友希那side
ついにXaharによる私たちへの感謝ライブの日がやってきた。どうやら朝から夜までずっとやるらしく、CiRCLEは今日一日貸切状態となっている
今は咲夜たちが準備をしているため、私たちはラウンジで待機している。正直、今週は落ち着いていられなかった
「友希那大丈夫?さっきからソワソワしてるけど。体調悪かったら言ってね」
「リサ...大丈夫よ。別に体調どうのこうのではないの。少し落ち着いていられなくて」
「まぁ確かに楽しみだもんね。Xaharの音が聴けるなんて滅多にないし、この機会に柏の技術盗んでおかないと。それに、咲夜に頼んで筑前煮作ってもらってるからさ〜もう一刻も早く始まってほしいよー」
別に楽しみすぎて落ち着けないわけではないのだけど...
(告白の件、彼は考えてくれているかしら...どさくさに紛れて言うものじゃなかったわよね。終わったらもう一回言わないと)
この一週間、告白の返事が気になりすぎて学校の授業どころかバンドの練習すら集中出来なかった。ミスは少なかったけれど、他のパートのミスに気付けなかった
(考えすぎても意味はないわね。とりあえず楽しみましょう)
蘭side
今日はXaharの感謝ライブの日。わざわざCiRCLEを貸切にしてまでやってくれて凄く嬉しかった。感謝しなきゃいけないのはあたしたちの方なのに
(告白の返事、まだ貰えてないな...気になりすぎてライブどころじゃなくなりそう)
あの日から既に一週間以上が経っている。今までにないくらいに落ち着けなくて、学校やバンド、華道のことにも支障をきたしかねない状態だった
モカが咲夜にフられたことは本人から聞いた。でも本人は逆に吹っ切れた様子で顔つきもかなり変わったように感じる
それに比べてあたしはどうだろう。奏斗にフられた時、あたしは耐えられるだろうか。素直に氷川さんを応援出来るだろうか
「考えても無駄だよね。決めるのは奏斗なんだから。信じて待つしかない」
どうか、あたしが選ばれますように
咲夜side
「柏、もうちょいベース音量上げれるか?」
「奏斗君もう少しだけ響かせられる?」
「お姉様はもう少しだけ力強くできますか?」
CiRCLEのライブ会場。朝早くから集まった俺たちは最終調整に入っていた。フェスで頂点に立った者として、感謝を伝えるための演奏を聴いてもらうため、下手な演奏は出来ない
「咲夜、ソロのところ音量上げれるか?出来るだけ目立たせたい」
「了解。柏、喉の調子は?」
「順調です。フェスの時並み以上はいけるかと」
「私も今日は凄く調子いいよー!三日分の仕事徹夜で終わらせた甲斐があったよ」
華蓮には悪いことしたな...今度カレー作ってあげよう
「華蓮は調整終わったら寝とけ。体育祭の俺みたいに寝て身体が固まらないように出来るならだが」
「じゃあ悪いけど少しだけ寝かせてもらうね。柏、貴女も無理しないようにね。一番怪我多いし酷いんだから」
「分かっています。大分痛みにも慣れてきたのでなんとかセトリの4曲はいけると思います」
いや痛みあんのかよ...まぁ本人が大丈夫と言っている以上、このまま進めるしかないか。出来るだけ怪我の少ない俺と奏斗で準備を進めておかないとな。まりなさんにこれ以上無理を言うわけにもいかないし
「よし、じゃあ調整は終わりだ。柏も休みがてら友希那たちと話してきな。後は俺と奏斗で終わらせる」
「ありがとうございます」
「咲夜、機材も問題無さそうだ。会場もまりなさんがセットしてくれたし、何時でもいけるぞ」
「了解。15分後に友希那たちを入れる。それまで各自休もう」
友希那への返事の言葉考えとかないとな
柏side
最終調整を終わらせた私はラウンジで待機している友希那さんたちのところへ向かった。一歩歩くたびに足に痛みが走る。お兄様たちの前では強がったが、慣れてきたとはいえかなり痛い
(完治まで半年かかるって言ってたけど、この痛みがまだ数ヶ月続くって考えると気が重くなるなぁ...)
