僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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先に言っときます。長いです。
ここまでの平均が6000~7000文字、直近2話で10000文字と少しですがこれ19000文字ちょっとあります。
しかも原作には無い休日の話で、ただ楽しくしてるだけなので読まなくても問題ない内容です。
でも書きたい内容を好きに書けたから楽しかったです。


第30話 ─体育祭お疲れ様クラス会─

体育祭、その後。2日間は学校が休みで、クラスの皆、来れる人で遊ぼうとなった、その日。

空を見れば雲がチラホラとしかない晴れの日。

降り注ぐ陽の光は暖かく、春風がそよそよと髪を撫でる。

 

「……よし、"時間通り"だな。」

 

香月は腕時計により時間を確認しつつ、1人そうつぶやく。

朝から来れるメンバーがいれば喫茶店でも行こう、と言ったのは彼の提案。

どうせ家を出るなら彼はどこかへお茶でもしようと思っていたから、そこに誰かいるといいなと思ったようだ。

ショッピングモールの近くにチェーン店の喫茶店があることを知っていた彼は、そこへ9:00に集まろう、と言った。

少数ながらOKの返事を貰い、彼はここにいる。

時間は、8:00になったところだ。

 

(……まだ誰もいないな。)

 

集合場所である喫茶店の前にはまだ誰もいない。

当たり前だ、集合時間の大きく前だから。

こんなに前に来たのには彼の考えによるものだ。

1番初めに来てずっと待っていては、誰かが気を使うかもしれない。

かと言って遅すぎれば、待たせてしまうかもしれない。

故にこそ、早めに来て、誰かが来て数分経ってから合流する。

そうすれば、一番最初に来た人間に暇をさせず、気を使わせない。

そういった気遣いらしい。

ご丁寧に、集合場所を見れる、そしてこの道は他の人の通行路にはなり得ない。

そんな道を見つけて彼は1人、観察を続けている。

であれば1時間も早く来なくていいのでは?そういった意見もあるだろう。

しかし、電車で来る人もいればバスの人もいる。

混むことを避けようと早めに来ることもあるだろうし、接続が悪くて早く来ざるを得ないこともある。

それを危惧して、この時間だ。

本来ならば暇をするところだろうが、そこは携帯端末1つあれば暇を潰せる時代だ。

ここへのバスや電車が遅延したり事件に巻き込まれてないかを確認していたりした。

ついでに、ショッピングモールには何があるか、その周囲には何があるか。

など、確認を沢山しているようだ。

 

(ん……誰か来たな?)

 

ふと、そんな気がして目線を向ければそこには八百万がいた。

高そうな車の方へと話をしていることを見るに、家の人に送迎してもらったらしい。

時間は30分前、通常で言えば随分早い時間だ。

当初の予定通り、そこから数分してから向かい始める。

 

「お、八百万か。おはよう、待たせたか?」

「!香月さん、おはようございます。いえ、今来たところですわ。」

「さすがに1番だと思ったんだがな、早いじゃあないか。」

 

知っているものからすればなんと白々しいことか、と思うことだろう。

だがこういった会話もできるし、相手を持ち上げることも出来る手段でもあるのだ。

 

「お恥ずかしながら、こういったお店は初めてでして。それもクラスメイトと一緒で、となると楽しみで……。」

「楽しみにしてくれて何よりだ。服、似合ってるな。綺麗だよ。」

「ふふ、ありがとうございます。香月さんも、お似合いですわ。」

「はは、八百万に褒めてもらえるなら、着る服を考えた甲斐があったよ。……しかしまぁ、朝早くに俺の用事に付き合わせてるみたいで悪いな。」

「いいえ、私が行きたいから来ただけですわ。」

「そう言ってくれると嬉しいよ。」

 

取り留めもない会話を続ける。

 

「八百万はどうやってここに?電車か?」

「いえ、使用人に。香月さんは?」

「俺は雄英近辺に住んでるからな。徒歩だ。」

「そうだったんですのね。それで──」

 

などと会話をしていると、それを遠方から見ている人がいた。

 

(うわー……これなんとなく入りにくいな……。)

 

尾白である。ぽり、と頭を掻きながらそう考え、足が止まる。

尾白の評価として、八百万は顔が良い部類、そして香月も同じく顔がいい部類だと考えていた。

八百万の品性のある美しい服装、そして香月の自身の風貌を活かした服装で、2人が集まって仲良く会話している。

そこだけ空間が眩しいように感じるほどで、実際周囲の人間から注目を集めている。

 

「尾白じゃん。おはよ。どした?」

「ああ耳郎さん、おはよう。いや、その、ね。」

「え?……あー……。」

 

耳郎が合流。尾白の目線を追って、訳をなんとなく理解する。

 

「まぁ大丈夫だって。はよ行こ尾白。」

「あ、あぁ、うん。」

 

耳郎が先行して、尾白は少し遅れて追従する。

合流までの間に香月は2人に気がついたらしく、手を振っている。

耳郎と尾白の2人も手を軽く振って応じた。

 

「おはよう。香月くん、八百万さん。」

「おはよ、2人とも。やばいね2人とも。」

「おはようございます、尾白さん、耳郎さん。」

「うい、おはよう耳郎、尾白。やばいってなにが?」

「注目されてんよ?」

「マジ?まぁ八百万綺麗だからな。」

 

ははは、と笑いながら香月は答えた。

そうしているとほかのメンバーも集合した。

 

「おいっす皆!早ぇな、待たせたか?」

「おはよう。」

「砂藤に常闇か。いいや、先程集合したばかりだ。」

 

6名。朝集まるメンバーは全員集まった。

そこで1つ2つ雑談を交え、目的へと向かう。

 

「いらっしゃいませ!6名様でしょうか。」

「はい。1人、尻尾の"個性"持ちがいるんで、椅子お願いします。」

「かしこまりました!ではこちらへ〜。」

 

"個性"社会になった今、人間という枠組みでの規格は消え去ってしまった。

飲食店など、しばらく滞在するような場所では普通の椅子だけでは対応できないこともある。

尾白の尻尾がいい例だ。椅子の種類によっては、尻尾が邪魔になり、座りにくくなってしまう。

この店舗では背もたれの所に四角く穴があり、背もたれは背の上の方のみの椅子がある。

それであれば尾白もしっかり座ることが出来るだろう。

また、道の邪魔にならないよう、店員側も端の席へと案内してくれた。

さてどう座ろうか、と考えながらも香月は耳郎と八百万をソファ側へと自然に誘導した。

 

「僕は尻尾があるし、椅子の壁側でいいよ。」

「おけ、じゃあ──」

 

ちら、と砂藤と常闇の方を見たあと、耳郎に耳打ちする。

 

「耳郎、隣いいか?」

「え、いいよ全然。」

「ありがとう。」

 

