死神と歌姫たちの物語   作:終焉の暁月

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予告通り番外編です。久し振りに5000字超えました

まだ暑い日は続きます。皆さんも熱中症に気をつけましょう。去年自分もなりましたが、結構きついです




死神の看病大作戦

咲夜side

 

「モカが風邪引いた?」

 

「うん。だからお見舞いに行ってあげてほしいんだけど」

 

ある日の朝。今日はバイトは無くRoseliaの練習だけあったため今日のメニューを考えようとしたのだが、蘭によってそれは阻止された

 

「お前らは行かないのか?って今日Afterglowの予約入ってたか」

 

「休みにしようと思ったんだけど、モカが琉太に代わってもらえって」

 

成る程な。行けないことは無いが友希那がそれを許すかどうかだな...

 

「ちょっと友希那に確認してみる。あまり期待はするなよ」

 

「大丈夫。ありがとう」

 

電話帳から友希那を選び電話をかける。数秒後、スピーカー越しに透き通った声が聞こえてきた

 

『もしもし?どうしたの?』

 

「モカが風邪引いたらしくて見舞いに行きたくてな。今日の練習休ませてほしい」

 

『...分かったわ。私たちは貴方に頼んでいる側だし無理は言わない。けど、今度私の個人練習に付き合ってもらうわよ』

 

「了解。ありがとな」

 

『リサたちには私の方から言っておくから大丈夫よ』

 

「助かる。それじゃあまた今度」

 

「えぇ」

 

案外簡単に許可降りたな。そうと決まればお粥とかの材料買いに行かなきゃな。幸い明日は土曜日だし夜遅くなっても特に問題は無い。てか親は?

 

「許可は降りた。それはいいんだが、モカの両親はいないのか?」

 

「モカの両親は今旅行中だって。だから今はモカ1人しかいないみたい」

 

「大丈夫なのか?めっちゃ心配になってきたんだけど...」

 

「だから翔に頼んでんの。あんた料理上手いし、そのまま夜ご飯も作ってあげれると思って」

 

「成る程な。それじゃあ俺はさっさと準備して行くとするよ。何かあったら連絡するから対応できるようにしておいてくれ」

 

「分かった。でもどうやって家の中に入ろう?」

 

「あ......」

 

おいおい。どうやって中に入れってんだ。仕方ない。奥の手を使うか

 

「1つだけ入る方法があった。後は任せろ」

 

「ありがとう」

 

放課後

 

柏にRoseliaの練習付き合うよう言っておくか。後は針金があればピッキングして家の中に入れるから1回家に帰って...

 

あれこれ考えながら歩けば気づけば家に着いていた。スマホを見ると学校を出てから。病人いるってのに何やってんだ俺は

 

「ただいまー」

 

「おかえりなさい。今日は少し遅かったですね」

 

「蘭と話しててな。モカが風邪引いたらしくて、彼奴の家に見舞いに行くことになったから夜ご飯はいらない。華蓮と2人で何か食え」

 

「モカさんがですか?珍しいですね」

 

「それな。俺もモカは風邪なんて引かないと思ってた」

 

パンばっかり食ってるくせに太らないし割と健康体だし...今は違うか

 

「Roseliaはどうするんですか?今日練習入ってたでしょう」

 

「友希那には伝えてある。悪いが今日は柏が付き合ってやってくれ。そろそろボーカルとベースは見直しといた方がいいと思うから」

 

「了解しました。では私は準備してから行きますね」

 

「俺もお粥の材料とか買いに行かなきゃな。着替えてくるから一緒に出るか」

 

あまり時間をかけるのもモカが心配なので秒で終わらせてすぐに家に出た。スーパーに直行し額に貼る冷たいやつとお粥の材料を買いあさった。この時間僅か10分

 

お粥の作り方は以前柏が風邪引いた時に調べておいたので分かる。作るより調べる方が大変だったのを覚えている。奏斗もいなかったから本当に大変だった

 

モカの家に辿り着き念の為インターホンを押す。寝ているのだろう。反応は無い。ここはこれの出番だな

 

俺はあらかじめ用意しておいた針金を鍵穴に差し込み解錠にとりかかった。上下解錠するのに20秒はかからなかったと思う。昔潜入する時にめっちゃやったからな...

 

中に入るとまずは先程買ったお粥の材料を冷蔵庫に入れ、すぐにモカの部屋に向かった。部屋では顔を赤くして苦しそうに寝ているモカがいた

 

「熱はっと...あっつ!これはまずいな...とりあえずさっきの冷たいやつ貼って...」

 

額を触ると信じられない程熱くなっていたのですぐさま冷たいシートを貼った。冷たさに驚いたのかモカはゆっくりと目を開けた

 

「あ...れ?しょ〜君?」

 

「お目覚めか。風邪引いたって聞いてな。見舞いに来た。蘭たちはお前に言われた通り練習してるよ」

 

「しょ〜君は?」

 

「花梨に任せた。これは蘭の頼みでもあるし、何より俺が行くと決めたんだ。あまり気にするな」

 

「...ありがとう」

 

「さて、体温計何処にある?1度熱を測った方がいい」

 

