異世界ハンター放浪記   作:翠晶 秋

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27話 激突、バルファルク

 

ソージは、船の舳先に乗り、腕を組んで立っていた。

理由は無い。ただの遊びである。

その遊びが幸を成したことにソージ自身が気づくのは───

 

「ッ!?全員、伏せろ!!」

 

───赤い彗星が、船の腹をえぐった後のことだった。

 

船が衝撃で揺れ、乗組員の全てがその場でスッ転んだ。

龍識船は木屑や食料、果ては人をも撒き散らしながら重力に従い滑空していく。

 

「ソージ!」

「シャロ。少し早いが、決戦だ」

「わかってる。けど、その前に……」

 

ソージはバランスをとりながら空に留まる赤い閃光を睨み付け、シャロはそのソージの顔に手で触れ、顔を自らと向き合うように動かした。

 

「……なんだ?」

「帰るときも、死ぬときも一緒。約束」

 

シャロは、ぐらぐらと揺れる船の上でつまさきを伸ばした。

顔と顔が近づく程の至近距離で、もっと顔を近づけるようなマネをしたのだ。

 

「ッ!?」

「はむ……んむ……」

 

胸の不安を打ち明けるように、ソージの唇を貪るシャロ。

 

「ぷあ……」

「はあ……はあ……お前、何を……」

 

離れた唇と唇に銀色の橋がかかる。

二人は互いに何を行って良いのかわからず、阿鼻叫喚とした世界の中で見つめあった。

ついにいたたまれなくなったシャロが、口を開こうとする。

 

「その、不安なワケじゃなくてんむっ!?」

「はむ……」

 

シャロの言葉を遮り、今度はソージから口づけをする。

それだけで、二人には十分であった。

 

「死ぬときなんて無い。俺たちは帰る、それだけだ」

「そうだった。二人で、一緒に。失敗は……」

「ありえない。よしんば失敗したとして、それすらねじ伏せて勝利を奪い取る。それが俺たちだろ」

「……うん」

 

同時に、二人は逆の方向に走り出した。

ソージは落ち行く瓦礫の中、こちらに接近する彗星の姿を捉える。

背中に挿した太刀を空中で横に振るい、バルファルクを捕まえる構えをした。

 

「カアアアアアアッ!!」

「ああああ!!」

 

彗星と人が激突する───前に、ソージは太刀を機転に心身を翻し、見事バルファルクの背中にライドすることに成功した。

 

「今度はッ!!あんなヘマしねえ!!」

 

速度そのままに、バルファルクは飛行する。

無論、背中にへばりついているソージにも、それ相応のGがかかっている。

腰元から強走薬を出し、某エナジードリンクのCMがごとくイッキ飲みしてみせる。

黄色いオーラが一瞬、ソージを包んだ。

義眼で身体能力を向上させ、一心不乱にバルファルクに食らいつく。

取り出したナイフをバルファルクの鱗の間に挟み、体を固定するソージ。

同時、シャロは船の操縦席に向かっていた。

空中で音速で動く古龍が相手では、シャロでは太刀打ちできないからだ。

 

「あああああ……恐れていた事態が……」

「どいてっ!」

 

操縦席でハンドルを掴みながら震える青年を突き飛ばし、自らが操縦席に立つ。

現在、龍識船は前方に傾いている。

穴が開いたことにより、荷物か穴になだれ込み、バランスが崩れたためだ。

 

「これ、操縦は?」

「ああああ……」

「……使えないっ」

 

冷や汗を額に滲ませながら、シャロは直感で操縦する。

幾数のモンスターから逃げ切れた、あるいは迂回できたこの直感を信じて。

大きくハンドルを引っ張るシャロ。

プロペラの向きが変わり、シャロや甲板の乗組員に暴風を見舞った。

 

「くう……っ!!」

 

しかし、風の影響で船が本来あるべき角度を取り戻したのも事実。

吹き荒れる暴風に必死に耐えながら、シャロは上を、ソージ(愛する人)の方を見上げる。

彼は既に、赤い彗星となっていた。

 

 

 

 

風を切る音が耳をつんざく。

ソージにかかっている負担は、ジェットコースターなんて生易しいものではなかった。

バルファルクが風を切る速度が速すぎて、ソージがいる背中はほぼ真空状態。

肺が悲鳴をあげ、酸素を寄越せとソージを苦しめる。

 

「………………ッ!!」

 

ついでに、ロケットのように火を噴く機械的な翼が隣にあるため、熱がチリチリと地肌を焼く。

背負った太刀の持ち手は尋常じゃないほど熱せられ、さらには義眼から送られる視界までノイズが走り、義眼自信は軋んだ音を立てた。

 

「カルアアアアアッ!」

 

雄叫びを上げるバルファルクに、ナイフをぐりぐりと押し当てて抗議する。

今のソージには、それが限界であった。

 

「また……こんな……シャロ……ッ!」

 

苦しげな声を上げ、段々とナイフを持つ手が緩んでいくソージ。

ソージが弱っている事を察したバルファルクは、その場で急停止した。

音速を越えるスピードを、急に止めた。

圧力は唯一バルファルクと直接繋がっていないソージに全て降りかかり、やむなくソージは空に投げ出される。

 

「………………」

 

ソージの眼には、世界がスローに見えていた。

義眼の能力を使った身体能力アップではない。

自らの動きもスローで、かつ憎き相手のにやけ顔つきである。

 

「………………」

 

薄れ消え行く意識の中、ソージはそこで走馬灯を見る。

接吻をし合ったシャロの顔。

怯え恐れる青年の顔。

泣き叫ぶアイルーの顔。

 

 

震え、共に帰ると誓った親友の顔。

 

 

ソージはそっと目を閉じた。

来るべき痛みに備えて。

決して、死を受け入れたわけではない。

 

「ソージ」

「……シャロ。これ、もっとどうにかできなかったのか」

 

シャロは見上げた。

死に瀕した───否、マストに体を埋め、瞳に闘志を宿した戦友(とも)の、恋人(とも)の、顔を。

 

「無理。体力は大丈夫?」

「大粉塵ッ」

 

ポーチから緑の袋を落とし、シャロもろとも体力を回復するソージ。

 

「もう問題ない。行くぞ」

「ん」

「あの顔に、一太刀浴びせてやるんだ」

 

風に飛ぶ緑の粉末が、反撃の狼煙(のろし)の代わりとなった。

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