死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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第50話

意味が分からなかった。俺が華蓮を恨んでいるのか?そんなもの、さっきの状況を知ってるんなら...

 

「言い方が悪かったかもしれないわね。咲夜、本当はあの子を恨んでいないんじゃないの?」

 

「...何故そう思うんですか?」

 

「私だって貴方の性格くらいは把握してるわ。人間不信だった貴方が華蓮を恨んでいるのなら、ここまで関わろうとはしなかった筈。これは奏斗君も分かっているんじゃないのかしら?」

 

「...えぇ」

 

「奏斗?」

 

「数ヶ月前、華蓮さんに咲夜が感情を失った本当の理由を聞いた。お前自身はその理由に気づいていないだろうがな」

 

「どういう...意味だ...?」

 

「まぁいつか分かるだろう。あの相談を受けたとき、俺でも不思議に思ったよ。あれから何度か考えたが、行き着く答えはやはり本当は恨んでいない、それだけだった」

 

「俺は...」

 

「もう1度考えろ。何のために組織に協力したのかを。最初は拒否していたお前が何故やる気を出したのかを」

 

俺がやる気を出した理由...なんだったかな?あのときの気持ちを少し考えてみる。すると、1つだけ思い当たることがあった。少し昔話でもするか

 

 

 

 

♪ ♯ ♭ ♪ ♯ ♭

 

 

 

あれは今から10年くらい前だったか。当時の俺はまだ実戦に年齢を考えて採用されていなかったのでまだ訓練を受けるだけだった

 

俺だって好きで人を殺していたわけじゃない。始めは嫌だった。何のためにこんなことするのか、ずっと考えていた

 

姉である華蓮は既に実戦に採用されていて、重要な戦力として活躍?というか暗躍していた。華蓮の他にも何人か子供はいたが、彼奴だけはズバ抜けて強かった。そのため前線に出ることが多かった

 

そしてそのせいで華蓮は誰よりも怪我が多かった。任務の度に血を流して帰ってきて、俺と奏斗の2人でよく手当てをしていた。華蓮は強がったような笑顔で大丈夫と言っていた

 

俺はそれが嫌だった。他の連中も強いには強いのだが、はっきり言って俺たちより弱かった。毎回怪我をして帰ってくる華蓮を見るのが俺は嫌いだった。どうすれば華蓮が怪我をせずに帰ってこられるかをずっと考えた。結果は俺が強くなり、彼奴を守ることだった

 

それからは嫌々だった訓練も必死にやり、誰よりも強くなった。本格的に採用されるのは6歳からで、その時期は俺の誕生日に近く丁度良かった

 

やがて俺も奏斗も誕生日を迎え、見事に前線に出させてもらうことができた。仕事の際、常に華蓮の近くにいるようにして、彼奴が怪我をしそうになったら助けられるようにしていた。お陰で華蓮が怪我をすることは少なくなり、俺もいつの間にか人を殺すことに抵抗がなくなっていた

 

しかし、庇うことばかりしていれば当然任務を失敗することも増えるわけだ。俺の親は組織の中でもトップに近い階級にいて、その分厳しかった。いや、最早厳しいの幅を超えていたか

 

俺は任務が失敗する度に親から暴力を受けた。暴力で片付けられるほどじゃないが、この際はどうでもいい。ただされるがままにやられて、その場にうずくまっているだけだった

 

そのとき、華蓮はただその光景を見てるだけだった。何か庇うわけでも、止めるわけでもなくぼーっと見てるだけ。それから俺は日々のストレスを華蓮にぶつけることが多くなった

 

俺は華蓮を恨んだ。ずっとそう()()()()()()()。あのとき俺が本当に許せなかったのは、立ち向かう力がなかった()()()だった

 

 

 

 

 

「俺は...ずっと現実から目を背けて来ただけだったんだな。ただ華蓮のせいにして逃げていただけだった」

 

「やっと分かったのね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「礼なら奏斗君に言いなさい。彼のおかげで気づけたのだから」

 

「奏斗、ありがとな」

 

「おう」

 

「さて、今日はどうするの?別に帰ってもいいけれど」

 

「俺は残ります。華蓮に謝りたいので」

 

「あっ忘れてた。あの子なら帰らせたわ」

 

「へ?」

 

え、華蓮帰っちゃったの?

 

「貴方にキレられて相当落ち込んだみたいでね。精神的にダウンしてたから家の方から迎えを呼んで帰らせたわ」

 

「マジですか...」

 

「まぁ今会っても怯えちゃうだけだし、暫く時間が経ってからにしましょう」

 

「咲夜、暫く俺の家に泊まれ。今は華蓮さんを落ち着かせるのが最善だ」

 

「...分かった」

 

俺が蒔いた種だし、今は全ての状況を受け入れるしかないな。俺が密かに決意したそのとき

 

「翔(琉太)!」

 

友希那と蘭が保健室のドアを思いっきり開けて駆け込んで来た。そして俺たちの姿を見るなり友希那は俺に、蘭は奏斗に抱きついて来た

 

「良かった...無事で良かった」

 

「友希那?何で俺が此処にいるの知ってんだ?」

 

