友希那side
その日の夜、私は言われた通り翔の部屋へ向かった。ドアの前に立ちノックをすると、ラフな格好をした翔が出てきた
「来たか...とりあえず中に入れ。見つかったら面倒臭い」
彼に促され中に入ると、思った以上に部屋は綺麗でとても広かった
「結構掃除されてるのね。少し意外だわ」
「失礼な。俺は姉さんと違って潔癖症なんでね。それに2年も使ってないんだし、人を入れるなら多少の掃除は必要だろう」
「ふふっ。その格好、とても似合ってるわよ」
「ごちゃごちゃうるせえな。連れてって欲しくないのかお前は」
「調子乗ったわ、ごめんなさい」
以前の彼なら堅苦しくてこのような話はしなかっただろうけど、今は自然体で話せている気がする
「からかうのも程々にしろよ。他の奴は誰も知らないんだ、特別に教えてるんだからな」
「分かっているわ」
「さて、飲み物でも持って行けば暫く過ごせるだろう。どうする、今から行くか?」
「勿論、そこで話したいこともあるから」
「んじゃ、テーブルの上にあるやつ持ってくれ。俺は手ぶらじゃないと行けないから」
「?分かったわ」
何故物を持っていると行けないのかしら?私は疑問に思ったが、言われた通り飲み物を持って彼の元へ行く。彼は壁をペタペタ触って少しずつ前へ進んでいた
「何をしているの?」
「ちょっと待ってろ...此処か。下がってろ」
彼に言われて少し後ろに下がると、彼は力いっぱい壁を押し始めた
「クソ、相変わらず重いなこれ」
「これって...」
どうして誰1人あの3階への道を見つけられなかったのか、その理由がようやく分かった。私の目の前には真っ白の壁の中に隠し扉が広がっていた
「この部屋はあの場所の真下だからもしかしたらと思って探してたらこの扉を見つけたんだ。此処からしか行くことはできないし余程勘が良くない限りバレることはないだろう」
スマホのライトをつけて奥に進んで行く。やがて螺旋状の階段へ辿り着きそこを登って行く。階段を登り切るとまた扉があって、彼に開けてもらう。扉を開けると翔の部屋と似た構造の部屋があった
「この先にあるベランダで見れる。開けてみろ」
彼に言われて私はベランダのある方へ向かう。その間に飲み物を用意してくれるみたいだ。大きな扉は見た目よりも軽く、私でもあっさり開けることができた。そしてその先には
「綺麗...」
月の光と星の光を浴びて反射して煌く海があった
「昼間もいいが、夜の方が断然いいだろ?」
そう言って微かに笑う彼
「えぇ...確かに夜の方が私は好きね」
「喜んでもらえたなら何よりだ。これであまり変わらんとか言われたら、あれだけ言ってたこっちの立場がなくなっちまう」
「お世辞抜きで綺麗だから安心して。連れて来てくれて本当にありがとう」
彼には感謝しなくてはならない。実の家族にも教えていない秘密の場所を私に教えてくれたこと。それ程までに私のことを信じてくれたこと
「曲の方は作れそうか?こっちはもう完成したぞ」
「早過ぎないかしら?まぁ、私も大体は浮かんだけれど」
「友希那の曲に合ってればいいけどな...」
「それは分からないけど...貴方となら合う気がする」
「そうなることを祈っておこう」
私は確信していた。彼となら最高の曲が作れると
「ふわぁ〜。眠いな、俺は先に降りてるからそこの飲み物使って適当に過ごせ」
「えぇ、ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ」
相当眠いのか彼の目は細くなっていた。小動物の目みたいでなんだかとても可愛い
彼が用意してくれたザクロ酢を炭酸で割りながら景色を楽しむこと30分、私も眠くなってきたので片付けをして降りることにした。照明もないことはないのだが、スマホのライトで何とかなるだろうと思いつける。螺旋状の階段を降りて扉の前に着いた
「そういえばこれ、相当重いんじゃなかったかしら...」
思い返してみると、翔は結構な力でこの壁を押していた。私の力で開けることができるだろうか?荷物を置き、出せる限りの全力で壁を押す。すると、少しだけ動いたので明日筋肉痛になることを覚悟しながら地道に押していき、ようやく出ることができた。勿論、元に戻すことを忘れずに
「そういえば、此処翔の部屋だったわね。彼もう寝てるし」
部屋のベッドでは彼が可愛らしい寝顔を浮かべた翔がいた。普段の顔と寝顔に差がありすぎて思わず笑ってしまう
「飲み物を冷蔵庫にしまって...あとは起こさないように部屋から出れば」
私は気づいてしまった。今なら彼と一緒に寝ることができるのではないかと。ベッドは2人が使っても余裕で余る程の大きさだし、少し離れておけば問題ないのでは?私だって1人の女の子だ。好きな人と一緒に寝てみたいと思うし、できることなら早く付き合いたい。私にはそんな勇気はないし、今はその時ではないと思う
「多分他の人にはバレないわよね...」
私は欲に任せて彼のいるベッドに転がり込んだ。私が使わせてもらっているベッドと同じようにふかふかで気持ちいい
