咲夜side
今日は2月14日。世間で言うバレンタインの日だ。正直言って俺はこの日が嫌いだ。中学1年の頃の話をしよう。その日俺と奏斗はいつも通り朝学校に行っていた
『なぁ奏斗、バレンタインって何のためにあんの?』
『俺が知るか。逆に俺が聞きたい。女子が男子にチョコあげるって何のためにやるんだか。好きな人にあげたり、友達としてあげたりだとか色々あるらしいけど、結局何が目的でやってんのかさっぱり分からん。それに、ホワイトデーで返さなきゃならないらしいし』
その頃の俺たちは大分落ち着き始めて感情的に人を殺すこともなくなり、彗人さんに叱られることもなくなっていた
『まぁ、貰ったことないし考える必要なくね?組織にいた頃なんてそれどころじゃなかったし、華蓮さんや柏だって興味なさそうだったから』
それもそうかと納得し、学校に着いたところで俺と奏斗は絶句することとなる
『『嘘だろ...』』
目の前にはサンタが持っていそうなな袋が2つ。所々角があることから、中には無数の箱が入っていることが伺える。その袋の周りには何十人もの女子が集まり、次々に持っていた箱を詰めていく。やがて、その集団を率いていた3人の女子がこちらの姿を確認するなり
『あ、翔君に琉太君!2人ともこっちに来て!』
呼ばれて無視するのもあんまりなので素直に行ってみると
『これ、皆からのバレンタインだよ!人数が多かったから一人一人の数は少ないけど、皆手作りだから食べてくれると嬉しいな!』
『お、おぉ。ありがとう』
『でも、こんなに貰っても返し切れそうにないぞ?』
『気にしなくていいよ!これだけの人に返すのは大変だろうし、受け取ってくれるだけで十分だから!』
意外と考えてはくれてんのなと思った。学校で食べるのはマズイので家に持ち帰り、無駄にするのも気が引けた俺たちは毎日少しずつ食べた。甘いものが苦手な俺は食べるのに物凄く苦労した。そしてそれは3年間続いたのだ
「ハァ...帰りたい」
「どうした?元気なさそうだな」
「お前、今日が何の日か分かってんのか?」
「今日?えっと...あ」
何の日か思い出した奏斗は顔を真っ青にして震え出した
「...俺、今日お腹痛いから保健室行ってくr」
「行かせねえぞ。死ぬ時は一緒だ」
「ふざけんな!俺はあの地獄はもう懲り懲りなんだよ!中学の頃の連中は気遣いが上手かったから何とかなったものの、高校までそうなるとは限らねえんだぞ!お前1人の犠牲で手を打ってやらぁ!」
此奴何て薄情な!?さらっと仲間を捨てやがった!何気に正論を言ってくるのが更にムカつく
「ていうか、今日貰うんならもうとっくに貰ってる気がするんだが」
「...そういえばそうだな。いつも朝なのに...」
中学の頃の3年間は当日の朝に昇降口の前のスペースで大きな袋と共に渡されていた。しかし、今年はそれが無い。大抵、中身はチョコと一緒に付き合ってくださいだのと色々書かれた手紙が入っていたのだが...ん?もしかして...
「なぁ、バレンタインって好きな人とか友達にあげるのが一般的なんだよな?」
「俺はそう思っているが?」
「ひょっとして...俺らには既に蘭と友希那がいるからじゃねえか?」
「...あぁ!」
別にこの学校の女子と特段仲が良いと言うわけではない。話すのだって基本は奏斗か華蓮、Afterglowや友希那に今井といったガールズバンドの奴らだけだ。話したことない奴から告白されていたが、友希那と付き合っていることを公表して以来それはなくなった。つまり
「渡すことが出来ないというわけか。それはいいとして、そうなると...」
「「友希那(蘭)に貰えるかが不安になってくる」」
次の問題はそれだ。何とも思ってない奴から貰ったところで何も感じないが、友希那となれば話は別だ。友希那のことは好きだし、友希那からプレゼントを貰えば当然嬉しい。逆に言えば、貰えなかったら結構ショックだ
「ヤバイ。お腹痛くなってきた」
「それな」
どうか貰えますように
友希那side
「...受け取ってくれるかしら」
帰りのHRが終わった私はいつも通り昇降口で咲夜を待っていた。今私が手に持っているのは小さな袋。昨日、リサに手伝ってもらいながらも一生懸命作ったチョコレートだ。甘いものが苦手な彼のためにカカオの配合率が高いチョコを使ってある
一応味の確認はしたし、問題は無い、筈。リサにもOKをもらったので心配は無いが...受け取ってもらえるか心配なのだ。以前、バレンタインについての記憶を彼に聞いたことがあった。最初は渡すことを少し躊躇ったが、日頃の感謝の気持ちを伝えたいという想いが勝って結果的に作ることになった
「...緊張するわね」
さっきから心臓の音が煩い。深呼吸をして落ち着かせようとしたが、それは叶わなかった
「...友希那」
「!」
HRを終えた咲夜がこちらへ来ていた。彼は何処か緊張しているかのような様子だった
「えっと、これ。貴方にあげるわ」
「これは...もしかして」
「前に貴方にバレンタインについての思い出は聞いていたのだけど...受け取ってくれるかしら?」
「当たり前だろ。むしろ友希那から貰えて嬉しいよ。正直貰えるか不安だったからな。食べていいか?」
「えぇ」
彼は袋を開け、中から小さなチョコを取り出し口へ運んだ。その瞬間、彼の顔に驚きの色が見える
「これって...」
「甘いものが苦手だと聞いていたからカカオを多めにして作ってみたのだけど、どうだったかしら?」
もしかして口に合わなかっただろうか?そんな不安が私を襲うが
「すげ〜美味しいよ。嬉しい」
彼は笑顔で答えてくれた
「ありがとな、友希那」
明日に蘭と奏斗の書こうかと思ってます