モカside
いつも通り山吹ベーカリーでパンを買い、学校に行くと何故かいつもはいるしょ〜君たちがいなかった
「あっモカ、遅かったな」
あたしが来たことに気づいたともちんが声をかけてくる。それに伴いひ〜ちゃんやつぐも集まってきた
「みんなおっはよ〜。しょ〜君たちは?」
「まだ来てないんだ。いつもならこの時間には来てるのに...」
「祐奈さんに聞けば何か分かるんじゃないかな?確かあの2人姉弟だったよね」
「そうだな。ちょっと聞いてみるか」
その祐奈さんは先生用の机で本を読んでいた。読んでいるのが有名な恋愛小説で意外と思ったのは内緒だ
「祐奈さ〜ん。ちょっといいですか〜」
「ん?モカじゃん。それに巴たちも。どうしたの?」
「翔君たちがまだ来てないんです。何か知らないですか?」
「ん〜私が家を出た頃には既に起きてたし...琉太君からさっき家を出たって連絡入ってたからなぁ」
どうやらもう学校には向かっているらしい
「でもそれも30分以上前の話だから...ちょっとおかしいかも」
「まさか何かあったんじゃ...」
ともちんの言葉で祐奈さんの顔つきが急に険しくなる。何か知っているのかな?
「もしかしたら...いや、たとえそれでもあの子たちならすぐに片付けれる筈」
「祐奈さん?」
「あっごめん。流石にここまで遅いのは確かにおかしいし、巴の言う通り何かあっのかも...」
あたしには1つ思い当たることがあった。夏休みの合宿最終日、買い物の帰りに謎の人に襲われたことだった。あのときのことは今でも鮮明に覚えている。ここで死ぬのかもと言う恐怖があったが、それは一瞬にして別の恐怖で覆い尽くされた。あの日のしょ〜君とりゅ〜君の殺意の込もった目。思い出しただけでも足が震えて来る
「...あのときみたいに黒いコートの人に襲われている、とかですか?」
気がつけばそんな質問が口から出てきていた。ともちんやひ〜ちゃん、つぐはおろか祐奈さんまで呆気に取られている。余程今の質問に驚いたのだろう
「...どうだろうね。こればっかりは私にもさっぱり」
祐奈さんはとぼけるつもりのようだ。でも、実際に襲われたあたしには通用しない
「嘘ですよね〜」
「......」
「顔見れぱ分かりますよ〜。やっぱり祐奈さんは」
「それ以上喋ると首が飛ぶかもよ?」
ゾクッ!
何これ...?身体が動かない。言葉も上手く出てこない。他のみんなも同様に何もはなせなくなっている
「前回も言ったけれど、死にたくないなら無闇に首を突っ込まないことよ。悪いけど、私はいつでも貴女たちを殺す覚悟はできてるから」
「あ...」
あのときと同じだ。しょ〜君たちから感じた殺意。あのときの恐怖が蘇ってくる
「...な〜んてね。流石に翔や琉太君がここまで信じた貴女たちを殺そうだなんてしないわよ。でも、誰かに言いふらしたら許さないから、そのときは覚悟してね?」
「...分かりました」
「さっこの話は終わり!そろそろSHR始まるし、席についときなよ。翔たちについてはあとで確認するから」
この人は危険だ。あたしの第六感的なものがそう伝えてきている。この人を敵に回してはいけない
「しょ〜君...大丈夫かな〜」
「今はどうとも言えないが...少なくとも2人に何かがあったのは分かったな」
「うん。それに、あのときの祐奈さん凄く怖かった」
「あれ以上何か突っ込んでたら間違いなくヤバいことになってたよ...」
やはりあれだけの殺意を向けられれば恐怖の1つや2つは覚えるだろう。口では殺さないと言っているが、あの目を見るとやりかねない
「とりあえず、後で蘭に言っておくね〜」
「分かった」
ところがこの10分後、しょ〜君たちが傷だらけで教室に倒れこんできた。頭や腕、足などから血を流し息を切らしている
あたしたちはすぐに駆け寄った。祐奈さんの指示で1番背の高いともちんがりゅ〜君を、祐奈さんがしょ〜君を支えようとしたその刹那。しょ〜君は祐奈さんの手を払った
それからは酷いものだった。彼から出てくるのは祐奈さんへの罵声のみ。
本来の目的である保健室に連れて行こうとしたとき、1人で行けると言った矢先彼は倒れそうになってしまった。間一髪であたしが支え、断られかけたが必死の抵抗でなんとか同行することはできた
「...何も聞かないんだな。目の前であんなことがあったっつうのに」
急にしょ〜君がそんなことを聞いてきた。本当は聞きたい。けれど、それは聞いてはいけないことだと自制する
「聞いて欲しいの〜?しょ〜君はあまり聞いて欲しくないことなんでしょ〜?だったらあたしは聞かないよ」
「...ありがとな、モカ」
「っ...」
その顔はずるい。そんな笑顔を魅せられたら、こんな状況にも関わらず君を求めてしまう。だが、それは許されることではない
保健室に着いたはいいものの、中には誰もいなくて今日は保険の先生は出張という張り紙があった。あまりのタイミングの悪さに少しイラついてしまう
「巴、とりあえず琉太を椅子に座らせてやれ。俺もちょっと座りたい」
2人を椅子に座らせある程度の手当てをし、ともちんとこれからどうするか話し合っていた
「どうする?あまり事を大きくするわけにもいかないし...かと言ってこのままじゃ2人とも危ないし...」
「う〜ん...やっぱり人を呼ぶしかないんじゃない〜?」
「それなら問題ねえよ。もうすぐ来る」
「「え?」」
