い。
「次はもうすぐだけどそうじゃなくて香月動かない方がいいって!」
「上鳴さんが今救護室へ向かっています、もうすぐ帰ってくるはずですわ!」
どこかへ向かう彼の腕を掴み、引き止める。
その時、後ろからバタバタと足音が響く。上鳴だ。しかし、リカバリーガールを連れていない。
焦った顔をして肩で息をしながら立ち止まる上鳴。
リカバリーガールを連れていないことに、耳郎が言及しようとしたが、上鳴の言葉に遮られる。
「先生が、私に出来ることはないって、香月は自分で出来る、って。」
香月は周りに影響が出ないよう、外で1人でするんだと、むしろ誰かがいる方が邪魔なのだ、と、告げられたことを説明した。
「そういうことだ、3人とも戻れ。」
何も言わずに去る香月の背中を見ている3人。
耳郎は少し考えたあと、それを追ってぐい、と腕を掴みあげて自身の肩へ。
胴を引っ張って体重を自分に預けさせ、歩くのを補助した。
少し遅れて上鳴も逆側を同じく支えた。
「……戻れと言っただろう。」
「外行くまで肩貸してるだけ。それだけならウチでもできるし。」
「珍しく香月がキツそうだからな。これくらいさせてくれよ。あ、借りなこれ!」
放っておけないのか、2人は力を貸しつつそう言う。
耳郎は呆れたように、上鳴は少し明るめに。
八百万は出遅れたようで支える場所が無く、着いていくだけだ。
そのままスタジアムの外へ。
「そこで十分だ。」
周囲に一般客がいない、木陰を指して言う。
それに従い、2人はそこへと香月を下ろした。
ふぅ、と一息ついた。
「ありがとう。わた……俺のことは放っておけ。試合、見に行っときな。」
そう言って笑いながら手を振った。
「んな事言ったってよ、どういうことか説明ねぇからわかんねぇし、わかんねぇ分もっと心配なんだって。」
「そうだって。だいたいそんな苦しそうにしてる人ほっとけるわけないじゃん。」
「そうですわ。そもそも香月さんがどのようになさるのかも知りませんし、手助けできることがあるかもしれませんから。」
と口々にここにいるという意志を3人は見せた。
「……じゃあ、処理の方法を見せればいいか?」
はぁ、とため息を吐きながら代案をだす香月。
それに3人は頷いた。途端、香月の周囲の空間に波紋が無数に発生、そこからカプセルのような形のものが落下し、地面に散らばる。
大きさはだいたい手で握ることが出来る程度。
「これは……?」
「なんか爆弾みたいだな。」
「当たらずとも遠からず、だな。」
それをスライドさせて開くと、彼の身体から漏れ出ている瘴気を吸い始めた。
しばらく吸い続け、中身が満たされたのか、閉じてカチリと音を立てた。
「これの繰り返しだ。体にある瘴気を出し切れば問題なく動ける。」
そう言って作業を続ける。3人もそれを理解したのか、ほっとしたような目線を向けていた。
「でさ、それはどうすんの?」
耳郎が作業を終えたものを指さす。
「戦闘時に利用するつもりだ。」
爆豪も自身の"個性"を、溜め込んだグレネードをコスチュームに利用している。
それと同じことだ。"個性"を使えない時に使ったり、味方へ渡したり、汎用性に富む。
"個性"の都合上、自分へのダメージを避けて"個性"を使えるのは利点と言えるだろう。
仮に八百万に渡したとしたら、彼女は自分でガスマスクを作れるため、広域への攻撃として彼女も使えることになる。
「……香月。"個性"、使ってる時間はUSJの時より短かったじゃん?なんでそこまでなったのさ。」
