死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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どうもです。新規紗夜さんありがとうございます!


第59話

刃side

 

奏斗を倒し、少し疲れたので休憩していた俺はこの後のことを考えていた

 

咲夜はもう既に動けなくなっている筈。柏が戦ったところで俺には勝てない。あの刑事が来る前に咲夜を始末して此処から逃げるとするか

 

そんな余裕に浸かっていたとき

 

 

 

ゾクッ!!

 

 

 

!?この殺気...まさか!

 

急いで殺気がした方向を見ると、咲夜が()()()()と同じ雰囲気を出してこっちに歩いて来ていた。巨大な鎌を持って歩いて来るその姿はまさに死神そのもの。いくら彼奴が手負いでも覚醒した彼奴には勝てない

 

「さて...覚悟はいいか、クソ親父」

 

たった一言で華蓮や奏斗の手当てで騒いでた連中が一瞬で静かになった。今の奴には明らかな怒りと殺意がある。こうなったらもう逃げられない

 

「ふん。手負いは黙って死ね!」

 

あのときの代償はしっかり払ってもらうぞ、咲夜

 

 

 

咲夜side

 

 

 

クソ親父と斬り合いを始めてどのくらい経っただろうか?最低でも30分くらいやったのではないだろうか。この前受けた傷も広がってきたせいで血が出過ぎたためか意識もはっきりしていない

 

「ハァ...ハァ...ゲホッ」

 

「おいおいどうした!?高校生にもなってその程度か!?まだガキの頃の方が強かったぜ!」

 

うるせえな...さっさと死んじまえばいいのによ。いや、俺が死んだ方が楽かもな。いっそのこと死んで楽になろうか...

 

 

 

 

「翔!負けてんじゃないわよ!」

 

 

 

友希那?

 

「約束したわよね!一緒に頂点に立つって!こんなところで死ぬなんて許さないわよ!」

 

「ははは...好き勝手言いやがって。どの道消される可能性高いんだけどなぁ...でも、友希那の命令となれば従うしかねえな」

 

体力も殆ど残ってない。おそらく、次で決めなければ勝てないだろう。ここで決める!

 

「死ね!咲夜!」

 

「お前がな」

 

月読命刃。お前には無限の恨みと...

 

 

 

 

僅かな感謝がある

 

 

 

 

ガキの頃、幼稚園などに行けず勉強をすることができなかった俺たちに勉強を教えてくれてありがとう

 

俺たちに戦い方を教えてくれてありがとう

 

俺たちに人を守る力をくれてありがとう

 

そして、殺しても足りないくらいのクソ野郎でいてくれて、ありがとう

 

 

俺は奴の懐に入り細切れにしてやった。それと同時に友希那たちが来て抱きついてきた

 

「よかった...本当によかった...」

 

「ありがとう、友希那、モカ、花音、イヴ。とりあえず、痛いから皆離れてくれるとありがたい」

 

抱きつかれると特に肋が痛いんだよ。痛みには慣れたと思っていたが、時間の経過とともに薄れたみたいだな。お陰でこのザマだよ

 

「終わったか、咲夜」

 

後ろから声をかけられて振り返ると氷川や蘭に支えられながら歩く奏斗がいた

 

「奏斗か。生きてたのかよ」

 

「腹貫かれたくらいで死ぬかよ。お前こそ肋折れて何で生きてんだ」

 

「俺は割としぶといらしい。それと、すまなかった。俺がもっと早く動けてればこんなことにはならなかったのに」

 

「...気にするな。もう迎えは来てるし、華蓮さんは連れてってもらったよ」

 

「彼奴にも後で謝らないとな...ゲホッ!!」

 

やっべ...意識が...

 

その場に倒れる中友希那の顔を見たところで俺の意識は闇に落ちた

 

 

 

友希那side

 

 

 

翔が倒れた後、琉太が何かの合図をした。その瞬間謎の黒服の人たちが彼らを連れて行ってしまった。最初は弦巻さんのところか思ったが、今は避難先である花咲川にいる筈なので違うだろう。そして

 

 

 

 

あれから2週間が経った

 

 

 

私たちガールズバンドの皆は、目の前で人が殺されたショックから精神的にダメージを負った人が多く、弦巻さんのところの病院で1週間ほど入院となった

 

特に美竹さんや紗夜、青葉さんなどの彼らに好意を持っていた人たちは誰よりもダメージが大きく、退院した後も暫くは部屋から出ることすらできなかったようだ。私も、後に翔が人を殺したという現実に立ち直れなくなってしまった

 

事件があった羽丘と花咲川は1週間の休校をすることとなった。直接巻き込まれた私たち25人は3週間休むよう学校の方から言われた

 

