異世界ハンター放浪記   作:翠晶 秋

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40話 原生林の主 (side シャロ、リン)

空から質量を持った何かが二つ、原生林に落下する。

それは鬱蒼と茂る木の葉に突っ込み、枝に進路を邪魔され、さながらピンボールのように跳ねながら徐々に母なる大地に近づいていく。

 

「ぶっ!」

「うぐっ!」

 

それは少女であった。

親方ァ!と叫んで受け止めてくれる少年も、落下の勢いを軽減してくれる不思議な石もなく、2人は思い切り地面に顔をぶつけた。

 

「……死んでる?」

「残念ながらシャロちゃん、生きてるよ」

「……ちっ」

「なんかもう慣れた気がする……」

 

げにハンターとは、しぶとく生き残るものであった。

 

「骨は折れてない?」

「痛みがないから折れてるかわからないけど……少なくとも両手両足動くよ。呼吸もいつもどおり」

「よし」

 

念のために粉塵を地面に設置し、2人は狩りの準備を進めた。

質の悪い薬莢が跳ねる音が、砥石が擦れる音が、静まった原生林に響く。

このマップのどこかに、愛しき人がいる。

彼は眼を装着した後、しれっと船に戻るつもりだったのだろう。

誤算は、この2人が大人しく待っているはずのないこと。

 

「いこう」

「うん。……で、どこにいそうなの?」

「わからないけど、洞窟か平原が都合がいい……?」

「なるほど」

「じゃあ、まずは平たいところが近いから行ってみる」

 

そこには獲物もいるからソージも狩りをしてるかも、と付け足し、シャロは歩き出す。

 

「あぁ、待って。先に説明しておくと、ここは多分その『暴走したディノバルド』がねぐらにしてる場所だと思う。だって茂みが変に曲がってるし。で、今ここにいないってことはディノバルドは巡回中か食事中しかないわけだけど、今は朝だから、ディノバルドも朝ご飯の時間だとおもうの」

 

シャロは眉根を寄せる。

何を言っているのだこの娘は。ねぐらにいないのだから外に出ているのは当たり前ではないか。

 

「……つまり?」

「平原にはたくさんの獲物がいるんでしょ?」

「………………はっ」

 

ディノバルドもおる可能性あるやんけ。シャロは気づいた。

呆れたようにため息をつくリンにシャロは「リンが活躍してる!」と頬を膨らませ、持っていた煙玉をなんの意味もなく投げつけてそそくさと茂みの中へ入っていく。

 

「ちょっとぉ!」

「油断大敵。ソージに最初に会うのは私」

「もおおお、ちょっと前が見えないんだけどどっか行ったりしてないよね……」

 

だんだん自信が無くなって来たのか徐々に声が小さくなっていくリンの声を聞きつつ、シャロは集中した。

木々の擦れる音、湿気のある匂い、一筋の風。

最近その精度を増し続けているシャロのレーダーは獣の勘と大差ないくらいには成長し、痕跡を探したりサバイバルをする能力に長けていった。

 

そして。

 

「見つけた」

「えっ」

「ついてきて」

 

ようやく視界を埋めていた煙が晴れたリンに背を向け、シャロは茂みの中に足を踏み入れる。

突然背を向けて歩き出すシャロに手を伸ばしかけたリンは足元に何かが落ちていることに気づき、その手を地面に下ろしてそれを拾った。

 

「……鱗?」

 

少なくとも大型モンスターの物ではないであろう小さな鱗だった。

両端を人差し指と親指でつまみ、折ろうと力を入れる。

鉄のように硬かった。

 

リンは鱗を太陽に掲げ、透明度を見定める。

 

「純粋な……若い鱗だ。……でも、こんな若い鱗なのにどうしてこんなに硬いんだろう?」

 

ディノバルドのものでも無ければ、その幼体というわけでもないだろう。

まるで、つい先ほど生まれて、つい先ほど抜け落ちたような。

 

「空……?」

 

とにかく、これは調べる必要がありそうだ。

そう踏んだリンは鱗をポシェットに入れ、シャロの後を追うのだった。

 

「……ん、ここから先は這って進む」

 

茂みの奥でシャロが腹這いになっている。

そのシャロが指差すのは、人が1人通れるか通れないかの小さな横穴。

若干の閉所恐怖症っ気があるリンは顔をしかめ、しかしこれ以外に進む方法もないのだろうと腹を括って腹這いになる。

 

既に横穴に侵入していたシャロはヘビィボウガンを押し出しながら角に気をつけて横穴を進む。

ヘビィボウガンは腰に固定すると引っかかる。少しでも頭をあげれば、同様に角がガリガリと横穴の天井を削ることになる。

 

同じくして匍匐前進(ほふくぜんしん)で横穴を進むリンは側面に生えたコケに若干引きながらも、なんとか進むことに成功する。

……が、彼女には一つだけ問題があった。

 

「胸がつっかかる……」

 

そう、彼女の人並みに育った胸では地面と擦れて痛いのだ。

どうにか出来ないかなとシャロを見上げると同時に、必殺シャロキックがリンの顔面にお見舞いされた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」

「さっさと進む」

 

聞こえていたのか。

奴の前では胸の話題は禁句であると肝に命じ、リンはどうにかこうにか楽な姿勢を見つけて進んでいく。

 

「シャロ、あとどれくらいありそう?」

「ん……あと少し」

「そっか」

「何かあった?」

「ううん、なんでもないことだから後でいいよ」

「わかった」

 

いったいなんなのだろうと不思議に思うシャロだが、出口が見えてきたので気持ちを切り替える。

出口から首だけひょっこり出して辺りを伺う。

 

「モンスターはいなさそう。……それと、人の痕跡も」

 

後ろからくぐもった声で「りょうかい」と聞こえる。

シャロは先にヘビィボウガンだけ落として身軽になった後、体を横にして近くにあったツタを掴む。

そうして下半身を抜いた後に手を離して一気に降りた。

 

すぐさま武器を回収。展開して辺りを見渡す。

シャロはリンに合図を送り、そのまま耳を澄ました。

……リンがつっかかる音がした。

 

「え、あ、今度はお尻が……」

「ふっ」

 

装填した炸裂弾をリンの上に撃ち、物理的に通れる隙間を作る。

轟音とともにリンが放り出され、二度目の顔面からの落下をお見舞いした。

 

「〜〜〜ッバカバカバカ!!すっごいびっくりしたんだから!!」

「でも出れた」

「出れたけども!出れたけどもぉ!」

 

ぽかぽかとシャロを叩くリン。

 

「だいたい、いっつもシャロちゃんは……」

 

ここで急に声が止まる。

何事かとシャロは振り返るが、リンはシャロではなくまったく別の方向を見ていた。

 

───炸裂弾とは、対モンスター用に作られた特殊な弾丸である。

モンスターの体内で破裂し、大ダメージを与える弾丸であるのだが、いかんせん音が大きい傾向にある。

炸裂の間近にいたリンはおろか、距離を取っていたシャロでさえも耳がキンキンするほど音が大きいのだ。

……ならば、()()()()()()()()が気づいてもなんらおかしくはない。

 

「グルルルルルォォォォオオオオアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

尻尾に巨大な剣を携えた竜が、吠えた。

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