「おやすみ、翔」
そう言ったところで私の意識は深い闇の中に落ちた
咲夜side
「どういう状況だよこれ...」
昨日の夜友希那にあの場所を教えて、眠くなったので先に下に降りて
今俺の隣では可愛らしいのかよく分からんが寝顔を浮かべた友希那がいた。しかも思いっきり俺に抱きついて寝てるし...とりあえずこの状況を何とかしなければ。今井に見つかればからかわれるし、柏に見つかれば確実に殺される
「おい友希那、起きろ!クソッこいつ抱きつく力強くないか?」
一向に起きる気配がないので引き剥がそうとするが、全然剥がせない。どうしようかと悩んでいたそのとき
「お兄様〜朝ごはんできまし...た...よ?」
あっこれ死んだわ
「ほぉ?お2人はいつの間にそこまで関係が進んでいたのですか?」
「待て、話を聞け!これはその、事故というか気づいたらこうなってたんだよ!夕べ俺の部屋で話してて先に寝たんだけど...朝起きたら友希那がいたんだよ!」
「つまり、お兄様には一切非がないと?」
「そゆこと!」
友希那を売る形になったが、俺は何一つ嘘をついていないから問題はないはずだ
「ちょっと動かないでくださいね。動いたらどうなるか分かってますね?」
「はい、承知しました」
言われた通りジッとしていると、柏は俺に抱きついて寝ている友希那の写真を撮り始めた
「おい、その写真どうするつもりだ?」
「勿論、RoseliaとAfterglowの全員に拡散します」
「!?」
こいつはやっぱり鬼だ。鬼畜だ
「友希那さん、起きてください。朝ごはんできましたよ」
「ん...花梨?何で...」
薄目だが柏の姿を確認した瞬間、顔が真っ赤になると同時に真っ青になった。真っ赤になる理由は分からんが、どちらにしろ詰んだな
「いっいつからそこにいたのかしら?」
「お兄様が起きて貴女を引き剥がそうとしていたところですかね?貴女はぐっすり寝てましたが」
「///」
友希那は顔を真っ赤にして布団に潜り込んでしまった。何気に俺に抱きつきながら
「おい、いい加減離れてもらおうか。俺の身動きが取れなくて困ってるんだよ」
「...分かったわ」
彼女は名残惜しそうに俺から離れた
「さて、2人とも起きたので私は写真の拡散をしてきますね」
「ちょっ写真!?待って花梨!どういうこと!?」
「詳しくはお兄様かRoseliaの誰かに聞いてください」
そう言葉を言い残すと、柏は朝飯を食べに行ってしまった
「...ごめんなさい」
急に友希那が謝ってきた。別に謝るようなことでもないと思うんだがな
「俺は全く気にしてないし別にいいよ。ただ...少し気まずいから今日の練習琉太に頼んでいいか?」
「...分かったわ」
あっでも柏の奴Afterglowにも拡散するって言ってたな。まぁRoseliaよりは気は楽だろうしいっか
色々悩みながらも俺たちは食堂へ向かった
友希那side
見られてしまった。こうなることを見越して早めに起きるべきだった。よりにもよって花梨に見つかってしまった
憂鬱な気持ちに襲われながらも食堂に向かうと、既に他のメンバーが揃っていた。全員私の姿を確認した瞬間ニヤニヤし始めた。Afterglowの人たちも心なしか笑いを堪えているように見える。最初に仕掛けて来たのはリサだった
「おっはよー友希那。昨晩の眠りはいかがかな?」
「///」
「友希那さん...凄い大胆」
「あっあこちゃん!あまり触れない方が...」
「あこ、後で覚えておきなさい///」
「だから何でいつもあこだけ!?」
「私もあれくらいできたら...」
リサにはからかわれるし、あこは余計なことを言うし燐子はフォローになっていない。紗夜に関しては小声でよく分からなかったが何故だか憧れの視線を感じた
「まぁまぁ、みんなその辺にしときなって。そういう年頃なんだからさ」
祐奈さん、それ全くフォローになってませんよ?それどころかリサの目がいよいよ危ない
「さて、友希那さんの恥ずかしがるところも見れたので私は準備して来ますね。ついでに琉太さんも起こして来ます」
「それなら翔が行ったから大丈夫よ。今日はAfterglowだっけ?今回は翔と琉太君トレードするからよろしくね」
「...分かりました」
美竹さんの顔が少し残念そうに見える。彼女、琉太のこと好きなのかしら?逆に紗夜は嬉しそうな顔をしていた。紗夜とは話もしたし、気持ちはよく分かる。そしてもう1人ご機嫌な様子の人がいた。青葉さんだった
さっきまで少し不機嫌そうだったが、彼らをトレードすると言った瞬間直ったように見えた。まさかこの子...
「あたしたちは準備して来ますね。みんな行くよ」
「オッケ〜」
「モカ随分とご機嫌だな。やっぱり...」
「ともちんそれ以上は言わなくていいからね〜」
「私たちも行きましょう」
この後罰としてアップテンポの曲を5曲続けてやり、あこが死にかけたのは別の話
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