僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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お久しぶりです。とても、ええとても。
何となくヒロアカ熱が高まったのでまた書き始めました。


第35話 ─職場体験、閉幕─

 

「雑な狙い方をするなァ、これの親玉も。」

「ご……ぉ……──」

 

脳無は地に伏し、その体の上に大盾を置いて、それに香月が座っている。

地に伏した脳無の腰部分には斧槍の斧部分が、そして体の至る所に槍のようなものが突き刺さっていた。

それは小さく呻き声を上げたあと、意識を落としたのか、声すらあげなくなった。

 

「ま、いっか。考えようによってはラッキーだったし。」

 

ふぅ、とひとつため息をつき、脳無を放置する訳にも行かないと考えたからか、座ったままどうするかな、と呟いた。

立ち上がり、ぱっと手を開くと吸い込まれるように動き、斧槍と盾は香月の手に納まった。重厚な金属の音と、どろりとした血が滴る音が辺りに響く。

同時に突き刺さった槍は脳無の体が肉を引き裂きながら抜け、銀色の波紋の中へと消えていった。

ビッ、と斧槍を振るうと、地面に血が叩きつけられた。

 

「……。」

 

斧槍の斧とは逆部分、鈎部分を脳無の体に引っ掛けて引きずって連れていく。

USJの時に現れたようなその体躯に、でかいから面倒だ、と悪態をつきながら。

ズルズルと引きずりながら元の場所へと戻ると。

空中で、ヒーロー殺しが飯田と緑谷に攻撃されているところだった。

ヒーロー殺しが反撃に飯田を刀で斬撃、それを彼はギリギリ避けた。

 

「お前を倒そう!!今度は、犯罪者として!」

「畳み掛けろ!!」

 

轟の声に合わせたか、空中で"個性"をフル稼働した飯田はヒーロー殺しを蹴りあげる。

緑谷は出力オーバーによる反動か、動けないでいた。

 

「ヒーローとしてッ!!」

 

強力な一撃で蹴り上げられたヒーロー殺しをさらに轟が火炎により追撃。

落下する2人を氷で直下に落ちないように坂を作って受け止めた。

 

「立て!まだ奴は──!」

 

氷の上に落ちたヒーロー殺しは未だ動こうとしていた。

3人はさらに警戒して体勢を整える。

その瞬間、巨大ななにかか飛んできてヒーロー殺しを襲う。

 

「の、脳無!?」

「香月くん!」

 

先程の個体の脳無だ。気絶して動かないそれを投げ飛ばしてヒーロー殺しを攻撃したのだ。

吹き飛ばされ、地面に転がるヒーロー殺し。

動くか動かないかを確認する前に。

 

「ふゥん゙ッ!!」

 

瘴気を放ってヒーロー殺しを追撃、さらに突撃、肉薄した。

 

「すまないな、ステイン。私たちにも目的がある。」

 

そう言って、香月は彼を地面に張り付けるように武器を無数に放つ。

彼を拘束し、瘴気による効果と今までのダメージで彼は意識を手放した。

それを確認し、香月は瘴気を自身の体に取り込んで処理。

轟たちに振り返った。

 

「お前ら無事か?」

「なんとかな。香月も無事か。」

「問題ない。」

「……じゃあ拘束して通りに出よう。」

「念の為、武器は全部外しておこう。」

 

そういって、緑谷は気絶したヒーロー殺しの武装を解除していき、轟はロープを見つけて持ってきた。

 

「脳無の方は……。」

「んーロープ足んねぇな。まぁとりあえずこいつは俺が運ぶ。」

「了解。」

 

緑谷が武装解除を終え、地面には大量の刃物が並べられた。

轟はそれを確認したあと、ヒーロー殺しを拘束していく。

 

「ネイティブさん、動けますか?」

「ああ、大丈夫になった。」

 

緑谷を背負いながらネイティブは立ち上がる。

戦闘中、プロにもかかわらず全く動けないでいたからか、それくらいはと足を怪我した緑谷を案じたのた。

轟はヒーロー殺しを引っ張っていこうとした時。

 

「轟くん、やはり僕が引く!」

「……お前腕ぐちゃぐちゃだろ。」

 

そのまま役割は変わらず、香月は"個性"によるチェーンのようなものでぐるぐる巻きにして引っ張っていた。

 

「重いっつのこいつ。面倒だなおいッ。」

「香月くん、無傷で脳無を倒すなんて……。」

「……んー、いや。"個性"でこいつの手から脱出して、戦闘になるかと思ったんだが突然プツリと糸が切れたように膝をついて動かなくなった。」

「なにもしていないのにか?」

「おう。一応その隙に追撃はしたんだが、それ以上声もあげねぇ。……多分生きてはいるんだろうが……。」

 

