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友希那side
合宿3日目、私たちは屋敷の側にある海で遊んでいた。というよりは私は景色を見たり翔と話したりくらいしかしてないが。リサやあこははしゃぎ回っている
私たちが休むと言ったらAfterglowも休むことにしたそうだ。今は美竹さん以外の4人とリサ、あこに花梨に祐奈さんの8人でビーチバレーをしている
「全く...どこにそんな気力があるのかしら?」
「そんなこと言ったらどこに毎日丸1日練習気力があるんだって話だぞ」
「あのくらいは当然よ。頂点に立つためならあの程度まだ足りないくらいだわ」
翔からは呆れたような視線を送られたが、こればかりはどうしようもない
「まぁ今日はゆっくり休めよ。片隅に新曲について置いとくくらいで十分だ」
「えぇ、そうするわ」
因みに今の格好は水着の上からパーカーを羽織っている状態。何故水着があるんだと思ったが、どうやらリサがお母さんに頼んで荷物に仕込んだらしい
「それにしても、暑くないのか?幾ら日陰とはいっても流石にきついだろう」
「それは...」
確かに今日はとても暑い。本当はパーカーを脱ぎたいのだが、彼に水着姿を見られるのが恥ずかしいのだ。ただでさえ異性に見られるのが恥ずかしいというのに相手は私が好きな翔、恥ずかしくないわけがない
「脱水症状やらにはなるなよ。折角の休みだ、体調崩したら勿体無い」
「分かってるわ」
今私の視界にはビーチで遊ぶみんな、太陽の光を反射した幻想的な海が広がっていた
「綺麗ね...」
あまりの綺麗さに無意識に声が出てしまった
「昼間もいいが、夜の方が俺は好きだな。月明かりと星の光を受けて輝く海がなんとも言えなくなるんだ」
「今晩は晴れだし、その景色も見れるんじゃないかしら?」
「だといいな。いつも例の場所から見てるが、普段の部屋から見るのもいいかもな」
「あの3階のこと?私も少し探して見たけれど、階段なんてどこにもないしさっぱり分からなかったわ」
「逆に分かったら凄えよ。どうしても見たいって言うなら、今夜俺の部屋に来い」
「いいの?琉太や花梨も知らないのに私が知るとなると少し申し訳ないのだけど...」
「花梨はともかく、琉太は勘がいい。そのうち気づかれるさ」
「なら、お願いするわね」
少々納得いかないところはあるが、彼の好意に甘えることにした
「さっきから思ったんだが、氷川さんと蘭はどこ行った?琉太も見当たらねえし」
「美竹さんと紗夜なら琉太といるはずよ。もしかしたら2人が取り合いしてるかもしれないわね」
「取り合い?何の?てか誰が?」
「...」
呆れた。彼は自分に対する想いだけでなく、他人の色恋沙汰にも鈍感らしい。中学の頃あれだけ告白されてたのだから、もう少し感じやすくなっても良いのではないだろうか?
