奏斗side
襲撃から2日が経った。俺たちは為す術もないままやられ、瀕死の状態となった。翔も参戦したがすぐに倒され湊は攫われてしまった。今は全員入院中だ
「ハァ...短期間で何回入院するんだろ。いっそのこと死にたくなってくるわ」
「は?奏斗、もう1回言ってみな?」
「ごめんなさい蘭様謝るからその果物ナイフをしまってください」
蘭は毎日見舞いに来ては果物を持って来て皮を向いてくれる。だがさっきみたいに不要な発言をすればすぐにキレられる
「全く...咲夜もそうだったけど、いい加減すぐに死にたい発言するのやめな?あんたらが死んだらどれだけの人が悲しむと思ってんの?」
「...ごめんなさい」
何と今日は説教までおまけでついてきた。この反骨赤メッシュキレると普通に怖い
「それにしても、まさか全員負けるなんて...」
「だから言っただろ。咲夜じゃないと勝てないって。生きてるだけまだマシだ。幸い、指の1本も無くなってないし」
でも、やっぱりおかしい。あの人の力があれば簡単に殺せた筈。どうせ後でまた邪魔して来るんだしさっさと殺せばいいのに
「詩織さんの要求は明日翔を1人で行かせること。それまでに記憶を取り戻さねえと...」
「翔の怪我が少なかったのが救いだね」
「後で潰すつもりだったんだろ。あの人めちゃくちゃ腹黒いからな。多分今頃えげつないこと考えてるぞ」
「イチイは頭のおかしい奴しかいないの?」
おいこら。俺たちまで一緒にすんな。俺たちはあんなにバカじゃねえ。何も考えずに突っ込むよりいかに素早く殺せるかしっかり考える方だ
「聞き捨てならないな。ちゃんとまともな奴もいるぞ」
「はいはい。ほら、皮剥けたから食べていいよ」
「あざーす。美味し」
やっぱりフルーツは最高ってそれ1番言われてるからね。毎日食える
「華蓮さんと柏の容体はどうなってる?詳しく聞けてないんだ」
「その、華蓮さんはそこまで大きな怪我はしてなかったんだけど...柏が」
「どうした?」
「翔もやられて湊さんが連れて行かれかけたときまだ意識はあって 最後まで抵抗したんだけど、そのせいで...追い打ちかけられて意識が戻らないの」
「なっ...」
「命に別状はないよ。でも...多分、あの時の咲夜並みには怪我してると思う」
何だよそれ。咲夜との約束も守れず柏の手を汚させ挙句の果てには意識不明の状態ときた。何のために今まで人を殺してきた?守る力を持ちながら...
俺は蘭からナイフを取り上げ部屋の隅にあった花瓶に向けて投げつけた。本気で投げたため花瓶は割れ破片が辺りに散らばった
「ちょ、奏斗!?」
「ハァ...ハァ...どんだけ失えばいいんだよクソ野郎」
「......」
長い沈黙が続く。だがそれは思いもよらない出来事で破られた
「うるさいですよ!人が折角寝てたのに...どうしたんですか、そんな驚いた顔して」
「は、柏!?」
「柏ですけど何ですか?」
なんとそこには意識不明の筈の柏がキレながらいた
「おい蘭。どういうことだ」
「ちょっと待って!あたしも知らないよ!?本当に今まで意識が戻ってなかったんだって!」
「2人とも何を話してるんですか?意識が戻らなかったって、ちょっと気絶して寝てただけでしょう?」
さも意味が分からないと言った顔をしながら首をかしげる柏。人の気も知らないで腹立つなこいつ
「お前丸々2日寝てたんだとよ。柏だけ意識が戻らないってこちとら心配してたってのに...」
「2日!?それじゃあ友希那さんは...」
「あぁ。今も捕まってる。翔も軽く怪我してるけど大したものじゃない。華蓮さんも無事だ。怪我はしてるが」
「そうですか...私が非力なばかりにすみません」
「お前はよくやったよ。今は身体を休めとけ。柏もこれ食え。果物たくさん、最高」
「いいんですか?」
「うん。食べていいよ」
にしてもどうするかなぁ。明日までに記憶を取り戻すとかほぼ無理だし、かと言って何もしなければ殺されるだけだし
「ちょっと華蓮さんの所行ってくる。あの人は起きてんだろ?」
「うん。多分リサさんがいると思うよ。あとは巴とあこも」
「了解。蘭、見舞いありがとな」
「......///」
柏も目を覚ました。でも、あの怪我では暫く動けないだろう。比較的軽傷な俺と華蓮さんで作戦考えとかねえとな
蘭side
奏斗が病室を出て、柏とあたしだけになった。柏はさっきまで寝てたというのに呑気にあたしが持って来た果物を食べている
「ねぇ、いつ起きたの?」
「本当にさっきですよ。花瓶が割れる音ですっかり目が覚めて、私的には数時間の睡眠だったので邪魔した腹いせに怒鳴り込もうとしたら...」
「...なんかごめん。柏の容体を話したら奏斗がキレちゃって」
