「…?」
本来聞こえるはずもない肉声に、ソージは振り返る。
その瞬間、ソージは息を呑んだ。
そこに座っていたのは、一人の少女。
腰元まである長い髪に、真紅の瞳。
なにより目を引くのは、その頭にちょこんと突き出ている薄灰色の角。
まるで
「あり、がとう」
躊躇いがちに自らにかけられた言葉に、ソージは顔色一つ変えず、少女に問いかけた。
「俺以外に、人間はいたのか?」
ただ、それだけ。少女にはなんら興味が無いのだ。
対する少女も、そんな反応は慣れていると言わんばかりに問いかけに応える。
「いたのは肯定。でも、私以外モンスターにやられた」
「その角は?」
「モンスターと人間の間に産まれたから生えてきたもの。物心ついたときから生えていたから、それ以上はわからない」
思ったよりも自分が知りたい情報を持っていると考えたソージは、ポーチから自前の回復薬をとりだし、その詮を開けながら少女に近づく。
と、回復薬を飲もうとしたソージの頬に、躊躇いがちに手が伸ばされる。
その自然な動作に反応できなかったソージは、アッサリとその手に捕まってしまう。
どうでる、とソージが身構えていると、少女はソージの瞳を覗いて言った。
「あなたの眼、とっても綺麗」
左目、つまり義眼に映る少女の顔。
まだ幼さが残り、そしてその真紅の瞳には決意や諦めなどの、様々な感情が渦巻いている。
「…コイツは自前の眼じゃない。作りもんだ」
「作り物?」
「たまたまそこにあったから使ったってだけだ」
言葉を濁すソージの顔に、『余計な詮索はしないほうがいい』と感じ取った少女は、立ち上がってソージを見上げる。
「これから、どうするの?」
「どうもなにも、ねぐらに戻って寝るだけだ。大陸を渡るには船やらが必要だしな」
「大陸を、渡る?」
ハァと溜め息を吐いたソージは、自らがここに来た経緯と、大陸を渡る船を自作しようとしている事を明かす。
ずっとそれを聞いていた少女は、ソージの話が終わったその時、自らがした決意をソージに明かすのだった。
「決めた。私、ソージについてく」
「…は?モンスターに襲われる足手まといを連れていく気はないぞ」
「大丈夫。私も戦える。だからこそこの場所で生きていられた」
「…だったら、なんで襲われるんだよ。追い払えよ」
突き放すソージに、少女は一瞬だけ躊躇うと、すぐにソージに言い放った。
「し、死のうと、思ってた」
「ん…?」
「ずっと歩いても人は見つからない。親も死んだ。周りにはモンスターがたくさんいて生きるのが難しい。だから、だから…」
「もう諦めようって?」
言い辛いことを代わりに言われた少女は、こくりとうなずく。
しばらくの沈黙、ソージは何度目かの溜め息を吐くと、少女を手を引き、先程昇ろうとした崖へ向かう。
きょとんとする少女は、ソージについて行き、ソージに抱えられて崖を昇る。
「あの、何を…?」
「いいから、黙ってついてこい」
片手の腕力だけで少女を抱えながら崖を昇るソージ。
少女は腰だけもたれ、エセお姫様だっこのような形でしがみついているので、その景色は見えない。
そして大きな衝撃、少女の視線がガクンと揺れ、次に少女の視界に映ったのは─────
「……!!」
「…ふっ」
【絶景】の二文字では表しきれない光景が広がっていた。
どこまでも海が広がり、雲一つ無い空を写してたゆたっている。白いカモメのような鳥が巣から幾匹も飛び出し、鳴き声で歓迎のファンファーレを奏でる。
「…諦めも、死のうって想いも、この景色は全部拭ってくれた。綺麗だろう?」
「…うん。私、この景色が好き」
「そりゃ良かった。でも、この先があったらもっと楽しみたいと思わないか?」
「…?先が、あるの?」
この景色はとても綺麗だ。自分が今まで見てきた中で、一番。なのに、この先がある。見てみたい。
少女は頭の中でそんな事を考える。
その無言の返答に満足したソージは、再び少女を抱える。今度はエセではなく、本当のお姫様だっこ。
「こ、こんどは何を…?」
「まぁ見てろって」
少女を抱えたまま、ソージは目を5回光らせる。
点滅が終わった瞬間、ソージはジャンプした。
どこに?考えてみて欲しい。現在ソージは崖の上。
答えはもちろん、空中である。
「─────!」
もちろん落下するが、白い閃光が轟ッ!!!と二人の側を通りすぎた瞬間、二人の姿は
「カアアアアアッ!!」
「どうだっ!楽しいだろう!」
「シャガル、マガラ…!?」
白い閃光の正体は古竜シャガルマガラ。
その背中で、ソージと少女は一時の遊覧飛行を楽しむのだった。
「もう一度聞く!楽しいか!?」
「楽しいっ!こんな、早くて、高くて!とっても!楽しいっっっ!」
「カアアアアアッ!!!」