砂藤は"個性"の関係上、しっかり体を鍛えているため、ガタイがいい。

ソファに座るよりは椅子に座った方がゆったり出来るだろうし、言い難い話、隣への圧迫感も少ないだろう。

常闇は単純に、香月の中で女性慣れしていなさそうだから、隣に座ると緊張してしまうのではないか、という判断。

 

「じゃ、これでいいか。」

「あ、ここ香月メインだしヤオモモとウチの間座る?」

「やめろ緊張して黙っちゃうぞ。」

「俺想像できないけどな香月が緊張してんの。」

「砂糖は俺のことなんだと思ってんだ……?」

「いや、正直俺も同意見だ。」

「僕も……。」

「コンビニ行くくらいの声でいってくる〜って準決勝いったんだからそりゃそうでしょ。」

「申し訳ありません。私もそんなイメージでして……。」

「お前ら……。」

 

そんなこんなで、席は決まった。

椅子側3名には、尾白、砂藤、常闇。

ソファ側3名は八百万、耳郎、香月。

尾白と八百万が壁側という形だ。

 

「なんかみんな付き合わせて悪いな。」

 

メニュー表は3つ。すっと尾白と砂藤に1つ、耳郎と八百万に1つ渡し、常闇に見えやすいようそちらへ向けて机に置いた。

 

「いや俺ら全然好きで来てるからいいぜ。むしろ俺ここのケーキ気になってたしよ!」

「そうそう、みんなそうだと思うし、悪いと思わなくていいって。」

 

砂藤は、にっ、と笑ってそういった後、メニュー表の甘味を眺めている。

尾白もそれに追従し、メニュー表を眺めた。

 

「む、横にしようか?」

「いやいいよ、俺反対からでも読めるし何回か来てるしな。」

 

常闇が香月に気を使って反対から読むよりは読みやすいよう、横にしようかと話したが香月は大丈夫だと返した。

そこからしばらく、メニューの話で少し話が盛り上がりつつも、しばらくで頼むものは決定。

店員を呼んで、順に注文をした。

 

「なんかメンバーあんまり絡み少ない感じで珍しい感じしない?」

 

耳郎がばっさりとそういう。

 

「まぁ香月はみんなと喋るからあれだけどな、俺席後ろだし。それより八百万と耳郎と絡みないし、常闇ともあんま喋らないよな?」

「そうだな。」

「もちろん僕ら仲が悪いわけじゃないんだけどね。」

 

得てして学生というものは大体グループに分かれて集まる。

たとえ仲が悪いわけでなくても頻繁に喋る相手というのか固定されてくるものだ。

ましてまだ1ヶ月と少ししか経っていない以上、どうしても交友関係として手を出すというのはその本人の性格によって変わってくる。

 

「ちょうどいいじゃん、みんな仲良くなろう。改めて自己紹介でもするか!」

「いいな!じゃあ俺から!砂藤 力道!」

 

砂藤力道、"個性"シュガードープ。

糖分10gにつき3分間のみ身体能力を5倍にするパワー増強型の"個性"。糖分10gというのだいたい角砂糖3つ分くらい。

好きな食べ物は甘味全般らしく、"個性"の都合上でもあるがお菓子作りが趣味だ。

 

「へぇ、意外。ギャップじゃん?」

「まぁ普通に作るのが好きでもあるけどよ、"個性"の訓練も兼ねてんだ。それに出来合いのモン買ってたら出費がバカにならんからよ……。」

「まぁたしかにそうか。」

 

その辺で次の人へ。

 

「じゃあ、次僕行こうかな。尾白 猿尾。」

 

尾白 猿尾。"個性"尻尾。頑丈で力強い尻尾が生えている。攻防可能なオールラウンド。

悩みは仰向けに寝転び辛かったり、椅子に座り辛かったりするところらしい。

 

「異形型"個性"ですものね。」

「うん。だからどうしても出先とかで意外と困ったりするんだよね。」

「世の中が対応しようとしてるけどそこばっかりはねー。」

 

次は流れでそのまま常闇に。

 

「常闇 踏陰。"個性"は黒影(ダークシャドウ)だ。」

『ヨロシクナ!』

 

"個性"黒影(ダークシャドウ)

伸縮自在の、影のような自我を持つモンスターを見に宿す"個性"。

自ら前によく出る、というタイプでは無いが実直な性格で、優秀な実力者だ。

 

「珍しいよな!自我を持つ系って。」

「僕と違って異彩を放つよね……。」

 

A組では尖った"個性"が多く、派手なものも多い。

どうしても尾白の"個性"というのは陰に隠れてしまう。

 

「おいおい尾白、卑下するなよ。お前も強いよ。」

「ありがとう……。」

 

さて次に行くか、となった時にふと、呟く。

 

「なんか合コンみたいだな。」

「おい砂藤。じゃあ俺は女になればいいのか?」

「ははは!オネェだろそうなったら!」

「お、女装してみる?化粧したげるよ。」

「やーめろ耳郎、そんなことしたらみんなを悩殺しちまうぜ?」

「もしするならまず峰田辺りにぶつけてみるか!」

「おいおいやめろここで話しを切らないとガチにそういう流れになりそうだ、はい話終わり。」

 

その流れで、香月へ。

 

「香月 玲。"個性"は……まぁ見た感じだ。」

「おぉいもうそろそろ教え時だろ?」

「いやもう説明が面倒で……。」

 

香月 玲。"個性"はまだ不明。隠しているのか本当に説明が面倒なのかは本人のみぞ知る。

趣味は食べることとか、寝ることとか、その他にもゲームや読書などとまぁ多趣味だ、と本人は語った。

はいじゃあ次、と無理矢理自分の話を切り上げて耳郎へと出番を渡した。

 

「耳郎 響香、"個性"はこれね。」

 

耳郎 響香。"個性"イヤホンジャック。

プラグとなった耳朶の先を挿すことで、自身の心音を爆音で伝えたり、周りの微細な音をキャッチできたりする。

左右それぞれ6m伸ばせるようで、かなりの速度と精度を持つ。

趣味は音楽を聴いたりすることらしい。中でもロックが好きだとか。

 

「ロックか!なんかこう、パンクなやつだよな!……ごめん、俺あんま聞いた事ねぇからわかんねぇや。」

「ふむ、今日オススメでも教えてもらおうかな。聞いてみたい。」

「え、ほんと?んじゃまた後で教えたげるよ。」

 

じゃあ、と最後の八百万へと出番を渡す。

 

「八百万 百ですわ。"個性"は創造です。」

 

八百万 百。"個性"創造。

自分の体内から皮膚を通してあらゆる物質を作り出すことが出来る"個性"。

創造するには対象物の素材や構造を理解している必要があり、イメージを構築することが必須。

また、なんでも無尽蔵という訳ではなく元となるのは脂質、カロリーであり、それを消費して創造するわけだ。

本人がどう思ってるかはさておき、話し方や性格は完全に箱入り娘のお嬢様。

育ちの良さやお淑やかな人柄もあって全く嫌味がない、というのは彼女のいいところか。

 

