無意識に秘薬を噛んだ。
体力は完全に治った。
あとは目を覚ますだけ。
奇しくも、電流に慣れたハンターの目を覚まさせたのは。
「……っ!」
雷という、高圧電流だった。
気絶して緩やかになっていた心臓が、ショックを受けて早鐘を打つ。
全身の血が宿り主を生かそうと全力で駆け回り、脳が急速に働き始める。
蒼い稲妻が、彼の体を包む。
男は戦慄した。
全てを手に入れて尚、彼の底知れぬ力を目の前に、本能が恐怖しているのがわかる。
「では、私はそろそろこれで」
冷や汗を浮かべながら翼を広げる男。
飛翔した男に攻撃を与えられるのはシャロのみ。
しかし傷心しているシャロは弓の弦すら引けないほど精神にダメージを負っていた。
「行かせない……っ!」
リンは咄嗟に弓を奪って弦を引き絞るが、双剣しか使ったことのない彼女の矢が男に当たるはずもなかった。
同時に、オストガロアの体が震え始める。
体内に濃くした血を流され、電流で再び意識を取り戻したようだった。
「ではさようなら皆様。……被験体は捨てるしか無い。けれど、義眼やマガラの消息がわかっただけで収穫はありました」
最後に男がソージの姿を確認しようとしたとき……そこにソージはいなかった。
「───」
「ッ!?が、あッ!?」
蒼い稲妻が、男の横を通り過ぎた。
瞬間、男の腕が宙を舞う。
無論、腕は切り口と切り口が互いに繊維を伸ばしてくっつき修復されるが、その一撃は男の精神をかき乱すのに最適な攻撃であった。
オストガロアの巣。全体がドーム状になっているそのフィールドの壁に反射し、蒼電は再度、男に向かう。
雷速の一撃が、男の首に吸い込まれる。
───カキンッ
「残念でしたねぇ」
「───」
もう少し、ソージの大剣に刃があったら。重量があったら、まだ未来は変わっていたのかも知れない。
だがしかし、過去はどうやっても改変されない。
中腹から真っ二つに折られてしまった大剣では、硬化した男の首を仕留める事が出来なかった。
短めの鉈のようになったハナヤコヨヒノ。
それで戦えというのには、少し酷な事であった。
「わずらわしい」と腕が振られ、ソージは地面に垂直落下する。
「ソージくん!」
蒼電は地面に衝突する瞬間に平行に移動し、地面の骨を撒き散らしながらようやく止まる。
「クッソ痛え」
彼の左目は、痛々しく回復していた。
盛り上がった肉が、左目を覆い隠している。
彼の視界に、だらんと下げた自らの左手は写っていなかった。
ソージは単眼となった顔で男を睨みつける。
「いつか殺しにいく」
「ではその時をお待ちしております。ただ、我々がこの時代を超越した技術を持つことを、お忘れなきよう」
「その硬え首、二、三時間洗って待ってやがれ」
「皮膚が削れるほど洗ってお待ちしております」
男は飛翔する。
先程千切れた腕を押さえつけながら。
ソージは折れた大剣の柄を握りしめ、深く深呼吸した。
大気が揺れる。オストガロアの振動が大きくなっていた。
「リン」
「ソージくん、目……」
「それは後だ。お前には、俺の左目の代わりになって欲しい」
「オストガロアなんてリタイアすれば良いんだよ!とにかく今は───」
「今は、こいつをはっ倒す方が先だ」
信念の篭った瞳。
左側にいるリンにはソージの瞳は見えないが、リンはその覚悟をしっかりと感じる事が出来た。
「……わかった。スピードクリアするよ」
「ああ。……シャロ」
「あ、う、ああ……」
焦点の定まらない瞳。
子鹿が如く震える足。
抑えきれない恐怖と、困惑。
「……チッ。手間かけさせやがって」
「んむ……」
「あァ!?ちょっと!」
それらの感情に意識が朦朧とするお姫様は、片目の王子様のキッスによって目覚めた。
「……。………………っ!ぷは!」
というより、酸欠で目覚めた。
「な、なに、ソージ」
「オストガロアをはっ倒す」
「……わかった」
彼女は強かった。
ソージへの厚い信頼。
改めて言う。彼女は、ソージが白と言えば白。黒と言えば黒なのだ。
「聴きたいことも、言いたいことも沢山ある。けど、まずは倒す。そしたらソージ……」
「なんでもしてやる」
「……ん。ソージ、愛してる」
「……しょうがねえな」
リンは闇化した。
「さて。再度チャレンジだ。オストガロアの討伐、全員───」
「───1狩り行くぞ!」
「「了解!」」
リンが闘気を解放し、凄まじい速度でオストガロアに接近する。
何かの空き瓶が地面に転がった。
強走薬G。スタミナの容量を全開にし、かつ少しの間だけ、どれだけスタミナを使っても全くバテないという、ハンターの奥の手である。
リンは迫る触手を目視してから紙一重で回避し、すれ違いざまに切りつけて走る。
ターゲットを取り、撹乱するために。
2つの触手がリンを向く。
その隙を突き、ソージが触手を根本から切り裂いた。
「キュピイイイイイイイイ!?」
粘液のような血を吹き出し、オストガロアの触手が地面に潜り込む。
本体の鎧となる瘴気がいっそう強くなり、リンは一度距離を取った。
「リン!折れた剣よこせ!」
「これ?はい!」
ソージはオストガロアの目の前で剣を構え、全力で威圧する。
理性のないオストガロアに、それは分からない。
もちろん、ソージとてそれでどうにかなるとは思っていない。
必要なのは、集中力の維持。
狩技の、準備。
リンが中腹から先のハナヤコヨヒノを蹴る。
地面を滑り、ソージの足元に転がった大剣。
それを拾い上げ、ソージは───。
───右手に柄の付いている方を、左手に切っ先のある部分を握った。
「獣宿し……。ふう」
小さく呟き、深呼吸。
自分にはできる、これは認識と自信の問題だと、言い聞かせる。
そして、大きく息を吸い込み。
「【獣宿し〔双頭〕】ッ!!」
その名を、口にした。