死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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第29話

私は彼の姿を確認すると、向かいの席に座った。お互い何も話さないまま時間が過ぎてゆく。沈黙を破ったのは翔だった

 

「まず1つ、この前は本当にごめん」

 

「友希那を危険な目に遭わせたくなかった。失うのが恐かった。だから拒絶した」

 

「でも、結果的に友希那を傷つけた。だから...本当にごめん」

 

彼の口から出てくるのは謝罪の言葉ばかり。謝らないといけないのは私の方なのに...

 

「私こそ、ごめんなさい!」

 

私は立ち上がり深く頭を下げた。彼は面食らったような顔をしていて、驚いていた

 

「...どうして友希那が謝る?悪いのは全部俺だろう」

 

「私は貴方がそこまで追い込まれているのに気づけなかった。Roseliaのリーダーとして、周りのことを見なすければならないのに...翔のことも気にかけなくてはいけないのに」

 

「だから、拒絶されてもおかしくないと思った。でも、受け入れられなかった。受け入れたらもう私は壊れてしまいそうで...」

 

ここまで自分を憎んだことはなかった。私をここまで成長させてくれた大切な人を追い込み傷つけてしまったのだ

 

「許されるとは思ってない。でも...私は貴方と一緒にいたい。貴方と一緒に頂点に立ちたい!」

 

私はひたすら本心をぶつけ続ける

 

「だから...行かないで...」

 

最後は声は霞んで聞こえるかどうかの大きさだった。そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた

 

「俺といればいつか必ず後悔することになる。それでもいいのか?こんな俺と一緒にいてくれるのか?」

 

「当たり前でしょう。貴方はRoseliaのマネージャーで私のパートナーよ?絶対に離さないから」

 

「...ありがとう。約束する。何があろうと、命に代えてでも友希那を守ってみせる」

 

「命は大切にしなさいよ。貴方が死んだら私は...悲しいわ」

 

「さぁ、練習に戻るぞ。今日の調子はどうだ?」

 

「さっきまでは最悪ね。でも、今は最高の歌声を聴かせられそう」

 

「そうか...楽しみにしてる」

 

こうして彼との距離はより一層縮まった

 

咲夜side

 

()()()と仲直りして、CiRCLEに戻ると奏斗が何やら走り回っていた

 

「...何してんの?」

 

「やっと戻ってきた!さっさとRoseliaのとこに行ってこい!さっきからAfterglowと掛け持ちで見てんだよ!」

 

「姉さんがいるだろうが。彼奴はどうした」

 

「祐奈さんなら晩御飯の材料買いに行った。んじゃ俺はAfterglowのとこに戻るから。()()によろしくな」

 

今こいつ氷川のこと呼び捨てにしなかったか?いつの間にそんな仲良くなってんだよ

 

「個人レッスンやってるときに紗夜がそうしろって」

 

「ナチュラルに心読むんじゃねえ」

 

それだけ言うと奏斗は隣のスタジオに入って行った。余程往復してたんだな...今度何か奢ってやろうかな

 

俺たちも扉を開けスタジオに入る

 

「ごめんなさい。迷惑かけたわね」

 

「あっ友希那と翔だ!2人とも大丈夫なの?」

 

「ご心配なく。少しトラブルがあっただけですので」

 

「何があったのかはこの際聞きませんが、あとで翔さんと話したいことがあるので練習後時間ください。()()も一緒に...」

 

こいつまで呼び捨てかよ。氷川はやらかしたみたいな顔してるし、今井はニヤニヤしてる

 

「紗夜?つい最近まで琉太のことさん付けだったよね?いつの間にそんな仲良くなったの?」

 

「そっそれは...」

 

「そういえば、琉太も氷川さんのこと紗夜って言ってましたね」

 

「確かに言ってたわね」

 

まぁ奏斗にも信頼できる人ができたということだし、結果としてはいいだろう

 

「なぁ友希那、そろそろ練習始め...」

 

やばい、やらかした。友希那から2人きりのときって言われてたの忘れてた

 

「ちょっと翔!」

 

「あれ〜?友希那まで呼び捨てにされちゃって〜」

 

「これはその...///」

 

「湊さんもいつの間に仲良くなったんですか?」

 

今井のやつ他人からかうの好きだな。友希那は顔赤いし...熱でもあんのか?