「あの人も失ってばかりの人生でしたからね。自己嫌悪に陥ってしまったのでしょう」
確かに、奏斗はどれだけ失えばいいんだよと言っていた。彼が今までどれだけのものを失ったのか、あたしには計り知れない
「蘭さんはこの世が何で回っていると思いますか?」
「え?」
突然の質問にあたしは反応できず、その場で黙り込んでしまった
「いきなりすぎましたね。大体の人はお金だのと言うでしょう。だけど、実際は違う」
「そうなの?」
「奪う、奪われる。囚える、囚われる。従う、従わせる。する、される...肯定と否定を繰り返し、私たちは失わないように戦ってばかりいる」
「この世は何かを失うことで回っているんですよ」
「残酷だね。守りたいものもいつかは失わきゃならないなんて」
「えぇ。人は失って初めて大切なものに気付く。それに気付いた人はそれを糧に変わっていく。何かを失わない限り人は変われない」
「失っていくしかないこの世界で唯一の希望は、繋がること。自分の鼓動が、生きた時間が、無駄では無かったと、思えること。希望とはそれだ」
「誰かを守るというのは本当に難しい。でも、その想いだけは尊いと思うんですよ」
柏の言葉にあたしは耳を傾けた。その言葉はまるで奏斗や咲夜たちの人生、想いをそのまま語っているようだった
「これは私が大好きな漫画の言葉です。何度も何度も何かを失い、1度は死を選ぶもかっこ悪くても生きようと決意する。少し私たちに似ているなと思ったんです」
「凄く共感できるかな。あたしは失うのが怖くて殻に閉じ籠ってた。だからかな、現実から目を背けてばかりなのは」
「まぁ所詮これは私の主観にすぎません。蘭さんには失う前に気付いて欲しいと思ったから話しただけです」
「ありがとう。お陰で少しだけ心が軽くなった気がする」
「それならよかったです。果物いただいたお礼に奏斗さんとのオススメデートスポットを教えましょうか?」
「詳しくお願いします」
奏斗とのオススメデートスポット?そんなの聞くしかないよね。柏に感謝
「全く...お兄様もそうでしたが、鈍感にも程があります。しかもそれに気付いていないとか、話にならない」
「あはは...あたしも結構頑張ってるんだけどな...」
「もうさっさと告白したらどうですか?モタモタしてたら氷川さんに盗られますよ?」
「!?」
告白って...あたしにできるかな?なんて言えばいいのかすら分からないのに
「こっちにも論外いましたね。この際はっきり言いますけど、奏斗さんが1番信用しているのは私たちを除きおそらく蘭さん、貴女です」
「え、あたし?」
「気付いてないんですか?人のこと言える立場じゃないですよ貴女。でなければ貴女が見舞いに来てあんな顔しませんよ」
「そ、そうなんだ...よかった」
「その点では友希那さんの方が分かってましたね」
「は?」
湊さんの方が分かってる?音楽以外興味無しのあの人より酷いってこと?何それ腹立つ
「本当に友希那さんのことライバル視してるんですね...目指すものが違うのに比べても意味無いでしょうに」
「それはそうだけど...なんか悔しい」
「今日練習は?」
「無いよ。CiRCLEボロボロだし」
「そういえばそうでしたね。よくよく考えれば私たちのせいじゃないですか」
「そうなるね」
「まぁ、どうせ月読命の連中がとっくに直してますよ。何せ弦巻をも超える財閥ですから」
「嘘でしょ...」
「行きますよ。玉座に輝いた本気の歌声。貴女にもお見せします」
「いいの?」
「友希那さんと張り合いたいのでしょう?それとも、ついてこれるか不安ですか?」
不安?今1番言っちゃいけないこと言ったよね?いいじゃん、やってやろうじゃん
「教えて、王の、柏の本気」
「分かりました。それでは行きましょ...?」
「柏!?」
柏が立ち上がると急に顔から倒れてしまった。顔、痛そうだなってそうじゃなくて!
「ちょ、大丈夫!?どうしたの!?」
「...よくよく考えれば、私今大怪我してるじゃないですか。記憶を辿るとあの日手足折られた気がするんですよ」
「へ...」
「つまり今私の身体はボロボロな訳で、その状態で走り込んで来たとすると...」
「さっさと病室戻れ!あんたはまともだと思ってたのに実際はバカなの!?」
「失礼ですね!貴女よりは100倍マシです!」
「中学生のくせに生意気な!あたしよりでかいのつけといて!」
「ちょ、何処触ってるんですか!貴女覚えといてくださいよ!回復したら半殺しとして骨103本折りますからね!」
「やれるもんならやってみな!」
「殺す!」
...しまらないなぁ。この後奏斗と華蓮さんにめちゃくちゃ怒られた