僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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最近1週間に1回投稿してたから油断したろ……?
残念、不定期更新だ。それも私の気分による、ね。

はい。


第34話 ─ヒーロー殺しステインと、轟がかけられる飯田への言葉─

職場体験3日目、夕方。

緑谷は部屋の端に転がされていた。グラントリノとの組手を何度も行っているのだ。

全身にワン・フォー・オールを張り巡らされた状態での行動自体は可能になったが、まだ攻撃されれば解けてしまうほど集中が必要な段階だった。

しかし、実際にグラントリノが久々に本気で避けた、という程に効果は強い。

慣れのために何度も組手を行っているというわけだ。

しかし、この日は違った。

 

「これ以上、同じ戦法の奴と戦うと変なクセがつくかもな……。」

「クセとか以前にまだまだ慣れが足りないですもっとお願いします!!」

 

緑谷にとってはまだ次のフェーズに向かうほどの鍛錬を積めていない、と考えていたがそれをグラントリノは否定。

次のフェーズへと向かわせることにした。

即ち、(ヴィラン)退治。いきなりか、と緑谷は驚く。

先程も言った通り、グラントリノとばかり戦っていると、全く違うタイプへの対応で躓く。

次は様々なタイプと状況の経験を積むフェーズだ、と語った。

というか、緑谷は修行に来たのではなく本来で言えば職場体験に来たのだ。

それが本来のあるべきルートである。

言うことは理解できるが、緑谷にとっては突然過ぎて心の準備が出来ていないと感じた。

しかし、グラントリノは既に(ヴィラン)と退治したことを知っており、その規模ではなく、ヤンキーの小競り合い等、小さなヤマを狙うつもりだ。

そのためには遠出が必要。なぜなら、グラントリノがいる街は過疎化が進んでおり、犯罪率も低い。

人口密度が高ければそれだけトラブルも増え、犯罪も増える。ということで都市部にはヒーロー事務所が多い。

とりあえず、と小さなイザコザが多いだろう渋谷へ向かう、と緑谷に告げてタクシーを呼んだ。

 

「ってなると、甲府から新宿行き新幹線ですか?」

「うん。」

 

乗り込みながら、ふと思いつく。

 

(保須市、横切るな……。飯田くん、気になるな……香月くんもいるからなんともないかもだけど、後で連絡してみよう。)

 

そのまま2人は、新幹線に乗るために駅へと向かった。

 

 

 

 

 

同時刻、保須市。

 

 

 

「今日も今日とてパトロール。ごめんね!代わり映えなくて。」

「いえ……むしろ、良いです。」

 

キョロキョロ、と飯田は周りを見渡す。

マニュアルが何かを言いにくそうにしていることに香月は気がついた。

 

「飯田……じゃない、天哉。」

「?なんだい、香月くん。」

 

普通に名前で呼んだあと、ヒーロー名を呼ばなくては、と呼び直した香月に、声だけで返事をした。

 

「その目は知ってる。復讐を考えてる目だ。」

「!」

「やめときな、いいことなんてないよ。」

 

香月の言葉に、振り向く飯田。

 

「ゼロくんぶっ込むね。ありがとう、代わりに切り込んでくれたんだよな?」

「や、いつ言おうかなと思ってたくらいなんで。」

 

マニュアルは自分の代わりに言い難いことを言い始めてくれた、と思い礼を言った。

 

「聞きにくいことなんだけど、ヒーロー殺し。追ってるんだろ。」

「それは……。」

「ウチに来る理由がほかに思い当たらなくてね。や!別に来てくれたことは嬉しいんだぜ!?ただ……私怨で動くのはやめた方がいいよ。」

 

そもそもヒーローは逮捕や刑罰を行使する権限は与えられていない。

"個性"の規制を進めて言った中で"個性"の使用を許されてある訳で、ヒーロー活動が私刑となってはいけない。

もし、民衆が、司法がそれととらえてしまえばそれはとても重い罪になる。

もちろん彼はヒーロー殺しに罪はない、と言っている訳では無い。

 

「ほら、君真面目そうだからさ!視野がガーッとなってそうで案じた!」

 

サッサッ、と視野が狭まっているジェスチャーをしながら彼にそう、説明した。

 

