僕のヒーローアカデミア ─とある男の物語─(仮)   作:楽園の主

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お久しぶりです。原作シーンをどこまで削るかでのびのび悩んでました。
彼の"個性"の全容は一応、どこで公開するかは決まりました。


第36話 ─期末テスト─

 

「そろそろ夏休みも近いが……もちろん君らが1ヶ月休める道理はない。夏休み、林間合宿やるぞ。」

 

相澤先生のその言葉に、クラスの大半が立ち上がり、テンションを上げてはしゃぐ。

 

「肝試そー!」

「風呂!」

「花火!」

「行水!」

「カレーだな。」

「湯・浴・み!」

 

各々の反応を返しているが、楽しみにしていることには変わらない模様。

わいのわいのと騒ぎ立てる中、相澤の一言で皆は一斉に口をとざす。

 

「但し!!……その前の期末テストで合格点に満たなかったものたちは……補習地獄だ。」

「みんなァ!頑張ろうぜ!!」

「お前ら、期末テストの勉強はしっかりしてるんだろうな。」

 

相澤はみなにそう語り掛ける。

期末までは1週間をすでに切っており、さらに中間とは違い、実技のテストもある。

頭と体を同時に鍛える必要がある。

注意勧告をした後、相澤は教室の外へ。

 

「「全く勉強してなぁーい!!!」」

上鳴電気 中間20位

芦戸三奈 中間21位

 

上鳴と芦戸が方や深刻そうに、方や楽観的にそう言った。

体育祭や職場体験などで勉強をおざなりにしていた者はたくさんいた。

中間テストに関しては入学直後ということもあり、範囲もさほどではなかった。

しかし期末となれば範囲が広まる、そして──

 

「演習試験もあるのが辛いところだよなぁ。」

峰田実 中間9位

「「中間9位!?」」

「あんたは同族だと思ってたのにー!!」

「お前みたいなのはバカで初めて需要があるんだろ……!どこに需要があんだよ……!」

「世界、かな。」

 

腹の立つ表情で峰田はそう呟いた。

 

「芦戸さん上鳴くん!が、がんばろうよ!やっぱみんなで林間合宿行きたいもん!ね!」

緑谷 出久4位

「うむ!俺もクラス委員長として皆の奮起を期待している!」

飯田 天哉 2位

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ。」

轟 焦凍 5位

 

明るくそう語り掛ける3人。

 

「言葉には気をつけろぉ……!」

 

当然のような高順位に胸を押えながら上鳴は床へと膝をついた。

 

「お二人共、座学ならば私、お力添え出来るかも知れません!」

八百万 百 1位

「「ヤオモモ!」」

「演習の方はからっきしでしょうけど……。」

 

どんよりとしながらそう続ける。

 

「ウチもいいかな?二次関数、ちょっと応用躓いてて……。」

耳郎 響香 7位

「悪ぃ、俺も!八百万、古文わかる?」

瀬呂 範太 18位

「俺も、いいかな?いくつか、分からないところがあってさ……。」

尾白 猿尾 8位

 

そんな彼女にみなが集まる。演習へと自信のなさか、沈んだ気持ちだったが、頼られた嬉しさからか瞳を輝かせ、勢いよく立ち上がる。

 

「いいですとも!では、週末にでも私の家でお勉強会でも催しましょう!そうなるのでしたら先ずお母様に連絡して講堂を開けてもらわないと!」

((講堂……?))

「皆さん!お紅茶はどこかご贔屓ありまして!?」

((お紅茶……?))

「我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!もちろん!勉強のこともお任せ下さい!お力になってみせますわ!」

 

自然な流れで産まれ育ちの違いを叩きつけられた一同だったが、嬉しそうに話をする彼女がとても可愛らしく、嫌味に聞こえないからか許してしまう。

 

「!香月さん!先日お紅茶についてお話致しましわよね?宜しければどうです!?」

「……ん?あ、いいのか?それならお邪魔しようかな。」

香月 玲 11位

 

自分に話が来ると思っていなかった彼は少し遅れて反応を返す。

 

「香月意外と順位普通なんだな。」

「あーまぁな。勉強はそんなもんよ。」

「あ、そだ昼学食に飯行かね?」

「すまないが昼は別件で用があんだ。今日は遠慮しとくよ。」

「あーそう?了解。」

 

そんな話で、休み時間を終えた。

その後、無事午前を終えて昼休みに。

香月が用を終えて教室に戻ってきた頃にはみなも教室に戻っており、どうやら去年の期末試験の実技試験は入試の時のようなロボットを相手にした演習だと聞いた。

それなら手加減の必要も調整の必要も無いと上鳴と芦戸が楽観していた。

何故か爆豪は強い言葉で緑谷につっかかっていたのも印象に残る。

微妙な空気が流れる中、全く気にせず彼は聞いた。

 

「そういえば勉強会って日曜だよな。何時からだ?」

「あ、ああそうだよな。予定的には──」

 

尾白に予定を聞いて、その日は皆と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みなが合流し、八百万宅へ。どんな家だろうか、などという会話とともに指定された場所へ。

そこには巨大な門と、インターホンが。

左右見渡しても、柵の端が見えない。かなりの敷地面積だ。

 

「セレブだと、思ってたけど……まさかこれ程とは……。」

 

惚けている皆を放っておいて香月はインターホンを押す。

 

