死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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今回は紗夜と奏斗がメインです


第77話

奏斗side

 

 

ある日の放課後、俺はCiRCLEの事務室に咲夜と柏、まりなさんを集めた。理由は前から考えていた計画を話すためである。湊が咲夜を止めてなかったら無理だったろうけど

 

「つーわけで、今から皆への感謝ライブの計画を話したいと思いまーす」

 

「つーわけも何もいきなり何を言い出すんだお前は。理由を一から説明しろ。唐突に変なこと言うのいい加減直せ」

 

失敬な。こちとら真面目に考えて二週間もかけて立てた計画だと言うのに変なこととは何だ

 

「そのままの意味だ。咲夜の一件も片付いたことだし、彼奴ら25人には世話になった。普通に感謝の気持ちを伝えておきたいと思っただけだ」

 

「それでライブですか...いいんじゃないですか?私たちなら言葉よりもそちらの方が伝えやすいでしょう」

 

「そういうことか。まりなさんを呼んでるってことはCiRCLEでやるってことでいいのか?」

 

「いいっすよね?まりなさん」

 

「いいよ。君たちには日頃から助けられてるからね。あの後、月読命の人たちが来て三日もかからずで直しちゃったから此処も問題無く使えるし。ついでに機材新しいの貰っちゃった」

 

何か機材が綺麗だと思ったらそういうことかよ。あの爺さん何気に律儀だな。まぁ場所が確保できるなら何でもいいか

 

「何時やんの?」

 

「週末だ。今から曲を作るのは無理だから俺の方で何曲かカバーを探しておいた。今日は月曜日だし、まぁ完成させられるだろ」

 

感謝ライブって言ってもあんま長くやるつもりはないからな。精々3、4曲やって後はパーティーっぽくラウンジ使って晩飯食べるだけだから。それに幾ら俺たちでも数日で何曲も完成させるのは無理だ

 

「俺と柏はいいが、華蓮がキツいんじゃないか?最近、仕事が次から次へと舞い込んでくるって死にそうな目で言ってた記憶があるぞ」

 

「華蓮さんなら大丈夫だろ。そんなことで倒れる程あの人やわじゃ無いしな。お前と違ってパソコン扱いも上手いしどうせその日のうちに終わってるよ。さっき説明したら泣きそうな目で喚いてたけど」

 

「それもそうか。よし、やるか。まりなさん、休憩時間空いてるスタジオ使わせてもらっていいっすか?」

 

「勿論。私も出来る限り手伝うから、困ったことあったら言ってね」

 

「二人とも、お姉様の扱い酷すぎる気がするのですが...RoseliaやAfterglowの指導はどうするのですか?」

 

それなんだよな...急に休憩時間ギターの練習させて欲しいって言ったらモカ辺りに勘付かれるし、Roseliaの方でも今井が気付くだろう。どうするかなぁ

 

「別に隠す必要無いんじゃね?突然感謝ライブやるから来てくれって言っても予定合わんかもしれんし、あらかじめ言っておいた方がいいだろ。パスパレ辺りなんか特に」

 

「いや、日菜に頼んで全員予定が空いてることは確認済みだ。まぁ、蘭にさえ勘付かれなきゃ何でもいいや」

 

「やっと蘭さんに返事出すんですね。しかもライブの時にって、完全に狙ってますよね」

 

「うっせえ。咲夜もモカたちフったんだろ。さっさと湊に返事出してやれよ」

 

「言われなくてもそうするつもりだ」

 

「...ねぇ、私だけ置いていかれてる気がするのは気のせいかな?何時の間にか告白されてるの?それに何か大詰めみたいな感じになってない?」

 

「まりなさん少し黙っててくれません?」

 

「ごめんなさい」

 

人から言われるのすげー恥ずいんだけど。自分で言うのも気が引けるけど

 

「まぁそういうわけだ。今日はAfterglow練習無いし、休憩時間はスタジオ籠るわ」

 

