死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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気づいたら5000字超えてました。最後まで読んでいただけたら嬉しいです。それでは本編どうぞ


第62話

sideout

 

 

 

 

「何て話せばいいのかな?私も分からないことの方が多いし...」

 

「あぁ、華蓮さんは知らないのか。ここからは俺が話しますよ。華蓮さんも、覚悟の上で聞いてください」

 

「...分かった」

 

「ことの発端は11年前、イチイのメンバー総動員で行ったある大掛かりな作戦だった。丁度柏と出会った1ヶ月後くらいかな?」

 

「総動員というだけあって子供たちも参加した。ここで組織のルールを説明するが、子供が実戦に使われるのは6歳からだ。だから俺や咲夜、柏などの何人かは参加していない」

 

「だけど、たまに実力が高い者は早いうちから実戦に使われる。その代表が華蓮さんだった。彼女は他の同年代の誰よりも強かった」

 

「そうかしら?周りが雑魚すぎただけだと思うんだけど」

 

「貴女の基準はイカれてるんですよ。まぁそれで、華蓮さんは子供たちのリーダーをやっていた」

 

「何の作戦だったの?」

 

「当時、犯罪の仲介みたいなことをする組織があったんだ。強盗や闇の取り引き、殺人などの手助けをするって言えば分かるだろ。そして事件が起きたらその証拠を跡形もなく消す。そのせいで捕まっていない犯罪者もたくさんいた」

 

「その犯罪者は今もいるのかしら?」

 

「勿論こちらで始末したさ。情報は手に入っていたからな。んで、その組織の動きが活発になってきてな。このままだと面倒だから潰しちゃおうってなったわけ」

 

「そうなのね...今の話だと咲夜さんの過去が全く見えて来ないのだけど」

 

「焦るなよ。説明難しいんだって。それで、華蓮さんはリーダーなだけあって最前線で戦っていた。誰よりも功績を挙げた分、その時の怪我も大きかった」

 

「あの時は突っ込みすぎちゃって...帰ったら咲夜に怒られちゃったし」

 

「それが全ての始まりだったんですよ。華蓮さんが大怪我をして帰ってきたことが」

 

「...え?」

 

「華蓮さん、同じ時期に咲夜にある変化が起こった。それは何でしょう?」

 

「変化?そういえば...急に訓練に対してやる気出してたような」

 

「まさか...咲夜は」

 

察しがついた友希那。だが、奏斗によってその先は言えなかった

 

「湊待て。話はまだ終わりじゃない。咲夜はずっと前から思ってたんだ。毎回のように怪我をして帰ってくる華蓮さん。それが彼奴はずっと嫌だった」

 

「ちょっちょっと待ってよ。それじゃあ...」

 

「えぇ。咲夜はあの日以来、自分が強くなって華蓮さんを守ることを心に決めた。華蓮さんが特別に早い時期から実戦に使われていたことを思い出し、それまで嫌がってた訓練を必死に受けた。事情を悟った俺も同じく。本気でやってたせいか成績はトップ。僅か1ヶ月で採用が決まった」

 

「じゃあ、私が危なくなった時に庇ってくれたのも、私の周りの敵を殺し回ってたのも...全部、私を守るため?」

 

「えぇ」

 

「何で...咲夜はずっと私を守ってくれてたの?」

 

「おかげで華蓮さんが怪我をすることは少なくなった。その反面、咲夜は怪我が増えた。でも、彼奴はそれを苦に感じていなかった。『姉さんを守れるなら死んでも構わない』って言ってたくらいだし」

 

「何で...何でよぉ...私、貴方に守られてばかりじゃん...何もできてないじゃん...」

 

その場に崩れ落ち涙を流す華蓮。彼女は悔しかった。弟の真の目的に気づけなかったことが。守られてばかりの自分が

 

「咲夜は異常な活躍で組織からも将来トップに立てると期待されてた。だが、2人だけそれを許さない人間がいた」

 

「誰なの?」

 

「咲夜たちの両親だ」

 

『!?』

 

「あの2人は当時組織全体のリーダーだった。特に息子の咲夜に対しては特別だった。彼奴には生まれながらに持った殺戮心がある。その瞳に宿る殺意は死神そのものだって言ってたよ」

 

「だけど、咲夜は人を殺すより華蓮さんを守ることを優先していた。それを見た咲夜の両親は彼奴に暴力を加え始めた」

 

「そんな...」

 

「最初はそこまでだったが、すぐにエスカレートした。精神的に深い傷を負った咲夜は親に対する恐怖から逃れるために本能的に感情を捨てた」

 

「それが...彼が感情を捨てた理由...」

 

「蘭以外のAfterglowはこの前咲夜と華蓮さんが喧嘩したの覚えてるか?」

 

「2人が大怪我した日だよね?」

 

「あぁ。あれはその咲夜に対する虐待が原因だ。そこからお互いの食い違いにより発生したものだ」

 

「食い違い?」

 

