奏治は、凛といっしょに古代林の採取クエストに出かけていた。装備はまだベルダーのまま、武器の強化は一段階しかあげていない。
当たり前だが、ゲームの時のように夜間行動クエストのあとに昼間行動クエストにでかけることはできず、資源が足りない今では、1日一回は採取クエストにでかける事になっていた。
───グオォォアアア
不意に、奏治がいるエリア2まで響いた、地を割るようなうなり声。
凛はエリア9に向かっている。
奏治は採取用のナイフを腰にしまい、ゲーム内で聞いた鳴き声の中から、声の持ち主について考える。
「リオレウス?いや、もっと高いはず…。ゴア・マガラ…は、無いな。空が明るいし」
では、あの轟く声はなんだったのか?声が低くて、地なりを起こすような足踏み…まさか!
奏治は急いでエリア6へ移動する。自分の記憶が正しいのならば…ならば!
「イビル…ジョー…?」
この世界に来たときに襲われたドスマッカオでさえ丸飲みできてしまうような巨大な体躯。
ズラリと並んだ鋭い歯に、元の世界で古代生物最強といわれたティラノサウルスに似た体。
間違いない、【狂暴竜】とまで言われる、あのイビルジョーである。
奏治の声に反応して、イビルジョーは奏治の方へ目線を動かす。
やがてその目が奏治を捉えたとたん、イビルジョーの口からよだれが垂れた。
ボトリ、とよだれらしからぬ音を立てる液体に、奏治は身震いする。
「なんでこんなとこにイビルジョーがいるんだよぉ…」
言いながら、奏治は思い出す。
たしか、集会所のばあさんのノートに、【大型モンスターの異常発生】と書かれていた事を。
これか…と口元をひくつかせつつ、奏治は盾を構えながら逃げの体勢をとる。
イビルジョーを刺激しないように、ゆっくりと…
「グギャアアアッ!!」
「ぐっ!?」
イビルジョーが尻尾を振り、辺り一面をなぎ払う。
とっさに盾で防いだのは良いものの、一回しか強化していない片手剣の盾は、硬質な音を立てて崩れ去ってしまう。それでもイビルジョーの尻尾は勢いを止めず、奏治の脇腹に重い一撃を叩き込んだ。
派手に吹っ飛ばされた奏治は、そのまま地面を転がり、横たわった。
「か、狩…技…」
「グギャア」
「ごはっ!!」
採取クエストにでかける時の奏治は、手数が多いストライカースタイルであり、三つセットできる狩技の一つ、【エスケープランナー】を発動させようとするが、巨体に似合わないスピードでイビルジョーが蹴りを放つ。
空中に浮いた状態の奏治は、再びイビルジョーが放った尻尾によるなぎ払いを、もろに受けてしまう。衝撃でベルダーターバンがほどけ、奏治は勢いのまま、空へと投げ出されるのだった。
場所は変わってエリア8、崖の辺りで採取をしていた凛は、小さいながらも咆哮を聞きつけ、エリア6へ向かっていた。
なんだか、とても嫌な予感がしたのだ。
「無事でいて、奏治君…!」
息を切らしながら凛はなんとかエリア6へたどり着く。そこで凛が目にしたのは…
「────ッ!!」
「グギャアアアッ!!」
誰かのターバンが尻尾に引っかかり、それをとるのに苦労しているイビルジョーだった。
悲鳴は上げなかったし、むしろイビルジョーを目にした瞬間に草むらに隠れた自分を褒めてやりたい、などと思っている凛の足元に、何かがぶつかった。
「ん…?これって…?」
片手剣の盾、自分も左腕にくくりつけている物の破片だろうか。
破片の上部分に付着している塗料は、こころなしか奏治が二人の持ち物を分別するために自らの盾につけた模様に似ていて…
凛は、今度こそ悲鳴を上げてしまった。