お父さんから聞いたことなのだが、血で染められた羽丘のグラウンドはたった2日で元に戻ったそうだ

 

更に、何よりも不可解なことがあった。これだけ大きな事件にも関わらず、どのニュース番組でも取り上げられていなかったのだ。私たち以外はステージジャックを見ただけだが、それだけでもニュースにはなる筈。でも、その欠片もなくこの事件は闇に消された

 

最後に翔たちだ。あれから2週間、行方が分からなくなってしまった。弦巻さんに頼んで黒服の人たちに探してもらっているが、未だに見つかっていない

 

「翔...何処にいるのよ」

 

私は今は家でお昼ごはんを食べていた。今日は久し振りにRoseliaで練習する日なのだが、彼がいないだけでこんなにつまらなそうだ

 

「友希那、彼もきっと何処かで休んでいるよ。今は彼がいつでも帰ってこれるように待ってなさい」

 

「お父さん...そうね、リーダーの私がしっかり守らないと。彼の居場所を」

 

「今日の練習も無理はするなよ。暫くやっていないんだし、感覚を取り戻す程度でやった方がいい」

 

「分かったわ。ありがとう」

 

そうだ。私が彼を待たなくてどうする。いつまでも引きずって練習ができないなんて、帰って来た彼に会わせる顔がない

 

食欲も以前よりは戻ってきて、しっかり食べ切ることができたので支度をして家を出る。CiRCLEには既に皆来ていた。彼女たちと会うのも2週間振りね

 

「ヤッホー。久し振り、友希那」

 

「久し振りリサ。他の皆も、2週間振りね」

 

「えぇ。今日は感覚を取り戻す程度でゆっくりやりましょうか」

 

「そうね。それじゃあ早速始めるわよ」

 

少なくとも普通に会話ができるまでは皆回復しているようだった。だけど、いつもテンションが高いあこやリサも今日は静かだ。無理もないわよね

 

スタジオに入ると各自楽器を準備してチューニングを済ませた

 

「まずは何曲か合わせてみましょう。今日は久々の練習でミスも多いだろうし、いつもみたいにとやかく言うつもりはないわ。落ち着いて、ゆっくり直していきましょう。翔、貴方も...あ...」

 

しまった。ついいつもの感じでやってしまった

 

「...ごめんなさい。Legendaryからやるわよ」

 

 

 

〜♪〜

 

 

 

あれから何曲か合わせたが、やはり感覚は鈍っておりミスが多かった。それに先程の私の言葉で集中力が低下してしまった

 

「少し休憩にしましょう。紗夜、ちょっとお話しないかしら?」

 

「構いません。外のカフェで話しましょう」

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

「紗夜、琉太から連絡とかは来てるかしら?」

 

「1度も来てません。私の方から何度も電話してみたのですが、全く出てくれなくて...美竹さんも同じみたいです」

 

「そう。私も同じね。青葉さんもやってみてくれてるらしいのだけど結果は変わらないわ」

 

「やっぱり...夢、じゃないんですよね」

 

「っ!」

 

夢。その言葉に反応してしまう。私だって...

 

「この2週間、ずっとあの事件が夢ならばと思っていました。でも、何度連絡しても出てくれない琉太の反応を見て...あれは現実だったんだと突きつけられました」

 

「ずっと信じていた相手が、私たちを守ってくれた彼が、実は人殺しだったなんて...私は...どうすれば」

 

「紗夜、貴女の気持ちはよく分かる。私だって現実から目を背けていたのだから。だけど、いつまでもでも逃げちゃダメ。私たちで彼らの居場所を守らなきゃならない」

 

「彼らの居場所...」

 

「えぇ。彼らがいつでも帰ってこれるように、私たちはいつまでも待つ。それが今できることよ」

 

「...そうですね。私たちがしっかりしなければ」

 

「さぁ、そろそろ練習に戻りましょう。こんな状態で戻って来られたら怒られてしまうわ」

 

「そうね。お互い頑張りましょう」

 

紗夜はもう大丈夫そうね。あとの3人も、リーダーとして私が何とかしないと

 

「...湊さん?」

 

「美竹さん、どうして此処に?」

 

「どうしてって、練習してたんですよ。琉太がいつでも戻って来れるように」

 

「ふふ。考えてることは同じみたいね」

 

「あたしは帰って来てくれると信じています。だから、その...湊さんも信じてあげてください」

 

「言われなくても分かっているわよ。ありがとう」

 

「それでは、あたしは戻りますね。練習頑張ってください」

 

「貴女たちも頑張ってね」

 