《皆様お待ちしておりましたわ!どうぞ中へ!》

 

そんな声とともに、巨大な門が大きな音を立てて開いていく。

中へはいると使用人らしき人に連れられ、講堂へ。

何人座れるのか、と思えるほど大きな机に座り、勉強道具を机へ並べる。

 

「な、なんか場違い過ぎて緊張してきた……。」

「お、俺も……。」

 

尾白と瀬呂がそう会話しながら、そわそわと周りを見渡す。

どこを見ても、豪華の一言につきる。

 

「こ、香月はよく落ち着いてられるな……?」

「ん?ああ、まぁすげぇなぁとは思うぜ。」

「どんな時でもマイペース極まれりだな……。」

 

ケラケラと笑う彼に感心していると、扉を開いて八百万がまたオシャレで高価に見えるカップとポットとともに現れた。

嬉しそうに出てきた彼女に和まされ、皆は勉強モードに切り替わる。

 

「やっぱ美味いな……俺が買ってるのとは訳が違う。」

「お気に召したようでなによりですわ!こちらは──」

 

と、八百万と紅茶談義を始めてしまう2人。

 

「勉強は!?!?」

「ん?いや俺わかんねぇとこは別に無いし。」

「じゃなんで来たんだ!?」

「紅茶飲みに来たというかなんというか……。」

「意味ないだろ勉強会のォ!あ、香月数学の集合とかわかる?」

「ん、いいぞ。」

 

みなが宿題や勉強をする中、八百万が皆の分からないところを教え、時々それを香月が噛み砕いて分かりやすいように伝えたりして、勉強は続いていった。

そして90分ほど経った頃に、一旦休憩を挟むことに。

 

「ふぅー……にしても香月は結構分かってんだな。」

「でも順位は平均だったんだよね?なんかおかしくない?」

「ああ、えーと……平均取れたらいいと思ってたからさ。」

「そなん?」

「あー難問とかテスト対策とかはしてなかった感じね。」

「羨ましいぜ、それで大丈夫だってのがさー。」

 

少しの雑談を挟んだのち、再び講堂の中にはカリカリと紙の上にシャープペンシルの走る音が響く。

時折、集中が保てないらしい上鳴は斜め上をぼーっと見つめていた。

そんな時、ボソッと香月が補習地獄……と呟くと苦々しい顔をした後に再びノートに向き直る。

しばらく経った後に、また分からない点をわかる人に聞いたりと時間が過ぎていく。

そんな中にはふと、雑談が混じることもある。

 

「難しく考えすぎだって上鳴。数学とか公式覚えりゃ後は慣れだ。」

「や、まぁそうなんだけどさ……。んー……そういや香月ってさ、習い事とかいってたり、戦い方を教えてくれた人っていたりすんの?」

 

今一度、問題から離れて教科書の公式を探しつつ、ふと上鳴が香月に聞いた。

その声に、皆の手が止まる。しばらく手を動かしていた者も、キリのいい所まで書いたのだろう、少ししたら手を止めて目線を香月に向けていた。

クラスの中でも上位の戦闘技術を持つ者の秘訣にも迫る情報だ、みな気になるらしい。

瀬呂が確かに、と頷く。

 

「明らかに武術みたいな動きしてる時あるしな。」

「あー……習い事はしてないし、師と呼べる人も居ない、けど……まぁ、"個性"の使い方と付き合い方を教えてくれて、大きな借りがある人はいるよ。」

「マジ?」

「もう暫く会ってないけどな。戦い方とかも、その人を参考にしてるってところはある。」

 

会話に参加していない他の人も、へぇ、と口にした。

 

「さぞかし強いんだろうなぁ。」

「まぁ当時とはいえ、俺が本気でかかっても一撃も当てられなかったし、強い存在だと思う。」

「えっぐいな……。」

「んー俺の話はいいじゃあないか。勉強しようぜ。」

 

彼についての話はそれっきりで、再び勉強会へと戻って行った。

 

 

そして、試験当日。

 

 

3日をかけて、筆記試験を行うことになる。

香月は涼しい顔で答案に筆を走らせる。

上鳴や芦戸は様々な顔へと変化させながら何とか答えを答案用紙に記入していたようだ。

全試験終了後、なんとか全て埋めた、と上鳴本人が八百万に感謝をしていた。

そして、演習試験の日がやってきた。

 

 

 

◆実技試験会場中央広場◆

 

「それじゃ、演習試験を始めて行く。林間合宿行きたきゃみっともないヘマはするなよ。」

 

開口一番、相澤から激励が飛んでくる。

ふと、耳郎が気づく。やけに先生方が多くいらっしゃる、と。

 

「事前に情報を手に入れ、薄々何するかは分かっているとは思うが───」

「入試みたいなロボ無双だろ!?」

「花火ー!カレー!」

 

と、上鳴と芦戸は余裕だ、と言わんばかりにテンションを上げている。

彼らの"個性"上、対人で戦うよりは制御の必要がない分、そちらの方がやりやすいからと言うのもあるだろう。

しかし、それはひとつの声に遮られた。

 

「残念!諸事情があって、今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

相澤の首元の捕縛布の中から根津校長が現れ、声高々にそう宣言した。

校長先生が現れたことに、みなは驚いて声を上げる。

これからは対人戦闘、活動を見すえた、より実践に近しいことを重視する、と彼は語る。

 