「ちょっと違うけど俺と似てるな!俺も糖分使うし!」

「そうですわね!」

「鍛錬内容とかが似通ってきそうだな。食事量を増やすとか、食事のg辺りの効率を良くするとか……。」

「その辺はまた皆様や先生方に意見を頂くことになりそうですわね。」

 

ここでみなの自己紹介が終わった。ちょうどここで皆の飲み物が届いた。

砂藤はやはりというか、甘い飲み物としてメロンソーダを頼み、尾白はジンジャエール、常闇はアメリカンコーヒーだ。

八百万は紅茶を頼み、耳郎はカフェオレ、香月はたまたまか常闇と同じアメリカンコーヒーを頼んだ。

 

「お好きですの?」

「まぁな。コーヒーも好きだが、紅茶も好きだよ。どこの産地が、とかはさすがに答えかねる、というレベルだが。」

「紅茶も好きなんですのね!先日家にいい茶葉が入りまして、お持ち致しましたらお飲みになられますか?」

「お、マジか。じゃあ今度貰おうかな。」

 

さてどこで貰うのか、というのは不明だ。家に招待してもらえるのか、学校に持ってくるのか。

そこまでは彼は考えておらず、ただ貰えるのか、と思って返事をした。

その後、1口コーヒーを飲んだ。

 

「ところでなんだけどさ、アメリカンコーヒー?と普通のコーヒーの違いって何なの?」

 

ふと疑問になった耳郎。それに常闇と香月が答えた。

 

「煎りの浅さ、だな。」

「お、常闇わかるのか。」

「フッ……嗜む者として、当然だ。」

「簡単に言えば酸味の差だな。普通のものよりアメリカンコーヒーの豆の方が煎りが浅い分、酸味が出てすっきりとした味になる。」

「へー。詳しいじゃん。」

 

さてそんな会話の後、砂藤はやはり香月の"個性"を全くなにも本人からの開示がない、というのはずるい、と言った。

実際、瘴気のことを聞いた3人を除いたクラスメイトは全員、予想や推論でしか話せていない。

少しくらい正解を教えてくれよ!とのこと。

 

「ほら香月、せっかく朝早くに来たんだぜ?俺らだけ特別!って感じのさ!」

「そうだね、僕も直接戦った身として、知りたいところではあるよ。まぁ僕は"個性"使うまで引き出せなかったんだけど……。」

「秘められては暴きたくなるのが摂理……。」

 

男性陣から詰められる香月、女性陣はたまたま知っている2人だ。

立場が同じならもちろん気持ちは分かるため、耳郎と八百万は口を挟まない。

 

「ん、じゃあ少しだけ。特別な?」

「ッしゃあ!どんなのだ?教えてくれ!」

 

3人は興味深そうに聞く体勢に入る。

香月は"個性"のうち、瘴気のことについて詳しく話した。

耳郎と八百万、そして上鳴が聞いた内容とほぼ同じことだ。

3人は集中して、話を聞いていた。

 

「はぇ〜そんなリスキーな"個性"だったのか!」

「ならば、USJで倒れたのはその"個性"による、ということか?」

「そうだな。周りにクラスメイトいたから放出できないし、かと言って溜め続ける訳には行かなかったからな。」

 

たしかに、あの場面で自身に溜まった瘴気を全て出せば病院に行くほどの重体は避けられたかもしれない。

が、瘴気の放出によって隣に倒れる動けない緑谷を巻き込む訳には行かない。

その場にはオールマイトもいた。少し離れるが切島や爆豪、轟も。

みんなを巻き込めない、と内包することを選んだらしい。

体育祭で使わなかったのはなぜか、ということも尾白が聞いた。

それ使えば爆豪にも勝てたかもしれないし、障害物競走でも騎馬戦でもやりようあったんじゃないか、と。

しかし香月はこれをふむ、と考えたあと、使ったら範囲内の人間は外から見えなくなり、プロの連中にみんなが見られなくなってしまう、と理由を述べた。

 

「お、香月俺と同じの頼んでんじゃん!」

「見てたら急にパンケーキ食いたくなってさ。つか5段かよ。すげぇな。」

「鍛えてる分普通にいっぱい食うからな、俺!これ食っても全然昼飯全開で食えるぜ!」

 

話の途中で食べ物もテーブルに届いた。

砂藤と香月はパンケーキを頼んでいた。前者は5段、後者は3段だ。

八百万はショートケーキ、耳郎はガトーショコラ。

尾白はホットドッグを頼み、常闇はトーストを頼んでいた。

その後もわいわいと会話しながら食を進める。

 

「パンケーキもいいね。今度機会あったら食べようかな。」

「ん、1口いるか?」

「え、マジ?貰おっかな。」

 

そういって耳郎はガトーショコラを食べていた自身のフォークで、彼が切り分けた一欠片を頂こうとした時だった。

 

「ほい。」

「え?」

 

香月は彼が食べていたフォークで耳郎の口元へと持って行った。

俗っぽくいうなら"あーん"というやつか。それに耳郎は一瞬固まる。

 

「……う、ん、あーん……。」

 

少々動きがたどたどしくなるもそれを口で受け取った。

 

「うい。美味しいだろ。」

「うん、美味しい。ありがと。」

 

礼を受け取ったあと、香月は常闇との会話に戻った。

耳郎は斜め下を向きつつ、考えるように難しい顔で眉間に手を当てる。

 

(これウチが意識しすぎてるだけかな……?)

 

さて、香月の距離感が近いと感じたわけだ。

そもそもフォークも香月の使っていたもので、関節キスになるし、男女の友人の間でこう、あーんなどするだろうか、と考え込む。

そう考え始めればただ席が隣と言うだけだが、彼女はなんとなく距離が近い気がした。

いや、ソファ側なんだから、隣の客に気を使ってこちら側に詰めてきているだけだろうという考えももちろんできるが。

"意識しすぎだ"と言われるとそこまでなのだが、それでも気になってきてしまった。

ちら、とその原因の男を見るに全く気にしていないようだが。

はぁ、と小さく溜息をつきつつ、何となく顔が熱い気がしてパタパタと手で扇いだ。

また他の誰かに聞いてみよう、と考えを置いておき、みなとの会話に戻った。

しばらくすると時間もいい時間になった。

そろそろここを出てショッピングモールに行けば、集合時間より少し早めに到着出来るだろう。

 

「じゃ会計行くか。俺まとめて払うから皆出してくれ。」

 

そう言いながら香月は伝票をみなに回す。

 

「俺ちょうどあるわ!」

「僕はそうだな、20円お釣りがあれば……。」

「ならば俺が渡そう。さすれば我ら2人とも丁度だ。」

「ありがとう常闇くん。」

 