「咲夜は親に暴力を受ける中、何もしてくれなかった華蓮さんへの怒り。華蓮さんは恐怖で何もできなかった後悔。だが、本当の理由は違った。咲夜は恐怖から逃げているのが嫌で現実から目を背けていただけ。華蓮さんは他にもいろんな理由が重なって更なる誤解を生んでしまった。今はもう和解している」

 

「それが、咲夜の過去?」

 

「まぁ大体は話したと思うぞ。人を信じなくなった理由も俺と同じようなもんだし。あっもう1個だけあった」

 

「何かしら?」

 

「咲夜たちの祖父にあたる月読命財閥のトップ、月読命源十郎さん。あの人は異様に咲夜を嫌っている」

 

「どうして?」

 

「さっきも言った彼奴に宿る殺意。最近は眠っていたみたいだが、あの頃は剥き出しだったし危険だと判断したんだろう。あの人はずっと咲夜は消すべきだと考えていた。だから華蓮さんだけ引き取った」

 

「今咲夜たちが住んでる家は私が頼んで作ってもらったの。同じ時期に親戚に捨てられた奏斗君の家も一緒に」

 

「今までは何とか言いくるめられたけど、今回はかなり厳しい。記憶喪失だから今のところは大丈夫と言って条件付きで生かしていいことになった」

 

「条件?」

 

「もし、何かの拍子で彼奴が暴れた場合、俺たちで始末する。それが条件だ」

 

「そんな...!何とかならないの!?」

 

「これが精一杯なんだ。あの人が言ってることは間違っていないからな。何か、あの人を納得させる方法があれば...」

 

 

 

 

 

友希那side

 

 

 

 

 

咲夜のお爺様がそこまで彼を嫌う理由。奏斗の話を聞けば何となく分かる。だけど、それだけじゃない気がする。第一、彼が死んでいい理由なんて無い。今の彼には生きる道が、意味がある。私たちと一緒に進んでくれると言って...生きる...道?

 

「もしかしたら...」

 

「湊さん、何か分かったのですか?」

 

「単なる推測でしかないけれど...咲夜のお爺様は彼には生きる意味が無いと思ってるんじゃないかしら?」

 

「生きる意味?」

 

「えぇ。もし私たちと出会う前の咲夜と同じ思想なら...ありえるかもしれない」

 

本当にそうとは限らない。だけど、彼の本能的な殺意以外であるのならそれしか考えられない

 

「確かに、それなら可能性が高いわね。お爺様に直接...」

 

「ダメだ。あの人がそれを聞いたところで考えを変えるとは思えない」

 

「じゃあ、どうするのよ!」

 

方法なら1つだけ、可能性は低いがある。賭けるしかない

 

「どんな方法でもいい。記憶があろうがなかろうが、彼には道があることを証明すればいい。彼を必要としている人はいるのだと、思い知らせてやるだけよ」

 

「......何で咲夜があそこまであんたを信じたのか、ようやく分かった気がするよ。分かった、明日俺と華蓮さんでそのことを説明しに行く。湊やモカ、若宮に松原、協力してもらうぞ」

 

「えぇ。勿論よ」

 

「もち〜。モカちゃんやっちゃうよ〜」

 

「お任せください!ブシドーの精神があれば大丈夫です!」

 

「がっ頑張ります!」

 

認めさせてやる。相手が世界のトップだろうと関係ない。咲夜は、私たちを何度も救ってくれた。今度は私が彼を救う番。いつまでも彼の側にいるために

 

「...うっ...」

 

「あっ忘れてた。柏、肋は折れてない?」

 

「えっえぇ...ギリギリで受け身はとれたので」

 

どうやら柏の意識が戻ったようだ。というか、自分がやったのにそれを忘れるのは酷すぎるんじゃないかしら。柏は私に視線を向けるとすぐに敵意を剥き出しにしてきた。やはりまだ怒っているのね

 

「こら柏。友希那ちゃんだって悪気はないんだから怒らないの。あんたや咲夜の過去は話したから、もう許してあげなさい」

 

「...分かりました」

 

「ごめんなさい。何も知らないのに首を突っ込んだりしてしまって」

 

「いえ、こちらにも非はあるので。すみませんでした」

 

以前まで花梨として聞いていた明るい声は何処へ行ったのか、今は氷河の如く冷たく暗い声となっていた。すると柏は先程とはまた違う視線を向けてきた。その瞳には決意が込もっていた

 

「友希那さん、少しお話をしませんか?2人きりで話したいことがあるので」

 

「分かったわ」

 

「お姉様、奏斗さん。お兄様と友希那さんの件、私に任せていただけませんか?会わせるタイミングなど、全てを」

 

「貴女が決めたことなら私は文句は言わないわ。しっかりやりなさい」

 

「会わせるのは構わんが、彼奴絶対警戒するからな。気をつけろよ」

 

「ありがとうございます」

 

「よし、話は以上!あー疲れた!」

 

「2週間全く運動してないから身体もうバキバキよ...奏斗君、ちょっと表で殺りましょう」

 

今聞き捨てならないことが聞こえたのだけど気のせいよね?