「というわけで、諸君ら生徒にはこれから、2人1組でここにいる先生と戦闘を行ってもらう!」

 

既に相手となる先生と、生徒の組み合わせは決定している。

動きの傾向や得意不得意、親密度やもろもろによって独断で組み分けられている。

そこで、またひとつ問題が出てくる。

 

「しかし先生!A組は奇数!1人溢れてしまいます!」

 

飯田が手を真っ直ぐに上げ、率先してそう発言する。

 

「その件に関しては……。おい。」

「はーい。」

 

つかつかと生徒の中から香月は歩き、先生の方へと向かう。

 

「香月は"こっち"になる。」

「ぴすぴーす。皆の試験官香月さんですぞ〜。」

 

途端、生徒の大半から驚愕の声が上がる。

それにピースサインを両手で作ってみなにアピールしつつニッコリとした。

 

「……お前にとっても試験だぞ、緊張感を持て。」

「あ、はい。了解っす。」

 

すっ、と笑顔を消して真顔になった。

そのあと、チームと相手の発表に入った。

轟、八百万チームは相澤先生との試験。

緑谷と爆豪がチームで、相手は──

 

「私が──する。」

 

オールマイト、だった。

その後も、対戦の順番とペア、そして相手を発表していった。

 

1戦目 砂藤、切島VSセメントス

2戦目 蛙吹、常闇VSエクトプラズム

3戦目 飯田、尾白VSパワーローダー

4戦目 轟、八百万VSイレイザーヘッド

5戦目 麗日、青山VS13号

6戦目 芦戸、上鳴VS香月

7戦目 口田、耳郎VSプレゼントマイク

8戦目 葉隠、障子VSスナイプ

9戦目 峰田、瀬呂VSミッドナイト

10戦目 緑谷、爆豪VSオールマイト

 

根津校長の紹介とともに、ピースサインをし、緊張感のない笑顔で2人の前に香月は立った。

 

「って、マジで!?」

「私らだけ先生じゃないの!?」

 

驚きながらも、半分安堵する芦戸と上鳴。

なんせ、相手はプロヒーローである先生ではなく、香月だ。

いくら強いとはいえ、プロヒーローを相手にするよりは、クラスメイト故に緊張も薄い。

1部のほかのクラスメイトからも、ずるい、という声が上がっている。

出来レースでは、という言葉も上がる。

しかし、先程相澤が注意した通りこれは香月にとっても試験だ。

生半可な展開にはならないし、させないと彼は言った。

 

「というわけで、よろしくな2人とも。」

「おう!いくらクラスメイトとはいえ俺達も手を抜かないからな!」

「覚悟してもらうよー!玲ちゃん!」

「あいよ、よろしくな。」

 

未だここに緊張感はない。さて、試合が始まればはそういう雰囲気になるんだろうか。

その様を見て一部は羨ましい、と呟く。

 

「ああ、そうだ2人とも。」

 

いつものように、ふと、と言ったほどの声色で追加で話しかけた。

 

「俺はお前らを半殺しにするつもりで行くからな。」

 

先程までの笑顔のままそう伝えられた。ゾ、と冷たいものが2人の背筋を撫でる。

そのまま香月は離れていった。

 

「……ほ、本気か?」

「本気だと思うよ。玲ちゃんだって生徒、この試験はきっと玲ちゃんにとっても試験なんだよ。」

「……そうだよな。」

 

上鳴は、気は進まないが覚悟を決めた顔になった。

この試験の都合上、きっと突破することは試験合格の1部なのだろう。

ではきっと、目の前の香月の条件の1つは、2人をクリアさせないことだ、と予測できる。

 

「でも……そう考えるとやりにくいよねー。」

「や、気持ちはわかっけどそんなことを考える余裕がある相手じゃないぜ。なんせ、本気出してくるって本人が言ってんだからな。」

 

2人は覚悟を持った顔をした。

もしかしたら、本当に本気が見れるのかもしれない。

爆豪はその相手が自分ではないことに苛立ちを覚えながらも、期待を寄せた。

なお、彼ら以外の戦闘ではプロヒーローと対面する、ということで古典的ではあるが先生側は重りで体重の約半分を装着することになる。

ハンデというものだ。機動力は落ち、体力も削られる。

デザインは発目明のものが採用されてるとか。

 

「……戦闘を視野に入れさせるためか。ナメてんな……。」

「HAHAHA!──どうかな。」

 

まずは一戦目が開始準備に入る。

出番がまだのものは作戦会議するなり、モニターで見学するなりと各々任せられた。

皆はバディとともに、お互いのできることを確認しあったりしている。

やはり試験ともあれば、万全の用意をしたいもの。

そんな中、観戦を選んだふたりは緑谷と麗日。

バディ相手的に、対話が困難とし、なれば他の戦闘を見ていた方がいいだろうと考えてのことだ。

そんな時。

 

「2人も観戦か。私もよろしいかな?」

「香月くん。君も?」

「ん?ああ。あの二人対面ならもうやること決まってるしな。暇だし、ここ来た。」

「落ち着いてるなぁ、玲ちゃん。」

「なるようにしかならんよ、なら楽しんだ方が得さ。」

 

笑いながら、彼はそう答えた。

 

「玲ちゃん、本気で行くん?」

「んーまぁ……相澤先生に言われちまったからな。」

 