悩ましそうな声と表情でそれを引っ張り運ぶ香月。

 

「悪かったな、プロの俺が足手まといだった……。」

 

ネイティブは申し訳なさそうな、悔しそうな顔をしてそう謝った。

 

「いえ、1対1でヒーロー殺しと対面したら、もう仕方ないと思います。強すぎる……。」

「3もしくは4対1上、さらにこいつ自身にミスがあってギリギリ勝てた。」

 

恐らく、轟は考えを展開する。

飯田とネイティブに固執するあまり、焦って緑谷の復活時間が頭になかったのでは、と。

飯田の"レシプロ"に対してはともかく、緑谷の動きへの対応が全くなかった。

香月はほとんど虫の息の彼にトドメを刺しただけとはいえ、そちらへのケアがまったくないと言うのもそうだ。

もし、万全で冷静なら。ここまで犯罪を重ねていた彼なら。

緑谷の動きへの対応もあったし、ましてや2度目の香月に不意を突かれることがないのような立ち回り、というより位置取りをするだろう。

奇跡が重なって勝てたのだろう、という考えだ。

 

「さて、早くこいつらを警察に……。」

「なっ!?何故お前がここに!?」

「グラン・トリノ!?」

 

緑谷の体験先のヒーローがそこに現れた。

新幹線で待機していろと言っただろう、と叱責されながら軽く蹴られていた。

 

「ここに行けと急に言われてな。まぁとりあえず無事でよかった。」

 

その後も、複数のプロヒーローがここへと到着した。

エンデヴァーから応援を受けてここへ来た、と。

生徒たちの怪我の具合を見て、救急車を呼ぼうとしたりなど、会話をしている。

その横で。

 

(ん……?こいつぁ……。)

「私が、なにか?」

 

グラン・トリノは香月に目線を向けて、何かを頭の中で感じ取る。

だが、それの正体は分からない。

 

「……ああ、いやなんでもない。お前は怪我ないんだな?」

「はい、運が良かったんです。ほぼ戦闘していません。」

「まさかヒーロー殺し!?」

「それに脳無まで!?とにかく警察に連絡を!」

 

その時、ヒーローのひとりが拘束されている2名の(ヴィラン)の正体に気がつく。

連絡をしたり、生徒3人の怪我の具合などを確認するプロヒーローたち。

そんな中、飯田が口を開く。

 

「3人とも。」

 

その声に、緑谷、轟、香月は振り向く。

 

「僕のせいで2人に傷を負わせた!香月くんにも、結果的に無事とはいえ危険な目に合わせた!」

 

深々と頭を下げる飯田。

 

「本当にすまなかった!!怒りでなにも……見えなく、なってしまっていた……!」

「僕もごめんね。君がこんなに思い詰めてたのに、全然見えてなかったんだ。友達なのに……。」

 

その言葉に、涙を流す飯田。

 

「しっかりしてくれよ。委員長だろ。」

「……うん……!!」

 

涙を拭き、そう返事する。

 

「……飯田。」

 

2人に少し遅れて、香月は彼に言葉をかける。

 

「この一瞬だけでもよ、お前にとってなんもいいことなかったろ。」

「……ああ……君の言う通りだった。あそこで、踏みとどまっていれば……。」

「や、わかったんならいいさ。お前にそんな道は合わん。もっと正しい道を生きな。」

 

ヒーロー殺しとの対面。10分前後の短い時間。

しかし、緑谷達にとっては、長い長い戦いのように感じた。

さて、2人を警察に引き渡すか、としていたその時。

グラン・トリノが一言、言い放った。

 

「伏せろ!」

 

視線の先には、(ヴィラン)。それも、細身で翼の生えた脳無だった。

高速でこちらへと飛来、鉤爪のような足で、緑谷を掴んで再び空へと舞った。

 

「「緑谷(くん)!!」」

(ヴィラン)!?やられて逃げてきたか!!」

 

その(ヴィラン)から出た血が顔に着いたプロヒーローはそう判断した。

脳無を見すえ、グラン・トリノは考える。

 

(いかん!あまり遠くに行かれると届かなくなる!)