「ご忠告感謝します。」

 

飯田は、ただそれだけ返した。

 

(しかし……。)

 

ググ、と感情を示すように強く拳を握りしめながら。

 

(じゃあしかし……!!この気持ちを、どうしたらいい!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着く頃には夜ですけどいいんですか?」

「夜だからいい!その方な小競り合いが増えて楽しいだろ。」

 

渋谷へ向かう新幹線の中で緑谷とグラントリノは会話する。

会話が終わり、ふと緑谷は携帯を覗く。飯田とのSNSのメッセージ履歴だ。

いつもであれば既読後、3分以内には返信が来るのだが今回、返信が無かった。

念の為、香月にもメッセージを送ったが既読にならず。

なんということは無いだろうが、なんとなく心配になる緑谷。

なんてことを考えていると。

 

─ゴン─

《お客様座席にお掴まり下さい緊急停止します──》

─CRASH!!─

 

矢継ぎ早に展開が変わっていった。

ゴンという何かの音の後、緊急停止。その勢いに緑谷は前の座席にぶつかったが、その直後、新幹線の窓と、その周囲を破壊しながら人が飛び込んできた。

体勢を見るに吹き飛ばされたか何かで、新幹線にぶち当たったのだろう。

その壊れた壁からは、異様に手足の長い、脳が剥き出しで目が2対ある異様な者が現れた。

 

(脳無!?)

「小僧座ってろ!!」

「え!?グラントリノ!!」

 

瞬間、グラントリノは緑谷に待機するよう指示。そして飛び出して脳無に突撃し、そのままこの場から離れていく。

飛び出したその背を見ながら名を叫ぶ。同時に、街に爆発が起きた。

その場所は、保須市だ。

 

 

同時刻。

 

「マジかよ。このご時世に馬鹿だな!天哉くん、ゼロくん!現場行く、走るよ!」

 

前を走るマニュアル。飯田の目線は前ではなく、路地裏に向いていた。

駆け出す飯田。香月は、気付きながらも止めず、その背を見送った。

駆ける。それへと向けて。その背を捉えた。

しかし、それは振り返りながら手にするものを振り回し、飯田のヘルメットを弾いた。

その衝撃に、彼のヘルメットは吹き飛び、彼もまた体勢を崩した。

 

「スーツを着た子ども……何者だ。消えろ、子どもの立ち入っていい領域じゃない。」

 

ググ、と立ち上がりながら言葉を放つ。

 

「血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物……ヒーロー殺しステインだな!そうだな!?」

「!」

「お前を追ってきた……こんなに早く見つかるのはな!!僕は──」

 

言葉を中断するように、手にした刀の切っ先を飯田の眉間へと向ける。

 

「その目は仇討ちか。言葉には気をつけろ。"場合によっては"子どもでも標的になる。」

 

その言葉は標的ですらない、眼中に無いと、暗に言われているようなものである。

 

「聞け、犯罪者!」

 

切っ先をものともせず、怒りに満ちた表情で立ち上がる。

 

「僕は……お前にやられたヒーローの弟だ……!最高に立派な兄さんの弟だ!兄に代わりお前を止めに来た!」

 

その時、彼は思い出していた。兄が、ヒーロー名を自身に託した、その瞬間を。

 

「僕の名を生涯忘れるな!インゲニウム!お前を倒すヒーローの名だ!!」

「そうか。死ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

新幹線では阿鼻叫喚とした状況が続いていた。

緊急停車に、吹き飛んできたプロヒーローがやられてしまっていたこと、それらが民衆の恐怖を煽って混沌とする。

そんな中、緑谷は新幹線から出てグラントリノを追う。

危険だ、という車掌の声をそのままに、駆け出す。

脳裏にはUSJでの出来事。

あの時のそれとは姿は違うが脳が露出した姿などそうそういるものではない。

兄弟かなにかか。で、あるならばオールマイトに匹敵するパワーを所持する可能性がある。

グラントリノが危険だ、と感じ、足は自然と急ぐ。

 

その、グラントリノは。

 

「ガチ戦闘は何年振りかな。」

 