 

「肩大丈夫ならいいですよ」

 

「お前ら一目のつかないところで殺れよ。見つかったら面倒だ」

 

「貴方警察なんですから止めたらどうですか?役立たずですね本当に」

 

「テメェマジで喧嘩売ってる?柏1人くらいなら相手できるぞ俺でもこら」

 

「私はお姉様に蹴られた箇所が痛むのでまた今度の機会に」

 

「ねぇ、そこで出されると罪悪感感じるんですけど...」

 

本当にこの人たちは仲がいいのか悪いのか分からないわね。明日について取り決めたところで今日は解散となった。そして私は柏に案内されある公園に来ていた

 

「この公園って...」

 

「はい、私とお兄様が出会った場所です。私の始まりの場所です」

 

それから私たちは奥まで歩き、柏がブランコに座ったので私も座ることにした。暫く沈黙が流れる。それを破ったのは柏だった

 

「...ずっと貴女を憎んでた」

 

「...え?」

 

「お兄様が感情を失い始めて以来、私は色々なことをしてきた。あの時救われたこの命を、あの人のために使おうと決めて、努力してきた。でも、何も変わらなかった」

 

「......」

 

「Roseliaの皆さんと出会ったあの日。ライブに連れて行ったのは私なんです。Xaharとして活動してた時のお兄様はとても楽しそうだった。だから、その感覚を思い出してもらおうとしたんです」

 

「そうだったのね...」

 

「そして貴女と、友希那さんと出会った。あれからお兄様は変わった。前よりも笑顔が増えた。とても楽しそうだった。私が何年もかけてできなかったことを貴女は一瞬にして成してしまった。ずっとそれが許せなかった」

 

「何で私じゃないんだろう。何であんな人にって、何度も思いました。私があの人を想っていることは薄々気づいてたんじゃないですか?」

 

「...えぇ。少なくとも、兄に対する態度ではないとは思っていたわ」

 

「もう、これから何をしていけばいいのか分からない。月読命咲夜はもういない。あの人の存在こそが私の生きる意味だった」

 

「結局...私のしてきたことに意味はなかった」

 

意味はなかった。この言葉を聞いた瞬間体の奥底からふつふつと怒りが湧いてきた。どいつもこいつも、生きる意味がないだのくだらないことばかり言って...

 

「いい加減にしなさいよ」

 

自分でも驚くくらいに冷たい声が出た。驚いた顔をする柏。私はそれを無視して喋り続ける

 

「咲夜も柏も咲夜のお爺様も、意味がないだのそんなくだらないことばかり言って。そんなつまらないことばかり言って何になると言うのよ?」

 

「貴女に何が分かるんですか!今までの努力が一瞬にして潰された悔しさが!」

 

「分からないわよ!分かりたくもないわ!そんな自虐しかできない人の気持ちなんて!貴女こそ何も分かってないじゃない!貴女がいたから咲夜は変われたのよ!」

 

「何を言って...」

 

「彼が変われた理由が私にあると言うのなら、その根本的な理由は柏にあるのよ。柏がRoseliaのライブに連れて来たから、ここまでの物語が描かれた。柏が咲夜を支え続けたから、彼は道を見つけることができた。貴女がいたから、私は恋をすることができた」

 

「!!」

 

「今日までの出来事も、貴女がいなければ始まりすらしなかった。貴女は咲夜だけじゃなく、奏斗も、華蓮さんも、Afterglowも、Roseliaも変えた。貴女がいたから今がある」

 

「本当にありがとう、柏」

 

これが、私から言える精一杯の言葉。口下手だけれど、これが私の想い。感謝の気持ち

 

「っ...グス...うわあああぁぁ!」

 

柏は我慢の限界を迎え、私に抱きついて大声を上げて泣いた。今までの苦しみが全て涙となって彼女から溢れてくる。来た頃には夕日があった空も、気づけば綺麗な月と星が広がっていた。泣き続けること20分。柏はようやく落ち着きを取り戻した

 

「明日の午後、お兄様に会いに行きましょう。最初は警戒されるでしょうけど、少しずつ心を開いてくれるかもしれません」

 

「分かったわ。咲夜のお爺様に会いに行った後に行きましょう」

 

「今のお兄様には記憶を取り戻されないよう前の偽名を教えてあります。他の人もそうです。あの人の前では以前のように呼んでください」

 

「了解したわ」

 

「私たちの我儘で申し訳ありませんが、あの人には普通の人として生きて欲しいんです。人殺しの死神ではなく、普通の男子高校生として」

 

「そうね。少し寂しいけれど、受け入れて前に進まなくては」

 

「ありがとうございます。夜も遅いので送りますよ。そこら辺のストーカーくらいなら瞬殺できるので」

 

「年下の女の子に守られるのって何だか複雑ね...まぁ、お願いするわ」

 

「分かりました」

 

ついに知ることができた、咲夜たちの過去。それはあまりにも残酷で世の非情さを思い知らされることばかりだった。でも、ここで立ち止まっては意味がない。私が全力で支えるから...

 

 

 

 

 

待ってて、咲夜




読了ありがとうございました

ついに明らかになった咲夜たちの過去。これから友希那たちがどのようにして向き合っていくのか、是非楽しみにしててください

評価や感想お待ちしております

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