さて、中に入ったはいいものの、暗すぎて何も見えない。が、見張りがいるため電気をつけるわけにはいかない。だから視覚には頼らずにほかのすべての感覚に重点をおいて前に進まねばならない。まあ式神使いの恵にとって視覚が封じられても式神を頼って前に進めばいいため、特に問題はなかった。
ガシャ-ン
「おわ、こ、攻撃か!?」
「お前自分で落としたろ。ちゃんと所有者に弁償しろよ。」
見れば悠仁の足元でがちゃがちゃとしたものが散乱している。たぶん壷かなにかだろう。まあこのコンテナは横浜最大の非合法組織の首領の私物がおいてあるとはきいている。いくらになるんだろう…と恵は頭をひねった。
そのとき、玉犬がある箱の前でとまった。人間三人はまったくわからなかったので、玉突き事故が発生した。
「ここなのか?」
恵がそう聞くと、玉犬は鼻を鳴らした。
「よし…いい子だ。」
「ちょっと、もうちょっと誉めてあげなさいよ」
「…えらい子」
「もっとだぞ伏黒」
「…なぐりとばすぞ」
「「はいごめんなさい」」
はぁ…こいつらといると調子が狂うな…とおもいつつ、玉犬が立ち止まった箱の蓋をゆっくりと音が出ないようにあける。
「……ない」
「はぁ?ないなんてことあるの?ちゃんと探した?」
「それは冗談になってないぞ伏黒。それにそんなどっきり俺にも通用し……」
どぉぉぉぉぉぉん
「な、なんだ!?」
悠仁がなにかおとしたとかそういう次元じゃない音が頭上から降ってきた。それからありえない光景が恵の目に飛び込んできた。天井が、振ってきたのだ
「よけろ!!!!」
いわれずとも。三人ともよことびにおちてくる天井をかわした。
ずずぅぅぅぅん…
「せ、先輩なにやってるの…なんで天井落とす必要が…中のものは首領の私物っていったじゃない…」
鉄骨の上で樋口は唖然として自分の上司の行動を見ていた。そしておもった。
先輩に単独でいかせるんじゃなかった…
「ねずみが入ってきたとおもってここまできたのだが…ずいぶんとおおきなねずみだ。」
「ねずみごときでよく動くのね。ひまなの?」
軽口をたたいている野薔薇も、心の中ではパニックに陥っている。どうやってわかった?なんで?それに、あれは何の呪術?いまは自分の体を支えるのにつかっているけど、天井をおとすのにもあの呪術をつかったのなら、攻撃性が高すぎる。人も傷つけかねないじゃない。
どうやら恵も考えていることは同じのようで、心底戸惑った顔をしている。だがこの男…虎杖悠仁がそんなこときにするはずもなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
彼のその人間離れした筋力や運動能力に、少々特殊な呪術コントロールで悠仁は一瞬で数メートル上を浮上している襲撃者の目の前までおどりでた。
「邪魔だねずみ」
その悠仁を、襲撃者の青年は黒い刃のような呪術ではらいのけた。
悠仁の体は地面にたたきつけられた。
「「虎杖ぃぃぃぃぃ!!」」
恵と野薔薇は絶叫する。
「いってぇなぁこのいろじろがぁ!!どんな呪術だよお前!!!」
悠仁は襲撃者の色白青年に対してがなった
「…ゴホッ…!!生きていたのか。」
そう言った色白青年は見るものがぞっとするような笑みを浮かべた。
「この一撃を受けてなお立ち上がったものを僕は一人しか知らない」
「……一人…?てことはお前、その人以外は死んだってことかよ」
「…ああ、そうなるな。所詮は弱者。ゴホッゴホッ…生きる価値などない。」
恵はもう悠仁がとまらないと直感的に悟った。このような考え方の人間と悠仁が仲良くできるわけがないどころか、この青年は悠仁が一番嫌いなタイプの人間である。
「釘崎…」
「わかってる。まかせて」
釘崎は釘と金槌をかまえた。
「…………お前、名前は?」
悠仁がそう問うと、襲撃者はまたもわらい、下に降りてきた。
