死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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Anfang最高!


第4話

「ごめんなさい...取り乱してしまって」

 

白鷺さんが赤くなった目で俺に謝る。その目は心の底から信じてるという感じの目だ。信じるって馬鹿馬鹿しい...

 

「大丈夫ですよ。少しでも楽になれたなら良かったです」

 

とりあえず表面上は優しく接しておく

 

「この後時間があればお礼をしたいのだけど...」

 

と白鷺さんが提案してくる。しかしこの後は奏斗や柏との約束があるので断らなければならない。元より行くつもりはないが...

 

「ごめんなさい、この後は予定があるので」

 

「そう、ではまたの機会に」

 

だから行かねえよ?

 

「すみません。ではまた今度どこかでお会いしましょう」

 

「えぇ。では行きましょう花音」

 

「うっうん。あの...ありがとうございました」

 

「貴女も気をつけてくださいね。可愛いんですから」

 

一応忠告しておく。可愛いのは事実だしまた襲われるかもな

 

「ふえぇぇ...///」

 

なんか顔赤くしてるけど大丈夫か?そんなことを考えてると柏に足を踏まれた。痛い

 

「お兄様には三時間程お話が必要らしいです」

 

そしてこいつは何故に怒っているのだ?感情を持たない俺にとって他人の感情を読むことは難しい

 

「お兄様には到底分からないことですよ!」

 

キレられた。こうなると手が付けられない...

 

「すまん。後でなんでもするから許して欲しい」

 

そう言うと柏は悪魔のような笑みを浮かべた。ヤバイ

 

「言いましたねお兄様?“何でも”ですよ?」

 

もうこれは腹を括るしかなさそうだ

 

「それより今何時?」

 

すっかり時間を忘れていたがこの後は奏斗と約束がある。一時に集合だからあまりもたもたしてられない

 

「えっと...12時30分!?」

 

「はぁ!?」

 

緊急事態発生。俺の家からショッピングモールまでは走って十分程かかる。そしてこの場所から家までは走って五分かかってしまう。さらには昼飯も食わなきゃいけない

 

「とりあえずコンビニ行くぞ!」

 

「はっはい!」

 

俺たちは全速力でコンビニへ向かいサンドウィッチとおにぎり買って自宅で食べた。そして外出用の服に着替えて家を出た。現在の時刻は12時55分、少し遅れるが仕方ない

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

奏斗side

 

「あいつら遅えな...何やってんだ?」

 

咲夜も柏もこういった約束事で遅れることはほとんどない。可能性としては何か厄介ごとに巻き込まれた、くらいかな?

 

そう考えてると案の定五分ほど遅れて走ってくる二人の姿があった

 

「ハァ...ハァ...すまん遅れた」

 

「大丈夫だ。大して待ってない」

 

「...死ぬ」

 

柏はめっちゃ息を切らしてる。それもそうだろう。咲夜は小さい頃から色々とハイスペックなのだ。柏も相当なものだろうけど、やはり咲夜には勝てんだろう

 

「奏斗は飯食ったか?」

 

もうこいつ息整ってるし...どういう体力してんの?

 

「いつも通りコンビニで済ました。それよりお前らが遅れるなんて珍しいな」

 

「誰かがナンパされてたんでちょっと助けてきた」

 

「あっ俺も」

 

「奏斗さんもですか...それにしては早くありません?」

 

「遅れないために早めに出たからな。まぁこの程度じゃ昔の罪滅ぼしにはならんけど」

 

「そうだな」

 

「それより早く行こうぜ。何から見る?」

 

「洋服屋行きたいです」

 

「じゃあそこ行くか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

柏side

 

私は今お兄様と奏斗さんと一緒にショッピングに来ている。三人で来るのは本当に久しぶりだと思う

 

「なんだか久しぶりですね。こうやって三人で何処かへ遊びに行くの...」

 

「そうだな。中学はバンドで忙しかったからな」

 

「まぁなんだかんだ言ってあの頃が一番楽しかったな。生きてるって感じられた気がする」

 

「「!!?」」

 

急にお兄様がそんなことを言い出した

 

