――男の話をしよう
目覚めた時、男は何かをなくしていた。
そもそもなにを持っていた。そこからしてわからない。
もともともってはいないのか? いやいやそれはありえない。
見逃しているだけなのか? それならどれだけいいだろう。
灯台の下は真っ暗だ、何があるのか見えもしない。
わからないなら作ってしまおう。男は作ることにした。
完成したのはいいけれど、下は結局真っ暗だ。
召喚を終えたのは私たちが最後だ。
つまり、正史通りならば遠坂邸であれが行われるはずだ。使い魔は既に送ってある、私は感覚を共有した。
遠坂邸は未だに静けさを保っている。嵐の前の静けさとでも言おうか。とても心ざわめく静寂だ。
「っ、来たか。」
始まった、アサシンが流れるような動きで宝石の置いてある台座へと向かっていく。
そして宝石を掴んだ瞬間宝石を吹き飛ばし右手が台座へと縫い付けられた。
使い魔の視点を槍が飛んできた方向へ向ける。
「地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て表を上げる。」
そこには黄金の輝きがあった。その王気は想像以上だ。慢心王などと言われてはいたが、直接目にしてようやくわかった。実際あれは規格外だ、今の私なら逃げ惑うのがせいぜいだろう。
彼にとってはそんじょそこらの英霊など本当に”地を這う虫けら風情”なのだ。そこまでの差があるのが分かる。いや、わからせられるとでも行ったほうが正しいだろうか。
「貴様は我を見るに能わぬ。虫けらは虫けららしく。地だけを眺めながら、死ね。」
私は粉々になった白い仮面を一瞥し、使い魔とのリンクを切った。
聖杯戦争の狼煙は上がった。魔術師どうしの殺し合いが幕を上げる。
遠坂邸の茶番が終わってすぐ私は私自身の武器である大鎌とキャスターを担いである場所へと人目につかぬように屋根の上を跳躍しながら向かっていた。
「おい月詠、急ぐのはいいが、この格好をどうにかしろ。外見も相まって傍から見れば子供を拉致する
「お前がそんなナリなのがいけないんだろう?文句があるならここから落とすぞ。」
「失敬、すまない悪かった。女顔だからって
本当に反省してるのだろうか。自分が女顔なのはわかっているが言い過ぎではないのだろうか。と聞き返したくはあるものの、もうすぐ目的地につく、そのことについてはおいておこう。
そして目的地につき脇に抱えたキャスターを下ろす。あたりは静かだ、虫の声と植物のさざめきしか聞こえない。これからやる作業を頭の中で反芻する。
――大丈夫見落としはない。
最初の一手を失敗しないようにと自分自身を戒めながら。長い階段を上り始める。
「フン。いきなり担いでどこに連れ出されるかと思ったが、霊脈か。」
確かにここは霊脈だ、第5次聖杯戦争で魔女メディアが使った拠点でもある。だがここに来たのはそのためではない。
ここに、柳洞寺には大聖杯がある。私の願いを叶えるためにはここにある大聖杯を手中に収めておく必要がある、これから起こる第4次聖杯戦争でここが使われることはないが、私というイレギュラーが存在しているのだ。大きな霊脈でもあるここを拠点にするマスターが出てくるかもわからない。
階段を登りきると柳洞寺が見えた。午前零時ととうに過ぎた時間だったのもあり柳洞寺の中には起きている人はひとりもいない。
誰かが置き出す前に終わらせねば。
「キャスターはここにいてくれ。すぐに終わらせる。」
そう言って大鎌を担ぎ直し建物の中に入って行く。
未だ寝入っていると思われる寝室へと足を運ぶ。
そこには無防備にも首筋をさらけ出した家主と思われる人間がいた。
あぁ、もう我慢できない、できそうにない。
そうして寝入っている人間の首に、せめて楽に、と祈りを込めて大鎌を振り下ろした。
「・・・クッ」
頭があった場所から血が飛びへやの中が紅く染められていく。
私はその紅の中で口元には笑を浮かべながら涙を流していた。
それはさながら、命を弄ぶ悪魔のような、されど死を慈しむ聖女のようにも似た表情だった。
こんなところでくじけてはいられない。/あぁ、楽しい。赤い血のなんたる綺麗なことか。
まだ人は残っているのだ。/まだ楽しみが残っているのだ。
殺したくはないが、仕方がないのだ。/せいぜい私を楽しませてくれ。
自分の中にある殺人衝動が暴れまわる。
殺したくない。/殺したい。
せめて安らかに/余るとこなくズタズタに
吐き気を催す血の海の中で/気分が高ぶる芸術の中で
私は絶対に許さない/私は謝辞を述べよう
これを寄越したやつのことを/私を生んだ父上様に
真っ赤な色のキャンパスの上に、蒼い瞳が輝いていた。
「アンデルセン先生にアサシンのひとりザイードさんについてお話してもらいましょう。」
ア「フン、聞かれたからには答えてやる。なに、お代は3クローネで結構だ。」
「あ、やっぱお金とるんですね。」
ア「アサシン。ハサン・サッバーハ、百の貌のハサンと呼ばれ恐れられた暗殺者。その中の人格の一つザイード。彼には得手も不得手もなく。与えれた仕事はきっちりこなす。その暗殺術はさすがと言ってもいいだろう。だが結局それだけだ。あれが得意。あれが下手。あれだったら誰にも負けない。そんなものを持っていなかった奴はただの器用貧乏に過ぎん。」
ア「奴らは完全なる自分というものを求めたが、やつ自身なんの突出したところもない器用貧乏。ほかの人格には何かしら突出したところがあるが自分にはない。画用紙をイメージしろ。いろいろな色がある中で白いところがあったとして、見ている方は気づかないだろう。それと同じだ。白い色は確かにそこにあるが、背景も白じゃ全く見えない。結果気づいて欲しいと色を求める。そして生み出されたのがアレだ。」
「あれというとアサシンダンスのことですね?」
ア「そういうことだ。奴は暗殺の技ではなく、暗殺そのものに磨きをかけた。誰も見ていない暗殺というステージで舞う。そんなことぐらいでしか自分のぞんざい証明ができなかったのだろう。結局、最後の最後に観客を得て、決め台詞を決めてからの退場。やつを殺した英雄王は慢心王とも呼ばれているが、その実、あの場で一番慢心していたのはやつ自身だろうよ。」
「ありがとうございました。こんな感じでたまにアンデルセン先生に批評をいただくことがたまにあるので楽しみにしていてください。それでは、また。」