街中でなおも暴れ回る脳無と、本格的に戦闘を始める。

四肢が長く、細いながらも筋肉質な脳無だった。

空中に浮かぶグラントリノを素早い動きで捕らえんと腕を振るう。

確かに速いが、スピードが凄まじいグラントリノの対応圏内。

すっと避けて背後へ。出方を伺うも脳無はそのまま前にいた一般市民を狙う。

 

「(見境無しか!)やめとけ!この──」

 

加速しつつ、攻撃を加えようとした時。

ゴオ、と炎の壁とも言えるほどの炎熱が脳無を襲う。

 

「ヒーロー殺しを狙っていたんだが……タイミングの悪いやつだ。存じ上げませんがそこの老人。俺に任せておけ。」

 

己を誇示するように、燃え盛る髭の大男がそこにいた。

 

「あ、あなたは!マジ!?」

「なんでここに!?」

 

民衆の声に、短く、簡潔に答える。

 

「ヒーローだからさ。」

 

No.2ヒーローエンデヴァー、現着。

 

 

 

 

 

 

 

緑谷も街中を駆ける。人混みを遡るように。

人の流れの元は騒ぎの中心であるのことが多い。

 

(なんだって、脳無みたいなやつが……!?)

 

もし、それがUSJの時のような力を持っていたとしたら。

グラントリノだけではなく街も危険だ。

この街。保須が危ないということは、ここで職場体験している飯田や香月も。

 

(僕はどう動けばいい!?考えろ!どう動くのが最善だ!?)

 

走っていると、広場に出た。

そこは、脳無が複数名暴れる騒ぎの中心。

 

(そんな……なんだ……コレ……!?)

 

明らかにやばい、とわかる状況。

プロヒーローがいとも容易く投げ飛ばされ、ビルが砕ける。

バスも投げ飛ばされて横転しており、炎が燃え盛る。

 

「全くなんでこんな時に限ってどっか行っちゃうんだ天哉くん!!」

 

緑谷の目に、ノーマルヒーローマニュアルが目に留まる。

飯田、香月の職場体験体験先の人であること。

そしてセリフから飯田が彼の把握なくその場に居ないこと。さらに。香月もそこに居ないことを理解した。

 

「こら邪魔だよ!下がってて!!わたしらが食い止めてる!警察の避難誘導に従いな!」

「わっ!すいっすいません!」

 

プロヒーローに押しのけられながらも考えを続ける。

こんな大事件を前にして真面目な飯田がいなくなるわけが無い。

そして、香月だって居ないのもおかしい。

保須市。脳無らしき存在。飯田。

そこで、ピースが埋まった。ヒーロー殺しが鍵だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あァッ!!!」

 

飯田はステインに向かい、全力で蹴りを放つ。

しかしそれはいとも容易く避けられてしまい、空を切った。

 

「インゲニウム……ハァ……兄弟か。」

 

空中で体を翻すステイン。

 

「やつは伝聞のため生かした。お前は──」

 

ステインはそのまま、飯田の右の二の腕を蹴る。足先には鋭いスパイクがついており、飯田それに引き裂かれて出血した。

それに怯む飯田に、空いた足で頭を蹴り、地に倒れさせてさらに頭を踏みつけた。

 

「弱いな。」

 

瞬時に刀を逆手持ちにして、左腕を突き刺す。

 

「お前も、お前の兄も弱い。贋物だからだ。」

「黙れ悪党……!!」

 

強い語気で、言葉を続ける。

脊髄損傷で下半身麻痺。飯田の兄はヒーロー活動はもう適わないと。

彼の兄は多くの人を救け、導いてきた立派なヒーローなんだと。

 

「お前が潰していい理由なんてないんだ……!僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」

 

血が流れ出る。憧れた兄の姿を思い浮かべながら、怒りに任せて言葉が口から出る。

 

「殺してやる!!」

「あいつをまず救けろよ。」

 

ステインはそう、彼に言った。

ヒーローとは、自らを顧みず他を救い出す存在。

己の為に力を振るう、目先の憎しみに囚われて私欲を満たそうなんて言うのはヒーローから最も遠い行いだ、と。

 

「だから、死ぬんだ。」

 

ステインは刀を引き抜き、その刀身を舐める。

その瞬間、ぞわという感覚と共に飯田の体は動かなくなった。

 