男性陣は完了、次は女性陣だ。

 

「八百万……現金持ってる?硬貨を見てこんな小さなお金があるんですのね!みたいなことになってない?」

「ふふふ、さすがにそこまでではありませんわよ?でも丁度はありませんわ。」

「げ、ウチもないわ。」

「ん、じゃあ端数はいいよ。上の桁の分だけくれれば。」

「マジ?さんきゅー香月。」

「紳士ですのね。ではお言葉に甘えますわ。」

「うし、確かに。じゃ、払ってくる。」

 

そういって香月は会計へ。その間に皆は忘れ物がないかを確認し、そのタイミングで会計も終えたのか同時に退店しようとした。

その時。

 

「雄英体育祭見てました!みなさんこれからも頑張ってくださいね〜!」

 

みなはその言葉に少し喜びを感じながらも礼を返した。

雄英体育祭はかつてのオリンピックと同様レベルで全国が賑わう、高視聴率キープの一大イベントだ。

その影響がここまで来たらしい。来た時と、食事中に話しかけてこなかったのは皆への配慮だろうか。

ともあれ、ぞろぞろと退店して、会話をしながらショッピングモールへと向かう。

 

「そういえば耳郎、似合ってていいね。かっこかわいいって感じ?そのパンツどこで買った?」

「あ、これ?これどこだったかな……でも多分その辺で買ったやつだよ。」

「そうなのな。素体がいいとなんでも似合うな、耳郎。」

「え、あ、うん。ありがとう……。」

 

その直後、香月は常闇に呼ばれてそちらへの会話へ移った。

尾白は砂藤と話しているところであり、八百万は香月の横で常闇と併せて3人で話している。

期せずして考え事ができる時間が出来た。

 

(……香月って距離間バグってるって感じかな……?)

 

八百万と常闇に挟まれて会話する香月へと目線を向ける。

会話の流れで、香月の携帯端末を、八百万が覗く形になったらしいが、それを渡すことなく、肩が触れ合いそうな距離感で隣合って見ている。

八百万は特に気にしている様子はない。

高校生の男女間、というとそこまで近いことは稀かもしれない、と感じた。

 

(……そうっぽいね。うん。そうだ。)

 

うんうん、と1人で頷く。よくよく思い返せば学校でも距離間が近かった気がしてきた耳郎。

峰田のような下品な思いも感じない、さらに嫌味がない分気が付かないというか、受け入れやすいというか、なんとなくそんな気がした。

さてそのような1人での考え事をしていると、目的地へ到着。集合時間の15分前だ。

早めに来る人がいればもういるだろう時間。

良かったと言うべきか、クラスメイトの姿はそこに無い。

一行は近くの日陰で待つことに。わずか数分、少し会話しているとちらほらとクラスメイトが現れ、その後続々と集まり、集合時間きっかりまでにはほぼ全てのメンバーが集まった。

ギリギリ間に合わなかったのは峰田で、身長の妙か混み合う時間で人の波を避けていたら時間がかかったと。

峰田の"個性"、もぎもぎは触れると引っ付いてしまう為、それを避けるという理由があったようだ。

全員集合、クラス21名のうち、轟、緑谷、飯田、青山が来なかったため総勢17名。

友達同士で遊ぼうぜ!というには圧巻の人数である。

 

「とりあえず集まったし、行こうぜ!」

 

上鳴がそう告げて、みなは一斉にぞろぞろと動き始めた。

昼時の時間。まずは皆で昼食を取る事にした。

ショッピングモール内にあるファミレスに向かった。

値段はお手ごろ、さらにメニューも多く多彩と高校生連中にはもってこいだ。

しかしこの人数、入れるのか?という疑問を持った者もいた。

 

「あ、連絡入れといたから行けるぞ。」

「マジで!?香月さんきゅー!」

 

その辺は事前に香月が連絡を入れていたらしい。

体育祭の代休で今日が平日ということもあり、すんなり通ったようだ。

総勢17名、ファミレスでと言うと大所帯だ。

誰がどう座るか、などと話し合いながらそこを目指す。

その途中。

 

「玲ちゃん、やっぱり──」

「俺は俺のしたいことをしてるだけだ。もう俺は止まらんぞ。こうなったらむしろ財布なんぞ出させん。」

 

やはり出させるのは悪い、と思ってそれを進言しようとしたが強制的に言葉を止められてしまう。

香月は気まぐれな性格だが、それ故に思ったことを突き通す傾向がある。

 

「……麗日に楽しんで欲しいんだ。な、ダメか?」

「うぐっ……。ずるいやんそれ……。

 

眉尻を下げ、困ったように言う彼の様子に、口を尖らせながら麗日は呟いた。

 

「じゃ、じゃあ玲ちゃん、今日はよろしく、お願いシマス……。」

 

おずおずと頭を下げながら麗日は言った。

 

「はは、それでいいんだよ。頭なんか下げないでくれ。それに今度私用を手伝ってもらうしな?」

「それはもちろん!任せて!」

「麗日……うーん、俺は玲ちゃんって呼ばれてるしな……下の名前で呼んでいいか?」

「うん!いいよ!」

「ありがと、お茶子。いや、んー、ちゃん付けの方がいいか。」

「あはは、どっちでもいいよ!」

 

そんな様子を伺う、人間が2人、もちろんそれは葉隠と芦戸。

会話の内容こそ聞こえていないが、仲良さそうに話す2人に、ふんふんと興奮した様子でそのシーンを見ていた。

さてそんなこんなでファミレスに到着。

 

「いらっしゃいませ〜!何名様で──あ、もしかして……?」

「お電話させて頂いた香月です。」

「ですよね、お伺いしてます!あちらの席へどうぞ!」

 

案内された席は4つのテーブル。17人でも十分座れるほど用意してくれたようだ。

ソファ型の椅子が机を挟んで2つ並ぶ形の席が2つ、片側がソファ、もう片側が椅子3つのテーブル席が2つだ。

4人、4人、4人、5人と座ればちょうどいい具合か。

さて席へと座ろうとする直前。

 

「香月はここね!」

「で、私がここ!」

「決定事項なのか?」

「「いいからいいから!」」

「んー仲良しだなぁ。」

 

片方がソファで片方が2つの椅子の席。

ソファ側に葉隠と芦戸、加えて蛙水。椅子側に香月。お代を出す関係上、麗日は隣の方が利便性がいいからと隣に座ることに。

4人が女子、男子は1人とかなり恨めしそうな目で峰田に見られた。

その隣側の同じ形の席のソファ側に耳郎と八百万、椅子側に常闇と尾白。男女比率1:1。

そして窓側の、ソファが机を挟んで並ぶ席。

片方には切島と爆豪が隣合って座り、その対面に上鳴と峰田。

もう片方には砂藤と瀬呂が並び、対面には口田と障子という並びになった。

 

