死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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第32話

奏斗side

 

近くのスーパーで買い物を済ませ俺たちは全速力でカレーを作っていた。14人前はクソ重かった...

 

「咲夜、野菜の方はどうだ?」

 

「もう少しで終わる。人参だけ切っといてくれ」

 

「了解。終わったら順番に炒めていこう」

 

こう見えて俺も料理はできる。何せ1人暮らしだからな。咲夜とか華蓮さんには負けるけど、中学の頃は調理実習で周りに人だかりができていた

 

野菜を全て切り終わり、硬いものから順に炒めていく。その間に肉の仕込みやカレールーの準備などを同時進行でやっていく

 

「彼奴らの好き嫌い聞くの忘れたけど大丈夫だよな?友希那は苦いのが苦手としか聞いてないけど」

 

「俺もよく分からん。まぁこれだけあれば嫌いなもの食わんとも足りるだろ」

 

蘭は普通にありそうだが、紗夜はどうなのだろうか?見た目はクールなのに中身はポンコツなんだよなぁ...

 

「今夜は晴れだし月もよく見れそうだな」

 

「またかよ...咲夜本当に月好きだよな」

 

「バンド名もそうだしな。特に三日月は見てて心が落ち着く」

 

俺たちが組んでいるバンド、Xaharは咲夜が考えたものだ。意味はマルタ語で月だ

 

「昼間寝たせいで夜は寝れそうにないな...あの場所行くか」

 

「いい加減行き方教えろよ。俺も見たいんだよ彼処からの景色」

 

この屋敷は2階建てなのだが、1部だけ3階がある。丁度咲夜の部屋の上でベランダもある。どうしても行き方が分からず困っているのだ。唯一咲夜だけ知っている

 

「頑張って探せ。俺だって見つけるの苦労したんだよ」

 

「ハァ...そろそろ柔らかくなったか?肉も入れよう」

 

喋っていると案外時間の経過が早く感じるものだな。何事もなく順調に進んでいき、気がつけばカレーは完成していた

 

「やっとできた...こんなに作ったの初めてだぞ」

 

「そうだな...蘭たちに手料理振る舞うの初めてかも」

 

「言われてみれば俺もそうだな。普段は今井がクッキーやら持って来るからいらないと思ってたし」

 

「あの人見た目と中身に違いがありすぎる。ギャルのくせに面倒見がいいとかどうなってんの?」

 

人は見た目で判断してはいけない。まさしくそれに当てはまるな

 

「そろそろ呼んでくるか。カレーも冷めるし風呂はいる時間とかも考えた方が良さそうだ」

 

「それに夜も練習やるだろうからな、流石に見てあげないと...」

 

昼寝してて行けなかったとバレるだけでやばいのに(バレてる)夜まで休んだら蘭に殺される

 

「俺はAfterglow呼んでくるから咲夜はRoselia頼む」

 

「分かった」

 

何とかして機嫌をとれるように頑張ろう...

 

スタジオの前に立ち、深呼吸をしてから扉を開け中に入る

 

「失礼します...晩御飯できたのでみなさんどうぞ〜」

 

「...分かった。みんな行くよ」

 

詰んだなこれ。蘭の顔が明らかに不機嫌だ

 

「全く...後で謝っときなさいよ」

 

「はい...」

 

今日は華蓮さんがAfterglowを見てたらしい。と言うことは柏はRoseliaか

 

華蓮さんとスタジオを出ると死んだような顔で歩いてくる咲夜がいた。その後ろには蘭と同じく不機嫌そうな湊さんとその一行

 

「ハァ...ほら、翔も琉太君も行くよ。今日はカレーかな?」

 

匂いだけで今日の晩御飯が分かった華蓮さんが上機嫌な様子で歩いて行く。そういえばこの人、カレーめちゃくちゃ好きだったわ

 

全員が食堂に着き、席に座る。とても気まずい。この空気嫌い

 

「えっと...皆様お疲れ様です。それでは、いただきます」

 

『いただきます』

 

咲夜の掛け声で一斉に食べ始めた一行。我らながら結構なできなので、まぁ美味い。少しばかりニヤついてるやからもいるが...

 

「とりあえず翔、食べたら話があるから私の部屋に来なさい」

 

「...承知いたしました」

 

安定の招集。よかった、俺はかからなかった...と安心してたら

 

「琉太、あんたも後であたしの部屋に来てよ」

 

「...分かりました」

 

ダメだ、死ぬ未来が見えてくる。史上最高の恐怖だよ

 

その後は沈黙が続き、全員順調に食べ終わった。片付けは華蓮さんと柏がやってくれるとのことなので、咲夜は湊さんの、俺は蘭の部屋に行った

 

「失礼します...」

 

扉をノックし、蘭の部屋に入る。中には明らかに不機嫌そうな蘭がいた

 

「適当に座っていいよ。最も、琉太たちの場所なんだけど」

 

正座されられると思ったら普通にソファに座っていいとのこと。ここまでくると話の内容が分からないため余計怖い

 

俺は言われた通り適当に座ると、蘭はその隣に座ってこちらに身体を預けてきた

 

「らっ蘭さん?どうしました?」

 

予想外の行動に少し焦る

 

「昼間寝てたよね?バルコニーにハンモックセットして」

 

「!?」

 

バレてた。さようなら、俺の人生...