たはは、とバツが悪そうに彼は笑った。

相澤先生は、香月が本気を出していないことを指摘したのだ。

彼は香月の"個性"の全貌を知るわけではないが、それでも楽しむことに重点を起きすぎていることを注意。

リスクを鑑みて全力を出さないとするならそれには理解を示すが、それならそれで、できるうる限りの本気を出せ、と。

 

「ま、やれることはやるさ。あくまで試験として、な。」

 

ケラケラと笑って彼はそう続けた。

 

「んなことよりほら、もうすぐ始まるぞ。」

 

第1戦。砂藤、切島VSセメントス。

 

「この試験さ……。」

 

大通りを走りながら、彼らは会話する。

 

「逃げるより、捕まえた方が当然点数高くなるよな?」

「と、思うぜ。」

 

そんな会話を中断するように、地面からコンクリートの壁がせり出した。

前方遠く、地に手をつけるセメントス。

 

「セメントス先生は動きが鈍い……正面突破で高得点狙おうぜ!!」

「おうよぉ!!」

 

硬化しながら発破をかける。受けた砂藤は糖分を補給し、"個性"シュガードープを発動。

もちろんセメントスは相手ふたりの性格を理解してるため、予想通りと言ったところ。

無数のコンクリートの壁で相対した。

2人はパワーでコンクリートの壁を破壊しながら進む。

 

 

「このままじゃ、ダメだ。」

「え?」

 

モニタールームにて、緑谷は呟く。2人を応援する麗日はそれに振り向く。

 

「持久力の差だな、ステージも悪い。」

「うん……。2人の"個性"は確かに強力だけど、時間に制限がある。」

 

対するセメントスにはそれがない。

このまま長期戦になれば2人は消耗してしまい、不利になるだけだ。

 

「この実技試験は、試験を受ける生徒の天敵となる先生を意図的にぶつけてる。」

 

以前を形を変え、そのポイントを如何に突破するか。

それがこの試験の鍵だ。それを肯定するリカバリーガール。

今日は激務になりそうだ、とまた呟いた。

 

 

「だぁぁ!!キリがねぇ!いくらやっても──」

 

コンクリートは多量にある。破壊しようとも、落ちていればまた操れる。

そもそも、現代社会において基本となる建物や道路全てを操れるのだ、消耗の言葉はないに等しい。

砂藤も糖分が切れて既に行動不能。

そのままコンクリートで押し流して戦闘終了。

 

「消耗戦に極端に弱い……。いいかい、戦闘ってのは如何に自分の得意を押し付けるかだよ。」

 

切島、砂藤ペア。気絶によりリタイア。

 

「嘘……ここまで一方的に……?」

「"個性"の相性が悪すぎたんだ。」

 

この試験は難易度が桁違いだと言えるだろう。

 

(それに、僕とかっちゃんの相手は──)

 

オールマイトの姿が脳裏に映る。

そんな緑谷をそこに、蛙吹と常闇の試合が始まる。

第2実技試験場で、対面はエクトプラズム先生だ。

開始直後、白いモヤが発生、それが形を成してエクトプラズム先生へと化した。

 

「決めるんだ、決意と、覚悟を。」

 

先生たちは試験とは言えど、生徒たちを叩き潰すつもりでここにいる。

見事打ち破って見せなければ、合格はない。

多数のエクトプラズムが2人を襲う。

 

「投げろ!黒影(ダークシャドウ)!!」

 

周囲から襲いかかって来る前に"個性"で蛙吹を投げ、遠くの壁に張り付いてから舌を伸ばして常闇を回収、その場を脱した。

二人でしかできない芸当だろう、即座に動いたことから事前に立てていた作戦と見える。

コミュニケーション能力。

それは現代社会だけではなく、ヒーロー社会でも重視される。

何か一つに秀でることよりも、特定の人間と抜群の相性を持つよりも、対応能力が高く、誰とでも連携が取れる、と言った方が求められる。

治療が終わったのだろう、リカバリーガールがそういいながら現れた。

 

「あの、今回テストと言いつつも、意図的に各々の課題をぶつけてるんですよね?」

 

エクトプラズム先生が蛙吹と常闇の弱点になり得るのか?という問いを緑谷は投げかけた。

 

「見てりゃわかる。すぐにな。」

 

エクトプラズム、"個性"エクトプラズム。

口から出す白いモヤのエクトプラズムで任意の場所に自分の分身を出す。一度に30人ほど出せる。調子によっては2割ほど増えるとか。

2人はそれを打倒しながら進む、が、突然後ろに現れたエクトプラズム先生に、常闇が攻撃されそうになった。

それを蛙吹が舌で迎撃、その後別の場所から常闇を引っ張りあげてまたポジションを変えた。

常闇の強み、それは攻撃射程範囲と、間合いによらせない素早い攻撃。

裏を返せば、もしそれを掻い潜れば脆いということに近い。

"個性"の強さ故の弱点だ。エクトプラズム先生の"個性"は、そこを明確に突ける。

反面、蛙吹に弱点らしい弱点はない。

で、あるならば強力な味方の弱点を補うサポートができるかどうか。

そこを基準にしているのだという。

あの子の冷静さは人々の精神的支柱となる存在だ、とリカバリーガールは評価した。

その話を聞いて、緑谷はUSJでの出来事を思い出す。

 

(思えば、蛙吹さんがいてくれたお陰で随分助けられた……。)

 

