ディノバルドの素材を剥ぎ取れるだけ剥ぎ取った後、リンとシャロはソージが作ったキャンプに案内されていた。
簡素なテントや肉焼きセットはちゃんと設置されており、ここならゆっくり休めるだろうといった印象を二人に与えた。
「……だぁーっ、重かった!!」
「ソージ。この素材、どうするの?」
「余程のことがなければ武器や防具の素材にするつもりだ。今まで狩って来たやつの素材と合わせて、そろそろ装備を見直した方がいいかもな」
言われてみればたしかに、三人の現在の装備は年季が入っている。
悪く言えばボロボロ、という表現が合うが、自分が長い間使って来た装備であったため、なかなか装備を変える時間がなかったのだ。
もともとチャンスがあったら装備を新しいものにしようと思っていたこともあり、二人はそれに承諾の意を込めて首を縦に振った。
「よし。それじゃあ、次はこっっから帰ることになるが……飛行船や龍歴船との連絡手段は持ってるか?」
「「持ってない」」
「……そうか」
この二人、徐々に息がぴったりになってないか?
そんなことを思いながらソージは自らの手のひらを見つめ、ひとつ、大きくため息をついた。
それは諦めたようにも感じ取れるが……そこに確かな「覚悟」を感じたシャロは首を傾げた。
「なにか、あるの?」
「帰る方法が、か? ……まあ、やったことはないが……できそうだな、と思った方法はある」
「へぇ。どんな方法?」
「シャロはわかると思うけど、俺たちは一度シャガルマガラの背に乗って移動したことがあったよな」
「うん」
「それとは前にも、俺はバルファルクの背に捕まってあの島まで飛ばされた経験がある」
そこまで言えば、もうわかるだろう。
「まさか……」
「飛竜に捕まって、飛ぶ……?」
「その通りだ」
荒唐無稽としか言えない手法だった。
だが、実際にやったことがあるとなれば、話に信憑性は出てくる。
「でも、それしか脱出方法はないかも」
「シャロちゃん……」
「リンは、納得できない?」
「ううん……できるかも、とは思うけど、実際やるとなると怖いなぁって」
今まで狩っていた相手に跨って空を飛ぶ……そのようなことが本当にできるのかどうか、まだ信じられないリン。
「だったら、ここに残るか? 俺が船に乗って迎えに来ればいいだろ」
「それはそれでやだ」
絶対無理。絶対。
「わかったよ……やってみる。でも、どうやって飛竜を確保するの?ただでさえ飛竜は数が少ないのに、それを捕まえるなんて」
「古代林に生息する竜は……リオレイア、リオレウス……」
「バルファルク!」
「……かなり難しそうだな」
リオレイアやリオレウスはかなり外皮が硬いために、力で制することは難しいだろう。番を組んでいる個体もいることも、厄介。わざわざ自分の住処を離れようとする者はいない。
となればバルファルク。あの彗星の速度にどうやって追いつき、どうやって捕まると言うのだろうか。
「「「…………」」」
全員が口を閉じ、ほかにいい案は無いかと頭を捻る。
しかし、モンスターに乗るという案自体は、悪くはなかったのだろう。
ゲーム時代からの前知識ならソージよりも多いリンが、不意に手を挙げた。
「ねぇ、必ずしも飛竜でなければいけないってことはないんだよね」
「ん? あぁ、まぁ、たしかに……だが、古代林のモンスターはティガレックスとかナルガクルガとか、飛ぶというより跳ぶ奴ばっかりだぞ」
「だから! 龍じゃなくていいんだって! ほらいるじゃん、ここのモンスターで、龍以外で、翼を持ってるモンスター!」
と、ここでシャロが勘づく。
「ホロロホルル?」
「正解!!」
「あー……なるほど」
夜行性のモンスター。
フクロウのような見た目をした怪鳥、ホロロホルル。
特殊な鱗粉を飛ばしてハンターを混乱させる厄介な相手だが……。
「いける、かもな」
トリッキータイプなだけに装甲が脆い。
一度コンボに入れてしまえば、簡単に仕留められるだろう。
問題は、どうやって捕獲、テイムするかだが……それはいちいち考えるべきでは無いとソージは空を見上げる。
───もう少し、ここにいることになりそうだ……。
「よし、方針は決まったな。ホロロホルルをテイムし、古代林から抜け出す。ホロロホルルは夜に行動を開始するため、それまでに麻酔弾の準備を」
「ん!」
「今日明日でホロロホルルが出るとは限らない。一つの痕跡も見逃すな」
「わかった!」
「俺は今回、なるべく二人のサポートをする。シャロは足りない素材があったら言え。採取、作成も手伝う。リンは定期的に見張りや探索の交代をしよう」
二人がうなづく。
立案&行動のスタンスを得意とするソージが中間に挟まることにより、シャロの場合は体力、リンの場合は火力、それぞれ足りないところを補うことができる。
長い間、マップをうろちょろして敵を撹乱して自由行動でモンスターを屠って来たソージの戦いにおけるテンプレートが今、ようやく出来上がったのだった。
「それじゃ、夜まで待つことにしよう。自分のやることをして……やることがなかったらディノバルドの素材を入れる箱を作るのを手伝ってくれ」
「ん!」「はーいっ!」
シャロは弾丸の確認のために青い箱を漁り、リンが木の上に登って辺りを見渡し始める。
訓練してもいないのに歴戦の兵のような動きをする二人を見てソージは引き攣った笑みを……いや、シャロもリンも、長い間モンスターのいるフィールドで過ごしている。警戒や行動の速さも、実戦の多さから身についた者なのだろう。
対してソージは?
シャガルマガラはモンスターではあるが、敵意を剥き出しにして襲ってくる野生のものとは違う。
戦闘経験も、稽古をつけてもらう形で積み、それを山奥のモンスターを奇襲からの連打攻撃という流れを作るだけだった。
最初から山奥でモンスターから逃げ回っていたシャロ。そして、ソージを探してモンスターのいるフィールドを異常なほど探したリン。
二人との環境の差は、間違いなく、ソージが
だからこそ……ソージが一番強いようで、一番弱い。
───もっと強くならなければ
そんな闘志にもにた感情がソージの体を熱くさせる。
握った拳はたった今せっかく作った木製の釘を折り、行き場のない力が自らの掌に爪を食い込ませる。
別に、何かを失ったわけじゃない。
ただソージの頭に急に湧き上がってのは、謎の男に負けたという明確な結果。
次は、負けない。そのために、新しい義眼にしたのだ。
「……木釘、作りなおさないと」
小さな稲妻は、未だ燃えている。