死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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どうもです。今回は奏斗、蘭、紗夜がメインです


第60話

蘭side

 

 

 

琉太と電話した翌日、まりなさんにも協力してもらって25人全員を集めることができた。今はCiRCLEの前で心の準備みたいなのをしている

 

「......緊張する」

 

「仕方ないわ。皆混乱しているし、事情を1番理解している私や美竹さんは特に神経質になりやすい」

 

湊さんが緊張でガチガチになっているあたしを宥めてくれる。何か悔しいな...

 

全員準備を済ませいざ中に入ろうとしたとき、中から昨日の警察の人が出てきた

 

「もう来てたのか。全員揃っているか?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

「分かった。んじゃ中に入れ。先に忠告しとくが、下手に喋らない方がいいぞ。今の彼奴らを怒らせたらその瞬間首が飛ぶ可能性あるからな」

 

警察の人はの言葉で全員が固まってしまった。琉太のことだし流石にそれはないと思いたい

 

「全く...今から話をするのに怖がらせてどうするのよ。幾ら何でもその子たちは殺さないわよ」

 

中から祐奈さんが身体中包帯で巻かれた状態で出てきた。前に会ったときよりも表情はどこか氷のように冷たい。瞳も輝きは失われ無機質なものになってしまっていた

 

「殺気丸出しで歩いてきたお前の台詞じゃねえよ。殺気の塊2人に囲まれる柏の身にもなれ。彼奴凄え胃が痛そうにしてたぞ」

 

「別に殺気を出してるつもりはないのだけど...まぁいいわ。久し振りね皆。あれから大丈夫だったかしら?」

 

「最初の1週間は入院して心の回復をさせてもらいました。今は大分良くなってると思います」

 

この中でXaharの皆や彗人さんと1番親しいのは湊さんだ。彼女が話した方がスムーズに進んでいいと思う。あたしなんか緊張で何も話せそうにない

 

「そう...あのときは変なもの見せてごめんね。本当は全員気絶させてから殺るつもりだったんだけど...時間がなくて」

 

そっそんなことしようとしてたんだ...やっぱりこの人は怖いな

 

「あの、琉太はいますか?彼に呼ばれたんですけど...」

 

「中にいるわよ。さっきまで野菜の見分け方教えてもらってたところ。貴女たちも良ければ教えてもらいなさい」

 

「けっ結構です」

 

これから重い話をするというのにこの人随分と呑気だな...いや、そう見せているだけかもしれない

 

「おい、早く行くぞ。俺も今日はあまり時間がない」

 

「分かってるわよ。それじゃあ行きましょうか」

 

 

 

紗夜side

 

 

 

祐奈さんに連れられて私たちはCiRCLEのラウンジに入った。中には居心地悪そうにソワソワして座っている花梨さん、そして琉太がいた。彼は一目見ただけで分かるくらい辺りに殺気を放っていた

 

「連れて来たわよ、まずは挨拶しなさい」

 

「ご苦労様です。皆、久し振りだな」

 

「琉太...!」

 

彼の姿を確認した美竹さんは飛び出し彼に抱きついた。彼はそれを受け止め、優しく美竹さんを包み込んだ。先程まで殺気しか浮かんでいなかった顔とは打って変わり、今はとても暖かな表情になっていた

 

「蘭、久し振り。今まで心配かけて悪かった」

 

美竹さんは彼を抱きしめる力を強めただひたすら泣き続けていた。そういう私も彼が生きていたことへの安心感に今すぐ泣きたい気分だった。すると彼は私の方へ視線を向けた

 

「紗夜も、今まで悪かった」

 

「本当よ...ずっと、貴方が帰ってくるのを待っていた」

 

「ごめん。下手にお前たちと連絡を取ってこれ以上巻き込みたくなかった。見て分かると思うが、俺たちもボロボロだ。今の状態じゃ紗夜たちを守れない」

 

「今日全てを話したら...俺たちは消える。といっても、何処かに隠れて暮らすだけだが」

 

「え...」

 