「Roselia今日あるからな...事情説明して今週は自分たちでやってもらお」

 

「もう休憩入っていよ。今日はそこまで多くないから咲夜君もRoseliaに説明だけしてスタジオ入りなよ。後は私がやっておくから」

 

マジかまりなさんめちゃ優しいな。ここは彼女の御厚意に甘えるとしようか。ギターチューニングしねえと

 

「ありがとうございます。柏、声とベースの調子はどうだ?」

 

「まだ何とも言えません。軽くアップしてから様子を見ます。ベースはそもそも肩にかけた後が心配ですね」

 

「そういえばお前重傷だったもんな。無理しない程度でやっておけ。俺はRoseliaが来るまで受付にいる」

 

「了解。柏、準備するぞ」

 

「分かりました」

 

「咲夜、終わった後紗夜と話がしたい。すまないが、お前の方から言っておいてくれ」

 

「...あぁ」

 

甘えた答えなんて出しちゃいけないんだ。覚悟を決めて告白してくれた紗夜や蘭にも失礼だ。後悔しないと決めた。もう迷わない。だから俺は、蘭を選ぶ。他でもない、俺自身のこれからのために

 

 

 

紗夜side

 

 

 

Roseliaの練習があるためCiRCLEへ行くと、まだ私以外は来ておらず、受付には咲夜さんが座っていた。彼の顔からは以前見た時よりかなりスッキリした様子が見られる

 

「咲夜さん。お久し振りです」

 

「氷川か。久し振りというほどでもないだろ。そもそも学校が違うわけだし。友希那たちはそろそろ着くってさっきメールが来た。白金は?」

 

「図書委員の仕事で少し遅れるそうです。先に練習に入りますね」

 

「了解。それと、週末此処でお前らに向けての感謝ライブをやろうと思ってる。随分世話になったからな。出来れば予定と空けてもらえると助かるな」

 

「感謝ライブですか...分かりました。空けておきますね」

 

彼らからの感謝ライブ。それをやろうとする辺り彼らも随分変わったわね

 

「その微笑みはやめてもらおうか。無性に腹が立ってくる。あと、俺らも練習しなきゃならないから暫くは練習見れやれそうにないから各自よろしくな」

 

「分かりました。私の方から伝えておきます」

 

またXaharの音が聴けるのね。私たちの憧れの音にして私たちが越えなければならない音。考えただけで胸が高鳴るし、早く練習したくなる

 

「楽しみにしておきますね。それでは、私は先に...」

 

「それと...」

 

「?」

 

「奏斗が練習終わったら話がしたいらしい。割と大事な話っぽいからすっぽかさず話してやってくれ」

 

「っ...分かりました」

 

咲夜さんは恐らく分かっているのだろう。私と奏斗の間にあるものを。奏斗が私に告白の返事をしようとしていることを

 

「んじゃ、練習頑張れよ。まりなさーん、俺もスタジオ入りますね!」

 

「りょーかーい!頑張ってねー!」

 

今日の練習は集中出来ないかもしれない

 

 

 

 

 

♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯ ♪ ♭ ♯

 

 

 

 

私がスタジオに入った数分後、湊さんたち羽丘組がスタジオに入り、そのまた数分後に白金さんもスタジオに入った。どうやら走って来たようで息を切らしていたので、白金さんの呼吸が整うまで待つことにした

 

「そういえば、受付に咲夜がいなかったけれど彼は?」

 

「そのことなんですが...」

 

私は先程受けた説明をそのままRoseliaのメンバーに話した。今井さんや宇田川さんは大喜び、白金さんも微かに微笑んでいる。しかし、湊さんは喜びもあるようだが何処か緊張しているように見えた

 

恐らく、咲夜さんへの告白の返事が気になっているのだろう。湊さんが彼に想いを伝えたのは知っている。しかし、まだ返って来ていないことを考えると...