「俺が投げ飛ばせば追跡距離は伸びますか。」

 

すぅ、と吸い込んで瘴気によって肉体強化させつつ、大きなハンマーを取りだして香月はそう言う。

発生した瘴気はわずか少量、発動と同時に溜め込んだのだろう。

 

「分からん!だがやってみよう!」

 

グッと深く構えた香月のハンマーに飛び乗るグラン・トリノ。

投げ飛ばそうとした直前、鉄の音が響いた。

瞬間、プロヒーローの頬に着いた血を舐める者がいた。

脳無は動きを強制的に止められ、滑空出来ているもののその高度を下げていく。

 

「偽物が蔓延るこの社会も──」

 

彼は駆ける。

 

「徒に力を振りまく犯罪者も──」

 

高度を下げる脳無に跳び、拘束を斬って解いたであろう刃物を頭に突き刺した。

 

「ハァ……ハァ……粛正対象だ……!」

 

躊躇すらせずに頭、急所を貫き殺した。

 

「全ては……正しい社会のために……!!」

 

その刃物を、傷が広がるように切り裂きながら、脳無から抜いた。

 

「少年を助けた……!?」

「バカッ!人質とったんだろ!」

「躊躇せずに人殺しやがった!」

「いいから戦闘態勢!」

 

プロヒーローは皆、戦闘態勢を取った。

 

「何をひとかたまりになって突っ立っている!?こちらに(ヴィラン)が逃げてきたはずだ!」

 

エンデヴァーはこちらへとやってきた。

短い時間で、戦火の中心を制圧し、逃げた(ヴィラン)を追いかけてきたというわけだ。

 

「して──あの男はまさか。」

「ハァ……エンデヴァー……!!」

「ヒーロー殺し!!」

 

その出会いに笑い、豪炎を構えるエンデヴァー。

 

「待て!轟!」

 

その言葉に、エンデヴァーは一瞬静止する。

 

「偽物……!!」

 

ヒーロー殺しは、ふらつきながらも確かに地を踏み締め、エンデヴァーと対峙する。

 

「正さねば……!!誰かが、血に染まらねば……!!」

 

執念。あまりの気迫に、ここにいる人ほぼ全員が気圧され、動けないでいた。

 

「誰かが……ヒーローを、取り戻さねば……!!」

 

No.2ヒーローである、エンデヴァーも。

 

「来い、来てみろ偽物共……!!」

 

その、あまりの気迫に、後ずさって尻もちを着くヒーローすらいた。

 

「俺を殺していいのは本物のヒーロー……オールマイトだけだァ!!!!」

 

その気迫に、本能的にだろうか。ほぼ全ての者が防衛の選択肢を一時的に取らされる。

しかし。

 

「……気を失っている……。」

 

立ったまま、ヒーロー殺しは意識を手放していた。

この時、既にヒーロー殺しは折れた肋骨が肺に突き刺さっていた。

誰も、この場の誰もヒーロー殺しに血を舐められ、動きを止めさせられていた者はいない。

ただ、確かにヒーロー殺しだけが。立ち向かっていた。

気を失っていることにより、安堵したか、立っていた飯田と轟も、膝をついた。

 

「……ふぅ……お前さん、生徒にしちゃ肝が座ってんな。」

 

グラン・トリノはひとつ、ため息をついたあと香月にそう言った。

 

「……いえ。」

 

あの気迫の中、瞬時に動いて大盾を轟と飯田の前で構えていたからだ。

最前に出なかったのは、プロヒーローたちを邪魔しないように、だろうか。

ヒーロー殺しが気絶し、行動に出ないと判断した彼は戦闘態勢を解除し、大盾を消す。

その後、事件は鎮圧され、犯人達は御用となった。

怪我の深い飯田と緑谷はもちろん、轟もその日の内に保須市の病院に運ばれた。

香月はそのままマニュアルの元へと報告後、念の為警察の事情聴取に応じた。

 

 

 

次の日。

 

 

 

プロヒーロー、マニュアルと共に香月は保須病院へと向かっていた。

事の顛末、そして彼ら3人が行った事の重要性を説明するためだ。

しかし、それを言うならば香月も、となる。

が。

 

「ゼロくん、君はそこまででもないよ。私が許可を出したわけだし。」

 

香月はマニュアルと離れ、避難民を護衛しながら自分も避難へと向かう際、(ヴィラン)と遭遇した時は交戦して良しと許可が出ていた。

で、あるならば"今後は注意するように"と言った程度で済む。

加えて、彼らへ香月との処罰の差を明確にし、それも説明するという。

向かっている途中、グラン・トリノと警察署の所長、面構 犬嗣と出会った。

共に説明に行くというわけだ。

 

「おう、昨日の。」

 

その後ろを着いていく間、グラン・トリノにそう挨拶をされた。

返事をし、また黙して彼らの後を着いていく香月。

 

「……。」

 