「だから...今のうちに言いたいこと、ぶつけたいこと、話しておけ」

 

そんなもの...幾らでもあるわよ。本当は全部言ってやりたい。だけど、これだけは必ず言ってしまいたい

 

私は彼に飛びつきそのまま身を委ねた

 

「生きててよかった...私たちを...守ってくれてありがとう」

 

「紗夜も、元気かどうかは分からんがよかった。ありがとう」

 

琉太は私を優しく受け止め、背中を摩りながら何も言わずに宥めてくれた。私が泣き止むと彼は全員をソファーに座らせた

 

「さて、何から話すべきか...とりあえず、何か聞きたいことがある奴挙手」

 

彼がそう言うと、湊さんが真っ先に手を上げた。おそらく、翔さんについてだろう

 

「はい、()

 

!今、湊さんのことを呼び捨てにした?今までは猫を被っていたということね。そんなのを気にすることもなく湊さんは質問をした

 

「私が聞くと言う時点で察しはつくだろうけれど、翔は何処にいるの?」

 

「!!っ...」

 

「かっ花梨?」

 

「いや、気にしなくていい。そのことについては後で話そう。だが、湊やモカたちにはそれなりの覚悟を決めてもらうからな。次」

 

この2週間ずっと聞きたかったことがあった私はすぐに手を挙げた。彼は他にいないことを確かめた後、私を指名した

 

「私たちを襲った黒いコートの人たち。そのリーダーと思われる人が貴方たちのことを別の名前で呼んでいた。月読命咲夜。月読命華蓮。月読命柏。宮本奏斗。そして、この名前に私は心当たりがある。というより、此処にいる大半の人は知っていると思うけど」

 

「...今聞いた名前に心当たりがある奴、聞いたことがあるだけでもいいから挙手」

 

結果は全員手を挙げた。やはり、この名前は全国的に有名ね

 

「驚いたな。まさか全員知っているとは」

 

「まぁあの時は相当なニュースだったし、知っていてもおかしくはないわ。まずはそれから話してあげなさい」

 

「貴女も少しは喋ってくださいよ...まぁいいや。全員知っているなら話は早い。今言った4人のうち柏を除いた3人は10年前、世界的に有名だったある殺し屋組織を壊滅させた。その組織の名は『イチイ』。ある花の名前で花言葉は...『死』だ」

 

「確か...その組織は主に殺人を犯した人を殺して回っていたわよね。そのため世間ではイチイを支持する声もあった」

 

「詳しいな白鷺。そうだ。イチイは殺人を犯した人、闇の世界で動く別の組織、裏でろくでもないことをする政治家を殺し回っていた。目的はよく分からんが」

 

「イチイでは子供もいたと聞いたことがあるのだけど...流石に嘘よね?」

 

「いや事実だ。大体30人くらいいただろう。その中にはさっきの4人もいた」

 

「何でその4人は組織を壊滅させたの?」

 

「1人はやってないけどな。最初は命令に従うまま人を殺していた咲夜、奏斗、華蓮だったがそのうち何のために殺しているのか分からなくなった」

 

「そして咲夜は、奪い奪われるだけの世界に絶望した。弱者は強者に喰い尽くされる。くだらない。そう思い、段々世界を憎んだ」

 

「思い立った咲夜は華蓮と奏斗と一緒に暴れ回り、仲の良かった友達、幹部などの連中を皆殺しにした。皆が寝てる夜中に決行したのよ。事前に警察にも連絡したから、トップに立つ人間だけ生かして警察に突き出したわ」

 

「その後、暫く牢屋に入れられた柏も入れた4人だったが、名前を変え世で生きることになった。今でも生きてるよ」

 

「1ついい?」

 

「今井か。何だ?」

 

「月読命って...世界トップの財閥のあの?」

 

「その通り。弦巻グループじゃ歯が立たないくらいの大財閥だ。新しく住むことになった家も、3人が無理を言って頼み込んだ。華蓮は財閥の元で暮らすことになったが。とりま4人についてはこの辺かな?」