【挿絵表示】

 

 

「しっかしなぁ、ここに爆豪が来てくれるとはな!」

 

座席に座りながら嬉しそうに、切島はそう言った。

たしかに、とクラスの大半が思った。

 

「気まぐれだっつんだよ!それに……ついでに解決する用があるからなァ……?」

 

ゆらり、と別の席に座る香月の方を向き、不敵に笑いながらギロリと強く睨んだ。

 

「ホワッホッホッホ!なんのことでしょうかねぇ!」

「てめェしらばっくれてんじゃねェ殺すぞ!!」

「おいやめろ爆豪、店ん中だぞ!」

 

今にも飛び掛りそうな爆豪の服をぐい、と抑える切島。

 

「香月ィ……いいからこっちこいやァ……!」

「だめ!私たちが聞きたい話があんの!」

「俺もあるっつンだよ!!」

「んな事より爆豪何頼むよ?先に決めようぜ?」

「……あァ。」

 

全員メニューを眺め、あーだこーだと話しながら決めあっている。

ドリンクバーを頼むことはもちろん、みな思い思いの物を注文をした。

 

「あ、みんな飲み物取ってこようか?」

「ほんと?ありがと〜!」

「ケロ、香月ちゃん手伝うわ。」

「ありがとう蛙水。」

「梅雨ちゃんと呼んで。」

「おっけ、梅雨ちゃん。んじゃ俺も玲ちゃんでいいぞ。」

「わかったわ玲ちゃん。」

「2人とも順応はやっ!」

 

みんなの分を取りに行く、と言ってみなの要望を聞いたあと蛙水が手伝うといい、立ち上がって向かうまでの間に2人の呼び名が変わるという2人の順応の速さに葉隠は驚きの声を上げる。

隣の席は常闇が立ち上がっていた。黒影(ダークシャドウ)が居れば4人分持てるからだろう。

あとは障子と上鳴が立ち上がっていた。

あちら側は2つの席で合計8人、障子は"個性"複製腕により6人分持てるため、それに上鳴が加われば8人分という訳だ。

 

「玲ちゃんどうしましょう、5人よ。」

「あ、俺片手で2つ持てるから大丈夫だよ。」

「ケロ、器用ね。」

 

みなの分をコップに注ぎながらそんな会話をした。

その会話の通りに、左手に2つコップを持って蛙水と共に席へと戻る。

さて、食事が来るまでの間が空き、きらり、と2人の目が光る。もちろん、葉隠と芦戸だ。

……葉隠の表情は他人にはわかったものでは無いが。

 

「裁判を始めようと思います。」

「思います!ヒコクニン、香月 玲!」

「玲ちゃんなんか悪いことしたん……?」

「雰囲気だよフンイキ!」

「議長、勘弁してくださいよ!俺は何もしてません!」

「ダメです。」

「玲ちゃん、ノリがいいのね。」

 

ノリに乗る香月。もちろん、葉隠と芦戸以外はなんの内容か分かってはいない。

 

「香月くん。お茶子ちゃんとはどういう関係なの?」

「なっ!もーちゃうって!な、玲ちゃん?」

「友達だよ。なー、お茶子ちゃん。」

「名前で呼びあってる!!!!」

「これは!!!!」

 

もはやなんの要素を見ても恋愛に結びつけそうな勢いである。

年頃、思春期の女子というのは得てしてそんなものか。

それにしても2人は食いつき過ぎな気はするが。

 

「や、そうやなくて〜!と、というかそれなら梅雨ちゃんともそうやん!?」

「だぁってそれはさっきじゃん?私たちが知らない間に名前呼びって!」

「ウチかて今日やもん!」

「え、今日急接近したってこと!?」

「何言うても同じやんこれ!」

「過剰反応ですねぇ。」

「渦中なのに玲ちゃんが1番のんびりしてるわね。」

 

ははは、と笑いながら話題の中心の彼はのんびりと飲み物を飲んでいた。

 

「むー、これはほんとっぽいよ三奈ちゃん。」

「えー、つまんなーい。」

 

ぶー、と2人から何故か香月へとブーイングが入った。

このクラスメイトと出会って1ヶ月と少し。お互いをまだよく知れていない。

恋愛的に結ばれるにはまだまだ早い時期。

とはいえ、この世には一目惚れという言葉もあるし、絶対にない!とは言えないが、そうそうあるものでは無いだろう。

 

「実際のところ、出会ってから1ヶ月とかそこらで付き合うってある話か?」

「んーどうなんだろ。アタシはあんまり聞かないけどね。」

「だからこそ珍しくて反応したみたいなところはあるよねー。」

 

ははは、と笑い話に昇華。その話はそこまでで、また別の話へと入り、楽しく会話をした。

授業の話や、訓練の話。趣味の話になったりだ。

時々、席を代わったりなどして皆は親睦を深めたようだ。

さて、そんなこんなでファミレスでの時間も終わり、ショッピングを楽しむ時間に。

服を見に行くものや、ゲームセンターに行くものなどそれぞれの買い物へとグループに別れて行く。

 

「玲ちゃんはどうするの?」

「あーどうしようか。お茶子ちゃん何か見たいものある?」

「や、そこまで流石にお世話になれんよ?」

「別にいいのになぁ。まぁそうだな……嗜好品かな。強いて言うならアクセの類とか、服とか。梅雨ちゃんはどうする?」

「そうね、じゃあついて行こうかしら。玲ちゃんのことを知るいい機会ね。」

「なんか照れるねぇ。」

 

そう言ってると、彼の背後から近づく影が。

 

「オイ。のらりくらり避けてんじゃねぇよてめェ……。」

「お、爆豪か。お前も来るか?コーヒーとか紅茶とか買いに行くんだけどよ。」

「あァ……?」

「玲ちゃん来るわけないやん。コーヒーとか紅茶とか飲む顔じゃないやん。」

「馬鹿にしてんのか飲めるわァ!!」

「そもそも爆豪ちゃんと玲ちゃんはそういった店にいっても話が合うのかしら。」

「合わせ倒したるわ!!」

 

なんだか爆豪を嵌めたような形にはなったが、香月は麗日、蛙水、爆豪の4人で動くことに。

 

「ケロ、爆豪ちゃんって辛いもの好きそうね。」

「……あァ。そうだな。」

「玲ちゃんはどう?」

「得意では無いが好きだな。あまり辛過ぎると食べれないが……。」

「ハッ!俺の勝ちだ激辛ヨユーだっつの!!」

「どこで張り合ってんだよ。」

 

そんな会話がありつつも目的の店へ到達。様々な嗜好品が売られている店だった。

店の一角には様々な種類の紅茶や、コーヒーが置かれている場所があり、そこが香月のめざした場所だ。

 

