湯煙の立ち込める和風な村、ユクモ。
その受付嬢は、混乱していた。
「く、クエスト達成お疲れさまです…?」
「おう。どうだ、シャロ?」
「ばっちぐー。ピッタリフィットしてるよ」
目の前にいるのは、擦りきれたベルダー装備に身を包んだ、蒼い片目を持っている少年。
その後ろには、新調したロアルドロス装備を確かめながら一回転する竜人の少女だ。
「おう、それなら良い。クエスト報酬で宿代も手に入ったし、これで大丈夫だな」
「どれくらい行ったっけ?」
二人の声を聞いて受付嬢は手元にある紙の束を数える。
未だ混乱しており、手の動きがカクカクと震えている。
「に、25…です…」
「あれ?そんなものだったか」
「…ん。結構ラク」
受付嬢が混乱している原因はここにある。
この二人、渓流の生態系をぶち壊す勢いでロアルドロスの乱獲をしたのだ。
両親を殺されたロアルドロス(息子)が挑めばその首回りのふわふわをもぎ取られ、兄を殺されたロアルドロス(妹)が挑めばその尻尾を捕まれジャイアント・スイング。
同行の度に駆り出される馬車引きアイルーはキャンプにいても聞こえてくるロアルドロスの悲鳴がトラウマとなり、半泣きになりながら帰ってきた。
「なにはともあれ、ようやく装備が新調できたな」
「…まだ。ソージのが終わってないよ」
「俺はまあ、継ぎはぎで良い。後でちゃんと作るし、余ったロアルドロス素材をくれ」
「ん。ソージの着替え、楽しみにしてる」
「ただの装備なんだが?」
アイルーがむせび泣き、渓流で釣りをしようとしていたハンターが『釣り場が血だらけだ!』と受付に駆け込む。
阿鼻叫喚としたユクモ村の中心で、髪の毛を血に濡らした二人がくっつきあっている。
「…お二人とも、まずは髪の毛の血を拭ってきたらどうでしょう?」
「ユクモの村長。名前は…」
「名乗るほどでもありゃしません。早いところ、行ったほうがええと思いますけど。その
「…!それは困る。ソージのお気に入りなのに」
ユクモ村の村長の提案に、ソージは首を傾げる。
自分がやっていた【モンスターハンター
「…どうやって落とすんだ?」
「温泉があります。あ、混浴ではないですよ」
「…あるのか、温泉。ゲームでは無かったろ、なんで…」
「ソージ、早く行こう?髪の毛が痛むと困る」
「ん?あぁ。わかった、行ってみる」
「それはよかった。ささ、お早く…」
渡した地図をひらひらと振るソージを見送りながら、ユクモ村の村長はひそかに頭を抱えた。
「生態系が!渓流にファンゴが異状におるんですけど!」
「イヤにゃあ~…。もう渓流には行きたくないにゃあ…」
「どーすんだよ!血の匂いを嗅ぎ付けてタマミツネが集まってきたぞ!」
「…………この収集、どうやってつけまひょか…」
ユクモ村の受付は異様な仕事の多さから、その日は村長自ら仕事をこなし、なんとか一日を終えた。
◇
「ふい~…。まさか本当に湯船に入れる温泉があるとは…」
何ヵ月かぶりの風呂に、ソージは深い息をつく。
じんわりと温いその感触はゲームの世界に迷い混む前は何回も入っていた物。
いざ入れないとなると、その大切さが身に染みる。
「荒いタオルを湯で濡らし、それで体を拭く…。ゾワゾワして嫌なんだよな」
風呂好きの日本人にタオルは地獄だよなぁ、と愚痴をこぼすソージ。
一方、隣の女湯では…
「~♪」
シャロはまだ湯に浸からず、髪の毛を念入りに洗っていた。
石鹸を桶に溜めたお湯に溶かし、それを手で救って髪の毛を洗う。
今まで川に浸かって髪を洗っていたシャロはもこもこと泡立つソレが気に入ったようで、念入りに髪を洗う。
充分に洗った髪をお団子状に頭に巻き、湯船に恐る恐る足を入れる。
風呂が初めてのシャロはびくびくしながら足から入り、そして肩まで沈む。
じんわりと温い感触が自らの体を包んだ瞬間…
「くぅぅぅぅ…♪」
自らの口から無意識に出たその声に今日一番驚いた。