死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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あと何話で終われるかなぁ...友希那の誕生日までに終わりたいなぁ


第74話

奏斗side

 

 

「あたしは...宮本奏斗、貴方が好きです。あたしと、付き合ってください」

 

その言葉を理解するのに一体どれだけの時間がかかったのだろう。1秒が何時間というとてつもない長い時間のように感じる。何を話せばいいのか、全く分からない

 

「ごめんね。急にこんな話しちゃって。でも、あたしは本気だから。奏斗にも本気で答えてほしい。返事も今じゃ無くていいから」

 

何故、この場で答えられないのだろう。自分の想いをそのまま言えばいいだけなのに、その言葉を発することができない

 

「じゃああたしは湊さんのところに行くね。奏斗も気まずいだろうし。返事、待ってるから」

 

「...あぁ」

 

呆れた。あれだけ考えてこれしか言えないとか。やっぱ悩んでんのかな。蘭たちから離れるべきなんじゃねえかって

 

組織の残党は粗方始末したし、襲われる危険性は減った筈だろう。だが、完全に消えたわけじゃない。蘭のそばにいる資格が俺にあるのか、分からない。その時、俺のスマホにメールが届いた

 

「誰だこんな時に...!?」

 

『明日の放課後CiRClEに来てください。一緒にセッションしましょう。そこで大事なお話があります』

 

相変わらず堅苦しい文面。送り主は紗夜だった

 

「どうすりゃいいんだか...」

 

俺の呟きは誰にも聞こえない

 

 

 

友希那side

 

 

無事に退院することができ、久し振りに学校に行った。クラスの人にはしつこく事情を聞かれたが、唯一知っている大和さんがクラスを宥めてくれた。今日はRoseliaの練習も無いし、まだ入院している咲夜のところに行こうかしら

 

「ゆーきな。お昼ご飯一緒に食べよー」

 

「えぇ。準備するから少し待ってて」

 

リサの誘いを受けすぐに支度をする

 

「屋上でいいわよね?少し奏斗と話したいことがあるから」

 

「およ?浮気は良くないよゆーきな」

 

「浮気じゃないわよ!///そもそもまだそんな関係にすらなれてないわよ!」

 

「へぇ〜。()()ってことはなる予定はあるんだね?」

 

「っ〜〜〜〜〜/////」

 

リサにからかわれながらも、私たちは屋上へ向かった。屋上には既にAfterglowと奏斗がいてお昼ご飯を食べていたのだが

 

『......』

 

美竹さんと奏斗の様子が明らかにおかしい。2人とも無言でご飯を食べ、チラチラとお互いを見てはすぐに視線を逸らしている

 

「...何があったか聞いてもいい?」

 

「えっと、その...2人ともちょっとこちらへ...」

 

羽沢さんに促され私とリサは屋上の端へと移動した

 

「それで?どうしたの?」

 

「実は...蘭が奏斗に告白したらしいんですよ。それでお互い気まずくなってるというか」

 

「「は?」」

 

美竹さんが...告白?異性に付き合ってくださいとか言うあの告白のことかしら?

 

「成る程ね〜。それはしょうがないかなー...アハハ」

 

リサも苦笑を浮かべながら話しているが、私は最早話すことすらできない

 

「どうやら昨日お見舞いに行った時に告白したらしくて、その場の雰囲気やらでお互い恥ずかしくて...」

 

「そう...とりあえず、奏斗と2人で話がしたいのだけれど、大丈夫かしら?」

 

「本人さえよければ」

 

奏斗には悪いけど、今回は真面目な話だから遠慮してる時間は無い

 

「奏斗、ちょっといいかしら?」

 

「ん?あ、あぁ。構わんが」

 

許可は取れたのだが...美竹さんが物凄い形相でこちらを睨んでくる。私の好きな人なんて知っているでしょうに...

 

「彼は盗らないから安心して。奏斗、ちょっとこっちへ来て」

 

奏斗を連れて校舎内へ一旦戻る。屋上手前の扉の前で止まると、早速話を切り出した

 

「要件は1つだけよ。咲夜の自殺を止める方法」

 

「...やっぱり気づいてたか。伊達に咲夜を想ってるってわけじゃ無いわけか」

 

「うるさいわね///...それで、どうすればいいの?」

 

「それが分かってたら苦労しねえよ。だが、死にたいという気持ちが本心ではないことだけは確かだ。大方、湊たちに迷惑をかけたくないと思ってんだろう。俺も同じだ」

 

「だから、美竹さんの告白の返事に困ってるいるのね?」

 

「し、知ってんのか?」

 

「さっき聞いたわ。それに、昨日お見舞いに来てくれた時様子が少し変だったから」

 

「あっそう。それより咲夜の件だが...止められるとしたらお前しかいない」

 

「何故?貴方たちでは止められないの?」

 

「できるならとっくに実行している。さっきも言ったが、本心ではない筈だ。今彼奴が最も信頼を寄せている人間、つまり湊が咲夜の存在が迷惑ではないこと、生きていいということを分からせればなんとかなると思う」

 

「私が...」

 

私にそんなこと、できるのだろうか?私の言葉が彼に届くのだろうか?途端に不安に駆られる

 

「安心しろ。あの源十郎さんの意思を捻じ曲げたんだ。お前ならできる。咲夜のこと、よろしく頼むぞ」

 

「...えぇ」

 

「ついでに告れば?場の雰囲気もあって成功するかもしれないぞ?」

 