2人を心の中で応援する緑谷、試験は続く。

28体を倒したところで、脱出ゲートと本体を発見。

さてどう攻めるか、と言ったところで、エクトプラズム先生が攻勢に出た。

大量のエクトプラズムをまとめて巨大な自分を生成。

そのまま2人を飲み込むように噛み付いた。

 

─強制収容 ジャイアントバイツ─

 

そのまま四肢を拘束され、2人は動けなくなる。

黒影だけでも通過させようとしたがエクトプラズム先生にそれを阻む。

そこで、蛙吹が一手を伝える。

蛙吹はカエルが出来ることなら大体できる。

捕まった時、使えなくなることを避けるために捕縛アイテムを飲み込んでいたのだ。

それを吐き出し、エクトプラズム先生にバレないよう黒影に持たせた。

そして、次の突撃でカフスを付け、戦闘終了。

 

「なるほど。」

 

蛙吹、常闇チーム、条件達成につきクリア。

そして次の試合、飯田、尾白VSパワーローダー先生。

障害物なし、地面は土。パワーローダー先生は周囲を掘り進め、穴だらけにして地面を脆くさせていた。

2人の"個性"、及び戦闘スタイルは地面が必要だ。

足元を崩されているのは、非常に辛い。

だが飯田は尾白を、背に走り出す。

スピードを上げ、踏みしめた地面が崩れるより先に走るという戦法を取った。

だがそれをみすみすと見逃すパワーローダー先生ではない。

足場を破壊し、ゴールまでの道を断つ。

それに対し飯田は跳躍、尾白の尻尾を足に巻き付けさせ、レシプロエクステンドで空中回転して勢いをつけつつゴールに向けて尾白を投げた。

 

「なんのォ!」

 

パワーローダー先生は地面から飛び出して尾白を狙う。

尾白は空中で身を翻し、尻尾を叩きつけて飛び越え、そのままゲートを通過した。

時間をかけなかったことと味方を逃がした上で自分への被害も少ない事で、合格点を貰っていた。

次の試合。轟、八百万VSイレイザーヘッド先生。

双方、"個性"が強力なだけに封印されるというのはかなりの痛手。

また、イレイザーヘッドは奇襲戦法を得意とするため、それも含めて強烈な相手だ。

 

第4演習場。

 

「俺らの番だ。いこう。……八百万?」

「ッ!」

「緊張してんのか?」

「い、いえ。」

「相手が相手だからな。だが、少し考えがある。」

 

即決で、轟は策を立てた。

走りながら、八百万に小物を作り続けることを指示した。

相澤先生ことイレイザーヘッドの"個性"は抹消、見た相手の"個性"の使用を封印する。

小物が作れなかった時が、近くにいて補足されている証拠。

轟は言う、この試験はどちらが先に見つけるかだ、と。

イレイザーヘッドに見つかれば言わずもがな、ただ自分たちが早く見つけた場合は範囲氷結もあり、引き付けているうちに八百万が脱出ゲートに向かえば勝負を決めれるだろうと見ているようだ。

 

「……。」

「?どうした、早く何か作ってくれ。」

「……え、えぇ。分かりました。」

 

その言葉通り、小物としてマトリョーシカを作り始める八百万。

轟も氷結を肌に発生させて警戒する。

 

「さすが、ですわね。轟さん。」

「なにが。」

「相澤先生への対策をすぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決出来るその、判断力です。」

「……普通だろ。」

「普通、ですか……。」

 

そう言って、八百万の動きが止まる。

雄英高校の推薦入学者。二人はそこで共通している。

スタートは同じはずなのに、ヒーローとしての実技において自分は特筆すべきことを何も残せていない、と彼女は語る。

騎馬戦では記録としては残っているが、状況を考えれば指揮下に入っていただけ。

本戦では常闇に敗北、為す術がなかった。

そこまで話して、2人は気づく。

"個性"が、発動できない、と。来てる、と考えて周囲を確認する。

 

「そう思ったならすぐ行動に移せ!」

 

上にある電線、それに捕縛布を引っ掛け、まるで蜘蛛男のように上から現れた。

轟はその瞬間、迎撃を選択。しかし相澤先生はそれは悪手だと言った。

先手を取られているのだから回避を優先すべきだ、と。

狼狽える八百万に轟は先を行けと指示。

それなら好都合だ、と轟を瞬時に捕縛。宙吊りにした。

ご丁寧に、拘束解除を考えて足元にまきびしをばらまいて。

 

「随分と負担の偏った策じゃないか。女の子を慮るのは立派だが、もう少し話し合っても良かったんじゃないか?」

 

そう言いながら目薬を指し、彼は八百万を追った。

混乱する思考を続けながらも、何とか走る八百万、そこに追いついた相澤。

1度捕縛布で手元を拘束するが、"個性"を封印していないところを創造で脱出される。

その後逆走する八百万。

 

(逆走……判断を委ねに行ったか。)

 

轟と自分を比べ、彼を格上だと決定付けてしまっている。

良くも悪くも迷いがない轟を見続けて、自信をもてなくなっているのだ。

相澤はその場での追撃を敢えて止め、彼女を追った。

一人残されていた轟はこの時、思った。

確かに、八百万は何か言いたげたった、と。

考えを巡らせていると、八百万がそこに現れた。

謝る言葉も耳には届いたが、その後ろには相澤先生が。

八百万は判断を迷う。轟を助けるか、逃げるか。

自信の喪失が、それを鈍らせる。

 