「どうした?二人して驚いたりして」

 

「いや...その...」

 

「あの咲夜からそんな言葉が出て来るなんて思ってなかったからな」

 

「いくらなんでも失礼すぎるだろうが。流石に楽しいという感情はあるぞ?」

 

「「エェ!?」」

 

「ぶっ殺すぞテメェラ」

 

はっきり言ってお兄様に感情があるとは今まで思ったことはない。誰かが不幸にあってもなんとも思わない。特に他人の死に対してはそれがなんだ?という感じだ。感情は自分を苦しめるものとしてお兄様はそれを捨ててしまった

 

「まぁ相手の感情についてはなんとも言えんが」

 

何にせよ今までしてきたことは無駄ではなかったようで良かった

 

「さて、来たはいいものの...何これ?」

 

洋服屋の中にはすごい量の服が置かれていた

 

「こんだけあるとどれがどれだか分からなくなりそうだな」

 

「そうですね。とりあえず私は自分の服見て来ますね」

 

「了解」

 

「俺たちはどうする?」

 

「春用の服があまりないことに気付いてな。俺も見ようかと」

 

「奏斗が見るなら俺も見るとしよう」

 

どうやらお兄様たちも見るようだ。お兄様に褒められるようなコーデ考えないと...

 

私はそう思いながら服を選んだ

 

咲夜side

 

二人とも服を選ぶらしいので折角だし俺も選ぶことにした

 

「流石に夏用はまだ売ってねえか...春用はまだあるからいいんだけどな」

 

去年着ていた夏用の服が小さくなってしまったので折角だし買おうと思ったのだが流石に時期が早すぎたようだ

 

「こればっかりは仕方ないな...今度柏に選んでもらおうかな」

 

柏のコーディネートはプロのモデル並のセンスを持っている。たまに街を歩いているとモデルですか?と聞かれるくらいにえげつない

 

「あいつ将来モデルなれるんじゃねえかな」

 

「お兄様!今から試着するので見ていただけませんか?」

 

「分かった。今行く」

 

柏のコーディネート楽しみだな...

 

柏side

 

試着するから見て欲しいと頼んだらすぐに了承してくれた。今回は結構自信がある

 

「ジャーン!」

 

私がカーテンを勢いよく開けるとお兄様は、お〜と返してくれた。

 

「すごい似合ってるぞ。可愛いよ」

 

「あっありがとうございます...///」

 

お兄様は感情がないので無意識に女性が恥ずかしがることを平気で言ってくる。恥ずかしいけれどとても嬉しい

 

「もう一着あるのでそちらの方もお願いできますか?」

 

「構わんぞ。楽しみにしてる」

 

「ふふっ、ありがとうございます」

 

私はカーテンを閉めて用意していたもう一つの組み合わせを着る

 

実はこちらの方が私は気に入ってる。これで否定されたら立ち直れないかもしれない...

 

「どっどうですか?」

 

「さっきのより全然いいと思うぞ?やっぱお前えげつねえコーディネートセンス持ってんな」

 

「そっそんな...///」

 

「折角だし両方買うか。それよこせ」

 

「いっいくらなんでもお兄様に悪いです!自分で買います!」

 

「どうせ俺には生きてる意味(金の使い道)がないからな、それに柏にはなにかと世話になってる。たまにはこういうのも大事だと教わっている」

 

「...分かりました」

 

「他に欲しいものはあるか?」

 

「特にはないですね。後は今日の晩御飯の材料を買うくらいですかね」

 

「そうだな、奏斗も待たせてるだろうし会計済ましてくるわ」

 

「お願いします」

 

私はずっと前から叶うはずのない想いをお兄様に寄せていた。それはお兄様に対する恋心だ。だがお兄様は私を家族として見ている

 

「...でも、諦めたくない」

 

いつの間にか私の声は涙ぐんでいた。視界もぼやけていて前が見えない。そんな時

 

「おーい花梨どうしたー?」

 

奏斗さんがやってきた。私を偽名で呼んだ理由はどうやら奏斗さんのそばに人がいたからだろう...