「アールグレイが俺は好きでな。爆豪はなにか飲んだことは?」

「……品種は知らねェが飲んだことはあるってくらいだ。だが甘すぎて口には合わなかったな。」

「甘いのが口に合わんか。それならさっき言ったアールグレイ、もしくはダージリンはどうだ?どちらもすっきりと、もしくは爽やかな味で美味しいぞ。」

「紅茶だろうが茶で鼻に通る感じのはあんま好きじゃねェ。爽やかってそういうのじゃねぇだろうな。」

「ミント的な話か?それなら安心しろ、ミントやシロップなどを入れなければさっき言った品種はどちらもそんな味はしない。紅茶そのものの味を楽しめる。」

「へェ……。」

 

香月と爆豪が紅茶について話している様はとてつもなく珍しく感じる麗日。

それも、爆豪は紅茶を手に取りながら興味深そうに見聞きしているのだ。

学校での荒ぶり様を見ていれば、今の光景を珍しく感じてもおかしくは無い。

 

「……玲ちゃんと爆豪くんが普通に会話してる……!」

「聞こえてんぞ丸顔ォ!」

 

おお、と驚いた表情で思いを口にすれば、いつものように荒ぶる爆豪の返事。

 

「根はいい人なのね、爆豪ちゃん。」

「どういう意味だァ!?」

「そのままの意味だろ爆豪叫ぶな店内だぞ。」

 

話せば返事は来るし、話の内容はしっかり聞いている、その上で自分の話を混じえて会話する。

爆豪も根はいい奴なようだ。

 

「コーヒーはどうだ、みんな。」

 

コーヒーのコーナーの一角で、自分のものを選びながら彼はみなに問う。

手にはフィルターなど、周辺アイテムが握られている。

 

「どっちかっつーと酸味より苦味の方がコーヒー飲んでる感じがすんな。」

「爆豪くん大人やなぁ。ウチは苦いの苦手やからそもそもお砂糖ないとコーヒー飲めんわ……。」

「私もよ。カフェオレとかなら飲めるけれど、ブラックは飲めないわ。」

 

香月の問いに、各々答える。

 

「じゃあ爆豪はマンデリンとかどうだ。強い苦味と深いコクがある。甘いスイーツとかも合う。」

 

棚から片手で取り上げ、爆豪の前で見せながら説明する。

爆豪はそれを受けとり、まじまじと商品を眺めていた。

 

「……どっちも買ってみるか……。」

「紅茶とコーヒー共々、興味を持ってくれたようでなによりだ。」

 

先程紹介された紅茶も既に手に収まっており、どうせならと思ったのか、購入を決定したようだ。

 

「2人はそうだな、聞いたことはあるかもしれんがキリマンジャロ、なんてのはどうだ。果実的な甘さと酸味が特徴でな、浅煎りだと苦みも控えめだ。」

「な、なんか聞いてたら気になってきた……。」

「私も買ってみようかしら。」

「よし、じゃあ2人ともプレゼントしよう。もし飲めなかったようなら、梅雨ちゃんは親にプレゼントしてみるといいかもな。お茶子ちゃんは返してくれてもいいよ、その場合は俺が飲む。」

 

す、と自身の買い物の中に二人の分も入れた。

 

「爆豪もプレゼントしようか?」

「いらねェよ舐めんな。」

 

どうせならと爆豪も含めようとするがさすがに拒否したようだ。

 

「玲ちゃんありがと〜!何から何までほんとに……。」

「いいっていいって。」

「私までありがとう玲ちゃん。」

「ん、付き合ってくれたし話聞いてくれたからな。礼だ。」

「ケロ、聞いてて思ったけれど、詳しいのね。」

「色んなの試してるうちに知っただけさ。本当に詳しい、それこそ八百万とかにはきっと及ばないよ。」

「いいえ、それでも私たちからすればすごいと思うわ。」

 

会計を済ませ、2人にコーヒーを手渡す。ご丁寧にフィルターまで共に渡していた。

美味しく飲めるように手順までSNSで送るという至れり尽くせりだ。

爆豪にも送ろうとしたが、知ってたのか、いらねぇと一言残された。

香月はまだ時間があるため、服飾の類を見に行くことに。

どうせならと蛙水も追従、爆豪はもちろんまだ香月への用を終えていないため着いてくることに。

 

「玲ちゃん、ピアスをあけてるのかしら?」

「ん、あいてるよ。左に2つ、右に1つな。」

「そうなんやー。でも今日はつけてこなかったんやね。」

「なんとなくこう、気分が上がる組み合わせが無くってさ。」

 

そう言いながらピアスを眺めている。幾つかは手に取り、耳の近くまで持っていって鏡で見比べていたりしていた。

 

「お、これとかお茶子ちゃんに似合いそうだな。」

 

す、と麗日の耳元にワンポイントのピアスを持っていく。

 

「本当ね。お茶子ちゃん、似合ってるわ。」

「ありがと〜。あ、それ言うたらこれとか梅雨ちゃんに合いそうやない?」

「確かに……いいセンスだ。」

「ケロ、ありがとう。」

 

残念ながら蛙水も麗日もピアスホールはあいておらず、ピアスをつけることは出来ないため、将来あけたら、という話にはなった。

 

「玲ちゃんは意外とこういうのも似合うと思うわ。」

「ほんまや。あんまり男子がこういうのイメージやないけど、玲ちゃん似合うね。」

「マジ?じゃあ買ってみようかな。」

 

そう言いながら手に取り、自身が選んだものと共に購入を決定した。

 

「爆豪は……これじゃない?」

「ウチもそれ見てた!」

「私もよ。満場一致ね。」

「俺あいてねェよ。」

「どこかのタイミングで開けてみたらどうだ?絶対似合うぞ。」

 

わいのわいのとショッピングを楽しむ3人に、巻き込まれる爆豪。

なんだかんだどこか別の場所へ行ったり、無理矢理自身の目的の話題へと持っていかないあたり、少しは楽しんでいるのかもしれない。

会計を済ませたあと、次は服屋へと向かった。メンズ……ではなくレディースの服屋だ。

 

「ふむ、そうだな……。梅雨ちゃんは長めのアウターでだな……帽子はこれで、パンツはこの色合いだと合わせやすいか。これだとこのワイシャツが合いそうだな。お茶子ちゃんは……この品揃えだと下は黒の裾フレアで、上は白のワイドだな。こっちのアウターも似合いそうだが、花柄も捨てがたいか……。」

「玲ちゃん、自分の服より私たちを着せ替えているわ。」

「そもそもここレディースやん。それ目的になってない?」

「おっとと。2人とも可愛いからな、なんでも似合いそうで、つい、な。」

「……普通にそういうこと言うやん……。」

 