「八百万!何かあるんだよな!?」

 

なにかあるかと、これで良いかと、聞くべきだった、と彼は謝罪した。

しかし轟の策が通じなかったのに、私の策など、と悲観する彼女。

轟は、言葉を続ける。

自分の策は通じなかったが、そういう策に関しては八百万の方が長けてると、そう考えていると。

学級委員長を決める時、八百万は2票だった。

それを入れたのは轟だ。

そういうことに長けた奴だと思ったからだ。

強く言葉を投げかけられる。

その時、轟の言葉と共に思い出した。

香月から聞いた、"何が出来るか"、"どうありたいか"。

 

「済んだ?」

 

そう言いながら、相澤先生が接近。

 

「轟さん、目を閉じて!」

 

そう言いながらマトリョーシカを上へと、相澤先生へと投げる。

なんだこれは、と自分に当たりそうなものを手で弾くと、中には閃光手榴弾、スタングレネードが入っていた。

閃光が辺りを支配する。

その隙に轟を助け、対峙する。USJの事件以降、相澤先生の目は不安定になっている。

その隙を着いて彼らは逃げる。そして、相澤先生の"個性"が切れた瞬間を狙い、八百万の指示により轟は大氷壁を放った。

これにより強制的に視界は分断、"個性"が使える。

八百万は自身の"個性"により捕縛するアイテムを創造した。

相澤先生の捕縛布に酷似したものだ、が、そのものの製造工程が分からないため、八百万のオリジナルのものになる。

今回の策に対応したものだ。その策を、話し合う。

 

「勝負は一瞬、よろしいですか。」

「ああ、文句無しだ。」

 

2人を大きな布で隠した状態で相澤先生の前へと現れた。

確かに見られなければ"個性"は使えるが、デメリットの方が大きいだろう、と思いながら捕縛布を2人の首元へ掛け、一気に引っ張る。

2人の頭が当たる、と思いきや片方はマネキンだった。

八百万は体勢を下げており、先程生成した捕縛アイテムをカタパルトで射出、するつもりだった。

 

─スカッ─

「ッ!!」

 

1度、空振った。が、相澤先生はそれを見て、八百万への攻撃ではなく、"個性"を封印できていない轟を警戒して飛び下がった。

八百万は今度こそカタパルトを使って捕縛アイテムを射出。

相澤先生の周囲に長い、長い布は舞う。

その後、地を這う炎熱を轟に指示。

ニチノール合金。それが捕縛アイテムに使った物質の名。

加熱により元の形状へと戻る形状記憶合金だ。

瞬時に収縮したそれにより、相澤先生は捕縛された。

 

轟、八百万チーム。条件達成によりつきクリア。

 

 

「……さてと、行くかな。お茶子ちゃん、応援してるぜ。」

「うん!玲ちゃんもね!」

 

2人はモニター室から出た。

別の会場へと向かうため、早々に2人は道を別れることとなる。

 

「ふー……。」

 

歩きながらもす、と眉間に親指を当て、1つ息をついた。

芦戸と上鳴は既に会場にいるのだろうか、それとも待機室などで作戦会議をしているのだろうか。会うことは無い。

会場に到着し、マップを確認。

中央付近の高い建物へと向かった。時間はまだある、内部に入って、そのまま上へと向かう。

さらにマップを細部まで確認しつつ、しばらくエレベーターに乗っていると上層階へと着いた。

そこから少し階段をのぼり、屋上へ。強く風が彼の体を撫でる。

 

「……。」

 

彼はそこで、ただ開始の合図を待っていた。

 

 

場面は代わり、2人は。

 

 

「今まで見た情報だと、まずトラップだよな。」

「離れた位置からも攻撃できるし、戦闘になるなら接近して──」

 

開始まで、彼の情報を整理して話し合う。

全力でぶつからないと勝てないかもしれない相手だ、と二人は認識している。

一応の対処策を話し合ったが、不安を残したまま開始のブザーは響いた。

 

「よし!とりあえずは脱出目指しだよな。」

 

2人は対処策を立てはしたが、正面戦闘をするよりは脱出をめざした方がいいと言う結論になった。

もちろん負けるつもりはないが、それでも正面戦闘での香月は強い。

さらに瘴気で視界を妨害した上での戦闘になると方向感覚も狂う。

こと足止めに着目すれば香月は凶悪な性能を誇ると2人は考えた。

ならば、戦闘になるならばなるべく脱出口に近い場所。

そこで戦い、片方だけでも脱出する、という方が勝率が高いのでは、ということだ。

周囲を警戒しながら走っていると、そこには機雷が浮いていた。

曲がり角を曲がれば、大量の機雷が空間を支配。

 

「これ体育祭ん時のやつか。」

「どこからこれ設置してるのかな?」

「わかんねぇ、ともかく避けるしかないだろ。」

 

体育祭本戦準決勝。その時に爆豪に対して使った、機雷のような技。

あの時よりずっと広範囲だ。が、数はさほどでもなさそうだ。

しかし、周囲を見渡しても彼の姿はない。

当たればダメージがあるだけでなく、もしかしたら音などで感知してこちらを襲ってくるかもしれない。

なるべく当たらないように、そして細い道を使って脱出口をめざす。

もちろん速度は遅くなるが、隠密のためだ、仕方ない。

 

「げ。」

 