「貴方は少し他人の気持ちを分かるようにした方がいいと思うわ」
「すいませんねぇ。生憎そのような感情は持ち合わせていないものでして」
「だったら...私が貴方の感情を取り戻してみせる」
「...好きにしろ」
そう言って彼はそっぽを向いてしまった。こちらが顔を近づけても一向に逸らされてしまう
「もしかして照れてるのかしら?顔、少し赤いわよ?」
図星だったのか、彼の顔はより赫みを増していった。煌めく青い海と対照的な彼の赤い顔がとても美しい
「うるせえ。もういい、あの場所には連れて行かない」
「ごめんなさい」
そのことを言われたらこちらが何も言えなくなってしまう。暫く沈黙が続く。彼の目はどこか遠くを見ていて、とても寂しそうだった
「翔?どうしたの?」
「いつまで続くんだろうな」
「え?」
「この日常はいつまで続くんだろうなって。俺は今まで意味のない時間を過ごしてきた。生きる価値もないんだし、とっとと死ねばいいのにと思っていた」
「...」
私の耳に聞こえるのは彼の声と波の音、僅かな風の音だけ。それがあまりにも悲しくて、儚くて私は顔を俯かせてしまう
「でも、4ヶ月前お前たちRoseliaが闇に飲まれてた俺を光へと導いてくれた。お前たちに賭けて本当に良かったと思ってる」
「翔...」
「さっきも言ったが、俺には感情がない。こんなとき何を言えばいいのかわからないけど、これだけは言える
本当にありがとう、友希那」
「っ...」
私は嬉しさのあまり涙が出てしまった。でも、それと同時に悲しかった。まるでもうすぐ彼と会えなくなるかのような
「翔、貴方は...ずっと私たちの、私の側にいてくれる?」
「ずっとか...それはまた難しいお願いだな」
「...」
「別に嫌なわけじゃない。ただ単に俺がそこまで生きていられるかが問題だな。それに、いずれは友希那まで狙われかねないし」
「そんなもの...どうだっていい」
「友希那?」
「たとえ命を狙われようが構わない!私は貴方と一緒にいたい。だから...一緒にいるって言ってよ」
「...腹括るか。1つ条件だ。もし俺に何かあったらそのときは俺のことを忘れろ。そうならないためにもある程度力は尽くす。だけど、俺たちではどうしようもできないくらいに奴らの力は大きい。それだけは分かってくれ」
「...分かったわ」
「まぁ安心しろ。友希那に何かあったら必ず俺が助けに行ってやるから」
「ありがとう」
それから私たちは暫く景色を見たあと、みんなと合流して昼食を食べに街まで行った。紗夜と美竹さんはというと琉太と一緒に辺りを散歩していたらしい。琉太の取り合いは起こらなかったみたいだが
「なぁ、俺今いい歌詞が浮かんだんだが」
「奇遇ね。私もいい感じの曲が浮かんだわ」
「まぁ作るのは夜の景色を見てからでいいだろ。その方がもっといいのが出てきそうだ」
「そうね...私もそうするわ」
この後電車で街まで行ったのだが、翔が乗り物酔いで何も食べられなくなってしまったのは別の話
紗夜side
今日は湊さんの提案により練習は休みになった。新曲を作るために景色などを見たいらしい。折角なので私も休むことにした。第一に休まなかったら花梨さんに何かされそうで怖い
「ふわぁ〜。何しよっかな...」
琉太は何をするのか決めてないみたいだった。私たちに便乗してAfterglowも休むことにしたらしいので、暇になったのだろう
「あっあの、よかったら一緒に散歩しませんか?」
彼との距離を縮めるいい機会だと思ったので少し緊張しながらも誘ってみる
「それはいいけど、彼奴らと一緒に遊ばなくていいのか?」
「あの雰囲気について行けるとはとても思えないので...」
外では美竹さん以外のAfterglowの4人と今井さんに宇田川さん、祐奈さんに花梨さんの8人でビーチバレーをしていた。白金さんは審判を行っている
「紗夜ならいけると思うけどな。まぁあの2人の動き見てたらそうなるか」
普通にやる分にはいいのだが、祐奈さんに花梨さんの動きが最早プロを超えている。アタックのスピードと威力が桁違いだし、顔が真剣だ
「じゃあ俺のお気に入りの場所連れてってやるよ。あの場所は俺以外知らないけど、今回は特別な」
「いいんですか?」
「散歩したいと言ったのは紗夜の方だろう。ほら、行くぞ」
そう言って、彼は手を出してきた。最初は意味が分からなかったけど、すぐに手を繋ごうととしているのだと察した。私がその手を握ろうとすると