美竹さんも彼女なりに待っているのだ。琉太を想う気持ちが彼女を強くしている。私も負けてられない

 

この後の練習は調子が良く、感覚も大方戻ってきた。あと2、3回はゆっくりやった方が良さそうね。片付けが終わりスタジオから出ると、同じタイミングでAfterglowが出てきた

 

「お疲れ様。調子はどうだったかしら?」

 

「だいぶ良くなりましたよ。Roseliaは大丈夫ですか?」

 

「えぇ。まだ完全には戻っていないし、あと2、3回は感覚を戻す練習をするわ」

 

暫く雑談をして帰ろうとしたとき、外のカフェにある人を見つけた

 

「あの人...もしかして...」

 

「友希那〜どうしたの?」

 

「今彼処で珈琲を飲んでる背の高い人、多分警察よ。それも、翔と一緒に話していた」

 

『!?』

 

何故こんなところにいるのだろうか?向かいの席に買い物袋があるのを見たところ、買い物帰りだと思うのだけれど...いや、そんなことはどうでもいい。彼らの居場所を聞くいい機会だ

 

「少し話をしてくるわ。あの人が私のことを覚えているかは分からないけれど、折角のチャンスだから」

 

「あたしも行きます。というより、皆で行きましょう」

 

皆の目を見ると、その瞳には覚悟を決めた強い意志が見えた

 

「分かったわ。行きましょう」

 

警察の人に近づくと気配を感じたのか、目線だけこちらに向けてきた。一瞬驚いた顔をしていたあたり、私たちのことを覚えているみたいね。意を決して話しかける

 

「少しいいかしら?彗人さん、だったかしらね」

 

「この前1人で来たと思ったら今度は10人かよ。何の用だ?」

 

「どうせ分かっているのでしょう?翔たちは何処にいるの?」

 

「それを俺が簡単に答えるとでも?」

 

「答えないなら答えるまで聞くだけよ」

 

「めんどくさ...まぁどうせ知らないだろうしいいけど、彼奴らなら今頃家でのんびりしてるよ。ていうか今外出禁止だし」

 

「案内してもらうことは?」

 

「できるわけないだろう。外出禁止って言ったら買い出し押し付けやがって...人使い荒すぎ」

 

答える気は無いらしい。でも、彼らが生きていることは確認できた。皆も少し安心した様子だ

 

「というわけで今日は帰りな...電話かよって今?あんたらちょっと待ってろ。もしもし」

 

誰からかしら?待ってろと言っても相手が分からないのに...

 

『遅い。何してんだ』

 

「カフェでゆっくりしてたら例の連中に絡まれた。お探しの様子だが」

 

『別に会うのは構わんけど...話さなきゃならんし。蘭と変わってくれ』

 

「蘭?誰?」

 

『前髪に赤メッシュがある人。いるんじゃねえの?』

 

「分かった。おい、そこの赤メッシュ。変われだとよ」

 

「え?あっうん...」

 

美竹さんが呼ばれ、彗人さんと変わる

 

「もしもし...」

 

『蘭か?』

 

「琉太!?今何処にいるの!?2週間もどっかいなくなって何してたの!?」

 

『ちょっと落ち着け。質問は1つずつにしろ』

 

「ハァ...ハァ...今何処にいるの?」

 

『家。2週間外出禁止喰らってな。明日からは外に出れるよ』

 

「2週間何してたの?何回も連絡したのに...」

 

『そこはすまなかった。こっちも色々対応に追われててな。そっちに構ってる暇が無かったんだ』

 

「そう...とりあえず、生きててよかった」

 

『死なないって言ったじゃん。蘭、お前に頼みがある』

 

「何?」

 

『明日CiRCLEに5バンド、25人全員を集めてくれ。そこで全てを話す。隠していたこと全部、お前たちに話す』

 

「分かった。無理矢理にでも連れていく」

 

『じゃあな。彗人さんに早く帰るよう言っておいてくれ』

 

「うん、また明日」

 

どうやら終わったみたいね。美竹さんの顔には安心と緊張があった

 

「彼は何て?」

 

「明日CiRCLEに25人全員を集めて欲しいそうです。そこで全てを話すと」

 

「分かったわ。まりなさんにも協力してもらいましょう。皆も連絡のつく人はお願い」

 

ようやくだ。ようやく彼らのことを知ることができる。彼らが何故命を狙われることになったのか。翔の過去も知ることができる。だけど、何かが引っかかる

 

さっき電話に出たのは琉太だ。翔はいなかった。その場にいたのかもしれないけど、それなら私か青葉さんに声を掛ける筈

 

翔、貴方は何処にいるの?

 

 




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