顔を青ざめさせたシャロが恐る恐る口を開く。
「……ソージ。その、人、は?」
「え?わぁっ、かわいい!お人形さんみたい!」
シャロの視線はソージの腕から飛び出し自らの柔肌を擦って愛でる女ではなく、一直線にソージを貫いている。
「ねえ奏治君、この子は誰?」
「それはこっちのセリフ。勝手にソージに触れた」
リンをぺしぺしと叩くシャロにソージは冷や汗を垂らす。
幼馴染。仲が良いと思われる。
知り合い。リンに冷たすぎるか。
親友。幼馴染と同様。
結果、ソージが出した答えは。
「仲間……だな」
「仲間……?」
「うん、奏治君と私は昔一緒のパーティを組んでたんだよ」
その言葉からシャロは改めてリンの出で立ちを見る。
ミツネ装備に『狐双刃アカツキノソラ』。
ユクモに行くついでに装備が作れる程タマミツネを狩ったリンは確かにハンターの格好をしていた。
「一応は及第点かな。でも、ソージと会った、その後はどうするつもり?まさか、同じパーティをなんて……」
「ね、奏治君。パーティ組まない?久しぶりに、さ」
「ん……?まぁ、良いが」
シャロは目を見開く。
確かに、ソロでここまで出来るハンターは貴重な逸材だ。
しかし、しかしだ!
双剣が増えるとシャロの陰が薄くなるのだ!
只でさえメインアタッカーはソージに任せきりなのに!
「シャロも……。大丈夫か?」
「あ、その子シャロちゃんて言うのね」
しかし、こう言われると拒否出来ないのがシャロの弱いところである。
一度「ソージについていくからソージの好きにしたらいい」なんて事を言っておいて、肝心な時だけ口を挟むなんて事は、出来ないのである。
「うん……。分かった。でも、ソージの1番は私。他の誰にも渡さない。それと、ソージはソージ」
「そ、奏……」
「ソージ」
「そー、じ。でも、ソージ君の1番って、何?どういうこと?」
シャロは勝ち誇った笑みを浮かべる。
ライバル登場に本人も少し焦りを覚えていたらしい。
シャロはソージに抱きつくように飛び、ソージの頰にキスをした。
「ハァ…………!」
「こういう事」
「なっ、ちょっ、そ、そ、そ、ソージ君……」
「まぁ、否定はしないが」
「ハァ…………!」
現代日本の人気芸能人さ○まがごとく、喉から掠れた呼吸音を絞り出すリン。
ソージは照れ臭そうに頰をかき、シャロはそのままソージの腕の中に落ち着いている。
ここは自分の特等席だ、とでも言いたげに。
「ね、ソージ。あっちのテントで一休みしよう」
「ブッ。な、なぁシャロ?そういうのは復讐が終わってからだと思うんだが」
「大丈夫。私も初めて」
「…………」
考えてみれば戦闘ばかりでそれらしことをまったくしていなかった2人、リンを置いて妖しげな雰囲気を放ち始める。
「あ、あう……。うあ、う……」
2人のムードに気圧されたリンは妖しげな雰囲気に顔を赤くし、肩をすぼめる。
そして、なんとか言葉をひねり出し、こう宣言してみせた。
「絶対、勝つからね!!」
その瞬間、シャロに敵ができたとみなされ、周りの空気が凍りついた。
◇
「ていっ!」
両側から放たれるリンの斬激にブラキディオスがのけぞる。
「ソージ君!」
「【獣宿し〔天廻〕】ッ!!」
二回ほどサイドステップを踏み、空いた隙間に蒼い稲妻が飛び込んだ。
稲妻は手に持つ大剣を真横に振り、そのまま大剣の勢いに任せて横向きに回る。
「グアアアアアオ」
「決めろ、シャロ!」
「……ッ!!」
大剣を軸にしてリンとは別の方向にスライドしたソージの前髪を、弾丸がかすめた。
寸分違わぬ斜線で計算尽くされた弾丸は見事ブラキディオスの眉間にめり込み、大爆発を起こした。
ブラキディオスの巨体が地鳴りの様な音を立てて倒れ込む。
「やったね、ソージ君!」
「ああ」
砂煙の向こうからソージとリンの声を聴き、シャロはヘビィボウガンを仕舞って駆け出す。
「前は狩れなかったのに、慣れたもんだな」
「むー。ゲームの頃はノーカンでしょー」
「『あんな巨体がジャンプするとは思わないじゃん』だったか?」
「むー!……むー!」
シャロの足は砂煙の最中で止まってしまった。
「ジャンプにもカウンターを食らわせるようになるとは、お前も成長したもんだ」
「もう前までの私とは違うからね!」
止まらざるを得なかった。
二人の会話に混ざれない自分が、怖い。
しかし、それ以上に。
「……日本に、帰りたいな」
「帰りたい、ね……」
ソージが会話を楽しんでいるのが、何よりも怖い。
「……ソージ」
「おう、シャロ。お疲れ」
「シャロちゃん、お疲れさま」
行き場を失いそうになる足をなんとか動かし、震える声で声をかける。
「……ん」
「?どうした?」
心細くて、泣きそうになって。
シャロは歪みそうになる顔を、ソージに抱きつく形で隠した。
「……………………」
「……………………」
「ちょっと!何いい雰囲気出してるの!?シャロちゃんも、離れて!」
「やだ」
「強情!この子強情!」
優しい手つきでソージに頭を撫でられるシャロは、どうにも心に寂しい気持ちを感じるのだった。