 

「別にそんな焦らなくてもいいよ。疲れてたんだろうし、()()()()()()()()()怒ってない」

 

なんだ怒ってないのか。心配する必要なかったな。ん?そのことについては?

 

「と言いますと...別のことに怒ってらっしゃると?」

 

「最初の休憩のときに探して、そのときは湊さんが先に見つけててあたしも後から見つけた。疲れてただろうしそのまま置いといたけど」

 

「...なんかありがとう」

 

「問題はその後、夕方の休憩になってもう1回見に行ったらいなかった」

 

「あ...」

 

晩飯の材料がないことに気づき急いで買いに行ったことを言っているのだろうか?

 

「今思えば夜ご飯の材料買いに行ったんだろうけど...凄く心配した」

 

「え?」

 

最初は言っている意味が分からなかった。俺がいなくなったところで心配する人なんて、咲夜ほどじゃないがいないと思ってた

 

「何も言わずにいなくなって、練習にも来なくて...帰ってきたことすらも言わずで...凄い心配したんだよ?」

 

蘭の声は少しずつ震えていき、遂には身体まで震え出した

 

「おい落ち着け。確かに悪かったけど...」

 

「落ち着けるわけないじゃん!もし琉太に何かあったらって思うと苦しかった!最悪死んじゃうんじゃないかって何度も思った!連絡しても何も返してくれなかった!」

 

「っ!」

 

ようやく自分犯した失態に気づいた。そりゃ心配もするよな...

 

「あんたに何かあったらあたしは...」

 

俺は蘭が言い切る前に強く抱きしめた

 

「すまなかった。いろいろ焦ってて全然気づけなかった。反省してる」

 

「...バカ」

 

「本当にごめん。お前がそこまで想ってくれてるなんて考えもしなかった」

 

「あたしだって分からないよ。素直じゃないから余計に」

 

「そうか?蘭のそういうところ、俺はいいと思うけどな」

 

「なぁ!?ちょっと、それどう言う意味!?」

 

「そのままの意味さ。他の連中は練習してるんだろ?俺たちも行くぞ」

 

「昼間の分も教えてよ」

 

「りょ〜かい」

 

俺たちは部屋を出てスタジオへ向かった

 

蘭side

 

気づけばあたしは琉太に怒鳴りつけていた。感情を抑えられなくなって、ひたすら思ったことを吐き出していた

 

そんなあたしを彼は強く抱きしめてくれた。彼の体温が直に伝わってきて心が落ち着いた。あたしは昼間湊さんに言われたことを思い出した

 

『素直になるのはとても難しいけれど、自分の想いを自覚するのは結構簡単よ』

 

今ならあの言葉の意味が分かるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

あたしは妹尾琉太が好きだ

 

でも、素直になって気持ちを伝えるのは今の状態では無理だ。あたし自身中々素直になれなくて、周りにきつい態度をとってしまうこともある

 

「どうした蘭、顔色少し悪いけど...」

 

「何でもないから、それより早く行こ?」

 

あんたの所為だと言いたいが、ここは我慢しなければならない

 

「無理はするなよ。夜遅くなるのもあれだから、10時半までな」

 

「...あと30分追加」

 

「折角2週間の長い合宿だ。体調崩したら意味がないだろ。どうしてもって言うなら個人で付き合ってやる」

 

「ありがと」

 

なんだかんだ言って最後まで付き合ってくれる優しさを彼は持っている

 

「琉太ってさ、ボーカルもやるの?」

 

「たまにやるな。でも蘭程上手くないし、花梨の方がレベル高い」

 

「そうなんだ...明日教えてもらおうかな」

 

「そうするといい。歌の実力なら軽く湊さんを超えてるから、教えられたことを全て吸収できれば湊さんを超えられるかもな。もっとも、彼女も花梨に教わってるけど」

 

あの子って、そんなに凄かったんだ...確か巴の妹と同い年って聞いたけど人は見かけによらないものだね

 

2人で話してるうちにスタジオに着き、琉太と祐奈さんのレッスンが始まった。最初は個人練習から始まり、休憩を挟みながらやった

 

「何か久し振りに蘭のギター聴いたけど、随分とレベル高くなったな。癖まで俺に似てきたし」

 

「そりゃあんたから教わってるんだし。歌の方はどうかな?」

 

「サビの前でキーを外してたからそこ注意な。そこまで目立ったミスじゃないからすぐに修正できる」

 

「分かった」

 

「今日はギター持ってきてるんだし、セッションやらないか?」

 

「いいの?」

 

「勿論、俺は蘭とやりたいんだよ」

 

「じゃっじゃあお願いします...」

 

「急に敬語なるなって。それじゃあボーカルは任せたぞ」

 

「分かった」

 

あたしは素直じゃないし、周りに変な態度をとってしまうことがある。それなのに、彼の前では少しだけ素直になれる。いつかこの気持ちを伝えたいと強く決めた




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