グラン・トリノはそんな彼をじ、と見つめた。

 

(どっかで見た事ある気がすんだがなぁ……。)

 

なんとなく、既視感というか。そんな感覚が複数、心に通る。

しかし、確信に至るほどのものではなく、どうにも思い出せない。

うむむ、と考え込むも、到着まで答えは出なかった。

受付を済ませ、3人のいる病室を目指す。

 

「おお、起きとるな、怪我人共!」

 

ガラ、と扉を開くと3人はベッドに座ったまま、何かを話し合っていたようだ。

グラン・トリノはまず、と緑谷に詰寄る。

言いたいことは山ほどある、と前置きをした上でそれを中断し、来客だと面構署長を紹介した。

それに対し、3人は立ち上がるが、掛けたままで結構だ、と彼は言った。

 

「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。」

「……はい。」

 

逮捕したヒーロー殺しの現状。

大きな火傷に骨折と重傷。厳戒態勢の元、治療中。

超常黎明期、統率と規格を重要視し、"個性"を武力として振るわないとした。

しかしもちろん、悪は"個性"を武として用いてくる。

ヒーローとは、その穴を埋めるために台頭した職業だ。

個人の武力行使、容易に人を殺せる力。

本来ならば糾弾されるその力が公に認められているのは先人たちのモラルやルールをしっかり遵守してきたからだ。

 

「資格未取得者が保護管理者の指示なく"個性"で危害を加えたこと。……例え相手がヒーロー殺しだったとしても、それは立派な規則違反だワン。」

 

規則は規則。こうなってしまえば3人を受け入れていたヒーローであるエンデヴァー、グラン・トリノ、マニュアル。

そして当の3人にも厳正な処罰は免れない。

 

「待ってくださいよ……!飯田が動いてなけりゃネイティブさんは殺されてた!緑谷が来なけりゃ飯田も殺されてた!」

「……轟くん……。」

「誰もヒーロー殺しの出現には気付いてなかったんですよ!?規則守って見殺しにしろって──」

「結果オーライであれば規則は有耶無耶でいいと?」

 

その言葉に、轟は怒りを隠せない。

 

「人を助けるのがヒーローの仕事だろ!」

「だから君は卵だ。全く、いい教育をしてるワンね、雄英も、エンデヴァーも。」

 

思わず、轟は立ち上がって面構署長に詰め寄っていく。

 

「この犬ッ……!!」

「やめたま──」

 

飯田が、最もな話だと彼を窘めようとしたその時、瞬間的に香月は動いていた。

 

「ッ……。」

「礼節に欠くぞ、轟。」

 

彼らの間に入り、轟を制止。それに、立ち止まる轟。

 

「まぁ待て。話は最後まで聞け。」

 

それに、グラン・トリノは声をかける。

 

「以上が、警察としての公式見解。で、処分云々はあくまで公表すればの話だワン。」

 

公表すれば彼らは皆、褒め称える。が、規則はそれを許さない。

しかしだ、世の中の汚い部分と言えるが、公表せずに隠蔽した場合。

目撃者も最低限で、ヒーロー殺しの火傷の後からエンデヴァーが捕らえたと擁立してしまえる。

もちろん、真実を闇に葬ることになるため、緑谷達の英断と行動も誰にも知られることはない。

 

「一人の人間としては、前途ある若者たちの偉大なる誤ちに、ケチをつけたくないんだワン。」

「ま、どっちにしろ監督不行届で俺らは責任とらないとだしな。」

 

マニュアルはそういって項垂れる。

もちろん、緑谷たちにとって、選択肢は一つだ。

 

「……申し訳、ございませんでした。」

「よし!他人に迷惑がかかる。分かったら二度とするなよ!」

 

近寄り、深く頭を下げる飯田にマニュアルはそう言った。

 

「……す、すみませんでした。」

「宜しく、お願いします。」

 

緑谷と轟も、そう告げて頭を下げる。

 

「大人のズルで、君たちが受けていた賞賛の声が無くなってしまうが……せめて──」

 

面構署長は、深く3人に向けて頭を下げる。

 

「共に平和を守る者として。ありがとう。」

 

思わぬ形で始まった路地裏の戦いはこうして人知れず、終わりを迎えた。

ヒーローたちはここを退室し、病室には4人が残される。

はずだったが。

 

「ああ、香月くん。少しいいワンか?」

「あ、はい。」

 

病室から出て、所長と二人で話す。

病院ということもあってか、気持ち小声だ。

 

「君と戦ったという大男。……ヒーロー殺しとの交戦中に現れ、君をさらって孤立した。あっているワンね?」

「はい。」

 