「Afterglowの皆から話を聞いた美竹さんが私のところに来て...それで...」

 

よく見ると友希那は泣いていた。何でだよ。何故お前が泣くんだよ

 

「泣くな。お前が泣く必要はない。だから...」

 

「バカ!」

 

「は?」

 

今度は何さ。いきなりバカと言われても困るんだけど

 

「彼女から話を聞いたとき、全身の血の気が引いたわ。生きてることは分かっててももし状態が酷かったらどうしようって...」

 

「友希那...」

 

「私は...貴方に何かあったら嫌なの!貴方がいなくなったら...私は...」

 

段々と感情が戻ってきた今なら分かる。友希那は悲しんでいる。それ以上のことは分からない。だけど、それを和らげることはできる。俺は友希那をそっと抱きしめた

 

「心配かけて悪かった。この性格上、お前が悲しんでいることくらいしか俺には分からない。理由だって分からない」

 

「理由?そんなもの...決まってるじゃない」

 

「?」

 

「貴方は、Roseliaの、私の大切な人。貴方にだけはいなくなってほしくない。だから...もうこれ以上心配かけないで」

 

「...すまない」

 

本当に友希那には敵わないな。こいつらのためにも、俺はやるべきことをやらなきゃいけない

 

「ふふっ。ホント、貴方の周りは素敵な人ばかりね。湊さん、そろそろ離れない?」

 

「え?あ...///」

 

瑠奈さんに言われて今の状況に気づいた友希那は顔を真っ赤に染めうずくまってしまった。奏斗や蘭も何やら温かい目でこちらを見ている

 

「おい。その目をやめてもらおうか。めちゃくちゃムカつくんだよ」

 

「いや〜目の前であんなもの見せられたらね」

 

「お前たちもやってたじゃないか」

 

俺の指摘により今度は蘭が顔を真っ赤に染めた。恥ずかしいなら最初からやるなよ

 

「さぁ、教室に戻るぞ。めちゃくちゃ気まずいけど」

 

「そういえば、今日の担任誰がやるんですか?」

 

「今日は私が面倒を見るわ。あの子も明日には少しはマシになっているだろうから」

 

「了解しました。ほら、友希那たちも帰るぞ」

 

「...えぇ」

 

全員で保健室を出てそれぞれの教室に戻って行く

 

「奏斗、お前今日バイトあったろ。その足で大丈夫か?」

 

「大分歩けるようにはなってきたが、まだキツイな...今日は紗夜の個人レッスンあるってのに」

 

「その怪我で行ったら絶対氷川にしつこく聞かれるぞ。まぁ俺の方は傷も少ないし、今日はシフト入っていないが手伝うとしよう」

 

「助かる」

 

それにしても、華蓮にどうやって謝ろうかな...許されなくてもおかしくないことをしたのだ。生半端な覚悟で謝る訳にはいかない。今晩徹夜で考えよう

 

 

奏斗side

 

 

教室に帰るとクラスの奴からしつこく聞かれたが、なんとか受け流し午後の授業まで終えることができた

 

咲夜と一緒にCiRCLEへ行ったはいいものの、まりなさんに30分、紗夜に関しては1時間近く怪我について説明するのに時間がかかった。それからは何故来たんだという説教。蘭と全く同じことを言われ最終的には泣かれた。2人とも心配してくれるのは嬉しいのだが、何もそこまでしなくても、ねぇ?

 

そんなこんなで一通り作業を終えたので紗夜のいるスタジオへギターを持って入った。とりあえず何曲か聴かせてもらったが、凄く上手くなってた

 

「大分よかったぜ。所々ミスはあったが気になるほどじゃない。まぁ気づく人は気づくし少しずつ直していこう」

 

「えぇ。最初は何からやればいいかしら?」

 

「ん〜...Determination Symphonyが1番ミスが多かったし、それからやろう。自分が苦手だと思うところを重点的に」

 

「分かったわ」

 

やっぱり楽しいな。蘭や紗夜といる時間は何よりも楽しい。だけど、これが長く続かないことは分かっている。その崩壊がもう目の前にあることも知っている。だからこそ、この時間を無駄にする訳にはいかない

 

「そこ!また遅れてる!もう1回やるぞ!」

 

せめて俺が死ぬ前に教えられることは全部教えないとな。それが彼女のためでもある

 

「よし、休憩にしよう」

 

「ハァ...ハァ...」

 

これは随分とお疲れだな。飲み物買って来てやるか。俺は近くの自動販売機でスポーツドリンクを2本買い、1本を紗夜に渡す

 

「ありがとう。今日はいつもよりも厳しいわね」

 

「嫌ならやめるか?」

 

「誰もそんなことは言ってないわよ。休憩も程々にして早く始めましょう」

 

「俺が持たねえ...無理はするなよ。さっきよりも厳しく行くからな。死ぬ気でやれ」

 

「分かったわ」

 

さぁ、紗夜にもそれなりの覚悟は決めてもらうぞ。俺がいなくてもRoseliaのギタリストとして咲き誇れるためにも

 

宮本奏斗だとバレて離れ離れになったとしても




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