死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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修学旅行前に投稿しようとしたらめちゃくちゃ短くなってしまいました。申し訳ありません


第51話

咲夜side

 

バイトを終えて、無事に家に帰ることができた。今から数日分の着替えを取りに行かなきゃならない。その間に事情を華蓮や柏に奏斗に話してもらう

 

「あっお帰りなさい、お兄様。それに奏斗さんも」

 

既に帰って来ていた柏が丁寧に迎えに来てくれた。エプロンをしている辺り、今日は彼女が晩御飯を作るのだろう

 

「あの、先程からお姉様の様子が変なんです。私が帰って来た頃には既に家にいたし、とても辛そうな顔をしていて...事情を聞こうとしても話したくないの一点張りで」

 

柏の言葉に酷く罪悪感を覚える

 

「そのことなんだが、俺は暫く奏斗の家に泊まる。事情は奏斗から聞いてくれ」

 

「わっ分かりました」

 

「俺は準備してくる。後は頼んだぞ」

 

「了解」

 

奏斗に一言告げ俺は自分の部屋に向かう。途中華蓮の部屋の前で止まり耳を澄ますと、彼女は泣いていた。それに、唯ひたすら、ごめんなさいと謝罪している声も聞こえる。謝るのは俺の方だ。華蓮を責め楽になろうとしていたのだから

 

「できれば早めに謝りたいんだがな...体育祭も近づいてるし」

 

担任である華蓮の状態が戻らなければ当然うちのクラスの練習も滞る。かと言って無理に俺が華蓮と会えば間違いなく彼奴に負荷をかけてしまう

 

「取り敢えずは華蓮が少しでも回復するのを待つしかないか...柏に協力してもらうかな」

 

俺がいない間に少しでも彼奴の傷を癒すためにも柏には協力してもらわなければならない。今となっては早く元通りの関係に戻したいんだが...

 

「原因である俺が望むことじゃないなこれ。今はできることをするか」

 

部屋のクローゼットから着替えを何着か取り出し、旅行用の鞄に詰めると、俺は奏斗たちが話しているであろうリビングに戻った

 

「準備はできた。事情は話せたか?」

 

「あぁ。柏も出来る限りの協力はしてくれるみたいだ」

 

「お兄様やお姉様のためですから。私としてもお二人には早く仲直りしてほしいですし」

 

「ありがとな。柏は華蓮が少しでも回復できるようにそばにいてやってくれ。おそらく学校に復帰するのも時間がかかるだろうし」

 

「任せてください」

 

「じゃあ後は頼んだぞ」

 

「はい」

 

「んじゃ行こう。晩御飯の準備もしなきゃいけないし」

 

「なんだったら持って行きます?今日はお姉様の好きなカレーにしたんですけど、作りすぎちゃって」

 

「ホントか?じゃあありがたく貰っておこう」

 

春までは全く料理をしてこなかった柏だが、日々の練習のおかげで今ではプロ並みの腕前だ。飲み込みが速すぎる

 

ある程度の量を別の鍋に移し替えそれを受け取ると、俺たちは隣である奏斗の家に入った

 

「よし。咲夜は空いてる部屋適当に使ってくれ。ほぼ全ての部屋空いてるがな」

 

「何故に家を2棟も建てたんだよ?俺ら3人で住めばよかったろうに」

 

「多分、おばさんの親切心だろう。ありがたく受け取っておこう」

 

「そうだな。じゃあ早く飯食べるか。それとも風呂先にするか?」

 

「腹減ったから飯が先。風呂から上がったらギターの練習する」

 

「此処他の楽器置いてあったか?」

 

「一通りは揃ってるからお前も好きに練習しろ」

 

「サンキュー。でも今日は華蓮への言葉を考えておくよ」

 

「...そうか」

 

それが俺なりのケジメだ。この件に関しては悪いのは全て俺なんだからな

 

 

柏side

 

 

まさか私のいないところでこんな大事になっているとは思いもしなかった。学校では私は中等部だから何も知らされないしスマホの電源も切ってあったのでそもそも連絡が来ない

 

家に帰ったらお姉様が死んだような顔で部屋で座り込んでいて、事情を聞こうとしても話してくれなかった。数ヶ月前に相談を受けた日から、本当はお兄様がお姉様のことを恨んでいないとは薄々勘付いていた。でなければ彼は関わる筈がない

