異世界ハンター放浪記   作:翠晶 秋

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25話 見当たらない影 (sideリン)

 

ピシャッ、と月夜に水が跳ねる。

タマミツネは水しぶきを上げながら、目の前の相手を穿とうと口から水のレーザーを放出した。

和装束のような装備を使い、両手に小さな短刀…双剣をもった黒い影は、レーザーをジグザグとした動きで避け、いとも容易くタマミツネに肉薄する。

影はそのまま大地を蹴ると飛び上がり、勢いを殺さずそのまま斬撃をタマミツネの喉に喰らわせる。

 

「きゅあああああお」

 

それが最後の一撃となり、タマミツネは勢いよく横たわり、そして息絶えた。

ざく、ざくとナイフで素材を剥ぎ取った影は腰元から回復薬を取り出すと、一気に飲み干し呟いた。

 

「……ここにも、いない」

 

フードのような角隠しを外し、長い黒髪を晒した女。

 

「奏治くん」

 

リンは血に濡れた手を足元にある水で洗い、角隠しをかぶって素材だけ持って走り出す。

もう一度、やり直すため。

 

 

 

 

「おいおい嬢ちゃん、装備が血だらけだぜ?その剣だって、しばらく研いでないだろ?」

「………どうせ泡が洗ってくれます」

「ねえねえ、あなたハンターさん?美味しい食べ物あるけど、寄ってかない?」

「………………………お腹がいっぱいです」

 

温泉による湯気があちこちから立ち込める、ユクモの村。

住人は入り口からやってきた血に濡れた────体格や装備からして女だろう────女を見かねて、次々に声をかける。

しかし女は、リンは引きずっている足を止めない。

長い階段を登り、長椅子に座っているはんなりとした女性───ユクモの村長に話しかける。

 

「ここに、ハンターは。ベルナの装備をつけた男のハンターは来ましたか」

「………覚えはあります」

「………よかった」

 

そう言うが早いか、リンは気を失って倒れてしまう。

ユクモの村長はこの見たこともない女に若干の畏怖と、大量の戦慄を覚えた。

 

 

 

 

「かはっ、あっ、奏治くん」

「起きましたか」

 

リンが目を覚ますと、目の前にいたのはユクモ村の村長だった。

今のリンは体を締め付ける装備はつけておらず、インナーだけである。

 

「大丈夫ですか。なんやら、うなされていたようですけど」

「若干癖のある話し方。ユクモ村の村長さん?」

 

ゆっくりと首を縦に振った村長に、リンは胸を撫で下ろす。

まずはゲームで奏治が一番好きだったユクモに行こうと思ったが、意識が朦朧としていて村に来たときの事を覚えていなかったのだ。

 

「……もう一度、聴いていいですか。ここに、ベルナのハンターは来ましたか?」

「…ええ。覚えはあります。しかし、ベルナからやって来るハンターは少なくありまへん。他に、特徴はありませんか」

「黒髪、黒目。基本スタイルはエリアルです。剣士をやっていました。この条件で、男性のハンターは?」

「…………………」

「………そう、ですか」

 

ユクモの村長は迷った。

黒髪、黒目のハンター。

エリアルで剣士。

そんなもの、最近騒ぎを起こしたあのハンター(ソージ)しかいないだろう。

事実、起きる直前に寝言で「奏治くん」と呼んでいるのが聞こえていた。

しかし彼は片目が碧眼であったし、既にこの村を離れている。

なにより、持っていた素材からタマミツネを単独で倒した事がわかった。

これほどまでの実力をもった少女が、一週間足らずで生態系を変える力をもつ少年にあったらどうなってしまうのか。

恐ろしくて、考えることもできなかった。

 

「飛行船で探すのはいかがですか。あれなら移動も素早く済ませられ」

「陸路じゃないとダメなんです。そうでないと、見逃してしまう」

 

リンは傍らにあった装備を。

旅の鍛冶屋に作ってもらったタマミツネの装備を手にとる。

 

「ダメ、ダメ、ダメ。そんなの、絶対に」

 

ふらりとベッドから抜け出し、装備を身につけるリン。

 

「村長さん。ありがとうございました。私は、行かないと」

「あきまへん。この村で2、3日は休養を取らなければ、この村を出る許可はできません」

「ダメなんです。探さないと。そんなの、ダメ」

 

子供のように駄々をこね、しかし顔は幽鬼のようにやつれている少女に、村長は頭を悩ませる。

 

「見逃したハンターの情報もあるかもしれません。ここ一ヶ月の出入りの情報を見てみますから、せめてそれまでは」

「……………………」

 

うつむきながらベッドに戻るリンを見据え、村長はやはり心労を負う。

赤い流星がユクモの上を通過したことなど、気づきもしなかった。

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