「じゃあな。正しき社会への、供物。」

 

切っ先は腕から狙いを頭へ。ゆっくりと、振り上げられる。

 

「黙れ……黙れ!!何を言ったってお前は!兄を傷つけた犯罪者だ!!!」

 

その時、小さく地と壁を蹴る音がした。

瞬間、ステインの顔に、拳が当たる。

 

─SMAASSH!─

 

「緑谷……くん……!?」

「救けに来たよ。飯田くん。」

 

緑谷として、考えすぎかもしれないし確証も無かった。

でも動かずにはいられなかった。

ヒーロー殺しが現れた街で、脳無みたいなやつが暴れていた。

では、敵連合(あいつら)とヒーロー殺しは繋がっているのではないのか、と。

そうなるなら脳無がいるこの場所にはヒーロー殺しがいる可能性がある。

じゃあ、飯田がプロヒーローの元にいなかったのは、ヒーロー殺しを見つけてしまったからではないか、と。

考えていた。そしてそれは。

 

「ビンゴだ。」

 

吹き飛ばされたステインは衝撃で後退る。

 

(こいつ……死柄木がの持っていた写真の……。)

 

キッ、と緑谷はステインを睨む。

ワイドショーで、ヒーロー殺しの被害者6割が人気のない街の死角で発見されていたことを彼は見ていた。

故に、騒ぎの中心からノーマルヒーローマニュアルの事務所までの周辺路地裏を虱潰しに探してここへ辿り着いたのだ。

 

「動ける!?大通りに出よう、プロの応援が必要だ!」

 

緑谷はそう言うも飯田は斬られてから身体を動かせないでいた。

刃物を大量に所持していることから世の中で推測されていたことだが、"個性"の発動条件は斬ることか、と緑谷は頭の隅にそれを置いた。

道の奥には、もう1人動けない人がいた。

飯田より先に襲われていたプロヒーローである。

もし飯田だけであれば担いで逃げられたかもしれないが、そうはいかないようだ。

 

「緑谷くん……手を、出すな……!君は関係ないだろ!!」

 

動けないながらも、怒りと復讐心に顔が強ばる。

 

「なに……言ってんだよ……!」

「仲間が"救けに来た"……いい台詞じゃないか。」

 

ユラ、とステインは緑谷に向き直る。

 

「だが俺はこいつらを殺す義務がある。ぶつかり合えば当然───

 

 

 

弱い方が淘汰される訳だが。

 

 

 

さァ、どうする。」

 

ゾワ、と緑谷の背に冷たいものが走る。

強い思想を持つ者の眼は静かに燃ゆるもの。いつの日かオールマイトが言っていた言葉だ。

USJのヤツらとは違う、殺人者の眼。その気迫に、足が震えた。

ひとつだけ後悔した。

なんの確証もない推測でもなんでも、プロを説得して共に来てもらうべきだった、と。

身動きが取れない2人を守りながら、緑谷1人で時間を稼ぐ。

そして、可能ならば。

 

(ヒーロー殺しを、退ける!)

「やめろ!!逃げろ!言ったろ!君には関係ないんだから!!」

「そんなこと言ったらヒーローは何も出来ないじゃないか!!」

 

飯田の言葉に言いたいことは沢山あった。

しかし、それは後回しにして、一つだけ、飯田に返すことにした。

オールマイトが言っていた言葉。

 

「余計なお世話は、ヒーローの本質なんだって。」

 

恐怖しながらも、無理矢理、緑谷は笑顔を作った。

 

「ハァ……!良い。」

 

その言葉に、歓喜したような笑顔でステインは答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷はステインの元へ駆ける。それに対し、ステインは刀を横薙ぎに振るう。

その瞬間緑谷は"個性"を全身に発動、加速した。

長物に対して間合いを詰める、というのはいい判断だ。

しかしステインは短いリーチの刃物も携帯している。

逆の手で、脇腹に装備されたナイフに手をかける。

緑谷は加速をそのままに、ステインの股下をスコ、と体を小さくして通過。

ステインのナイフは空を切った。

背後にまわられたステインは姿を確認する前にそのまま振り返りつつ刀を斜め下をカバーするように振るった。

しかし、そこに緑谷の姿は無い。

緑谷はそこから跳ね、ステインの真上を取っていた。

そのまま強化状態で彼の頭を殴る。

その動きのイメージは爆豪だ。

 

(通じた!?通じたぞフルカウル!!)

