悪役ロールプレイ~主人公の味方になっておいて魔王討伐後に裏ボスとして君臨します~ 作:睡眠
広場には、かなりの人数が集まっていた。成り上がり貴族の処刑はそれだけ人間の関心を集めたのだろう。
「彼は本当に助けられるのでしょうか?」
「・・・どうする気なのかしら?」
道化師は、三日前ウィリアムを救えるといっていた。しかし処刑は予定通り行われようとしている。反吐が出る話だ。何より気に食わないのは、平民たちの反応だ。この件が、策略だと分かっている人間は少なくないはず・・・しかし、同調してヤジを飛ばしているのだから救えない。もちろん、苦しそうにしている人間、悲しそうにしている人間も視界に入るが大多数はそうではない。分かっている・・・この場の空気がそうさせているのも理解はしている。だがやるせない。
「処刑を始める!!!」
「この者こそ王国に違法薬物をばらまき他国の患者を引き入れた売国奴である。これは我々王国の怒りの鉄槌である!!!」
処刑台にはウィリアムが柱にくくり付けられている。その表情を見ることは出来ない。
「殺せ」
「殺せ、殺せ」
「死ね売国奴」
ウィリアムに罵声を浴びせているのは、あの貴族が用意した人間だ。彼らは、周りをあおるようにウィリアムに罵声を浴びせていく。それにつられ、平民も罵倒し始める。
「最低ね」
私は、自然と口から言葉が零れた。
「執行せよ!!!」
そう貴族が言い放った瞬間に、ウィリアムに刃が殺到した。
「どういうつもりかしら!!!結局助けられてなかったじゃない!」
教会に戻ってきたルルシアは、ナナリアに叫ぶ。悲痛な悲鳴をナナリアは黙って受け止めた。
「あいつ一体どういうつもりかしら!!!」
「・・・・・・・」
「ナナ?」
ナナリアが自分の後ろを見て目を見開き固まっているのを見て、不審に思ったルルシアは振り返った。
「嘘」
そこには、道化師と死んだはずのウィリアムが立っていたのだ。
「嘘よ・・・だってアンタは死んだはず・・・・」
「ひどい、言われようだな」
「・・・・・・・」
数時間前・・・
――コンコン。
二回ほど、目の前の窓をノックする。俺の背丈の倍以上はある窓は一見質素だが、至る所に彫りこまれた匠の芸術が見て取れる。値打ちのあるものだというのは俺でも分かる。そして、窓の一枚でこれだ。この屋敷全体ではどれほどの価値があるものだろうか・・・。きっと俺には想像の付かない値になるのは間違いないだろう。
ノックの返事はすぐに返ってきた。
彼は窓の外にいる俺を見ると一瞬顔をしかめたが、鍵を開けた。
「貴様がこんなものを送り付けてきた男か」
「そうだ、中身は見ただろう?」
俺は、原作に知識から今回の主犯であるこの男の不正の証拠をつかんでいた。それを手紙に書き送り付けたのだ。
「なぜ貴様がこのことを知っているか興味はあるが詮索はせん・・・何が目的だ?」
「ウィリアム・ジャッジの処刑を中止しろ」
「そ、それは出来ない。執行は今日だぞ!」
「出来なければ話は終わりだ」
「ま、待て。他にはないのか!他に要求は?」
「・・・処刑はしてもウィリアムを殺さないことならできる」
青ざめた顔で困惑する貴族。
「それは・・・」
「影武者を用意しろ・・・人形でもいい。どうせ表情までは、民衆からは見えない」
「・・・分かった。受け入れる。ウィリアムを処刑直前で入れ替える」
「ああ、そうしろ。ウィリアムが無事なら俺はお前に干渉はしない」
「・・・約束だぞ」
俺は、二人の看守に半ば抱えられるようにして外に出る。俺があの牢獄に入ってから幾らかの時が過ぎたのか俺には分からない。太陽の光が届かないあの場所では時間という概念すらない様にも感じられた。それに、拷問により気を失うことも多かったので体内時計も狂ってしまった。あの塔に俺がいたのが、三日なのか、一週間なのか、それとも一か月なのか、それは分からないが、俺が捕らえられた時よりも随分、気温は上がっており、もう寒くはなかった。久しぶりに出た外は眩しくて思わず目をしかめた。少しばかり悪くなった視界で空を見れば青空が見えた。なるほど今日はいい天気だそうで何よりだ。牢屋に入れられたときは抵抗したがもうあきらめがついてしまった。
処刑台がある広場まで歩く、暫くまともな飯を食ってないのと日頃の拷問のおかげで、もう俺にはそこまで歩くことが出来る体力は残っていなかった。数歩あるけば気を失いそうになり、二人の兵士に脇を抱えられて引きずられるようにして移動するしかなかった。
処刑台が見えてきたところで、道化師の仮面をかぶった男が立っているのが視界に入る。
「話は聞いているだろう?」
道化師の仮面をかぶった男は、看守にそう言い放った。看守は手を離し、俺の拘束を解く。道化師の仮面をかぶった男は看守を先に行かせる。
「ウィリアムだな?事情は、話してやる。ついて来い」
表情は分からないが、その声はひどく楽し気だった。
「自分の処刑を見る気分はどうだ?」
「最悪だな」
事情を説明した後、俺たちは少し離れたところから広場の処刑を眺めている。ウィリアムはひどく不快そうに顔をゆがめ、その目には憎悪をともしていた。
「民衆もひどいが、やはりあの貴族は許せないだろう?」
「ああ、殺してやりたい」
底冷えする憎悪のこもった声で、ウィリアムはつぶやいた。
「チャンスをやろう。ついて来い」
そう言って、ちょうど処刑が終わったタイミングで広場の方に向かう。
「き、貴様は・・・」
「よう」
「私には干渉しないんじゃなかったのか!」
「ああ、俺は干渉しない・・・俺はね」
「お前は!?」
「死ね」
鮮血が舞う。貴族の首は吹っ飛び噴水のように血を噴き出している。
「これで、君も悪党だな・・・ウィリアム。貴族、ウィリアム・ジャッジは死んだ。これから先、君は何者なのかな?」
「ただのウィリアムだ」
「では、ウィリアム・・・君はこれからどうする?」
「この王国をあんたが変えられるというのなら、従ってやる」
「ではよろしく頼むよ・・・ウィリアム。ようこそ、