「確かにそうですわね。あの時は1つの戦闘、その後合流して、もう一度戦闘する、と今回に比べれば長い時間だったはずです。」
耳郎の疑問。八百万が補足して、わかりやすくした。
これには上鳴も確かにな、と手をぽんとついた。
「んー……言語化が難しいが、オンオフのタイミングによるってところか。」
"個性"として、瘴気をONにすると、自身へダメージを与えながら蓄積していく。
しかし、瘴気がONの時はある程度自身にそれへの抵抗があるらしい。
そして、周囲に放たない、体に溜め込んだまま瘴気をOFF。
すると同時に抵抗も無くなってしまい、自身へのダメージがより大きくなってしまうとのこと。
蓄積量を調節はできるが、それにより肉体への負担や強化率が変わるらしい。
こうして、戦闘後に瘴気の処理をする時は肉体強化を最低限、もしくはマイナス値に下げることによってむしろ低下させることで、瘴気を溜め込まず、放出だけができる、と。
今回で言えば、瘴気を溜め込んだまま"個性"をOFF、そして安全なところまで向かうまでに自分へのダメージで1度倒れてしまったと。そういうわけだ。
「……なんかむずい話になってきたな。」
「ゲームに置き換えればわかりやすいかもな。」
「お、確かに。ちょっと後でまた教えてくれよ、整理してみるわ。」
うーん、と悩む上鳴に香月は助言。
「さ、もうわかっただろ。」
いったいった、と3人を追い払う仕草をした。
今回は使った瘴気の量はさほどでは無いため、多少の作業で終われるが、待たせてしまってもし決勝戦開幕を見られない、とかだと勿体ないだろうからだ。
出来ることがなさそうな3人は心配ながらも戻ることに。
「耳郎、八百万。ありがとな。」
「や、大したことできてないし、いいよ全然。」
「当然のことをしただけですわ。私も特に何も出来ていませんが……。」
「え、俺は?」
何故お礼に省かれた上鳴に対して香月は。
「もちろん君にも礼を言うよ、上鳴、くゥン!」
─バシュゥ─
「おい毒噴くなバカギャース!!!!」
「はは。安心しろ、色だけで毒性はほとんどない。」
「ほとんどっつったか今!?」
「ちょっと舌が回らなくなる程度だ。」
「おいお前後遺症とかねぇんらろな!」
「あ、効いてきた。"個性"使ってないのにアホになってんじゃん上鳴!」
そんな笑い話をして、3人は戻って行った。
耳郎と八百万に、ひとつの疑問を残したまま。しかし、明るい雰囲気に流され、それは記憶の端へと追いやられてしまったようだ。
(んー……考えないとな、俺も。)
ここに残った香月はそんなことを考えつつ、瘴気抜きを続けた。
──
「だっはははは!!帰ってきたと思ったらなんだそれ上鳴!!!」
「うるへぇ笑うんられぇ!!ほれこはっへるんらよ!!!」訳:うるせぇ笑うんじゃねぇ!俺困ってるんだよ!!!
「は???なんて????ブフっ!!」
「はははははっ!ひー!アホのレパートリー増えてんじゃねぇかよ!!」
男性陣に大層笑われる上鳴。少しだけ香月を恨むも、絶対にこいつらにも同じことをしてもらおうと決意したのだった。
ちなみに、主となって大笑いしたのは瀬呂や切島、峰田あたりだ。
決勝戦は始まるほぼ直前のようで、プレゼントマイク先生がアナウンスで忘れ物などの案内をしている。
「もう試合始まりそうなんだけどな……。」
そわそわ、と香月が帰ってこないことに落ち着かない耳郎。
「らいろうぶらろ、もうふるっへ。」訳:大丈夫だろ、もう来るって。
「は?なんて?」
「くっほこうるきィ!!」訳:くっそ香月ィ!!