「琉太」
何処に行っていたのか、美竹さんが私たちの元へ歩いてきた
「蘭か。何処に行ってたんだよ」
「少し散歩してただけ。それより、あたしも連れてってよ。そのお気に入りの場所」
よく見ると彼女の顔は少し不機嫌そうだった。私はすぐに彼女が琉太のことを想っていると分かった
「俺は構わないけど...紗夜はいいか?」
正直言ってあまり来て欲しくなかったが、美竹さんと少し話したいことができたので私は小さく頷いた
「それじゃあ行こうか。あまりバレたくないから、静かに行くぞ」
「「分かりました(分かった)」」
それから彼に案内され15分程歩いた。砂浜を歩くので、結構足の裏が痛い。まだ着かないのかと聞くが、もう少し待てとしか返ってこない。聞くところによると此処も別荘の敷地内らしい。更に10分程歩いたところで私たちを待っていたのは
「此処だ。本当は夕方の方が綺麗なんだが今回は我慢してくれ」
言葉を失ってしまう程の幻想的な花畑だった
蘭side
琉太と氷川さんと一緒に歩いて行った先には綺麗な花畑が広がっていた
「此処には色々な種類の花がある。季節によって咲いてる花も多少違うから楽しみ方は様々だ」
そよ風によって花が少しだけ揺れている。その動きさえも綺麗と思ってしまう程あたしはこの景色に見惚れていた。氷川さんも同じのようでただボーッと花畑を見ていた。あたしはそれ以上にこの景色の前に佇む琉太に見惚れてしまった
「テレビなどでよく見るけれど、実際に見るのは初めてね...貴方はどうやって知ったの?」
「散歩してたら見つけたんだ。あのときはいつも通り4人で来ててな、自由行動をとってたときに此処に来たんだ」
「随分と遠くまで散歩するんだね」
「趣味だからな。よくジジイみたいだって言われるよ」
確かに、高校生の趣味が散歩って地味だよね...ちょっと意外かも
「でもいいんじゃない?ちょっと意外だけど、琉太らしくて」
「そいつはどうも」
暫く沈黙が続く。あたしは会話が苦手だからこういうときなんて言えばいいのか全然分からない。それを破ったのは意外にも氷川さんだった
「琉太、美竹さんと話したいことがあるので少し席を外してもらっていいかしら?」
「あぁ。何かあったら連絡しろ」
そう言って琉太は少し遠くの方まで行ってしまった。氷川さんの方を見ると、その表情はいつになく真剣で少し気圧されてしまった
「話って何ですか?」
あたしはできる限り平然を装って対応する。隠し切れていない部分はありそうだが、そこは目を瞑ろう
「そこまで身構えなくても大丈夫よ。美竹さん、
あたしはとても驚いた。氷川さんのイメージといえば音楽一筋、湊さんと同じタイプだった。そんな彼女からさっきのような言葉が出てきてよく分からなくなった
「貴女もということは、氷川さんも琉太のことを?」
「えぇ、そうよ」
案外はっきり認めた。普通なら恥ずかしがるんだろうけど、そんな気配は全くなかった
「彼に手を出されて繋ごうとしたとき貴女の顔が不機嫌そうだったから、もしかしたらと思ったのよ」
「そうですか...でも、言いたいことはそれだけじゃないですよね?」
さっきの質問は最早確信してるような感じだった。だとすれば、話はまだ終わってないということ
「流石ね。私が言いたいのは貴女への宣戦布告よ」
「どういうことですか?」
「私は彼のことが好き。彼は私を何度も救ってくれた、とても優しい人よ」
「...」
「私だけだったならもう少し時間をかけるつもりだったけど、そうもいかないみたいね。美竹さん、どちらが彼を落とせるか勝負しないかしら?」
「中途半端な気持ちで彼を想うというのなら私は絶対に許さない。貴女にはこの勝負を受ける覚悟があるかしら?」
本当は怖い。氷川さんはあたしと違ってとても綺麗な人だし、誠実さもあってギターも上手くて、あたしが勝てるような要素はほとんどない。それでもあたしは
「その勝負、受けて立ちましょう。あたしだって琉太のことは誰よりも好きなつもりです。氷川さんこそ、中途半端に彼を想うのは許しませんから」
「...貴女なら引き受けてくれると信じてたわ。お互い頑張りましょう」
「えぇ」
あたしたちは強い握手をかわした
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