終わったらストレッチの方法でもネットで探しておこうと心の中で決意。ラウンジに着くとドアを開けて中に入る
「皆さん、準備が終わったので15分後くらいに開始しますね」
『はーい』
息ピッタリだこと。正直RoseliaとAfterglow以外は関わりが薄いので気まずいことこの上ない
「柏、筑前煮ちゃんと作ってくれてる?」
「ギャルのクセに筑前煮が好物ってどうかと思いますがね。お兄様が頑張ってましたよ。コミュ力お化けにも世話になったからって」
「今一度アタシのことどう思ってるのか話し合いしておきたいな...あと柏も、人のことギャルとか言わないの」
「さて、私は他の方にも挨拶してきますね」
「あれ!?無視!?」
リサさんの言葉を受け流しながら他の方へ挨拶しに行く。ハロハピとポピパは余程楽しみなのかはしゃいでいる。いや、多分弦巻が色々やってるからだわこれ。あの中に入る勇気は生憎持ち合わせていない
諦めてパスパレが集まっている方へ歩く。よくもまぁ予定が空いていたなと思う。実は白鷺さん推しなのでサインを貰っておいた。部屋に飾ろ。今度ベースを教えてほしいと言われたので快く引き受けた
「Roseliaのとこにも行きたいけど時間無いな...後でいいや。皆さん時間が来たので会場へ移ってください!」
さぁ、始めましょう。Xaharのショーを
奏斗side
「本日はお集まりいただき感謝します。存分に楽しんでください」
準備を終え、ついにライブが始まった。MCはいつも通り柏がやっているが、途中俺たちも割り込もうと思ってる。と言うよりもほぼ会話みたいになりそうだ
「改めて、今日は来てくれてありがとな。俺たちなりに皆への感謝を伝えたいと思って集まってもらった。まず、俺たちを知りながらも一緒にいてくれてありがとう」
咲夜の言葉に全員が頭を下げる。言葉だけでは足りない分、今から音で伝える
「皆には返しきれないくらいの恩があるからね。特に弟がお世話になったし」
「余計なこと言うな!」
咲夜のツッコミに会場が笑いに包まれる。咲夜を見ると若干顔が赤くなっている。恥ずかしそうにする彼奴初めて見たかも
「ライブとしては4曲と短いけど、この後のパーティーも楽しんでくれたら嬉しい。じゃあ早速1曲目やるか」
「そうですね。それでは聞いてください、ハルウタ」
1曲目はいきものがかりのハルウタ。いきものがかりは俺の大好きな音楽グループだ。先に言っておくと、ラストもいきものがかりの曲になっている
メンバーの調子も良く、いい形でスタートを切ることが出来た。ハルウタが終わるとともに拍手の音が会場を支配した
「まずは1曲目ありがとうございました。あまり長引くと私の身体がもたないので2曲目やらせていただきます。聞いてください、katharsis」
2曲目はTK from 凛として時雨のkatharsis。unravelかどっちにするかで迷ったけど、ギターのフレーズが気に入ったのでこっちにした
順調に2曲目も終える。katharsisはドラムがかなり難しく、華蓮さん曰く完成に一番時間がかかったそうだ
「ありがとうございました。続いて3曲目、STYX HELIX」
今度はMYTH & ROIDのSTYX HELIX。英語が多くて柏はかなり苦労した模様。テンポもゆっくりなのでkatharsisの後に最適だと思ってこの曲にした。因みに女子二人がMYTH & ROIDが好きらしい
3曲目も終わり、次で最後の曲となった
「ハァ...次で最後です。おそらく、Xaharとしてステージで演奏する最後の曲になるでしょう。それでは最後、笑顔」
ラストはいきものがかりで一番好きな曲、笑顔。この曲は歌詞を読むだけで感動する。初めて聴いた時泣くかと思った
〜♪〜♪〜♪〜
クライマックスに近づくにつれてあることに気が付いた。柏の声が震えていたのだ。顔を見ると彼女は泣きそうになっていた。これには咲夜と華蓮さんも驚くばかり
(嬉しいんだな...こうして心の底から楽しいと思うことができて。今まで咲夜のために生きてきた彼奴が、自分をもてなかった彼奴が、ようやく自分の生きる道を見つけられたんだ)
それと同時に虚しさもあるのかもしれない。この日が終われば暫くは虚無感に駆られるかもしれない。でも、前に進むと決めたからこそ、乗り越えられるものだと今は思う
曲が終わると同時に耐えていた涙を抑えきれなくなったのか、柏は頬に雫を流していた
「...本当に、ありがとうございました!!」
そしてそれは清々しい笑顔とともに吹き飛ばされる。深々と頭を下げる柏に続いて俺たちも頭を下げる。盛大な拍手を送られ、終わったことを実感する
「この後のパーティーも楽しんでください!皆さんにとって今日が最高の一日になったら嬉しいです!」
さて、最後の大仕事といこう。蘭にこの気持ちを伝えるために
蘭side
Xaharによるライブが終わると、あたしは柄にもなく涙を流していた。理由は言わずもがな、彼らの想いが伝わったから。心からの感謝が心に響いたから
(いつか...あたしたちもあんな風に演奏出来たら...)