励ましも今の状態では届かないと考えるとさらに怒りが込み上げてくる上鳴。膝をついて頭を抱えながら天に叫んだ。
噂をすれば影、というかなんというか。
そのタイミングで、彼は戻ってきた。
「お、間に合ったか。」
体調は復活したらしく、爆豪から受けたダメージくらいしか目立たない。
スタスタと自身の荷物がある席へと向かう。
「おい香月遅いぜ!試合ドンマイだったな!」
「いやー負けちまったよ。ま、でも爆豪と轟が戦うところ見れるなら結果オーライよ。」
ははは、と笑いながら帰ってくる香月。席に座り、買ってきただろう飲み物を飲んでいる。
そこの隣の席に移動し、こそ、と声をかける耳郎。
「もう大丈、夫?」
「?うん。見た通りな。」
大丈夫だって、と上鳴と八百万にも声をかけ、3人は胸をなで下ろした。
「……ちょっと心配しすぎじゃあないか?緑谷だって相当な怪我だぞ?」
「場合が違うでしょ、香月は。」
緑谷は"個性"使用により手足が折れる、外傷的な部分が多いが、香月の場合は外傷ではなく、血を吐いたりしているのを見るに内蔵的な部分など、理解がない分心配も大きくなる、ということらしい。
(そんなものか。)
ふむ、と考えるような仕草と共に納得をした香月。
その時、ふと視線を外すと飯田が席を立って別の場所へ歩き出しているのを見かけた。
「?どうした飯田?なんかあったか。」
「電話だ、母さんから。」
「……長くなりそうならまた試合展開説明するよ。」
「すまない、感謝する!」
スタスタと急いで立ち去る飯田。
ステージに目を戻せば既に決勝戦の2人は相対しており、プレゼントマイクのアナウンスが始まる。
《さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点が今!!ここで決まる!!決勝戦 轟 対 爆豪!!!》
静かに立つ轟と、不敵に笑いながら睨む爆豪が対照的だ。
《START!!!》
─ズアッパキィィィン!!─
スタートの合図直後、強烈な氷壁が爆豪を襲う、
《いきなりかましたァ!!爆豪との接近を嫌がったか!!早速優勝者決定か!?!?》
しかしその規模は瀬呂との戦いの時ほどでは無い。
一撃を狙いつつ、"次"を警戒した、氷壁。視線を氷壁へ、終わるわけはないという方向に確信し、次を待つ轟。
爆破音が、響き続ける。そしてその姿が顕になる。
氷壁が爆破により破壊され、爆豪が無傷で現れた。
爆破で氷壁を防ぎつつ、爆破で破壊しながら掘り進めて出てきたのだ。
(強え"個性"故な攻め方が大雑把だ!!)
追加の氷結を出そうとした轟を、爆破による推進力で彼に急接近、攻撃を飛び越えて回避した。
さらにそこから轟の左側の肩と髪を掴んだ。
瞬時に判断し、凍らせられないよう右側を避けたわけだ。
そのまま、爆破により勢いをつけつつ大きく投げ飛ばす。
「ナメ……ってんのかバァアアアカ!!」
投げた先は場外、このままでは場外へと飛ばされる勢いだ。
それを曲線を描く氷壁を作り、方向を曲げて滑って場外アウトを回避。
アイススケートのように滑り、ギャリギャリと氷が音を立てた。
さらに、その氷の行先は爆豪。回避をしつつ攻撃を狙っていた。
爆豪はそれを前方へ飛び上がりながら避け、右手で爆破を狙う。
轟はそれに対して前に出つつ爆破を避けて爆豪の腕を掴んだ。
左手で、爆豪の右手を。炎を使うならばここは使うべきタイミングだ。
が、轟は、炎を出さなかった。悩んでいたのかもしれない。
その隙に、爆豪は手を払って脱出。少し距離を取った。
「──……俺じゃあ力不足かよ……!!!」
苛立ちが募る。
轟を掴む時に左側をわざわざ狙って掴んだり、爆破のタイミングであったり、彼は相当に研究している。
戦う度にセンスが光って見えるばくごう。
それに対し、今回の戦いで言えば轟は攻撃が単純。緑谷と戦って以降、調子が崩れているように見えた。
「てめェ虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!!」
手から爆破しつつ、苛立ちを口に発する爆豪。表情に余裕は、ない。
「俺が取んのは完膚無きまでの1位なんだよ!!香月といいてめェといい舐めプのクソカスに勝っても取れねェんだよ!!」
今の轟に勝っても、それは手に入らない、と叫ぶ。
「デクより上に行かねぇと意味ねえんだよ!!勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!!何で───」
「何でここに立っとんだクソが!!!」
そう言いながら、爆破により上空に出た。
その言葉に、考えさせられる轟。
(悪ィ、爆豪。緑谷と戦ってから……自分がどうすべきか……自分が正しいのかどうか……わかんなくなっちまってんだ……。)
飛び上がる爆豪を目線で追う。その時、観客席から、大きな声がひとつ響いた。
「負けるな頑張れ!!!」
緑谷の激励だ。
(クソナードが!!そうだ、そうだよ!!)