 

「友希那顔赤いぞ?熱あるなら帰った方が...」

 

「誰のせいだと思ってるのよ...」

 

「うわぁ...友希那さんも紗夜さんも大胆...」

 

「「あこ(宇田川さん)少し黙ってなさい」」

 

「何であこだけ!?」

 

「まぁまぁ...こういうのは静かに見守らないと...」

 

おい白金、それフォローになってねえからな?

 

「とりあえず早く練習しませんか?遅れた俺が言うのもあれなんですけど」

 

「だから誰のせいだと...そうね、私のせいでもあるしここはみんなに聞きましょう」

 

「あこ、Legendaryやりたいです!前より上手くなったんですよ!」

 

「ほぉ〜。それじゃあそっから行くか」

 

「私はちょっと音合わせだけするわ」

 

そう言って友希那が音合わせをする。何度聴いてもこの歌声は好きだな

 

「準備できたわ。始めましょう」

 

友希那の合図とあこのカウントにより曲が始まった。友希那の歌声は何処かいつもより響いていた

 

紗夜side

 

Roseliaの練習が終わったあと、CiRCLEのカフェテリアにて私と湊さん、翔さんに琉太の4人でお茶をしていた

 

「んで、話って何?俺たちこのあと片付けとかあるからできれば手短に頼む」

 

私のお願いですっかり敬語の抜けた琉太が聞いてきた。時間も遅いから早めに終わらせた方が良さそうだ

 

「単刀直入に聞くわ。琉太、それに翔さん。貴方たちは誰に命を狙われてるの?」

 

「「!?」」

 

2人は驚いた顔をして硬直していた。私が知っていたのが予想外だったらしい。因みにこのことは湊さんも知っている

 

「...誰から聞いた?相手によってはこちらとして面倒だ」

 

いつもよりも真剣な眼差しでこちらを見てきたため、少し気圧されてしまう

 

「祐奈さんからよ。私が羽沢珈琲店に行く前に直接聞いたわ」

 

「私も同じく」

 

「あのバカ姉貴...余計なことまで喋らなくても」

 

「過ぎたことは仕方ない。俺たちを狙ってる相手だろ?悪いが教えられない」

 

「...どうしてもですか?」

 

「あぁ。逆に知れば紗夜や湊さんにまで危害が及ぶ。それを避けるために翔は1度湊さんを拒絶した」

 

「だから湊さんの調子が...」

 

「黙っていてごめんなさい。祐奈さんからも詮索するなとは言われている。でも、力になりたいの」

 

彼は私にギターを教えてくれて、悩みを聞いてくれて...助けてくれた恩人だ。彼には返しきれない恩がある

 

「気持ちだけ受け取っておきましょう。貴女たちを危険な目に遭わせるわけにはいかない。できればこれ以上の詮索はしないよう...」

 

やはり話してくれなかった。私たちのことを想ってのことだろうが、話してもらえるほどまでに信頼されてなかったのが悔しかった

 

「それでは今日はここまでにしましょう。無理に時間を作ってもらいありがとうございます」

 

「夜も遅いし、送るぞ。あと少しで終わるから待っててくれ」

 

「ありがとう」

 

彼は優しい人だ。だから私は彼に惹かれた

 

「紗夜はいつから琉太のことを?」

 

急に湊さんがそんな質問をしてきたため、私は反応が遅れる

 

「そこを聞かれると返答に困るのですが...彼にギターを教えてもらい、何回か2人で出かけることもありました。その時ですかね。湊さんこそ、いつから翔さんのことを?」

 

「彼が私たちのマネージャーになったとき、彼の心の底からの笑顔を見てこの想いを自覚したわ」

 

「意外ですね。音楽にしか興味のなかった私たちがまさか恋をするなんて」

 

「私も紗夜も人間よ。必ずそういったことも起こる」

 

数分後バイトを終えた2人が戻ってきた

 

「お待たせ紗夜、行こうか」

 

「えぇ」

 

「俺たちも行くか。友希那、迷子になるなよ」

 

「バカにしてるのかしら?高校生にもなって迷子なんて」

 

「それがいるんだよなぁ...水色髪の人が」

 

「まさか...」

 

「わっ私じゃないわよ!まぁ察しはつきました」

 

もしかしなくても松原さんのことだろう...

 

「そういえば、今年は行くのか?去年は受験勉強やらで行けなかったけど」

 

「あの2人は行く気満々だったけどな。俺もあの景色は好きだし琉太が行くなら俺も行くが」

 

「日程考えとくか...どのくらいいるつもりだ?」

 

「いつも通り2週間くらいでいいだろ。彼処なら奴らからも隠れられるしな」

 

さっきから2人が変な会話をしている。何やら何処かに出かけるみたいだけど...