そう思いながらラウンジへ戻ろうとすると
「蘭」
奏斗があたしを呼び止めた
「どうしたの?料理ならまりなさんが運んでくれてるらしいし、奏斗も早く行こう」
「その前に大事な話がある。来てくれ」
「っ...分かった」
まさかと思いながら、素直に従い彼に着いて行く。控え室の一室に連れて来られたあたしは、まるで異空間に飛ばされたかのような感覚に陥っていた。緊張してるのだろう
「...告白の返事、していいか?」
「...うん。聞かせて」
「俺は...」
川の激流の如く流れる血があたしの心臓を襲う。やがてその衝撃は身体全体まで広がり、立っているかも分からなくなる
「蘭、お前が好きだ。これからも、そばにいてください」
瞬間、鈍器で頭を殴られた気がした
「う、嘘...じゃないんだよね?」
「あぁ。俺は蘭が好きだ」
「ほ、ほら。氷川さんの方が美人だし、ギターも上手いし...あたし、嫉妬深いし...奏斗が他の女の子と話してるとすぐイライラしちゃうし」
「それも含めて、蘭が好きだ。本来ならあの時病院で答えを出せた筈なのに、先延ばしにしてごめん。誰が何を言おうと、俺は蘭を愛してる。俺と一緒にいてほしい」
「...こんなあたしでいいなら...改めて、奏斗。貴方が大好きです。世界で一番、愛しています。あたしと付き合ってください」
「喜んで」
選んでくれた。奏斗はあたしを選んでくれた。氷川さんじゃなくて、あたしを。もう絶対に離さない。あたしが奏斗を支えるんだ
「大好きだよ、奏斗」
友希那side
ライブ終了後、咲夜にステージで待っていてほしいと言われた私は若干緊張しながら彼を待っていた。自力で立てるくらいには足は回復したが、歩くのはまだ難しい。そして数分後、彼は戻って来た
「...待たせて悪い。話がしたくてな」
「大丈夫よ。それより、話って?」
分かっているくせに。少しでも返事を遅らせたくて、フられるのが怖くてつい余計な一言を発してしまう。だけど、それは無意味に等しかった
「告白の返事、させてほしい」
「......」
恐怖のあまり、目を瞑ってしまう。瞬間、私の唇に柔らかいものが触れた。初めてではないその感覚が、彼の唇だと理解するのに時間はかからなかった
「ちょっ!/////咲夜!?」
「これが俺の答えだ。俺は友希那が好きだ」
「わ、私なんかで本当に...いいのかしら?家事も出来ないし、歌うことしか出来ない。それに、多分独占欲かなり強いわよ?」
「だからなんだよ。独占欲なんて誰にでもあんじゃねえの?今までそういった経験無かったから分からないけど...そういうところも好きなんだよ」
「友希那の目が、髪が、声が、全てが好きだ。咲き誇る紫の薔薇が。俺に道をくれたお前が好きだ」
彼から発せられる言葉一つ一つがスッと胸の中に入っていく。夢か現実か。嘘か真か。もう何が何だか分からない
「あの日、友希那は俺に本音を言えって言ったよな。俺は、生きたい。友希那と一緒に、友希那のそばで生きたい。友希那とたくさんの思い出を作りたい。それが俺の本音。願いだ」
「...引き返すなら今のうちよ」
「アホ。そんなんなら、そもそも呼び出してない。それ以上何か言うなら友希那が言った分の倍以上は言わせてもらう」
...くさいセリフ言ってくれて。恥ずかしくないのかしらね
「もう一度言うわ。咲夜、貴方が好きよ。誰にも渡さない。貴方の道は、私が導く。死神だなんて言わせない。一人の人間として、私は生涯貴方を愛し続ける」
もう誰にも邪魔させない。私と彼の間に邪魔をしようものなら容赦はしない。相手が誰だろうが、彼だけは渡さない
「もう一度言うけれど、私の愛は重いわよ」
「安心しろ。全部受け止めてやる」
もう一度口付けを交わす。私たちの愛を形にせんとばかりに
愛してるわ、月読命咲夜
死神と歌姫たちの物語 完
今まで本当にありがとうございました!筆が進んだらAfterstoryみたいなの書こうかなと思ってます
こうして続けてこれたのも読者の皆さんのお陰です!もう一度、本当にありがとうございました!!!