「...考えておくわ」

 

それもいいかもと思ったが、今はそんなことを気にしている暇は無い。彼にこの命が救われたように、今度は私が彼を救うんだ。約束を放棄して死ぬなんて許さない

 

「覚悟してなさい。咲夜」

 

私はその決意を胸に皆のところへ戻った

 

 

 

咲夜side

 

 

 

「はい俺の勝ちー。なぁ、そろそろやめないか?多分お前一生俺に勝てないと思うんだけど」

 

「もう一回お願いします!次は勝てる気がするんです!」

 

あと2日は入院しろと言われて暇だった俺は、柏とチェスをやっていた。柏の怪我は誰よりも重く完治までに半年弱かかると言われてしまった。流石に骨折られてんのにあれだけ動けばそうなるか

 

「お前なぁ...幾ら足が動かせないからって苦手なチェスを挑むのはどうかと思うわ。今までで一度も勝ったこと無いじゃん」

 

「うっ...せ、せめてもう一戦...」

 

かれこれ多分20戦くらいやってるだろうが結果は全て俺の勝ち。第一に、柏はボードゲームがめちゃ弱い。華蓮や奏斗を混ぜてやっても必ず負ける。トランプは結構強いけどな

 

「ハァ...あと一回だけだぞ。俺も疲れたし寝たい」

 

「ありがとうございます」

 

そしてもう一戦だけやったが勿論俺の圧勝だった。トランプ強いんだからトランプやればいいのに...

 

「お疲れ様。お前は一番怪我が多いんだしゆっくり休んどけ。俺も明日には退院して学校行くから」

 

「流石にそこまで寂しがり屋じゃありませんよ。付き合ってくれてありがとうございます」

 

「...そうか。じゃあな」

 

「待ってください」

 

「?」

 

「お兄様が何を考えているのか、これから何をしようとしているのか。私には分かります。それが貴方の選択だというのなら()()止めません。ですが、貴方を必要としている人はたくさんいるということを知っておいてください」

 

「...了解」

 

悪いな。誰が何を言おうと、俺は消えなくちゃならない。俺はもう十分生きた。本来ならありえなかった日常を過ごせた。それだけで十分だ

 

「あとは頼みますよ。友希那さん」

 

 

 

 

紗夜side

 

 

 

 

秋も深まり、周りの草木が黄色に染まってゆく。若干肌寒さも感じるこの時期。私はCiRClEの前のカフェテリアで奏斗を待っていた

 

昨日お見舞いに行けなかった私はメールで彼を呼び出した。理由は彼と純粋にセッションがしたかったのともう一つ、彼に私の想いを伝えるため

 

「...寒いわね。もう少し厚着してくればよかったかしら」

 

中で待てばいいと思う人もいるだろうが、呼び出した私が呑気に中で待つのは気が引ける。わざわざ来てくれるのだから、私が楽する訳にはいかない

 

「お待たせ、紗夜。遅くなった」

 

そんなことを考えていた時、彼はタイミングを見計らったかのように現れた。これからセッションするというのに緊張で身体が固まってしまう

 

「私も来たばかりだから大丈夫よ。呼び出したのは私なのだし、先に来るのは礼儀というものよ」

 

「相変わらずだな。さ、中に入ろう」

 

彼と一緒に中に入りスタジオのチェックインを済ませる。慣れた手付きでギターのチューニングを済ませお互いの調子を確認する

 

「大丈夫そうだな。何弾く?」

 

「そうね...Determination Symphonyでいきましょう。奏斗はコーラスをお願い」

 

「分かった。手は抜かねえぞ」

 

「上等よ!」

 

スマホから曲の音源を流しそれに合わせてギターを弾く。暫くギターを弾いていない奏斗だが、その程度では彼の実力は全く衰えることなく王者としての音を出していた。私もそれに着いて行くように弾きながら歌う。曲はあっという間に終わり、互いの顔を見合わせて小さく微笑んだ

 

「やっぱり楽しいなギターは。少しだけ罪を忘れられる。ずっと弾いていたいと思える」

 

「私も、だんだん心の底から音楽を楽しむことができるようになってきている。自分だけの音が、少しずつできあがってる感じがする」

 

いつまでもこの時間が続けばいいのに。不可能な願いをどうしてもしたくなる。そのくらい彼と過ごす時間は楽しい

 

「次は何弾く?適当にカバーでも...」

 

「その前に、私の話を聞いてくれるかしら?」

 

「...あぁ」

 

もう後戻りはできない。全てを彼にぶつける

 

「私の性格上上手い言い回しはできないから単刀直入に言うわ。私は貴方が好き。私と付き合ってください」

 

「...薄々気づいてたんじゃないか?俺が昨日、蘭に告白されたこと」

 

「えぇ。私と会った時若干緊張しているようだったから、何となく察したわ。貴方のことだし、また危険な目に遭わせるかもと思って答えは出していないのでしょう?」

 

「当たりすぎてて怖い」

 

「確かに危険な目に遭うこともあったけど、そんな理由で曖昧にしないで。私も美竹さんも、覚悟の上で貴方に告白した。貴方も覚悟を持って正直に答えてほしい」

 

「...少しだけ時間をくれ」

 

「分かったわ。聞いてくれてありがとう。さぁ、続きをしましょう」

 

後悔は無い。やることはやった。たとえ選ばれなくても、私は美竹さんを祝福できる。今なら、そんな気がする


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