真剣な顔で自分ではなく、蛙水と麗日の服を何故か選び続ける彼に彼女らはツッコミを入れた。

ここへ来たしどうせなら、と彼女ら2人はワイワイと話しながら服を手に取ったりなど店の中を見回っていた。

時々、香月らに意見を求めたりし、幾つか見繕い、試着室へ行くことにしたらしい。

せっかくならと香月が選んだ服も着てみる、と複数持って試着室へと消えていった。

 

「オイ。いい加減聞かせろ、香月。」

「はは、もちろんだ。約束だからな。」

 

残された2人。いいタイミングだと爆豪は残していた用を解決することにし、会話を切り出した。

顔を見合わせることなく、お互いが別の方向を向いている。

 

「……爆豪、"あれ"で終わると思うか。」

「……いや、思えねェな。」

 

(ヴィラン)連合の話だ。あそこまで用意周到に、オールマイトを殺す算段を立ててまで襲ってきて、1度の襲撃で終わるのか?という話だ。

香月は絶対に次がある、と確信めいたそれを感じていた。

爆豪はその考えを理解し、肯定した。

 

「雄英体育祭は奴らももちろん見るだろう。だから俺は勝利を捨てて力量を隠すことにしたんだ。」

「その割には随分勝ち進んだじゃねぇか。目立たねぇって線で行くならやりすぎだろうが。」

「ま、確かにそうだがな。本気を出した上で、クラス上位層には負ける……という力量であると誤認させる意図があったわけだ。」

「てめェが本気出しても俺が負けるかよ。」

「こだわるねェ。」

 

そこで一旦、会話が止まる。お互いが口を開かず、間が空いた。

爆豪が、口を開く。

 

「……最後に1個聞かせろ、香月。お前が本気を出すとして、まだ見せてねぇモンがあんのか。」

「……そうだな、ある、とだけ答えておこう。」

「チッ。さっさと見せやがれ、次こそな。それを上から捩じ伏せてやる。」

「ふふ、簡単にはやられんぞ?私もな。」

「……ハッ、言ってやがれ。完全勝利したるわ。」

 

2人は不敵に笑いあう。全力でぶつかり合うというのも、遠くない未来にあるのかもしれない。

それからしばらく。彼女らを待つ間全く彼らの間に会話がないかと言えばそうでは無い。

 

「マジか。そりゃ1回行ってみたいな。」

「てめェなら旨辛くらいがちょうどいいだろうよ。」

「参考にさせてもらうよ。……ちなみに爆豪はどの辛さで食べて美味いと?」

「当然、極だァ。」

「最大かよ、すげぇな。怖いもの見たさで食べてみたい気はするが食べれなかった時がちょっとな。今度切島とかも誘って一緒に行かないか?」

「……あぁ、考えとく。」

 

などと普通に会話を楽しんでいた。

して、しばらく。蛙水と麗日は試着室から出てきた。

 

「すごいやん玲ちゃん。玲ちゃんが選んだ服の梅雨ちゃんめっちゃ可愛かった!」

「お茶子ちゃんも似合っていたわ。見る目があるのね、玲ちゃん。」

「はは、世間的にどうかは分からんし、完全に俺の好みで選んだから少し不安だったが、2人が言うならそうなんだろうな。嬉しいよ。」

「私は幾つか買おうと思うわ。」

 

そういって蛙水は幾つかは服を戻して、それ以外をレジへ。

お茶子はこの後どうなるかを察して、そろーっと香月の視界から逃れるように服を戻そうとしていた。

しかし。

 

─ガシッ─

「……や、玲ちゃん、ささ、さすがに、受け取られへんよ……?」

「……。」

 

肩を掴み、麗日の行動を阻害。麗日はさすがに良くないと拒否する姿勢を見せた。

それを、何も言わずに笑顔で麗日を見つめる。

 

「や、にっこりじゃなくてね。ほら、コーヒーも貰ったし、服って高いんよ?玲ちゃん値札見てた?」

「……。」

 

またしても何も言わず、そして音もなく麗日の持つ服を香月は手にしていた。

 

「あ!ちょ、取ったらあかんて!」

「取られたお茶子ちゃんが悪いッ!」

「待って!?!?」

 

くる、と振り返って一気にレジへと向かう。

 

「まぁさすがに冗談だが。」

 

……ということはなく、服を元の場所へと戻していっていた。

 

「本当なら買ってあげたいくらいだが、さすがに全部が全部渡すと申し訳ない気持ちになっちゃうだろ?」

 

返報性の原理。何かをしてもらったり、受け取った時に"こちらも同じように何かでお返しをしないと申し訳ない"と感じてしまう心理効果のことだ。

ご飯代も出してくれたし、コーヒーも買ってくれたし、さらに服も、というともういっぱいいっぱいだ、とお茶子は感じたわけだ。

 

「今回はここで諦めるよ。」

「よかった……。お金は大事にしないとだよ。」

「んーしてるんだけどな。」

(こいつ"今回は"っつったな……。)

 

爆豪はまた同じ機会があれば買うんだろうな、ということを言葉から見抜いていた。

麗日は服を買わなかった、という方に安心して気づかなかったらしい。

もしかしたら今後、またここで同じことをされているかもしれない。

次は隣のメンズの服屋へ。

 

「この色合いのパンツ好きだな。買うか。」

「はっや。ウチらの服選んでる時と全然違うやん。」

「こういうのはフィーリングさ。好きだな、着れるな、と思ったら買うのさ。」

「ケロ、似合うより好きを優先するってことね。でもきっとこっちの色の方が、この服と合わせられるし玲ちゃんに似合いそうよ。」

「お、梅雨ちゃんいい服見つけてくれたな。よっし、せっかくのオススメだ、それにしようかな。」

 

と、服を手に取る。香月としては即決で買っても良かったがサイズの問題があっても困ると、念の為試着することにした。

 

「……玲ちゃんはすごいわね、臆することなく人を褒められるなんて。」

「それ思った!普通に言うもんね。……爆豪くんって人を褒めることあるの?」

「褒めることくらいあるわ!!」

「ケロ、きっと照れて言えないだけよ。」

「照れてねェわ!!テメェら度胸だけは1丁前だなァ!?」

「おぉい何の話だ?混ぜてくれよ。」

「あら玲ちゃん、もういいのかしら。」

「うん、サイズあってたしな。梅雨ちゃんが似合うって言ってくれたしこれはいい服さ。」

 

そのまま会計まで行って退店。時間はまだ多少あるものの、そこそこ回った為、予定は終わりとした。

爆豪にもどこか行きたいところはあるか、と聞いたが特にない、との事なので、1番近いだろうゲーセン組に合流することになった。

 

「お!爆豪!お前もやるか!?」

「おいおいやめとけよ!瀬呂と俺のコンビには勝てねぇぞ!?」

「勝ったるわボケがァ!来いや切島ァ!!」

「おう!次こそ勝つぜ!!」

 