その声に、爆豪は苛立ちながらも肯定する。
(俺の前に!"ここ"に立つ以上!勝つ為だけに!!頭回してりゃいいんだよ!!)
爆豪は上空から、爆破を左右に連続発生させ、その反動で錐揉み回転しながら轟に向かって突撃していく。
轟は、その爆豪を見据えながら、炎を構えた。
爆豪はその勢いを乗せたまま、最大火力で轟に向けて、爆破した。
─│榴弾砲着弾《ハウザーインパクト》─
その瞬間、轟は。何かを思い出して、炎を収めてしまった。
強烈な爆破とともに、対抗するように氷壁が発生する。
《麗日戦で見せた特大火力に勢いと回転を加えまさに人間榴弾!!轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが果たして───》
煙が晴れれば、爆破した地点の真下に爆豪はいた。
地に伏せてはいるものの、それは攻撃を受けたからでは無い。
轟の、炎を直前で収めてしまったことに対しての思いで、驚愕したのかそのままで、言葉を発していた。
「(火ィ、 消しやがった──)……は?」
轟は場外で、砕かれた氷の上に、ぐったりと気を失って倒れていた。
「は?」
ズキズキと痛む手で体を起こし、立ち上がる。
「オイっ……!」
小走りで気絶する轟の元へと向かい、胸倉を掴んで持ち上げた。
逆の手は、深く構えられていた。
「ふざけんなよ!!
怒りだけでなく、何か、焦りのような、そんな感情を感じる声色。表情も、なにか曇っていた。
もちろん普通なら本当に殴るわけはないが、そこは爆豪を見ていればわからない、と言える。
だからか、審判のミッドナイト先生は"個性"を発動し、爆豪を眠らせた。
ミッドナイト。"個性"眠り香。自身の肌から発せられる香りによって、吸い込んだ者を眠らせる。
「轟くん場外!!よって、爆豪くんの勝ち!!」
《決まったぁぁ!!以上で全ての競技が終・了!!今年度雄英体育祭1年の優勝は!
A組 爆豪勝己!!!!》
その内情は、本人にとって納得できるものでは無いだろう。
しかし確かに、体育祭いちばんは最初。その宣誓通り。
優勝は、爆豪だった。
──
「それではこれより!!表彰式に移ります!」
それからしばらく経って、表彰式の時間が来た。
1年の生徒たちはステージの中央に集まり、表彰台の方を見ている。
「……何アレ。」
「起きてからずっと暴れてんだと。しっかしまー……締まんねー1位だな。」
ヤレヤレ、と切島が呆れたように説明する。
その光景は。
「ん゙ん゙〜〜!!!ん゙ん゙ん゙!!!!」
─ガヂャガヂャガヂャッ!!!!─
「く、くくく……随分とまぁ、面白いじゃあないか爆豪。」
「ン゙ン゙ン゙ン゙ン゙!!!ン゙ン゙!?!?」
1位の台に立つ爆豪は両手を
左右にいる、2位と3位の台に立つ轟と香月をブチ切れた目で威嚇しながら可能な範囲で暴れている。
笑いを堪えきれず、くくくと笑いながら香月はそれを眺めていた。
轟は、まだ何かを思い悩んでいるのか周囲を気にかけず、下を向いていた。
3位の台には本来飯田もいるはずだが、ここにはいなかった。
「3位には香月くんと、もう1人飯田くんがいるんだけど。ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承くださいな。」
カメラの向こうと、生徒のみなに説明するようにミッドナイト先生は言った。
「飯田ちゃん、ハリキってたのに残念ね。」
そう呟く蛙水の隣で、神妙な面持ちをする緑谷。
(……無事で、いてくれ……!)