しょ〜君がそんなことを言ったその瞬間、保健室のドアが開きなんと此処の理事長が入ってきた
「お久しぶりです、月読命理事長」
「この前会ったばかりじゃない。何をどうすればこの短期間でこんなことになるのよ」
「んなこと言われましてもねぇ...」
妙に仲のいいこの3人は少ない言葉で何があったのかを語っているように見えた。勿論、あたしは意味が分からない
「青葉モカさんと宇田川巴さん、だったかしら?Afterglowのことはよく知ってるわ。2人を連れてきてくれてありがとう」
「いっいえ...あの、大丈夫なんですか?」
「この2人のこと?まぁ人間ハズレの身体能力持ってるし、大丈夫よ」
「ちょっと待ってください。化け物扱いしないでください」
「それもそうなんですが...祐奈先生は」
その名前を聞いた瞬間、しょ〜君の身体がピクッと動いた。今この話をするのは彼にも良くないだろう
「ともちん、今はその話はやめとこ」
「え?あっ分かった」
理事長はあたしがともちんを止めた理由を全て知っているような顔をしていた。おそらく、ある程度の事情は知っているのだろう
「成る程ね。翔が貴女を信用した理由が分かったわ。いい人と出会ったわね」
「ホントですよ。まさかこんな人に会えるなんてね」
「琉太君も、貴方に関する情報は入っているわよ」
「それはどうも」
「それじゃあ、2人はそろそろ戻りなさい。私は3人だけで話したいことがあるから。心配だろうけど、あとは私に任せなさい」
ここで抵抗したところで、また脅されるのがオチだろう。無意味なことをしても彼らに迷惑がかかるだけだよね〜
「「...分かりました」」
「青葉さん、ちょっとこっちに来て」
「?」
何だろう?まだ何かあるのかな?
「今回は本当にありがとう。おかげで手当ても早く済んだわ」
「いえいえ〜。当たり前のことをしただけですよ〜」
「面白いわね貴女は。1つお願いいいかしら?」
「もっちろ〜ん」
「翔をこれからもお願い。たとえ彼の正体が分かったとしても、ずっと彼のそばに居てあげて」
「しょ〜君の、正体?」
「詳しくは言えない。でも、いつか知ることになるわ。でも、彼を裏切らないでほしい。青葉さんやRoseliaの湊さんたちが彼を裏切れば彼は2度と人を信じなくなってしまう。だから、お願い」
「分かりました」
「じゃあ、面倒だけど祐奈をお願いね」
「はい」
彼を裏切らないで、か...あたしがそんなことするわけがない。何度もあたしを救ってくれた彼を、あたしは信じ続ける
たとえそれが地獄に繋がっていようとも
咲夜side
モカたちが帰った後、俺たちは瑠奈さんに事情を話していた
「成る程...だからあんなに傷だらけだったのね。いつもなら平然と顔に血がついた状態で歩いてくるから最初は何事かと思ったわ」
「いつも見てるんすね...まぁ今回はマジで死ぬかと思いましたよ。本格的に潰しに来てますね」
つか見てるんなら何か声かけてくださいよ。毎回無傷というわけじゃないんすよ?
「えぇ。さっき兄さんと彗人さんには連絡を入れておいたわ。今頃緊急で会議が開かれていることでしょう」
「うわぁ...今度飯奢ってあげよ」
「それより、いつまであの子たちに隠すつもり?今回の件でかなりの疑いを持った筈よ。特に青葉さん、あの子は勘が鋭いわ」
「彼奴寝てるくせに頭良いんだよな...最早時間の問題だな」
ホントにモカ怖い。1番恐ろしい
「でも、今のところは話すつもりはありません」
「それは裏切られるのが怖いから?」
「「!?」」
「図星ね。咲夜も奏斗君も、折角ここまで関係を築いてきたもの。もし正体がばれてあの子たちに裏切られたら、もう2度と貴方たちは人を信じないでしょう」
「「......」」
当たり前でしょう。友希那は俺に道をくれた。モカは初めて感情というものを感じさせてくれた。花音は相談に乗ったりしてくれた。イヴはストーカーの件のときこんな俺を心配してくれた
そして、みんなは俺に存在意義をくれた。ただ人を殺すだけの死神から変えてくれた
でも、俺の正体が世界的にも有名な殺人鬼、月読命咲夜だと分かれば幾ら彼奴らでも裏切られるだろう。んなもん、怖いに決まってる
奏斗の方も同じのようで何も言えなくなっていた
「怖いのは当たり前でしょう。だけど、それが分かってるなら最初から信じていない。そうでしょう?」
「「!!」」
「最後まで彼女たちを信じてあげなさい。そして、いつかは正体を明かすこと、いいわね?」
「...分かりました」
「あともう1つ。咲夜、貴方華蓮に随分とやったわね」
「っ...あんな奴今更...」
「私も詳しくは知らない。本人は何も話そうとしないし、奏斗君から少し聞いたくらいだから」
「お前か。瑠奈さんにあの事を話したのは」
「必要だと思ったからだ。悪かった」
反省はしてるみたいだが、別に責めているわけではない
「責めてはいない。奏斗が責任を感じる必要はない」
「咲夜、華蓮を許すつもりはないの?」
「当たり前です」
華蓮としては罪滅ぼしのつもりでやったのだろう。だが、それこそ俺は許せなかった。あのとき、彼奴が少しでも助けに入ってくれれば...
「そう。そもそも...
貴方は華蓮を本当に恨んでいるの?」
「...え?」
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