 

出来上がったカレーをお姉様の部屋の前に持って行き、ドアにノックをして話しかける

 

「お姉様、夜ご飯を持って来ましたよ」

 

反応がない。寝ているのだろうか?ボソボソと聞こえた声も聞こえないし...どうしようか考えていると

 

「そこに置いておいて」

 

暫くの間があってから返事が来た。私は言われた通りにカレーを床に置き、話を持ちかける

 

「お姉様、食べ終わったら1度お話をさせてください。奏斗さんから事情は聞いています。お姉様が知らないこともあります。だから...」

 

「...咲夜は今何処にいるの?」

 

「お兄様は暫く奏斗さんの家に泊まるそうです」

 

「そっか...やっぱり嫌われちゃったか」

 

「それは違います。そのことも含めて後でお話をさせてください。1時間後、無理矢理でも貴女の部屋に来ますので。鍵を閉めても蹴破りますから」

 

後半は脅しみたいになってしまったが、こうでもしないとお姉様は話をさせてくれないだろう。一応許可は降りたのでリビングに戻り1人でカレーを食べる。今思うと、1人で食べるのは初めてかもしれない

 

昨日まで仲の良かったあの2人がこうも簡単に引き裂かれるなんて...日常とは壊れやすいものだ

 

少し速めのペースで食べ終わり、風呂に入る。中で話す内容を決めて、のぼせないうちに出ると時間が来るまで洗い物などの家事を済ませた

 

そして、約束の時間がやって来た

 

「お姉様、入ってもよろしいですか?」

 

「...いいよ」

 

中に入るとそこには、ボサボサの髪の毛にさっきまで泣いていたのか目の大きく腫れたお姉様がいた

 

「...お姉様。今から話すことは貴女にとって辛いことも含まれているでしょう。ですが、2人のわだかまりをなくすにはお姉様が知らなければならないこともあるのです。聞いていただけますか?」

 

「...分かった」

 

まだ弱々しいが、その目には覚悟ができていた。私は、全てを話した

 

 

華蓮side

 

 

柏の話には私が驚くようなことばかりだった。咲夜が本当は私のことを恨んでいないということ。私のことを気遣って奏斗君の家に行ったこと。彼が私に謝ろうとしていること、全てを

 

それを聞いた私は、止まりかけていた涙がまた出てきてしまった

 

「何で...グスッ...うあぁ...」

 

何で彼が謝らなくちゃいけないんだ。悪いのは全部私だというのに。彼を傷つけたのは紛れもない私だ。傷ついて当然のことをしたのに...

 

「お兄様は、とても後悔していました。自分の本心から逃げていたことを。自分を保つためにお姉様を責めたてたことを。だけど、お兄様はそれと向き合い変わろうとしています」

 

「......」

 

「今すぐにとは言いません。それでも、お兄様はお姉様を待っています。いつか、いつも通りの関係に戻れることを望んでいます。この話を聞いて、少しは言いたいことができたんじゃないですか?」

 

「...うん」

 

私の返事に柏はとても優しい表情を浮かべた

 

「話は以上です。本来なら今すぐ行ってほしいところですが、今はまだお姉様の回復が最優先です。しっかり休んで、元気な姿をお兄様に見せてあげてください。それが今お姉様にできることです」

 

「うん。本当にありがとう、柏」

 

まだ納得いかないところはある。でも、彼の本心を知ることができた以上、やることはただ1つ

 

「明日の夜、彼と2人きりの時間を作ってほしい。2人だけで話がしたい。お願いしてもいい?」

 

それを聞いた柏はとても嬉しそうな顔で

 

「勿論です。任せてください」

 

皆がそれぞれの覚悟を決めてきたんだ。私もそれ相応の覚悟を決めなければならない。話を聞く限り、彼は謝ってくるだろう。だけど、絶対に謝らせない。10年間の罪を、全てを乗せて彼と話す

 

彼は許してくれるだろうか?こんな私を受け入れてくれるだろうか?考えれば考える程不安になる。だけど、逃げちゃダメだ。逃げればあのときの二の舞だ

 

 

 

 

待っててね、咲夜。私頑張るから、最後まで見届けてください




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