飯田は決勝戦直前、母からの電話を取った。
その時、負けてしまったことを不甲斐ない、と報告した。
きっと負けたことに関して、テレビで見たから電話をかけてきたのだと考えていたから。
しかし、そうではなかった。
彼の兄、飯田天晴。ヒーロー・インゲニウムが
その連絡を受け、緑谷と麗日に事情を説明して早退。
理由を知る2人はこの表彰式の雰囲気を潰さないためか、みなに伝えることを避けた、というわけだ。
「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
ばっ、と手を正面上、スタジアムの上へと指す。
そこには、平和の象徴の姿が、太陽の光をバックに立っていた。
「私が──」
ばっ、と飛び上がり、中央へと降りてくる。
「メダルを持って来t「我らがヒーロー!オールマイトォ!!」」
ズン、とオールマイトが決めゼリフとともにやってきた。
思いっきりミッドナイト先生とセリフが被ってしまっていたが。
笑顔を絶やさないながらも悲しそうな雰囲気でミッドナイト先生をみるオールマイト。
これにはたまらず、彼女は手を合わせてサッと謝罪した。
「で、ではオールマイト!3位から順にお願いします!」
その言葉でサッとたちあがり、まずは3位の香月の元へ。
「3位おめでとう!香月少年!」
「ありがとうございます。」
頭を少し下げ、オールマイトからの銅メダルを受け取る。
「最後、爆豪少年の攻撃を受けて場外になってしまっていたが、あれ、君にはどうにかできたんじゃないか?」
「あやや、わかりますか。」
(あやや?)
「……確かに、回避や反撃など、どうにか出来ただろうと言われるならば、それは肯定しましょう。可能でした。」
「やはりそうか。……なにか訳はあったのかな。」
一瞬の間。シン、と静まる。
「彼の一撃を真正面から受け止めてみたいと、そう思ってしまいました。全力を撃ってはくれませんでしたが、それを受けた結果があれです。私はそれに後悔はありません。」
その言葉に、拍手と感嘆の声がステージに響き渡る。
青春だな、などという声も上がっていた。
「……あとちょっと爆豪と轟のガチ勝負を見てみたくて。炎使ってたし……。」
「香月少年!?負けてよかったと!?」
「はは、半分冗談です。オールマイト、反応面白いですね。」
「私で遊ぶのはやめたまえ!!」
おいおい!などという声と共に笑い声が上がる。
「全力、出さないのも理由あっての事なんだろう。」
「……はい。」
「君のそれを、見れる日を待っているよ。私だけでなく、皆。」
そこだけは、2人ともこそ、と。周囲に聞こえないよう、観客の声や笑い声に紛れるように話した。
「よし!ともかく3位おめでとう!!」
「おわ。ありがとうございます。」
ぐっ、とハグをされて肩をポンポンと叩かれる香月。
最初にされなかったものだからそういったことはされないと思っていたからか、そんな反応をした。
そして、一際大きく、みなの拍手が響き渡った。
「轟少年。おめでとう。」
言葉を返さず、重い表情で彼はメダルを受け取った。
「決勝で左側を収めてしまったのは、ワケがあるのかな。」
言葉を整理しているのか、少し間を開けて話し始める。
「緑谷戦でキッカケを貰って……わからなくなってしまいました。あなたがやつを気にかけるのも、少しわかった気がします。」
緑谷の見せた心が、ヒーロー性が。それがオールマイトの目に止まっているのかもしれない、という考えを持っているのだろうか。
「俺も、あなたのようなヒーローになりたかった。……ただ、俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ、ダメだと思った。……清算しなきゃならないモノが、まだある。」
「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君なら、きっと清算できる。」
グッとハグをして、優しく背をポンポンと叩く。
そこまでで離れ、1位の元へと向く。いまだガチャガチャと暴れる彼の方へと。
「さて爆豪少年!!」
その言葉に一旦、暴れるのが落ち着いた。
「っと、こりゃあんまりだ……伏線回収、見事だったな。」