香月は1日前の事情聴取で言ったことをもう一度言う。

その後、拘束を逃れた後、交戦になるかと思ったが膝をつき、何も言うことなく気を失った、と。

 

「証言通り、あの大男に目立った傷はなかった。……しかし、あの大男には目立った"個性"すら検出されなかった。他から攻撃を受けたり、なにか兆候があったりした、ワケではないんだワンね?」

「はい、それは確かです。」

 

その後も、幾つか質問と応答を繰り返した。

 

「ふむ……ありがとう、時間を取らせたワンね。友達と話しもあるだろう、もう大丈夫だよ。」

「はい、それでは。」

 

そうして話し合いは終えて、香月は3人のいる病室に戻った。

すると、そこには緑谷がいなかった。どうやら電話がかかってきてそれに応答しているらしい。

 

「君の言っていたことは正しかった。……あの時、踏みとどまっていれば……。君の言葉に耳を傾けられなかった。……本当に、すまなかった。」

「や、いいよいいよ。もう昨日謝っただろそれ。」

 

ケラケラと笑いながら、軽く受け流す香月。

すると、ちょうど緑谷が帰ってきた。

 

「緑谷、香月。……飯田、今診察を終わったとこなんだが。」

 

飯田の左手には、後遺症が残ることになった。

それを、本人は静かに告げた。

両腕がボロボロにされたが、特に左手のダメージが大きく、腕神経叢を損傷。

多少の動かし辛さと、痺れが残ることになる。

手術で神経移植すれば十分治る可能性のある状態ではある。

が。

 

「……路地裏でヒーロー殺しを見つけた時、何も考えられなくなった。マニュアルさんにまず伝えるべきだった。……怒りで何も考えられなくなってしまった。」

 

その時言われた、ヒーロー殺しの言葉。

 

目先の憎しみに囚われ私欲を満たそうなどヒーローから最も遠い行いだ──

 

もちろん飯田は、彼を憎んではいる。

だが、それはそれとして、言葉は事実だった。

憎しみに囚われ、ヒーロー殺しを殺してやると。

ヒーローならば、そうではなく、当然ネイティブを助けるべきだったのに。

 

「だから、俺が本物のヒーローになれるまで。……この左手は残そうと思う。」

「自戒か。」

 

ぽつり、と香月はそう呟いた。

緑谷の心には、後悔が少しあった。

職業体験の前。あの時、もっと強く言っていれば、と。

だが、その言葉は、口から出ることはなかった。

飯田は、現実を受け止めて飲み込んだ。

なら、謝罪するというのは失礼にあたると。そう、緑谷は思った。

 

「飯田くん。……僕も同じだ。一緒に強く、なろうね。」

 

戒めを、その手に、2人は強く頷いた。

 

「なんか、悪ィ。」

 

轟はそう呟く。

 

「?なにが……?」

「俺が関わると、手がダメになるみてぇな、感じになってる。……呪いか?」

 

至極真面目な顔で呟き、自分の手を見つめた轟。

 

「ふふ、ははは!!」

「あはは!轟くんも冗談言うんだね!」

「冗談じゃねぇんだ!ハンドクラッシャー的な存在に……!!」

「「ははははは!!ハンドクラッシャー!?」」

「フフッ……いやいや俺は手、無事だぞ?」

「いや、だから次は香月の手が……!」

 

そうして、和やかな雰囲気が病室に流れた。

 

「香月くんは職場体験に戻るの?」

「ん?アァ……そうだな。今日の昼から戻ることになる。」

 

緑谷からの問いに、そう答えた。

 

「……香月。お前、飯田を止めてたのか。」

「轟くん、違うんだ。彼に非はない!」

 

ヒーロー殺しの事件後、ヒーローと合流した時、そして緑谷が帰ってくる直前。

飯田が香月に謝る様子を見て、轟は彼に言った。

飯田は、ハッとした顔で、轟に対して焦る。

共に同じ事務所に行っていたのに、彼を止めなかったのか。そう糾弾するつもりだ、と考えたからだ。

 

「香月くんは、私に言葉をかけてくれたのだ!復讐は何も生まないと、何もいいことがないと!だが、僕は……!!」

「いや、そこはわかってる。なんか、香月にもあったのかと思ってな。」

 

緑谷は気付く。少し前に、香月が家に招待した時だ。

親はもういない、と、事件に巻き込まれたのだ、と。

5年前の(ヴィラン)の研究所襲撃事件の時に。

逆算すればその時の彼は10~11歳。

 

「香月くん……。」

 