 

(良かったですね...湊さん)

 

私が彼女が選ばれると思う理由。根拠としては薄いが、今日の松原さんの顔だった。いつも明るい彼女が今日は暗い雰囲気だった。何となくだが、フられたのだと悟った。これから私も同じになるだろうに

 

「彼らが来れないとなると、今週は咲夜のメニューを中心にやった方が良さそうね。いつも通り何曲か合わせて、不安な箇所を修正していきましょう」

 

今は奏斗のことは頭から離しましょう。迷いや不安はメンバーの音にまで影響してしまう。それだけは絶対にあってはならない。深呼吸をして心を落ち着かせる。今なら大丈夫そうだ

 

「紗夜、深呼吸多いけど大丈夫?」

 

「大丈夫です。いつでもいけます」

 

「それじゃあ、Rからいくわよ。あこ」

 

「はーい!」

 

 

 

奏斗side

 

 

 

スタジオに入ってから二時間くらいが経過した。時計を見るとシフトの時間もとっくに過ぎていたので俺は残りの二人に声をかける

 

「今日はこんなもんでいいだろ。そろそろ片付け始めよう」

 

「奏斗、今日晩飯家で用意するから来てくれ。今日中に八割は出来るようになっておきたい」

 

「了解した。材料足りないなら家から出すけど」

 

「いや、大丈夫だ。丁度買い物に行こうとしてたところだし。柏、お前は何か食べたいものあるか?」

 

「特にこれといったものはありませんね。出来れば軽めのものがいいです」

 

「善処する」

 

改めて思うが、何で家の地下にスタジオなんて作ったんだ?あの頃は別に音楽にハマっていたわけでもないし...逆にスタジオあるのを知って興味持ったくらいだ

 

考えてるうちに片付けが終わったのでスタジオを出ると、カウンター前でRoseliaが待っていた。紗夜を見た瞬間緊張してきたな。彼女も同様に緊張しているのが分かる

 

「終わったみたいね。貴方たちの音、楽しみにしてるわ」

 

「久し振りに本気で練習しましたね。最近友希那さんや蘭さんが追いつき始めたのでこれを機に突き放しておこうかと」

 

「感謝ライブってのに張り合うな。ほら、とっとと買い物行って飯食って練習するぞ」

 

「分かりました。では皆さん、道中お気を付けて」

 

「じゃあねー柏!りんりん、行こ!」

 

「うん...」

 

「奏斗、何処で話すの?」

 

「そこのカフェでいいよ。そんじゃ咲夜、また後でな」

 

「うぃ」

 

皆が帰路についたのを確認すると、俺と紗夜は向かい合うようにカフェの席に座った

 

「...紗夜。話しの内容は分かってると思うが、告白の返事をさせてほしい」

 

「...聞かせて。貴方の答えを」

 

少しの沈黙をおき、俺は答えを出す

 

「俺は...蘭が好きだ。だから、紗夜の気持ちには答えられない」

 

俺の返事を聞いた紗夜は...どこか分かっていたような雰囲気で笑っていた。でも、目は潤み泣きそうになるのを必死で我慢しているように見えた

 

「やっぱり...分かっていてもそれなりに堪えるわね。でも、貴方に伝えられてよかった。この気持ちを知ってもらえてよかったわ」

 

「俺も、紗夜に告白されて嬉しかった。紗夜に出会えて本当によかった。紗夜がいたから今の俺がある。こんな俺を好きになってくれてありがとう」

 

「フった相手に言う言葉じゃないわよ。もっと突き放しておかないと、諦められなくなるわよ」

 

「それは出来ないな。紗夜にはこれから俺の友として、ライバルとしていてほしい。俺を越えるんだろ?途中で投げ出させはしねえぞ」

 

「...そうね。私は必ず貴方を越える。その時まで待っていなさい。宮本奏斗」

 

「あぁ。これからもよろしくな、紗夜」

 

「えぇ」

 

こうして、紗夜の恋は終わりを告げた。だけど、俺はまだ終わっていない。週末のライブで俺は蘭に想いを伝えなければならない

 

(待ってろよ、蘭)




次回、最終回





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