そう言いながら。口枷をガポ、と外した。
途端、ビキビキと顔の力が上がり、目が悪鬼羅刹のように鋭くなっていく。
「オールマイトォこんな1番……なんの価値もねぇんだよ!世間が認めても
(顔すげぇ……。)
あくまでも認めようとしない爆豪に、素直にすごい顔をしているな、という感想が出た。
「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない!(顔すげぇ。)受け取っとけよ!"傷"として!忘れぬよう!」
「要らねっつってんだろが!!!!」
まぁまぁ、といいながら爆豪の首にメダルをかけようとするオールマイトだが、爆豪は拘束するために作ったコンクリートの柱に頭を押し付け、首にかけられないように拒否。
そうしているとオールマイトは、苛立ちに歯を食いしばる爆豪を利用して。
「だから要らね──」
「セイッ。」
口を開いた瞬間に首紐を咥えさせた。
「さァ!今回は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰もが"ここ"に立つ可能性はあった!!ご覧頂いた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!時代のヒーローは確実にその目を伸ばしている!」
大きな身振り手振りで、観客のみなに、テレビの前のみなにパフォーマンスしていく。
「てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和ください!!せーの!!」
これはあれしかない、とここにいたほぼ全ての人が声を上げる。
プルスウルトラ!と。
「おつかれさまでした!!!!!」
しかしそれを大きく遮るようにオールマイトは皆に労いの言葉を放った。
「そこはプルスウルトラでしょ!」
「ちょっとオールマイトー!」
─Boooooo!!─
「ああいや……疲れたろうなとおもって……。」
これにはさすがの皆もブーイング。申し訳なさそうにオールマイトはそう返した。
閉まらない終わりながら、体育祭はこれにて終了。
好敵手と書いて"とも"と読む、なんとも歯が浮くような言葉だが、実感せずにはいられない日であった。
観客のみなもぞろぞろと撤退していく。生徒の皆は教師からの連絡事項を受け取るために教室に戻っていく。
みな、歩きながらも友人と雑談を繰り広げながら。
教室に戻った彼女らは体育祭お疲れ様、ということで2日間の休みがあることを知る。
この休みで、プロからの指名などを受け、それをまとめたものを休み明けに発表するわけだ。
みなを取り巻く環境はここから、少しづつ変化を見せる。
「香月!」
「ん?」
帰りの準備をする香月に、上鳴は話しかけた。
「休みに遊び行かね?体育祭おつかれってことでさ!」
「おおーいいぞ。メンバーは?」
今のところ爆豪、瀬呂、切島、上鳴にいま声をかけた香月と言ったところ。
「どうせなら大所帯で行こう、その方が楽しいだろ。耳郎!」
「え、どした?香月。」
「休み、遊びに行かないか?上鳴に誘われてな。どうせならみんなで行った方が楽しいかと思ってさ。」
「おーいいじゃん行こ行こ。ウチヤオモモに声かけるわ。」
「女子少ないと肩身狭いだろうしな、もう全員声掛けちまうか。いいな?上鳴。」
「いいぜ!こうなったらもうみんなでコンシンカイ?的なのだな!」
思ったより大所帯になりそうな遊びの約束。
耳郎は八百万に声をかけOKを貰っていた。
その間に上鳴は事の経緯を瀬呂らに話し、峰田や尾白を誘った。
切島は砂藤や障子を、瀬呂は常闇や口田を誘っていた。
今のところほぼ全員OKを貰ったよう。
「──ってわけだ。どうだ、轟。」
「……悪ィ。」
轟は予定があるようで、それを断った。その目が真剣そうだったからか、香月は深くは聞かず、そうか、じゃあまた今度な、とだけ返して次の人へ。
「──って訳だが、耳郎も来るしどうだ?」
「面白そー!行く行く!」
「私も行くわ。ケロケロ。」
「私も!大人数だね!」
芦戸、葉隠、蛙水の3人も是と返した。
「──ってことなんだが緑谷……はやめとくか。」
「ぜひ行きたいんだけど、この怪我だし……。」
