ガチャリ、と扉を開き、私は中に入ります。
手にお盆を持って。
「奏治君?」
全てを拒絶するようなカーテンの向こうから、くぐもった声が聞こえてくる。
きっと、カーテンの向こうでさらに布団をかぶっているのだろう。
「ごめんなさいです、ソージじゃないです」
「…ミィナちゃん?」
ソージじゃないと言うのが心苦しい。
ソージがいなくなってから、リンはずっとこの調子。
狩りにも行かず、塞ぎ込んでいます。
ここに来るたびに、『ソージ?』と聞かれるのですが、残念な事に一度も『そうだ』という返事はありませんでした。
「ごはん、ここにおいてくです。それと、村長がリンに用があると言ってたです」
「…ごめん、村長には行けないって言っておいて」
案の定、リンからは断られます。
ですが、こちらにも引けない事情があるのです。
最終兵器として、村長から伝えられていた言葉を使う事にしました。
「…ソージに関わることです」
「──────ッ」
空気が張り積めます。
装備を整えていたのか、しばらくしてカーテンの隙間からリンが顔を出しました。
久し振りです、顔を見たの。
「それ、本当?」
「村長から言われたことなので、詳しくはわかりませんが、本当です」
「なら、行って…みようかな」
私はリンの手をとってカーテンから引きずり出し、村長の元へと引っ張っていきます。
リンの顔を見た村長が差し出したのは、一枚の紙切れ。
クエストの依頼でしょうか。
「『彼の影を追って』…?クエスト達成条件、『ソージの発見』…。『ソージの発見』!?」
どうやら村長はリンのことを思ってソージの捜索依頼を出したようです。
「…リン、どうするです?」
「・・・」
リンは紙を持って受付のお姉さんの元へ向かいます。
それだけで、私にはリンがどうするかがわかりました。
お姉さんがリンを見て薄く微笑むと、いつものセリフを口にしました。
「…こんにちは、ハンターさん。そちらのクエストを受けますか?」
リンは一度息を吸って、お姉さんに紙を渡しました。
そして、こういうのです。
「…はい。必ず、達成してみせます」
お姉さんは微笑み、村長は安心したように男臭い笑みを浮かべました。
いつの間にか隣にいたアズール達はリンに応援の言葉を投げ掛けます。
「うん、うん。絶対、助けるから。絶対に」
リンは歓声を受けながら、ゲートに一番近い私の前で来ました。
私はここぞとばかりに、ずっと思っていた言葉を口にするのです。
「いってらっしゃいです、リン。必ず、二人で戻ってくるですよ」
「うん、私は諦めないよ。所詮はまだかけだしハンターだし、装備も最初のままだけど…。絶対、助けてみせるから」
リンは微笑むと、ゲートをくぐり、直ぐに走り出しました。
あの方向は古代林です。
私は後押しとばかりに、ポーチから角笛を取りだし、思いっきり吹きならしました。
角笛のよく響く音が、ベルナに響き渡りました。