機雷の密度が高く、床にも何らかのマークが見える。

さらに機雷は増え続けているし、建物の上から青色の球体がゆっくりと姿を見せ、2人を追い始めた。

その道を諦め、1度引いて別の道を探し始めた。

また別の道も同じように封鎖されているに近い状況。

再び別の道へ。その時。

 

─カンッ……ボンッ─

「うおっ!」

 

次に行こうとした道に何かが空から降ってきた。

それは破裂し、その周囲に瘴気を発生させた。

以前言っていた、瘴気を処理した時に出来たものを使ったのだろう。

 

「近くにいるかも!」

「ああ、って、うおぉ!?」

 

そうこう話しているうちに青い球体は彼らに追いついていた。

振り返れば目の前にそれ。

寸前に気付き、何とか回避するも回避先に機雷。

一つが破裂し、よろめいた先にまた機雷。いくつかが誘爆して上鳴はダメージを受けた。

 

「上鳴!!」

「大、丈夫!そんな痛くねぇ!!」

 

ジリ、と肌を焼かれる感覚があるも見た目ほどの威力ではないらしく、即座に立て直した。

 

「当たって爆発するなら!」

 

芦戸は酸を手に纏い、向かってくる蒼色の球に投げる。

それの1つに当たると、ボッ、と光ったあと爆発を起こした。

それに誘爆して機雷がいくつか破裂する。

 

「やっぱり!」

「なるほどな!これならいける!」

 

機雷の誘爆により動ける空間が広がりそこを走る。

 

「処理できるなら、処理して通るのもありかも!」

「だな!時間も余裕あるわけじゃねぇし!」

 

走っているとまたいつの間にか青い球体のそれが後ろを2つ、追いかけてきていた。

ふたたび処理しようと、振り返って足を踏みしめた。

その芦戸の足元から背中側へ、大量の灰色の球が発生、全てが爆発して芦戸を後方へ、吹き飛ばした。

振り返って背中側、ということは来た道の方へと吹き飛ばされるということ。

つまり、青い球体に向かう。2つは爆発し、芦戸にダメージを与える。

 

「大丈夫か!?」

「平気!まだ全然!」

 

後ろにいた上鳴が心配するのも束の間、上鳴の方へは真上から多数のレーザーが降り注ぐ。

 

「あっぶねぇ!」

「上鳴こっち!」

 

芦戸は建物の壁を溶かし、中へと彼を誘導した。

空から降ってきたレーザー、青い球体も上から発生して追いかけてきていた。

つまりは、屋外にいてはさらなる攻撃に晒される可能性があるということ。

いずれは外に出る必要はあるが、それでも建物を経由することで被弾を下げる選択をした。

蒼色の球は未だ追い続けていたが、速度が速くない上に相殺できるため、2人に少しの余裕が出来る。

 

「まじ危ねぇな……アイツもどこにいんだか分かんねぇし!あ、脱出どっちだっけ!?」

「多分あっち!」

 

2人は建物の壁をとかして別の場所から脱出。工業地帯の脇道を走る。

道中空からや地面からぬっと機雷が現れて設置されていく。

はっと空を見ればレーザーが降り注ぎ、ゆっくりと追いかけてくる青色の球体。

道の真ん中には赤い球体、さらに紋様のようなものが空中に設置されていてそこから弾が発射される。

息を整えていると地面から噴出するレーザー。

息付く暇もなく、設置物が襲いかかる。

進みも遅くなる上に道を戻ることもある。

総計して見れば少しづつは進んでいるが、時間は無情にも過ぎていく。

 

 

 

 

───

 

 

 

「とんでもない量だ……。香月くんは何処に?」

 

端の方のモニターを見ると、会場の中央にある高いビルの上が移されておりそこに彼はいた。

そこで無数のトラップを作り出し、広範囲に設置し、少し考えたあと再び作り出して設置、というのを続けていた。

 

「無限かよ……。」

「いや、"個性"だから制限、もしくは限界はあるはずだけど……。」

 

それだとしても凄まじい量だ。

大量に作り出しては設置し、ばら撒き、目を閉じながら少し考えたあと別の場所へと移動してまたばら撒き、と2人を追い詰めていく。

ある程度空間を埋めるように機雷のようなそれを設置し終えたかと思えば、今度は溜め込んだ瘴気を、大きく息を吐くように発生させて建物の上から地表へ。

再び目を閉じて少し考えた後、空へと気弾のようなものを発射、放物線を描いて地表へと降り注ぐ。

さらにレーザーを複数発射、急角度で気弾のようなものを追う。

別のカメラにはそれらに襲われる2人の姿が。

 

「というか見えてないのに補足してるっぽくね?」

「消えたトラップを補足してるって線は?」

「確かにそれなら擬似的に補足できるな……。」

 

例え2人を補足出来なかったとしても、自分が設置したトラップが消えたことが分かれば、そこに何かがいることは分かるため、間接的に位置を特定出来る、という考えだ。

試験を終えてモニターを見つめるクラスメイトも、うーむと唸りながら考察を交え合う。

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「そこか。」

 

減った機雷を追加しながら、2人の居る位置を把握、追加の攻撃を加える。

 

「……試験、試験か。じゃあそうだな……。」

 

うーむと考えた後、トラップの配置を考えながら周囲を見渡す。

 

「2箇所だな。」

 

すっと、ふたつの道を見据えてそう呟く。わざと道を空けておくつもりらしい。

 