「まだ名乗っていなかったな。だが、名前をききたいならまず先に自分の名を名乗ることが先だ。それに…」
彼はつづけた
「いまのところ貴様らは僕よりも立場はした、生かすも殺すも僕次第ということを心得よ」
「…………呪術高専一年虎杖悠仁」
「……ゴホッ…ポートマフィア“禍犬”芥川龍之介」
「…そうか、じゃあ、龍之介…」
悠仁は下をむいた。その一方芥川はあからさまに不快そうな顔をする
「気安く名前で呼ぶこ…
このあと芥川がなにをいったのかまったくわからなかった。なぜならその途中で悠仁の正拳が芥川の顔に炸裂したからである。しかし、
「僕の話の腰をおったな?」
悠仁の正拳は芥川まで届いていなかった。空間断裂によるバリア。ますます彼の呪術がどんなものなのかわからなくなってきた。が、
「誰が一発でおわるって言ったよ?」
「なに?」
芥川は後ろに吹き飛んだ
芥川は何が起こったのかまったく把握できなかった。だがはっきりしたこともある。
『この小僧…異能を所持しているのか…おそらく身体強化系なんだろうがさっきの打撃はなんだ…一打目はたしかに僕の異能で防いだが…そのあとの衝撃はいったい…』
芥川の思考はそこで途切れた。目の前にいきなり釘が現れたのだ。いや、飛んできたというのが正確なんだろうが…。とにかく考えるひまもなく、横飛びにさけた。みるとさきほど芥川がいた位置に釘が深々とつきささっていた。芥川はさきほど自分に暴言を吐いた女が釘と金槌を持っていたことをおもいだした。
『僕はコンテナの反対側までとばされた。にもかかわらずあんな金槌でここまで釘をとばしてきたか…この感じ…あの女も異能者とみてまず間違いはないだろう。となると三人目の男…あの黒髪も異能者に違いない。おそらく防犯センサーをすべて無効化したのはやつだろう…さてどんな異能だ…』
「玉犬!!畳み掛けろ!!!」
恵はもともと野薔薇とある計画をたてていた。その名も、“暴走虎サポート作戦”。その名の通り虎杖が暴走しだしたときのための緊急プランである。虎杖は相手がどんなやつであろうと必ず吹き飛ばす。そこで野薔薇が釘を放ち、ひるんだところを恵が祓う。だがこの計画にはいくつか欠点がある。ひとつは前提条件。制圧、ということはつまり、相手を行動不能、または戦闘の意思を消失させることで完了する。それにはつまり、相手がいまの自分たちより弱いことが最低条件であり、万が一強かった場合返り討ちにあうという点。もう一つは、相手が呪霊であることが前提、つまり人間相手を想定していないということである。
「虎杖!!逃げるぞ!!!」
「いやだ!このままやつをぶっとばす!」
「いいからはやくきなさいよこの大ばか者!!!」
そして今回はその二つの不安要素が見事に的中した。
玉犬が走っていった方向から玉犬が帰ってきたのである。帰ってきたはいいが、動かずべき胴体がない。つまり首だけである。どうしてか…
「久々の強者かと思ったが、思い違いだったようだな…センサーを無効化した異能者が実はこんな犬に頼る無能だったとは…」
恵の心には二つの感情が芽生えた。一つはあきらめ。無理はない。一か罰か、すべてをかけた計画で敗北したのだ。あきらめるだろう。もう一つは…
「お前…見えてるのか?」
そう。それは驚き。芥川に玉犬がみえているという驚きである。
「……?なにをだ?」
「式神だよ。俺の玉犬。みえてんのか」
「…ゴホッゴホッ…なにをいっている?さっきの犬のことか?なぜ見えるのをぎもんにおもう?」
「まあ呪術つかってるもんな。あたりまえっちゃあたりまえか。」
「………呪術?異能のことか?」
話がまったくかみ合わない。恵が理解しようと脳をフル稼働させていると、空気を読んでおとなしくするということとは無縁の男が動きだした
「余所見すんなや」
…ふきとんだね
芥川ふきとんじゃったね。
ゆうじくんあれだよね。容赦ないよね。
もう書きだめあります。
作者は明日体育祭があるのでおやすみします。