 

ワン・フォー・オール フルカウル。彼が名付けた技名だ。

自分は戦える、と思った次の瞬間、緑谷の体は硬直し、動かせなくなった。

 

(かすってたのか!!こんな気づかないほどのかすり傷で!?)

 

そこで気づく。斬り付けられることが発動条件では無い、と。

 

(……そうか……違う!血か!!)

「パワーが足りない。」

 

緑谷の動きに、ステインは評価を続ける。

視界から外れることで確実に仕留められるよう画策した。そういった動きであり、ステインの動き自体を見切ったわけでない。

続けながら、緑谷の前を通過する。

 

「口先だけの人間はいくらでもいるが……お前は、生かす価値がある……。こいつらとは違う。」

 

刀を構え、飯田の元へと再び歩いていく。

やめろ、という声も虚しく、一歩、また1歩も死の足音が飯田へと近づく。

その距離、あとわずか。その時、氷結と火炎がステインのいた場所を強く攻撃された。

ステインは跳んで回避。そこへ、いくつものレーザーが打ち込まれる。

空中で体を捻り、壁を蹴ってレーザーすらも避けてしまった。

 

「次から次へと……今日はよく邪魔が入る……。」

うざったいと言った様子で、攻撃元を睨むステイン。

 

「緑谷、こういうのはもっと詳しく書くべきだ。……遅くなっちまっただろ。」

 

緑谷から見て正面奥から轟は現れた。そして、緑谷の背後から。

 

「なァ、飯田。俺は言ったんだがな。」

 

ザ、と香月は現れ、そういった。

ヒーロー殺しステインを挟む形で2人は現れる。

緑谷はここにいるはずも無い、体験先が保須とは遠い轟が現れたことに驚いた。何故だ、と。

轟からしても、なぜはこちらのセリフだ、と言ったところだが。

緑谷は交戦直前にここの位置情報を一括送信で自信の持つアドレスに送っており、それを受け取った轟。

エンデヴァーは保須にヒーロー殺しが再び現れることを確信してここへ来ており、そこで職場体験をする轟も同行していたのだ。

位置情報のみ、という連絡に、どういうことか、と数秒考えた。

意味無く緑谷はそういうことをする人じゃあなく、それならピンチだから応援を呼んで欲しいということだ、と理解した。

故にここに現れることが出来たのだ。

香月はというと、脳無襲撃の際にプロヒーローらに避難するよう指示を受けたが、直感的に何かを感じてこの裏路地へと足を運びを戦闘音を聞き付けてきたのだと言う。

ちら、と香月と目が合う。香月は何かを理解したように頷いた。

轟は氷結を足元に発生させる。ステインは氷結するわけに行かなく、跳んで回避。

そこを、轟は炎を放った。ステインは壁を蹴りつつ、さらに上へと跳ねて回避。

そこへ香月は合わせて目の前へと肉薄した。姿を確認し、即座に刀を振るうステイン。

どこからが取り出した盾で香月は斬撃をいなした。甲高い鉄の音が辺りに響いた。

その後、追撃されることを避けるためか、香月は空中で跳ねて轟の元へと着地。

足元の氷結と炎により、周囲に疎らに倒れていたプロヒーロー、緑谷、飯田は轟の足元へと集結した。

 

「情報通りのナリだな。こいつらは殺させねえぞヒーロー殺し。」

「轟くん香月くん!そいつに血ィ見せちゃ駄目だ!」

 

おそらく経口摂取で対象の体の自由を奪う"個性"だ、と二人に説明する緑谷。

それで刃物か、と納得する轟。自分なら距離を保ったまま戦える、と構えたその次の瞬間。

 

─ヒュヒュヒュッ─

 

複数のナイフが投擲される。1本は轟の頭部狙い、もう2本は倒れているプロヒーローと飯田狙いだ。

轟はナイフを頬をかすめるもギリギリ回避、香月は瞬時に1歩下がり、空間に盾を発生させてナイフを弾いた。

 

「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム──」

 

