「…………」
ソージは深い息で寝具に寝転がっていた。
医師に診てもらったが、立っているのが奇跡と言われたこのえぐれた目。
今はつけていない眼帯は、枕元の棚に置いてある。
「すぅ……すぅ……」
「…………」
静寂に包まれた宿。
ポッケの寒さは下の階から送られてくる暖炉の熱で暖められ、ハンター御用達の宿はなるほど、確かに快適である。
自らの腕の中に眠るシャロを撫でつつ、視線を落としてため息をつく。
───もしかしたらシャロも、オストガロアのように暴走するかもしれない。
男がシャロを知っているとなると、やはり考えられるのはその線だろう。
「…………」
ソージ後ろで丸くなっているリンもまた、動きがぎこちなく、リンがまだ覚醒していることをソージは見破った。
眠っているのはこの場でシャロのみ。
「…………」
ソージの脳内で、克服したはずのトラウマが蘇る。
遥か彼方まで吹き飛ばされた痛み。
知らない場所にたった一人で取り残された寂しさ。
目をえぐられた恐怖。
それがモンスターがモンスターであるためのポテンシャル。
その、憎むべき対象が胸の中で眠っている。
だがそれはあどけない少女の姿をしており、実際、彼女はモンスターとは違った。
違った、はず。
「……すや」
案外早く人は眠るものだ。
先ほどまで思い詰めていたようにみじろぎしていたリンも今は夢のなからしく、ソージは苦笑した。
思い詰めるなど、俺らしくない。
「障害が出たら切り刻んで前に進む。……それが俺だ。俺たちだ」
最後にシャロを一撫ですると、ソージは目蓋を閉じた。
◇
「おっきい……」
謎の洞窟。
住民からそう呼ばれるこの洞窟には、大きいという表現にはやや当てはまらない、まさに巨大な剣が刺さっていた。
鍔は見上げても見ることができず、切っ先は深く地面に突き刺さり凍りついている。
だがこれも、『巨人が使っていた武器』に過ぎない。
素材や価値としては貴重も貴重なのに、可能性としてはこの他にも武器があるかもしれないのだ。
……無論、だれもそんなものを見つけたという噂は聴いていないが。
「古龍骨は持ってますかニャ?」
「ん」
溶けたオストガロアの死骸から見つけ出した、ちょっとやそっとじゃ折れそうにない骨。
アイルーはシャロからそれを受け取るとヒモで括ってツルハシ状にすると、シャロに手渡した。
「これで剣を削るニャ」
「シャロ、やってみろ」
「ん……」
完全に娘の初体験を見守る父親の目であった。
シャロは剣の峰を指差して「ここ?」と問いかけ、頷きが返ってくると大きくツルハシを振り上げた。
「えい!!」
つるり。
「ん?」
「あっ」
「えっ」
「ニャ?」
ツルハシは洞窟の外へ……鍔の方向へ飛んでいった。
3人と1匹が、虚空を見上げて茫然とする。
程なくしてガキン……という音が聞こえてきたが、ツルハシが落ちてくる気配はない。
「……」
「…………」
ソージは遠視のできない眼で天井を仰いだ。
「どーすんだアレ」
フイ、と目を逸らした者がいた。
「ねぇシャロ?私たち、死ぬ気で古龍骨取ってきたけどさ」
「…………」
「それを使って収穫なしは許されない行為だよね?よね?ねぇ今どんな気持ち?せっかくのソージくんの期待に応えられないってどんな気持ち?」
「チッ」
「痛い!!」
シャロが人差し指で弾いた小石によって粉砕されたおでこのガードを抑えて蹲るリンを一瞥して、ソージはもう一度目を凝らす。
ツルハシの姿は見えないが、もしかしたら何かを粉砕して落ちてくるかもしれない───
「んがっ!?」
「!?」
飛来した何かにおでこを攻撃され、その場にはおでこを抑えて倒れ臥すハンターが二人ほど完成した。