複雑な表情で、緑谷は香月を見る。

復讐心に思うことがあったのだとすれば、筋道は通せる。

 

「あー、いや、そんな深刻な顔しなくても……まぁ少しは気持ちは予測できるってだけの話だ。」

 

香月は苦笑した。

 

「んなことはどうでもいいさ。ともかく、みなが無事でよかった。それでいいじゃねぇか。」

 

その後、一言二言会話した後、彼は病院を去った。

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

 

 

 

 

「「だぁーっはははは!!マジか!マジか爆豪!!!」」

「笑うな!クセついちまって洗っても直んねえんだ……!」

 

教室では、髪の毛を8対2に分けていた爆豪が切島と瀬呂に大爆笑されていた。

 

「こ、香月、これ、これ……ブッフフ……!!」

 

瀬呂に話を振られ、香月は至極真面目な顔で、笑わずに見つめ、その後静かに言葉を発した。

 

「イメチェンか。……悪くないと思うぞ……。その……うん……。」

 

すごく気を使った、引きつった笑みで彼は言った。

 

「ブッファ!!」

「おい笑うなブッ殺すぞ!!」

「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハハハ!!」

 

それを起爆剤として2人はさらに大笑い。

 

「ンだとこらァ!!!」

「「戻ったァ!!」」

 

余りの怒りに爆発したかのように髪はいつものつんつん頭に戻った。

各々、職業体験の話で持ち切りだ。

とはいえ、あくまでも職業体験。ヒーロー資格を持たない彼らは基本、避難誘導や後方支援が基本で、あとはトレーニングやパトロール。

(ヴィラン)との交戦があった人は数少ない。

 

「1度隣国からの密航者を捕まえたくらいかしら。」

「「それ凄くない!?」」

 

梅雨に関しては、少し大きな事件に携わったようだが。

 

「お茶子ちゃんはどうだったのかしら。」

「とても……有意義だったよ……!」

 

コォォ、とまるで気を放っているような呼吸をしながら、学んだであろう体術を素振りするお茶子。

 

「……目覚めたのね、お茶子ちゃん。」

「バトルヒーローんとこいってたんだっけ。」

 

その立ち振る舞いや動きのキレ。職業体験で学んだ変化だ。

 

「たった1週間で変化すげぇなぁ……。」

「変化?違うぜ、上鳴ぃ──」

 

そう呟いた上鳴に、峰田は呟く。

 

「女ってのは元々……悪魔のような本性を隠し持ってんのさ……!」

「お前マウントレディのところで何見た!?」

 

爪を噛みながらプルプルと震え、絶望に満ちた表情で呟いた。

 

「まぁ変化というか、いちばん大変だったのはお前ら4人だよな!」

 

飯田、轟、緑谷、香月の4人に、みなの視線が集まる。もちろん、ヒーロー殺しの件だ。

皆、彼にあったが命が無事で帰ってきて何よりだ、と安心していた。

事件の報道を聞いて、各々心配を抱えていたからだ。

エンデヴァーが助けてくれたんだよな、という声が出た。

公式見解ではそうなっている。面構氏のおかげである。

なにも言えず、轟はそうだな、と返事するに留まった。

 

「俺、ニュースでも見たんだけどさ。(ヴィラン)連合とも繋がってたんだろ?」

 

繋がりがあったことに驚きつつ、もしUSJの(ヴィラン)襲撃の際にヒーロー殺しが来ていたらゾッとする、と呟く尾白。

 

「確かに怖ぇけどさ、尾白動画みた?」

 

今、インターネットで上げられては消され、をいたちごっこしているヒーロー殺しの動画。

 

─ 正さねば。誰かが、血に染まらねば。誰かが、ヒーローを、取り戻さねば。来てみろ偽物、俺を殺していいのは本物のヒーロー、オールマイトだけだ。─

 

その主張、そして執念。監視カメラからだろうか、その動画はサイトに上げられ、瞬く間にアクセスが集中。

彼のことを解析したりする動画も数多く。

みなは注目した。

 

「なんかかっこよくね?とか思っちゃわね?」

「上鳴、お前なぁ……。」

「え?あっ、飯……ワリ!」

 

遅れて、失言だと気づいて謝罪する上鳴。

飯田の前でそれは、言ってはいけない発言だと誰もが思った。

 

「いや……いいさ。たしかに、信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのも、わかる。」

 

至極冷静に、飯田は続ける。

 

「ただ、奴は信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ。俺のようなものをもうこれ以上出さぬ為にも!改めてヒーローの道を、俺は歩む!!」

 