 

「琉太、アタシも聞きたいことがある」

 

「何だ、巴」

 

「何で、そんなに詳しいんだ?何でそんな昔のことを知っているんだ?変えられた名前も知っているんだろ?」

 

「そりゃ勿論。ていうか、今の流れで分かるだろ?」

 

「その最悪のケースを想像したくないから聞いてんだよ!!」

 

宇田川さん、巴さんがテーブルを思い切り叩いた。部屋に沈黙が流れる

 

「...今の話を聞いて分かっただろう。改めて自己紹介しようか。俺の名前は宮本奏斗。10年前、イチイを壊滅させた奴の1人だ」

 

「私も自己紹介しとくわね。神道祐奈改め月読命華蓮よ。よろしくね」

 

「......月読命柏」

 

「そして此処にはいない神道翔が月読命咲夜だ」

 

これが、彼らの正体。本当の姿。幼かった私たちでさえ知っていた殺し屋は、すぐ隣にいたのだ。それにしても、先程から花梨さん、いや、柏さんの様子がおかしい。今にも壊れてしまいそうな表情だ

 

「大方俺たちの過去については話した。細かいこと聞きたいならまた今度個人的に聞いてくれ。お前たちには迷惑をかけたし、最大限答えよう。それまでこの街にいるか知らんが」

 

「私たちが貴女たちにこのことを話すということの意味を理解しなさい。これを知った貴女たちはもう後戻りはできないということを。闇を知ってしまったことを」

 

「自分だけで抱えきれないなら家族に話すのもアリだ。だが、そうなった場合俺たちの居場所はなくなるだろうがな」

 

『......』

 

「俺たちは皆を信じて全てを話した。誰にも話さないと信じた。もし誰かに話したなら、話した相手もろとも消えてもらう」

 

彼の一言で全員の顔が恐怖で染まった

 

「俺たちもそんなことはしたくない。だから、頼んだぞ。これ以上、人に裏切られるのは御免だ」

 

「前にもあったの?」

 

「最初はそれぞれ親戚に引き取られたんだ。事情を知っていたためか案外あっさり引き受けてくれたよ。俺たちはそれに望みをかけた。だが...」

 

「そのことで周りから非難されていることを知った瞬間、連中は俺たちを捨てた。唯一見捨てずに居場所を作ってくれたのは華蓮さんたちの祖母や叔母さんだった」

 

「そんな...」

 

「その時知ったよ。人は自分の都合の悪いことになると何もかもどうでもよくなって保身に図るって。思い出しただけで腹が立つ」

 

この時皆はそれぞれ何を思ったのだろうか?私は彼らの立場だったならと想像しただけで絶望感を感じた。今の彼に必要なのは希望しかなかった

 

「琉太。いや、奏斗」

 

「蘭?どうし...た...?」

 

美竹さんはいきなり彼に抱きついた。それも、先程より力が強い

 

「辛かったよね...今までずっと...苦しかったよね...ごめんなさい...」

 

「お前に何が分かる?同情のつもりならやめろよ。無意味な(虚しい)だけだ」

 

「確かにあたしには分からない。あたしが奏斗だったら、もう既に壊れてたと思う」

 

「だから...何だってんだよ」

 

「あたしたちが一緒にいたのはたったの半年だけ。それでも、奏斗の心の支えにはなれた筈。少しでも楽にしてあげられた筈なのに...何もできなかった」

 

「合宿のあの日から何かを抱え込んでいることは分かった。毎日どうやったらできるのか考えた。でも、何も知らないあたしでは無力だった」

 

美竹さんの言葉に奏斗は段々驚きの表情に変わり、力を失ったかのように膝から崩れた

 

「でも、やっとあんたのことを知れた。あんたを支える道が開けてきた。今ならできる。もう、我慢しなくていいんだよ」

 

「...クソ...何で...」

 

彼の目からは透明な涙が流れ出ていた

 

「分かり合うことは難しいけど、分かち合うことはできる。これからは...あたしが奏斗を支える。奏斗があたしにしてくれたことを、それ以上のことをする」

 

