イビルジョーに飛ばされたあと、奏治は空を飛んでいた。
───彗星の速度で。
飛ばされた状態で、どうにか状況を変えようと手足をばたつかせたところ、たまたま超低空飛行をしていたバルファルクに掴まったのだった。
もちろん、振り落とそうとしてくる彗星竜。それに対抗する、落ちたらひとたまりもないとしがみつく新米ハンター。
奏治はベルナからの支援で貰った強走薬グレートを飲み干し、長期戦に持ち込もうとする。
「カアアアアッ!!」
「あっやべぇ!まっ、ちょっと、うわ!ぜってぇ!離さねぇかんな!」
「かああああー…」
始めは猛スピードで振り落とそうとしたバルファルクだが、奏治はスタミナの心配をしなくて良いので、ずっとしがみついている。
徐々にバルファルクが諦めの意志を見せ始めた頃、地上では、
「おっかさん、みてみてー!ながれぼしー!」
「そうねぇ、キレイねぇ。ほら、消えないうちに三回お願い事しなさい」
「すてきなハンター様にであえますように、すてきな…」
などというような会話が広がっていたりする。
と、ここで事件が起きた。実はまだあきらめていなかったバルファルクが、奏治が乗っかっている背中を、近くの山の岩肌にこすりつけながら飛行をし始めたのだ。
岩を削り取りながら、奏治を落とそうとするバルファルク。地上では…
「であえますようn…ながれぼしぃぃぃぃぃ!」
「エェ…流れ星ェ…」
ロマンチックを代表する流れ星が、思いっきり山にぶつかって砕け散る衝撃映像として見えていた。
表情の死んだ目の端に涙を溜め、砕け散る流れ星(バルファルクが削った岩)を見つめる少女、娘の目が死んだ事に石像並みに固まる母。
「カアアアアッ!!」
「ぴゃっ!?あっぶねぇ、おんま、なんばしよっt…どぅわぁ!?」
山の岩と少女の夢を砕いた彗星竜は、なかなか落ちない奏治に舌を巻き、左翼をぐんとのばし、前方の岩を貫き、砕いた。
普通なら、飛行の邪魔になるから砕いたとしか見えない。だが思い出してほしい。
奏治とバルファルクは彗星の速度で飛んでいる。
光の速さともなれば、石ころ程度でも弾丸ほどの威力がでるのだ。
ましてや、砕いた岩など、古竜ならまだしも、人間に耐えられるものではない。
砕かれた岩の破片が奏治の右肩をかすめ、鮮血がはしる。
「ぐあああっ!?」
「カアアアアッ!!」
痛みで右手の力を緩めてしまった奏治は、再び訪れた岩肌ゴリゴリのインパクトに耐えられず、ついに左手も離してしまった。
そしてそのまま、重力に従い──────
場所は変わってベルナ村、アズール達はなかなか帰らない奏治達を不思議に思っていた。
普段ならもうこの時間帯、リュックを鉱石やら骨やらでパンパンにした二人が帰ってくるはずなのだ。
「彼ら、遅いねぇ」
「そうだな。なにか、大型モンスターが出てるのかもしれん」
「ミィナが見てくるです?」
「…ん、その必要はないみたいよ───って!!!」
ベルナ村入り口で彼らが目にしたのは、服のあちこちが切り裂かれ、血に濡れ、生気の宿らない目で足を引きずってこちらへ向かってくる凛のみだった。
手には何かの破片を持っている。いち早くミィナが駆けつけ、その体を支える。
「リン!どうしたですか!ソージは!?その格好は!?」
「古代林…イビル…ぉ…奏治君が…やら…れ…て…」
体の小さいミィナだけでは凛を支えきれず、凛は地面に倒れてしまう。
慌ててアズール達が駆け寄り、凛を村の中央まで運び込む。グルードが凜に駆け寄り、凛が握っている何かの破片を預かろうとするが、凜は首を横に振り、頑なに渡そうとしない。
「そぅじ君の…たて…はへ…ん。たす…けて…」
そこで凜は意識を無くし、破片を落としてしまう。
アズールやミィナ達が凜に呼びかける中、盾の破片のカラン、という音が、虚しくベルナ村に響いた。