「そこの机に...」

 

「あった。身体起こせるか?測ってやるから」

 

「じっ自分でやるから...///」

 

「そうか?あまり無理はするなよ」

 

別にそのくらい任せりゃいいのに...若干顔も余計に赤くなってきてるし

 

 

感情が無いこの死神。体温計を入れるなら多少服をはだけさせなければならないが、この男はそれがモカにとってどれだけ恥ずかしいことなのか知らない。そしてこの男自身、そういったものは感じない

 

 

「鳴ったよ...はい」

 

「どれどれ...39.8C°!?モカ、寝ろ!」

 

俺は無理矢理モカをベッドに寝かせ首筋にもう1枚シートを貼った。首は体温に影響しやすいからな

 

「思ったよりも容体は悪いな...早いところお粥作って寝かせるか」

 

部屋を出ようと立ち上がったその時、裾に違和感を感じ振り返るとモカが掴んでいた

 

「モカ?悪いが、今からお粥を...」

 

「...か...いで」

 

「え?」

 

「行かないで...」

 

今にも消えそうな声でそう呟くモカ。身体の調子は精神の調子にも影響する。身体が弱ったことで精神的にもかなり弱っている。そんな中孤独感というのはとても危険すぎる

 

「まずいな...下手に離れたら余計に悪化させちまう。かと言って何もせずに此処に留まるのも...」

 

「...もち...い」

 

「どうした?」

 

「汗が気持ち悪い。しょ〜君...身体拭いて?」

 

「はい?」

 

 

この男は感情を持たない。だがしかし、学校の保険の授業で最低限ながら知識はある。勿論、恥ずかしさなどは一切湧かない。でもそれはまずいことだということは流石に分かる

 

 

「えっとだな。それは流石に色々と問題が...バレたら友希那と蘭に殺されかねなくて...」

 

「...ダメ?」

 

涙目の上目遣いで見てくるモカ。そんな目で断れる奴が何処にいるってんだチクショウ

 

「...分かった。タオルとか持って来るから。安心しろ、すぐに戻って来る。今は独りじゃ無いからな」

 

安心させるためにモカに語りかける。その言葉が効いたのか少し苦しそうながらも安心したような顔になった。そうと決まればすぐにとりかかろう

 

あれだけの熱があれば相当な汗をかいただろう。風邪を引いた身体にはあまり良くない。洗面台にあった桶にお湯を入れタオルと共に持って行く。扉の前まで来たので桶を1度置いて扉を開けると、モカが身体を起こそうとしていた

 

「おいモカ!何してんだ!」

 

すぐに彼女を支えベッドに寝かせる。こいつ、何をしようとして...

 

「だって...起きないとしょ〜君が身体拭けないから」

 

「んなもん俺が支えながらやれるわ!40C°近い熱出してる病人が人の心配してんじゃねえドアホ!今は自分のことだけ考えてろ!」

 

「...ごめんなさい」

 

今にも泣きそうな表情のモカ。しまった、言い過ぎた

 

「悪い。俺も言い過ぎた。でもな、俺は今お前が心配で、お前のためにこうして動いてる。黙って甘えてろ」

 

「...ゔん」

 

「ほら、拭いてやるから。その、1回服脱いでくれると助かる」

 

若干抵抗がありながらも指示すると、モカの方は何の抵抗も無く服を脱いだ。こいつ、思考力鈍ってやがる

 

服を脱いでもらったので彼女の背中を優しくこする。気持ち良さそうにしてるあたり、余程気持ち悪かったんだろうな

 

「終わったぞ。前とか足は自分でやってくれ。その間に俺はお粥作って来るから」

 

「ねえ...今日、泊まっていってほしいんだけど、いいかな〜?」

 

「え?なして?」

 

「1人はその、寂しいから...今日は独りは嫌だ」

 

まぁ無理もないか。仕方ない、今日は大人しくモカの頼みを聞いてあげよう

 

「分かった。じゃあ先に着替え取りに行かせてくれ。すぐに戻る。暫く寝てろ」

 

「...うん」

 

柏には伝えとかないとな。まだ練習中と言ったところか

 

「もしもし、今どんな感じ?」

 

『今は休憩で、先程まで友希那さんとリサさんを徹底的に叩き直してたところですけど、どうしたんですか?』

 

「程々にしてやれよ...今日はモカの家に泊まることになったからそれを伝えたかっただけだ」

 

『ほぉ?年頃の男女が一夜を共にするのですか...モカさんもいい度胸してますね』

 

「何怒ってんのか知らんがあくまで看病のためだ。友希那には言うなよ殺される」

 

『分かりました(後で言ってやりましょう)』

 

さて、そうと決まれば着替えを取りに行かないとならないな。モカの家から俺の家までは走って10分くらいで着く。往復の時間も考えればその間に寝てくれるだろう

 

「じゃあ行って来るから、しっかり寝ろよ」

 

「は〜い」

 

速攻でモカの家を出た俺は時間短縮のため他の家の屋根を伝って俺の家まで戻った。組織にいた頃の技術がこんなところで役に立つとはな...

