「あぁ!そこ避けろ!」
「えぇっ!?どこ?って、あぁ!」
とあるマンションのとある部屋、携帯ゲーム機を手に向かい合っている二人の男女がいた。
「またか…」と疲れた様子で目頭を押さえている少年、
「上位ブラキの討伐、失敗したの何度目だ?」
「…うぅ。四度目です」
「いつも必ず三乙するの、誰だ?」
「…私です」
奏治はため息をつくと、傍らのメモ帳に目を落とし、そこに書かれた文に目をやる。
【キークエ一覧】と書かれた下に、おびただしい量の字が並んでいる。
二人は巷で人気のゲーム、モンスターハンターをプレイしている。
最初は順調だったのだが、途中で凛が「ブラキ装備はロマンだよ!」などと訳のわからない事を言い出し、仕方なく爆砕竜、ブラキディオスを狩りに行ったのだが…
「お前、近接向いてないぞ」
「しょうがないじゃん、初めてなんだもの!って言うか、奏治君だってよくそんなプレイできるよね!?始めたの、昨日でしょ?」
そう、奏治も凛も、超初心者。
なのに、上位まで解放している辺り、奏治の適応力とプレイヤースキルの高さがうかがえる。
「俺は別に、昨日徹夜して慣らしただけだし」
「だとしてもおかしいよ!なんでそんなに攻撃が上手いの!?」
「タイミング読むだけだって。伝えるの三度目、それで三乙する凛の方がおかしい」
「だってぇ、あんな巨体が空をぴょーんて跳ぶなんて誰も思わないでしょ?」
平和すぎる凛の脳内思考に、奏治は再度ため息をつく。そろそろ奏治の頭が熱くなってきた頃、異変は起きた。
「ほら、もっかい行くぞ…」
「う、うん…。あれ?奏治君、それ、何?」
「は?…って、なんじゃこりゃあ!?」
ゲーム機を掴もうとした腕がからぶったと思ったら、液晶に手が突っ込まれているではないか!
慌てて引き抜こうとするも、ゲーム機はくっついたまま、さらに腕を飲み込もうとする。
「おい、これどうなってんだよ!」
「わーすごい!液晶突き破られてないよ!」
「そこじゃねぇよ!引っ張られてる!抜くの手伝ってくれ!」
奏治の冗談では無いことがわかった凛は、慌てて奏治のゲーム機を掴み、奏治とは逆の方向に引っ張る。
「ダメ、びくともしない!」
「おいどうすんだよ!右腕無くなったら嫌だぞ!ってうわ!」
ついにはゲーム機は奏治の肩を飲み込んだ。
頬を引っ張られる感覚が、奏治をさらに不安にさせる。
「おっまっ!タッ、タスケテー!タスケんがっ!?」
「奏治くううん!」
頭がすっぽりとゲーム機に収まってしまった奏治は、手足をばたつかせることしかできない。
凛はもうどうすれば良いかわからず、とりあえず奏治の左腕を掴んだ。
そのままゲーム機に奏治の体ごと引っ張られ、ついに奏治も凛も、ゲーム機に収まってしまった。
その瞬間─────
世界から、【奏治】と【凛】が消えた。