さらにナイフを構え、轟へと肉薄、今度は手にした短刀で切りつけようと振るう。

これを氷壁にて防御。しかし、既に上へと刀を投げており、このままでは轟を斬り裂いてしまう。

それの対処を、と炎を構えた瞬間、ステインは頬を伝う血を直接舐め取ろうと近づいてきた。

どちらかを処理する時間はない、と炎を大きく放って両方を防いだ。

香月は炎を放つことを直感したため、少しさらに下がって体勢を下げて巻き込まれることを回避した。

 

「轟、大丈夫か?」

「っぶねえ、平気だ。」

 

一つ一つの動きが2択3択を迫る動き。こいつは強い、と、轟はステインを見据えた。

 

「血を流しすぎだ、俺が前に出る。」

 

香月はそう言って、ステインへと瞬時に接近。

ステインは空中で投げた刀を手に取り、そのまま香月へと振るう。

香月はどこからか刀を取りだしてそれを防ぎ、鍔迫り合いの形へと持っていった。

 

「ヒーロー殺しステイン。ひとつ聞いても?」

 

みなには聞こえない声量で、そう、香月話しかけた。

ステインは鍔迫り合いを弾いて短刀で斬り付けようと、肩へと手を伸ばす。

香月は弾かれたと同時にステインの頭の上を飛び越える。

するとそこへ、炎が迫った。ステインはこれを横へと回避。

追撃と言わんばかりに、そこへ香月が刀を振るう。

それを、ステインは短刀で受けた。

 

「"個性"研究所襲撃事件。世間で公表されている事実の他に知っていることは?」

「……なるほどな。お前は───」

 

こう月へと対面しながらも足に装備されたナイフを投げて轟らへ牽制、轟はこれを氷壁で防いだ。

 

「ハァ……残念だがなにも。」

「そうか。」

 

逆の手で別の短刀を構え、香月の脚に突き刺そうとしたらステイン。

香月は受け答えをしつつも跳び下がって轟の元へと下がった。

それを追うようにステインは前へと跳躍、大きく刀を振るう。この軌道は、香月と轟どちらも狙う軌道だ。

香月は体勢を下げて回避、轟は氷結で防いだ。

攻防が続く。

 

「何故だ、皆、やめてくれよ……兄さんの名を継いだんたま……僕がやらなきゃ……そいつは、僕が……!」

「継いだ?そりゃあ変な話だな。なぁ轟。」

「そうだな。俺が見た事あるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。お前ん家も裏じゃ色々あんだな。」

 

そう言いながら轟は一気に氷結させるべく巨大な氷塊をステインに向けて発生させた。

彼は発生させた氷結に巻き込まれることなく、それを足場にして後方へ飛び退いていく。

氷壁の奥へとステインの姿が消えた瞬間、氷壁は乱切りされるように切り裂かれる。

 

「己より素早い相手に対し、自ら視界を遮る……愚策だ。」

「そりゃどうかな。」

 

斬られた氷結の隙間から、炎を放とうと構え、それに合わせるように両手に光球を構える香月。

瞬間、轟の左腕に痛み。ナイフが3本、前腕に突き刺さっていた。

香月の元へも投げられていたが、一瞬前に気付いたか、構えられた光球から放たれたレーザーで弾いて防御していた。

 

「おまえらも、良い……!」

 

上から刀を下へと構えてそのまま突き刺そうと落下。

 

「轟くん、香月くん……!!」

 

何とか体が動かないか、と全身に力を込める緑谷。

その瞬間、ピク、と体が動き、体に力が戻るのを感じた。

瞬間、全身に力を込めてフルカウルを発動、飛び上がって壁を蹴り、空中から落下してくるステインを掴んで壁へと引き摺る。

 

「緑谷!」

「なんか普通に動けるようになった!!」

 

空中で振り回されるステインは緑谷の脇腹を肘打ち。拘束から逃れて体勢を取り直した。

そこへと香月のレーザーが降り注ぎ、それを回避するために距離をとる。

 

「時間制限か。」

「いや、あの子が1番最後にやられたはず!最初にやられた俺はまだ動けねぇ……!」

 

プロヒーローから、追加の情報を付け加えられた。

 