 

1泊分の着替えをバッグに詰め込みさっきと同じように屋根を伝いモカの家に向かう。本来なら30分近くかかるであろう時間が15分で終わった

 

「流石に寝たかな...おっ寝てる。顔色も少しだけ良くなってるし暫くは大丈夫そうだな。なら、お粥作った方がいいか。台所借りるからな〜」

 

お粥なんて作るのいつぶりだろうな。俺も柏もあんまり風邪引かないから滅多に作らない。意外と奏斗が風邪引きやすいんだよな

 

「さてと、どうせなら俺の分も作って晩飯にすればいいか。モカの状態考えるとあまり量は食べれそうにないけど...モカだからなぁ」

 

毎日異次元クラスのパンを食べているモカを見てたらどれだけ作ればいいのか分からないんだけど。まぁ足りなくなるよりはマシだな。多めに作っとくか...

 

「これをこうして...よし。久し振りにしては上出来だな。食べてくれるといいけど」

 

できたお粥を持ってモカの部屋に向かうと彼女は来た時よりはマシな表情で寝ていた。汗も拭いたから少し楽になれたんだな

 

「モカ。お粥できたから1回起きてくれ」

 

「ん...」

 

目を覚ましたモカはゆっくり身体を起こした。まだ自力だと難しいあたり衰弱してることには変わらないな。おそらく1日じゃ治らないだろう

 

「1人で食べれるか?食べれそうならその間に風呂借りたいんだけど」

 

「大丈夫だよ〜。ゆっくりしてきて〜」

 

「ありがとう。何かあったら俺の携帯に電話かけてくれ。対応できるようにしておくから」

 

「は〜い」

 

結構美味しそうに食べてくれてるし、問題無さそうだな。最初来た時はヒヤリとしたけど、回復力が高いお陰で何とかなって良かった。この家風呂めっちゃ綺麗

 

「それにしても、俺が人のためにここまでするなんてな...友希那たちのお陰かな」

 

この半年くらいで相当変わったと自分でも思う。以前の俺だったら他の人がどうなろうがどうでもよかったというのに

 

「あんまり時間かけてられないな...普段から長風呂してると急ぐの大変だわこれ」

 

普段なら20分以上かかるのがまさかの15分で終わった。あんまり変わってないわ。まぁ特に連絡も無かったので安心した

 

風呂から上がった俺は飯を食べてモカの様子を見に行った。お粥は綺麗に完食されていて、顔色もまた良くなっていた。回復力どうなってんの?

 

「モカ、調子はどうだ?一応熱も測っておこう」

 

「お昼よりは良くなったかな〜?まだ頭痛いけど〜」

 

「流石に1日では治りきらんよ。で、熱は?」

 

「......」

 

体温計に記された数値を見たモカはそれを布団の中にサッと隠した。いやおい

 

「...何故隠した?」

 

「いや〜...あまりの回復の速さに感動しちゃうね〜」

 

あからさまに目を泳がせながら言うモカ

 

「見せろ」

 

「見たら気絶しちゃうよ〜?」

 

「ええい黙ってろ!いいから寄越せ!」

 

布団を剥ぎ取り体温計を奪い取る。そこに記されていた数値は...

 

 

39.5C°

 

 

「変わってねえじゃねえか!」

 

前言撤回。回復力は普通でした

 

「お前なぁ...病人なんだからそんな面倒なことするな。悪化したらどうすんだ」

 

「だって...しょ〜君とお話したかったんだもん///」

 

「話くらい何時でも付き合ってやる。俺は歯磨いて洗い物してくるから、お前は寝てろ」

 

「...すぐに戻って来るよね?」

 

「あぁ。15分で戻って来てやる」

 

「10分」

 

「ハァ...了解」

 

全く。そんなこと言ってる余裕が何処にあるのだか。独りは嫌だとか言ってるけど、一人と独りは違うからな。今日はそばにいてやるよ

 

モカの要望通り10分で済ませ彼女の部屋に戻った

 

「まだ起きてんのか。さっさと寝ろ」

 

「一緒に寝て?」

 

「座って寝ろと?そのくらいなら別にいいが」

 

するとモカはむすっとした顔をしてベッドを叩き始めた。やめなさいベッドが傷むでしょう

 

「此処で寝て」

 

「なして?風邪うつるかもしれんだろ。つうかバレたら友希那たちに殺される」

 

「...ダメ?/////」

 

だからその赤らめた顔に上目遣いのコンボはやめろ。断れなくなるだろ

 

「...今日だけな」

 

「...湊さんと寝たくせに...」

 

「あれは俺は悪くない。友希那が勝手に布団に入って来ただけだ」

 

「ふ〜ん...まぁいいや。今日はありがとね、しょ〜君」

 

「気にするな。お前が望むなら俺はそれにできる限り応える。それがお前にできる恩返しだ」

 

「...ありがとね〜。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

色々あって疲れたのか、意識が飛ぶのに時間はかからなかった。頬に柔らかい感触があったのは気の所為だろう

 

 

 

翌日も風邪は治っていなかったので1日看病となった。因みに何故かモカの家に泊まっていることが友希那にバレ、説教が確定した。なして?




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