ビシ、と気合を入れて手を前にしながらそう言いきった。

乗り越えたんだな、と緑谷は関心の目を向けた。

 

「さァそろそろ始業だ席につきたまえ!!!!」

 

大声でそう締めた飯田。あまりの大きな声に、一部が辟易とした顔をした。

そうして、1週間ぶりの授業が始まった。

座学は変わらず恙無い。

そして、ヒーロー基礎学。

 

 

 

◆運動場γ◆

 

「ハイ私が来た!ってな感じでやっていく訳なんだけどね!久しぶりだな少年少女!元気か!?」

 

オールマイトの声と共にヌルッと入り始まった授業。

今回のヒーロー基礎学は職場体験直後ということで、遊びの要素を含めた救助訓練レースを行うという。

その言葉に飯田はそれならばUSJでいいのでは、と発言した。

しかしそれをそこは災害時の訓練となるから、と返した。

運動場γは複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯を模している。

5~6人4組にわかれ、1組ずつ訓練を行う。

この運動場γのどこかにいるオールマイトが救難信号を出したら街の外から一斉にスタートし、一番最初に彼の元にたどり着いた者。

助けに行けた者が勝者のレースだ。

 

「もちろん、建物の被害は最小限にな!」

─ススススビシッ─

「指さすなよ……。」

 

爆豪へとしっかり指を向けつつそう言った。

強く言えないのか、爆豪は比較的弱く返した。

 

「じゃあ!初めの組は位置について!」

 

そういってオールマイトは位置へと向かっていった。

最初の組は、緑谷、飯田、尾白、瀬呂、芦戸だ。

大きなモニターに、彼らの姿が映る。

飯田はまだ完治していないという情報から、心配の声がちらほら呟かれた。

しかし初めの組から飯田、尾白、瀬呂と"個性"による機動力を持つ者たちが集まった。

また、"個性"を抜きにしてもフィジカルが光る芦戸もまた、機動力があると言えるだろう。

そこで、みなは切島の声を聞いてトップ予想を始めた。

 

「俺、瀬呂が1位!」

「おー。んー……でも尾白もあるぜ?」

「オイラは芦戸!アイツ運動神経すっげェぞ!」

「デクが最下位。」

「怪我のハンデはあっても、飯田くんな気がするな。」

 

みなが思い思いに予想を始める。

ざわざわとする中で、スタート、というオールマイトの声が響く。5人はスタートを切った。

それと同時に、瀬呂は"個性"によって上へと跳び、障害物を無視して先行。

飯田は脚力を活かして地上を疾走。

尾白は尻尾による機動、芦戸は酸を足部に発生させてスケートのように。

序盤は瀬呂が先行していた。

それを、追い抜いたのは緑谷だった。

全身に5%の"個性"を維持しながら、障害物を足場にぴょんぴょんと飛びまわって先頭に出た。

 

「なんか、まるで──」

(俺の動きッ……!)

 

順調に先頭を走る緑谷だったが、途中で足を滑らせ、落下。最後尾へと落ちてしまった。

結局、順位は瀬呂、尾白、飯田、芦戸、緑谷の順になった。

 

「ほらな!やっぱ瀬呂だ!」

 

わいわいと皆で彼らの解析や、結果による話題で盛り上がる。

そんな中、険しい表情をした爆豪に、目を引いた香月。触れることはないが。

 

「さぁ!次の組も準備だ!もちろん、私はまた別の場所から救難を出すからね!」

 

次の組は砂藤、麗日、峰田、香月、蛙吹となった。

先程度同じく、1位予想が始まった。

 

「ん……今回は梅雨ちゃんかな。」

「でもワンチちょいムズくね?」

「確かに……。」

 

わいわいと個々の"個性"使用による機動力談義が始まった。

機動力という点でいえば、蛙吹が目を引くと言えるだろう。

蛙吹は蛙の"個性"で、壁に張り付いたり、跳ねたり出来る脚力。それに加えた身体能力での機動力が光る。

此度は建物が多くある環境ということは跳ねては壁に張り付き、また跳ねる、という、平地よりもさらに高機動になるとも考えられる。

峰田の"個性"であるもぎもぎは自分が当たれば跳ねる。

それを利用すれば高速移動も可能だが、それには事前設置が必要になる。

そこをどうカバーするか、と言ったところか。

麗日は自身の衣服の重力を0にすれば、走力の補助ができるがどこまで身体能力のみで喰らいつけるか。

自身の重力を0にして縦方向の移動を強く出来ればよかったがデメリットがあまりに大きい。

砂藤はパワー型故にスピードに難がある……とは一概に言いきれない。

オールマイトを見ればわかるが、パワーがあるということは走力も強いということ。

速度に特化していないだけでスピードをだせるポテンシャルはある、それをどう活かせるか。

香月は今までをみても確実な評価を出来はしないが、戦闘スタイルを見るに機動力という点を見れば1歩劣るか。

肉体強化がある点は砂藤と同じで、彼よりも出力は低いが体重が軽いという点はそうだろう。

 