「奏斗はもう1人じゃないよ」

 

「クソ...クソ...」

 

限界に達した彼は美竹さんを抱きしめ泣いた。声こそ小さかったものの、今までの憎しみ、悲しみに包まれた彼の想いは吐き出され彼は涙が枯れるまで泣いた。近くにいた華蓮さんや柏さんも目には涙が浮かんでいた。落ち着いた彼は美竹さんから離れた。その時美竹さんが残念そうにしてたのは気のせいではないだろう

 

「...みっともないところ見せたな。ありがとう、蘭」

 

「うん...///」

 

奏斗は美竹さんに礼を言うと彼女の頭を撫でた。美竹さんは嬉しそうに目を細め頰を赤らめた。こんな状況でも羨ましいと思ってしまう自分が恨めしい

 

「俺たちの呼び方だけど好きにしていいぞ。人前で本名言わなきゃそれでいい。使い分けができそうにないなら今まで通りに呼んでくれ」

 

「私もそれでいいからね」

 

「さて、次は何を話そうか?もう大方話したんだけど。あっそういえば、俺らって何処に引っ越すの?やっぱ海外の方がいいかな?」

 

「当たり前じゃない。今回の件で全国の警察に目をつけられたのよ?只でさえ顔が割れてるのに国内はまずいでしょ」

 

やはり、此処を出てしまうのね...行かないでと言いたいのにその言葉が口から出てくれない。彼を引き止められるのは今しかないのに。すると、今まで黙っていた柏さんが口を開いた

 

「お2人とも話してるところ悪いのですが...海外逃亡は正直やめた方がいいかと思います。そうでしょう?彗人さん」

 

「あぁ。国内にいた方がマシだな。というか此処が1番安全」

 

「何で?」

 

「実はだな...お前ら全員世界的に目つけられてるんだよ。特にFBIとCIAは」

 

「「...はい?」」

 

「えっ?ちょっと待て。今なんつった?」

 

「いやだから、FBIとかに目つけられてるから海外行っても状況悪化するだけなんだよ。それに、此処なら俺が監視するって言えばどうとでもできるし」

 

「ねぇ、一応聞くけどいつから?」

 

「10年前からずっと」

 

「はぁ!?あんた何でそれを1番最初に言わなかったのよ!どう考えても1番大事なことでしょ!?」

 

「あんたバカなのか!?何で肝心なところだけ言わねえんだよ!」

 

「俺だって忘れてたんだよ!お前らが急に海外に逃げようって言ったときにようやく思い出したんだよ!正直いらないと思ってたし...」

 

「奏斗君、此奴1回張り倒しましょう!このアホをシメましょう!」

 

「そうっすね!まずは爪を剥がしましょう!」

 

「おい!物騒な真似はやめろ!」

 

なっ何だか喧嘩が始まったのだけど...この場にいる皆が呆気に取られている。柏さんも呆れているし...ただ1人だけ、湊さんは冷静に見ていた。その瞳には怒りが灯っていた。やがて彼女は立ち上がり

 

 

「いい加減にして!」

 

 

彼女の怒声によって3人はだまりこんでしまった

 

「私たちは貴方たちの喧嘩を見に来たわけじゃないの。この状況で痴話喧嘩なんて何を考えているの?」

 

「「「すみませんでした」」」

 

3人は流れるような動きで湊さんに謝罪をした。ここまで綺麗な謝罪初めて見たわ

 

「もう1度聞くわ。奏斗、華蓮さん、柏、彗人さん。翔は、咲夜は何処にいるの?」

 

「そういえばそんな質問もあったな...誰が話す?」

 

「私が話すわ。咲夜の姉として。咲夜がああなってしまった責任は元はと言えば私にあるから」

 

「分かりました」

 

「さて友希那ちゃん、彼の居場所だけど彼なら今月読命家が管理する病院で入院してるわ。大丈夫、生きているわよ」

 

「よかった...「だけど...」え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜は...記憶喪失になってしまった」




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