「いや、ふむ……。」

 

試験、というならそれは解法や筋道を解き明かせば正解や合格に繋がるもの。

故にこそ法則の元に道を空け、トラップをくぐりぬけることが出来るといった方式にしようかと考えた。

しかし、それは2人を低く見ていることになるのではないか。そして、手抜き、手加減に見えないだろうか。

そんなことを少し考えた。

 

「ヤツだったらキレるだろうなァ。」

 

ヤツとはもちろん爆豪の事だ。少しだけ考える香月。

とはいえ、その開けようとしている道からは遠い2人。

 

「まぁ……行くか。」

 

多量のトラップと瘴気で道を塞ぎ、2人がいるであろう音がする場所へ、飛び出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「吸い込んでみろ──」

 

その声が2人に聞こえた。

上から来る香月、着地と同時に割れる地面。

それはもはや着弾だ。それと同時に、大量の瘴気が周囲を包む。

2人の視界は制限された。

 

「(来た!)上n──」

 

芦戸が何かを告げようとした瞬間、溝尾に痛烈な一撃が入った。

一瞬何をされたかもわからず、痛みによろけ、膝を着く。

視界が悪すぎてまともに見れてはいないが、棒状のものを持っているのはわかった。

 

「芦戸!?」

 

見えてはいないだろうが、音と状況で上鳴は察して味方を案ずる。

しかし、遅い。

もう一度大きな打撃音。香月は芦戸をそのまま手にした獲物で地面に叩き落とした。

そのまま上鳴に接近。

上鳴は放電を選択、香月は瞬時に動きを停止、"個性"を発動して自身前面に障壁を発生させた。

六角形を張り合わせたような形で、前面のみを防御するものだが、それは全身をカバーしており放電を防いだ。

 

「はやッ──」

 

放電も無駄撃ちは出来ない、と判断して中断、防御体勢に入る。

香月ならどこを狙うだろうか、などと考えられる余裕は彼にはない。

上半身を腕で防御するも、香月はそれを見てから足を攻撃。

よろめいたところを、跳び上がって顔面に飛び膝蹴りをした。

後ろへ数歩下がる上鳴、ここで芦戸が立ち上がっており、香月へ走っていた。

しかし瘴気によって視界は遮られている為、狙いは正確ではない。

香月は手にした獲物を地面に突き立て、上へと跳び上がる。

 

(足、重っ……!)

 

瘴気の効果は視界を封じることだけではない。むしろそちらがメインだ。

接近した芦戸、視界には香月は居らず、見えるのは上鳴だけ。

突如背中へと衝撃、香月の攻撃。振り返るもそこには彼はいない。

彼は上鳴の方へ攻撃対象を変更、瞬時に移動していた。

背中側から攻撃が来ると予測した上鳴は振り返るもほぼ同時に下から打ち上げるように蹴り飛ばされる。

吹き飛ばされる威力ではないが、宙に浮く上鳴。

酸を飛ばそうと手に溜め接近、が、予測されていたのか、腕や上半身を複数のレーザーで弾かれ、酸は飛び散り上体は崩れる。

上鳴は放電できない。芦戸を巻き込んでしまうからだ。

宙に浮く彼が落下を始める瞬間、重力とは別の力が加わって地面に叩きつけられた。

香月は彼の足を掴んでいたのだ。

あまりの衝撃に上鳴は意識を飛ばしそうになっていた。

行動しようとする芦戸、思うように体は動かない。

そこへ、香月の一撃、避けようとして上半身を逸らした。

瞬時に腹部に拳が叩き込まれた。逸らされた体、伸ばされた腹筋への一撃はかなり効く。

予見していた、のではなく、避けさせることも含めた攻撃行動。

 

「ゔぅッ!」

 

くの字に曲がった体、肘打ちで頭を叩き下ろして芦戸は地面に崩れる。

立ち上がろうとする上鳴、腕に力が入らない。

ドッ、と背中に重みが加わった。香月に踏みつけられたのだ。

 

(近ぇ、なら放電──)

 

フォンッ、と重い物が風を切る音がした。刹那の間、目線だけ上へと向ける上鳴。

槍を逆手に持っていた。先程の棒状の獲物とは違い、刃も着いている。

なんの感情も籠っているように見えない、口の端から瘴気を出している香月。

そのまま──

 

─ガンッ!!─

「ッ……はッ……はッ……!!」

 

顔の真横に、躊躇いなくそれが突き立てられた。これがもし、本当に(ヴィラン)との戦いなら、彼は今ここで死んでいただろう。

冷や汗とともに荒くなる息。目の前の男が、クラスメイトである彼とは思えないほどに冷酷で、恐怖を掻き立てられる。

戦闘の意思は、もう既に砕かれた。

しかしまだ、芦戸は立ち上がろうとしていた。

瘴気によって力は入らないが立ち上がろうと手をつく。

ぷるぷると震える腕で支える、が。

香月は少し考えたあと、その腕を足で払った。芦戸は再び地面に落ちる。

腕に力は、もう入らない。酸を溜める。投げる力すらない。

ずり、と這いずるのがやっと程度だ。

香月は、制限時間が終わるまで、何も言わず、ただそこで2人を見ていた。

機械音声が、鳴り響く。

 

上鳴、芦戸ペア。行動不能によりリタイア。

 





それではまた、私と気分が向いた時に。
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