「そこ以外だと今回の授業に使えそうなのなくない?」

「武器、毒霧みてぇなやつ、レーザーとか、設置するやつ、ッスーッ……たしかにそうだな。」

「……なんか羅列するだけでも意味わからんけどな……。」

 

その時、スタートの合図が響いた。

予想通りというか、やはり速いのは蛙吹だ。

瞬時に位置を大まかに把握、脚力と跳躍力で1番前を行く。

峰田ももぎもぎを利用して跳ねて追いかけるも、事前設置が必要な点で彼女には1歩遅れている。

麗日は自身の体重を軽減しつつ、駆ける。

砂藤も自身の筋力を強化して駆け、その速度はかなり速い。

香月は。

 

「うわそれ思いつかんかったわ。」

「擬似的な瀬呂みたいかもんか?」

 

自身の"個性"をチェーンのような物に変換し、両手から1つずつ射出。

建物のパイプに巻き付け、勢いよく回収するように短くしたのだろう、彼自身を空中に射出した。

斜め上に射出された彼は建物の上へと出て目標地点を詳細に確認。

その後、そのまま落下しつつ様々な建物の装飾にチェーンを巻き付けては跳んでを繰り返して目標地点を目指していた。

 

「瀬呂ほど巻き取れる訳でもないけど、真似してるって感じか?」

「や、なんか嬉しいわ。強ぇやつに真似されてっとさ!」

 

そのまま皆はゴール。1位は蛙吹、続いて香月、砂藤、峰田、麗日となった。

 

「やっぱ梅雨ちゃんか!」

 

その後もわいわいとした雰囲気のまま、授業は終えた。

皆は更衣室に移動し、久々の訓練の感想を各々呟いていた。

 

「俺は機動力課題だなぁ……。」

「情報収集で補うしかないな。」

「それだと後手に回んだよなぁ。お前とか瀬呂とかが羨ましいぜ……。」

 

などと言う中、峰田は衝撃的なものを発見し、1番近くにいた緑谷に話しかけた。

 

「おい緑谷ぁやべぇことが発覚した!こっちにこい!」

 

手招きされた緑谷はそちらへと目線を向ける。

そこには剥がれそうなプリント、熱中症への注意喚起のそれがあった。

そして、それに隠されていた、ひとつの穴。

 

「見ろよこの穴ショーシャンク、恐らく諸先輩方が頑張ったんだろう。隣の、そうさ!わかるだろ!?女子更衣室だよ!」

 

ビシャァン!と雷に打たれたように大半の男子に電撃が走る。

それを聞いた飯田は即座に彼へと言葉を放つ。

 

「峰田くんやめたまえ!覗きは立派な犯罪行為だ!!」

「うるせェオイラのリトルミネタは既に立派なバンザイ行為なんだよォ!!」

 

バリィ、とその紙を乱暴に剥がして興奮しながらその穴にその目を近づけていく。

 

「八百万のヤオヨロッパイ、芦戸の腰つき、葉隠の浮かぶ下着、麗日のうららかボディに蛙吹の以外おっぱぁぁぁあああ──」

─ドスッ─

 

その瞬間、穴の先から耳郎の"個性"であるプラグが伸びてきて峰田に突き刺さる。

心音を爆音で流され、峰田は叫び声を上げた。

 

「耳郎さんのイヤホンジャック!正確さと不意打ちの凶悪コンボが強み!」

「目が!目がァァァ!!」

 

のたうち回る峰田を、同情的に見ている大半のクラスメイト。

 

「埋めるか。問題の種はないに限る。おーい耳郎、聞いてるよな?八百万に道具出してくれたらこっちからも対応するって伝えてくれ。」

「こういうとこでもちゃっかり好感度稼ぐよな、香月。」

 

そんな1幕もあったとか。その後の、教室へ帰る時。

 

「香月。」

「はい?どうされました、相澤先生。」

「HRのあと職員室に来い。時間都合は?」

「問題ありません。了解です。」

「よし。」

 

短く会話をして、すぐさまお互い普通の行動へと戻った。






彼の"個性"もかなりしっかり決まったし、色々決まったのでまた書き続けたい。
そんな気持ち。
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