煽りに誘われるままに反応、爆豪はエアホッケー台に向かっていった。

瀬呂と砂藤のコンビにまだ勝てている人はいないらしい。

それを打倒すべく、爆豪は切島を携えて台の前へと立った。

香月らはその様子をそのままに、近くの喫茶店チェーン、ムーンバックスで飲み物を買うことに。

 

「これ期間限定だってさ。」

「期間限定って美味しそうに見えるし買っちゃうわよね。私はこれにするわ。」

「お茶子ちゃんはどうする?」

「ん〜……これ、かなぁ。」

「値段気にしたな?本当はどれが飲みたいんだよ。」

「だ、だって……や、まぁ、うん……期間限定のやつかな。」

「うし、まとめて買ってくるわ。待っててくれ。」

 

などという会話の後、香月は期間限定のものを3つ購入、蛙水と麗日に渡した。

蛙水がお代を渡そうとするも適当な話題で香月ははぐらかし、結局2人は奢られることとなった。

ゲームセンターの外で飲み物を飲みながらみなの様子を遠巻きに眺めて会話をして楽しむ。

しばらくすればゾロゾロとクラスメイトが集まってきた。

 

「障子。今日は買い物せずか?」

「幼い頃からあまり物欲がなくてな。」

「ミニマリストなのね、障子ちゃん。」

「じゃあ玲ちゃんにコーヒーとか紅茶の話聞いてみて!すっごい詳しいし聞いてたら欲しなるよ!爆豪くんがどっちも買ったくらいやし!」

「そうなのか。今度機会があったら聞こう。」

「はは、じゃあまた今度行こうか、障子。」

「その時に同行しても?」

「いいぞ常闇。そこまで詳しい訳じゃないが、少しは選ぶのを手伝えるさ。口田はペット用品か。見るにうさぎか?」

「……。」コクコク

 

その後も時間が迫るごとにクラスメイトが集まり、そのままゲームセンターの外で話す者、近くのカプセルトイを眺めるものなど、様々だ。

そして、一日の終わりの時間が来た。楽しい時間は過ぎるのは早い。

ショッピングモールを出て、一旦集合。

夜ご飯にこのまま行くメンバーと、帰るメンバーが別れる形になる。

 

「香月は来ない感じ?」

「ああ、今日は帰るよ。また誘ってくれ。」

「マジ?残念だな〜次は来いよ!」

 

上鳴に聞かれるも、香月は帰ることを選択。

 

「じゃあ今日はみんなお疲れ!」

「またなんかの節目でみんなでどっか行こうな!」

 

上鳴や切島らの声で閉幕。手を振り、またね、と別れの言葉をみな思い思いに告げる。

 

「……じゃ、帰ろっか皆。」

 

帰り道の途中に最寄り駅があるため、香月はそのままみんなと話しながら駅まで向かい、別れて自宅へ帰ることにした。

 

「……ん、峰田も帰るのか。てっきり上鳴とかと夜までいるもんだと思ってたよ。」

「こっちのセリフだぜ香月。オイラも香月が帰ると思ってなかったよ。」

「ま、そんな時もあるさ。峰田はなんで行かなかったんだ?」

「オイラ今日は帰ってやることあるんだよ。それに夜は女子誰もいなかったしな。」

「ブレないな峰田は……。」

 

みな、今日楽しんだことなどをお互いに話し合いながら帰路を歩く。

1人で歩くより、やはりというか時間はすぐ過ぎるものであっという間に駅まで到着した。

 

「じゃ、みんな気をつけて帰れよー。」

「あ、そっか香月は近所だっけ。」

「そうだ。だから今日はここでさよならだ。」

「おっけー!またね!」

 

手を振りながらみなと丁寧に別れの挨拶を交わした。

香月は丁寧にみなの姿が消えるまで、ここから動かず、みなを見守る。

そして、皆が駅の奥へと消えていった。

 

「……よし、じゃあ帰ろっかお茶子ちゃん。家まで送るよ。」

「わ、紳士やねぇ、ありがとう最後まで!」

「いえいえ。あ、いや、タクシーの方がいいか?家まで送ると俺に住んでるとこバレるぞ。」

「そんなぁ気にせんよ玲ちゃん。」

 

会話をしながら、駅から歩みを進める。歩きでも充分帰れる距離だ。

 

「ウチ、爆豪くんに敵わんかった。でも玲ちゃん対応凄かったやん?尾白くんとかB組の鉄哲くんとかの時も。なんかコツとかあるん?」

「ん〜……まぁいくつかあるけどほぼ直感なんだよな。あとは相手の"個性"ならどういう軌道を描けるか、とか、あとは相手をどう動かすか、とかを考えたり、かな。」

「また詳しく教えて!ウチも強くならんと!」

「"個性"の都合上、俺とお茶子ちゃんじゃやれることは大きく違うが、そうだな。様々なことに目を向け、聞き、知ればそれだけ可能性が広がる。また訓練の時にチームになったりしたら、できるだけ教えるよ。」

 

学業のことや、訓練の話をしながら、帰路を歩く。

日が傾き、もう薄暗くなった時間帯。麗日の自宅がもうすぐそこだと言うところまで来た。

 

「玲ちゃん本当に今日はありがとう。その代わり、お手伝い頑張るからね!なんでも言うて!」

「はは、ありがとな。また連絡するよ。」

「じゃ、ウチこのアパートやから。またね!」

「ああ、また。」

 

手を振り、麗日はアパートの中へ。階段を上り、自分の部屋の前から、香月に向けて再び手を振った。

香月はそれに手を振り返し、麗日が部屋の中に消えるまで見守る。

 

(……よし、帰るか。)

 

ワイヤレスイヤホンを携帯端末に繋ぎ、音楽を聴き始めた。

 

(帰ったらまず洗濯をして、次は──)

 

この後何をするか、というのを頭の中で予定立てながら、自宅を目指す。

今日はクラスメイトみんなと楽しい時間を過ごした。

今日来れなかった4名も、いずれはこういう場に連れてきたい、もしくはその4名を誘って遊ぶか、などと考える香月。

太陽はもうほぼ落ちていて、その太陽もゆっくりと、光は閉ざし、夜の帳は落ちた。楽しい一日の、閉幕。

心地よい疲労感とともに、今日は終えた。

 




ちなみに香月の私服、今回は白のオーバーシャツに、モスグリーンのダボッとしたパンツを想定しています。被り物はなく、靴はスニーカー。そんな感じ。
とは言ってもそれ完全に私の趣味なんで、世間一般的にオシャレかどうかは知りません。
やー書くの楽しかった。
あ、ファミレスの時の座席、念の為に画像化しておきました。
▼さしえ の つかいかた を おぼえた!

……再び言いますがヒロインは決まってません。悩んでます。未だに。書き始めた頃は決まってたのに揺れ動いて悩んでます。
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