 

「2人とも、先程から何を話しているの?まさか高校生だけで遠くに行くつもりですか?」

 

「夏休みになると毎年海にある別荘に遊びに行くんだよ。ビーチも貸切状態だし、ベランダからの景色は最高なんだ」

 

「おまけに防音完備のバカでかいスタジオもあるしな。よく彼処で練習したな」

 

何だかとんでもないことを聞いてしまった気がする。湊さんも話の内容にあっけにとられている

 

「貴方たち、お金がないからバイトしてるのよね?別荘は何処から来るのよ」

 

「親戚にもらった。広すぎて部屋何個余るんだか...」

 

そういえば、スタジオがあると言っていた気がする。もしかしたら...

 

「その別荘にはスタジオがあるみたいだけど...」

 

湊さんの声で2人は急に目を逸らす

 

「...何のことだかさっぱりだな。あったとしても去年行ってないし埃だらけだろ」

 

「掃除なら私たちがするわ。一緒に行ってもいいかしら?」

 

どうやら私と湊さんの考えは同じみたいだ。CiRCLEでスタジオを予約するよりもお金はかからないし、計画していた合宿も同時進行でやれる

 

「ハァ...翔が余計なこと言うからこうなるんだよ」

 

「すまん。口が滑った」

 

「あら、私たちが行ったら都合が悪いのかしら?」

 

「「...」」

 

急に黙り込む翔さんと琉太。この調子ならあと少しでいけそうだ

 

「翔さんはRoseliaのマネージャーですよね?練習場所を提供するのも仕事のうちかと...」

 

「あぁーもう!分かったよ!姉さんと花梨の許可が降りたら連れて行ってやるから!」

 

「仕方ないな...蘭にしばらく行けないって言っとく」

 

「バカ!美竹に言ったら...」

 

何やら翔さんが慌てているがどうしたのかしら?

 

「もしもし蘭?俺たち暫く別荘まで旅行行くから練習見れないからな。え?誰と行くって?翔とかそこら辺とRoseliaも一緒に」

 

「終わった...」

 

「ねぇ、嫌な予感がするのは私だけかしら?」

 

「言うな友希那。それは俺が1番言いたいことだ」

 

「...はい。分かりました、日程が分かり次第連絡いたします。申し訳ございませんでした」

 

さっきまでタメ口だった琉太がいきなり敬語になっている

 

「どっどうしたのかしら?」

 

「氷川さん、そこは察してほしい」

 

「Roseliaが行くって言ったら自分が見てるAfterglowは置いて行くのかと言われ...まぁAfterglowも行くことになりました」

 

「バカ野郎...」

 

「元はと言えばお前がスタジオあるって口走ったからこうなったんじゃねえか」

 

「返す言葉も出ねぇ...」

 

どうやらAfterglowの人たちも一緒に行くみたいだ。部屋は足りるのだろうか?

 

「琉太、流石に人数が多いけれど、部屋は足りるの?」

 

「1部屋2人で使えば余裕で余る。ワンチャン1人1部屋でも行けるかもな」

 

「どれだけ広いのよ...」

 

「あの2人も良いってよ。明後日行くから準備しておけ」

 

「了解」

 

「他のメンバーにも伝えておきますね」

 

「私も準備をしておくわ。何を持って行けばいいかしら?」

 

「着替え数着持って行けばいいよ。どうせ3泊くらいだろ?」

 

「何を言っているの?きっちり2週間止まらせてもらうわよ」

 

「はぁ!?...もういい。ただし、宿題8割終わらせろ。それができていなきゃ3日で帰らせる」

 

「...」

 

「私はもう大半終わっていますけど...湊さんは?」

 

「...明日の練習の時間使ってみんなで終わらせましょう」

 

どうやら終わってないみたいだ。宇田川さんなんかはほとんど終わっていないだろう...

 

「Afterglowにも伝えとく」

 

「ハァ...めんど」

 

果たして行けるのか心配だが、とりあえず計画していた合宿以上に豪華なことができそうだ

 

不安材料は残りながらもRoseliaはAfterglowと一緒に夏合宿に行くことになった




読了ありがとうございました!

☆10評価をくださったsilverhorn様、高評価ありがとうございます!

他にも評価や感想お待ちしております!

次回から第三章夏合宿編です!

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