「つぉ…っててて…」
奏治が目を覚ましたのは、寂れたキャンプの中だった。持ち前の運を発揮し、キャンプのテントに落ちた上、下のベッドでほぼ全ての衝撃を逃がしたのだ。
とは言えど、石で切られてしまった肩はズキズキと痛み、持っていた回復薬や強走薬もほぼ全て割れてしまい、中身が散乱していた。
「うあ…どうすっかなぁ」
近くにあった支給品ボックスから得体のしれない虫が出てきたのを見て、奏治は顔をしかめた。
とりあえず、ここがどのあたりかを知らなければ。キャンプに平行建設してあるテントの机をあさり、地図を引っ張り出す。
見たことの無いフィールド。
エリアが10もあるくせに、エリア3が異常に大きい。
まるでそこに、何か脅威が住んでいるのかというほどに。
「やることねぇし、まずはエリア3まで行ってみるか…」
捻ってしまった足を引きずり、奏治はエリア1へと移動する。この道の先に、地獄が待っているとも知らずに。
「─────がっ!?」
エリア1へ向かった5分後、奏治は地面を転がっていた。
奏治の目の前で足踏みをし、獲物を狙う目をしているのは、舞い踊る竜とも言われるリオレイアである。
「ちっきしょうが」
その場でごろりと回転し、近くの岩陰に隠れる。
─────あまりにも、不利すぎた。
盾の無い片手剣、しかも扱うのは採取ようのストライカースタイルである。
もはや体力など残っておらず、いつ力尽きてもおかしくない状態だった。
それでも生きているのは、ベルナに帰りたいという意志故か。
「クルルルルル…」
岩越しに伝わるプレッシャーと威圧感。
最初にドスマッカオに襲われたときにも感じた死の恐怖。それらすべてが奏治にのしかかり、奏治の中で不安となって渦巻く。
────もし、この場で他のモンスターが来たら?
などと考えてしまうのは人間の本能であり、そういうときに必ず、嫌な予感は当たるものだった。
「カルルルアッ」
猛々しい声を響かせ、場に乱入してきたのは、天空の王とも呼ばれる竜。
リオレイアにならび、二匹ならべばつがいの竜、という言葉を世に残した竜。
赤い鱗をもつ、少年のあこがれ、リオレウスである。
「なんでこんな時にッ…!!」
リオレウスは奏治の前に降り立つ。
その目と動作のせいで、一度撒いたリオレイアも奏治に気づいてしまった。
残っていないスタミナを振り絞り、奏治は駆け出す。リオレウスの右側へと。
そこへ走れば、エリア2へといける。多少なりとも、時間を稼げると思ったのだ。
しかし、現実はそこまで甘くはなかった。
脅威のスピードで岩を飛び越したリオレイアが、空中から毒液を奏治にかける。
足が痺れるような感覚に襲われ、奏治の動きが鈍くなる。そこへ、回り込むようにリオレウスが立ち、高温の炎の塊を口から吐き出した。
奏治はもちろん、首を横にして頭だけは避けようとするが…
───じゅわっ
「ぐあああああッ!!」
何かが蒸発するような音と共に、奏治の左目に激痛が走る。
焼かれた!目を、左目を!
痛みにのたうち回り、もはや理性の欠片もなく、ただただ逃げようとする。
左目を押さえ、毒で痺れる足をなんとか動かし、まだ動く右目で捉えた横穴に入り込む。
外の竜による咆哮に怯えながら、奏治はただ、その場にうずくまった。
「痛い、痛い、痛い…!あぁっ、ぐああッ!ああああああああああッ!!」
狙われた、哀れなハンターの叫びが、未知のフィールドに響き渡った。