「血を取り入れて動きを奪う、僕だけ先に解けたってことは……。」

「ん、そうだな。血液型か?」

「さらに考えるならもう2パターン、人数が多くなるほど効果が薄くなるか……摂取量か……。」

 

ちら、と周りを見る。摂取量で言うならおそらくいちばん多いのが飯田もしくはプロヒーローで、少ないのは緑谷。正しいとも言える。

 

「血液型……ハァ、正解だ。」

 

"個性"凝血。血を舐めることで相手の身体の自由を奪う。最大8分間。

O、A、AB、Bの順で奪える時間は少ない。なお、ステインのけつえきがたはB型だ。

飯田はA型、プロヒーローネイティブはB型だ。

 

「分かったところでどうにもなんないけど……。」

「さっさと2人担いで撤退し──」

「ッ!!!2人とも伏せろ!!!」

 

後方から、とある存在が飛来。

体の大半を覆い隠すほどの巨大な盾を瞬時に発生させ、後ろからの飛来物に備える香月。

ぶつかってきたそれは、香月を盾諸共後方へ吹き飛ばしていく。

 

「ゴォォアアアアア!!」

「脳無!?!?」

 

耳障りな咆哮を上げながら香月と共にステインよりも後方へと地面を削りながら進んでいく。

 

「俺は大丈夫だ!!ここは頼んだ!!」

 

そう言って香月は路地裏のさらに深くへと消えてしまった。

香月は消えたが緑谷が行動可能となり、2対1は変わらない。

"個性"もおおかた判明し、2人を担いで撤退したいところだが轟の氷と炎に簡単に対応する反応速度。

撤退する、なんて言う隙は見せられない。

轟は既にエンデヴァーにここへ手が空いたプロヒーローを救援に向かわせて欲しいと伝えたため、近接を避けて粘り、プロが来るのを待つというのが最善だと2人は判断。

香月のことは心配だが、今は目の前をどうにかしなくてはならない。

 

「轟くんは血を流しすぎてる、僕がやつの気を引くから後方支援を!」

「相当危ねぇ橋だが……そだな。2人で、守るぞ。」

 

その様を見て、ステインの顔からはスゥ、と余裕と表情が消えた。

 

「ハァ……甘くは無いな。」

 

インゲニウム、飯田の兄が凶刃に倒れてからの彼のことを轟は気にしていた。

恨みつらみで動く人間の顔ならよく知っていたからだ。

そして、その人間の視野が、どれだけ狭まってしまうのかも知っていた。

轟は体育祭の代休の日、ずっとあっていなかった母へと会いに行っていた。

母は泣いて謝り、驚くほどあっさりと笑って彼を赦した。

轟自身が何にもとらわれずにつき進む事が幸せであり、救いになると言った。

以前のままの彼であれば、職場体験の場所に父親の事務所を選ぶことは有り得ない。

彼が父親を赦した訳では無いし、赦す気も彼には無い。

しかし、彼がNo.2と言われている事実をその眼と身体で体験し、それを受け入れるためだ。

どれだけ屑だったとしても、No.2といわれるだけの素養は持ち合わせていたと認めざるを得なかった。

 

(簡単な事だったんだ全部!簡単なことなのに見えてなかった!)

 

たった一言。

 

君の力じゃないか!!

 

その、緑谷の言葉。それだけで、彼は気づくことが出来た。

戦闘は続く。轟が後衛で、炎を放ち、緑谷が距離を詰めて攻撃する。

ステインは瞬時に、体制を低くしつつ緑谷の足を刀で切裂く。

その素早さに緑谷は回避が間に合わず、本当てと言えずとも掠ってしまった。

さっきまでとは全然動きが違う。

 

「止めてくれ……もう、僕は……。」

 

呟く飯田の言葉。

 

「やめて欲しけりゃ立て!!」

 

氷結を放つ轟。ステインはそれを横へ跳んで回避、刀に付着した緑谷の血を摂取、緑谷を行動不能に。

轟が、飯田に言える一言。

 

「なりてぇもんちゃんと見ろ!!」

 

その言葉に、飯田は思い出す。

 

インゲニウム お前を倒す ヒーローの名だ

 

自分が言ったそれと、兄の姿を。





これでようやく本誌で言う6巻が終わりましたね。
……長くない?
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