「いやなに、構わない。また誘うさ。」
緑谷は大怪我により断念。当然と言えば当然だし、むしろ来ると言ったら彼は止めようと思っていたくらいだった。
「(飯田……は一応やめた方がいいか。あとは青山と麗日か。)青山!」
「どうしたんだい?」
説明したが青山は理由は不明だが断られた。
ソーリー、といいながら特徴のある笑顔を浮かべていたのが印象に残る。
彼的に言うなら、キラメキとかいうそういったものだろうか。
香月には、あまり理解できるものではなかったが、何となく、記憶に残った。
それはさておき、と麗日に話しかけた。
「お疲れ、麗日。」
「あ、玲ちゃんお疲れ!」
「麗日はどうだ?」
「あー……。」
一瞬の悩み。香月はそれと、方言から察した。金銭の問題を考えている、と。
「んー……そうだ、麗日。今回の遊び代、俺に出させてくれ。」
「え!?なんで!?いいいい!!悪いよ!!」
「今度、手伝って欲しいことがあってさ。それの前払いだと思って、な?」
「や、でも!!」
あわあわと腕を振って遠慮している麗日。
「俺さ、麗日に来て欲しいんだ。ダメか?」
「え!?え、あー……。」
眉を下げ、すこし残念そうな顔で香月はそう言う。珍しい表情に、麗日は狼狽えた。
「ふふふ〜きっと楽しいぞ〜?美味しいものも食べれるぞ〜?」
「そんな子供やないんやけど……?」
うーん、と思い悩んでいる。
ちら、と香月の方を見ると、まっすぐ自分を見ていることに気づき、また視線を外した。
悩んだ末に。
「……じゃあ、お願いしよっかな。」
香月の言葉に、是と返した。
「ん、ありがとう。嬉しいよ。」
香月は笑って、上鳴の方へと戻って行った。
「これで全員か。俺が声をかけた人で断ったのは青山、緑谷、轟だな。」
「まぁしゃーねぇな!これはショッピングモールとかで飯の時は集まってそれ以外は各々でとかになりそうだな……。」
「飯だけでもみんなと食えたら楽しいだろ。」
「だな!」
その後も時間などの予定を詰めていく。とは言ってもみんなと遊ぶだけ。
早く集まれるものは朝カフェにでも行こうかとか、遠い人は昼からだとか、夜は時間的に余裕がある人だけにするか、とか。
その程度の予定だ。あとはみなで集まった時に何がしたいか、とかで各々決めるだろうというふわふわとした感じで予定が埋まっていく。
そんな話の外で。
「口説かれてたね!!!」
「はぇ!?!?」
芦戸に麗日が詰められていた。
「もしやって!!」
「なになに、それほんと!?」
「ちょ、落ち着いて!そんなん違うから!」
さらに葉隠も聞こえたのか参加して2人に詰められる。
ぱたぱたと腕を振るいながら否定した。
「ほんまに違うって〜。」
「でもちょっとドキッと……?」
「みんなも言われたら分かるって!」
「あれに揺らがないということはつまりもう既に他に好きな人が……?」
「もー、ほら!予定話し合ってるから聞いた方がいいよ!」
あわあわとしたまま予定を話し合う人の方へと戻っていってしまった。
「……あたしこれ深く聞くべきだと思うんだよね。」
芦戸のとんでもない野次馬根性である。
「香月にも聞こ?」
「賛成。これ逃すわけに行かないよね!」
葉隠もそれに追従し、2人は、遊びの予定の中でやることを確定させ、より1層楽しみになったのだった。
*
保須総合病院にて。
「兄さん!!!」
「こら天哉静かに、マスクも……。」
病室へと急いで入る飯田。
そこには、痛々しい傷跡や、手術痕。計測器や人口呼吸器に繋がれ、線や管だらけになった自身の兄がいた。
絶望の表情で、絶句。
「先程麻酔が切れて目覚めました。まだ朦朧としていますが……。あと、数分手術が遅かったら手遅れでした。」
医者の言葉も、遠く聞こえる。
「…………天哉……母、さん……おまえ、みてえな優秀な弟が……せっかく憧れて……くれてんの、に……。」
朦朧とした意識で、言葉を紡ぐ。
「ごめんな……天哉……兄ちゃん……負け、ちまった……。」
飯田 天晴、ヒーロー名 インゲニウム。
ということで次の話は原作にほとんどない休みの日の話です。
全く原作がないところになるのでどこまでかけるやら。
あとヒロインは決まってません。悪しからず(?)。