 

「琉太さん...」

 

「かっ花梨?お前なんで泣いてんだ?」

 

「えっ?」

 

慌てて自分の頬を触ってみるとかすかに濡れていた

 

「あれ?なんで...すっすみません」

 

「あの...よかったらこれを」

 

奏斗さんの横にいた人がハンカチを差し出してきた。いつもなら知らない人のなんて使いたくなかっただろうが、今日は何故かあっさり受け取ってしまった

 

「ありがとう...貴女は...」

 

「この間お会いした氷川紗夜です」

 

「何故二人は一緒にいたのですか?」

 

「さっきナンパされた人助けてきたって言っただろ?それが氷川さんだ」

 

「先程はありがとうございました」

 

なるほど、二人はそういうつながりか。氷川さんは奏斗さんのことについて知っているのだろうか?

 

「琉太さんについては知っていますよね?」

 

「えぇ、さっき彼から名前を聞いたわ。驚きね、昨日と今日で四人中三人のXaharのメンバーに会えるなんて」

 

どうやらもう知っているようだ。その時会計を済ませたお兄様がやって来た

 

「あーやっと見つけた。お前ら揃いも揃っていきなりいなくなるなよ...って氷川さん?」

 

「昨日ぶりですね。えーと...」

 

おそらく苗字で呼ぼうとしているがお兄様と私が一緒にいるのでそう呼べないのだろう

 

「私のことは名前で構いませんよ」

 

「俺も名前で大丈夫です」

 

「分かりました。翔さんたちは三人でお出かけですか?」

 

「まぁそんなところですね。貴女はお一人ですか?」

 

「私は妹と一緒に来ていて...あっそろそろ私は行きますね」

 

「えぇ、お気をつけて」

 

「もうナンパされないようにしてくださいねー」

 

「分かっています」

 

そう言って氷川さんは去っていった

 

「さて、咲夜たちは買い物終わったか?」

 

「あぁ。奏斗も終わったみたいだな」

 

「この後どうする?」

 

「今日の晩御飯の材料を買いに行く」

 

「やべー冷蔵庫空だったわ...」

 

「なら今日はうちで食ってけ」

 

「すまん。助かる」

 

「ところで氷川とはどんな関係だ?」

 

「昼間ナンパから助けた」

 

「そういうことか」

 

「妹があのパスパレの氷川日菜ということにびっくりしたわ」

 

「マジか...」

 

「てゆーか氷川さんいきなり呼び捨てにしたなお前」

 

「表面上は優しくしておくだけだ」

 

「まぁお前はそうだよな...ちょっと先行っててくれ。柏と話したいことがあるから」

 

「?分かった」

 

「さて、話の内容は分かるよな?」

 

「...はい」

 

「あの時、お前は確かに泣いていた。理由は言いたくないかもしれないが、できれば言ってほしい。安心しろ、咲夜には言わねえよ」

 

「奏斗さん...」

 

私は今までの悩みを全て奏斗さんに話した。それを聞いた奏斗さんは

 

「なるほどね...確かにあいつは柏を家族として見ている。しかも鈍感(無感情)ときたものだ。お前の気持ちに気付くのは難しいだろう」

 

っ...

 

奏斗さんの言う通りだ。感情のないお兄様が人の気持ちに気付くなんてまず無理だ

 

「でもお前は諦めたくないんだろ?」

 

「...はい」

 

「だったらあいつにお前が感情を与えればいい」

 

「与える?」

 

「あぁ。そうすればいずれお前の気持ちに気付くかもな。最も鈍感だから分からんけど」

 

「けど、どうすれば...」

 

「普段より感情を表に出してみろ。あいつには自称楽しい感情はあるとのこと、ならそれ以外の感情、悲しみや怒りを教えればいい。そのうち誰かに恋をするかもしれない。そしたらお前が恋心についてヒントを教える」

 

「...分かりました。やってみます」

 

「頑張れよ。俺も協力する」

 

「ありがとうございました!」

 

「おう」

 

これでもう一つの目標ができた。忙しくなるだろうがお兄様の感情を、そして私の想いに気付いてもらえるなら何でもする

 

「待っていてくださいねお兄様」

 

 


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