ぜんまい仕掛けの個性 作:でちん
今回はオールマイト視点が多め
朝の時間はボーッとしていることが多い。朝はヴィランの動きは比較的に活発的ではない。悪事に手を染めるものは大なり小なり夜に動くものが多い。いつもであれば本を読むか、ニュースを見て次に狩るべきヴィランを定めているのだが、今日はそういうわけにはいかない。
だって今日は彼が来る日だから。
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ピンポーン、とインターホンの音が響く。来たのか、と思い座っていた椅子から立ち上がり玄関の方へと向かう。
ガチャリ、とドアを開けるとそこには筋骨隆々で金色の髪をした大男────オールマイトが笑顔を浮かべていた。
「HAHAHA! やあ、紫萁少年!」
「おはようございます、オールマイト」
「元気にしてたかい?」
「ええ、元気ですよ。オールマイト、あなたは?」
「勿論元気さ! 君のおかげでね!」
そう言って高らかに笑い、自身の左の脇腹をバシンッ、と強く叩いた。
「それは何よりです。立ち話も何ですし、どうぞ家に上がってください」
「それじゃあ失礼するよ」
そう言って家に入ったオールマイトを居間に招待し、茶菓子と薬を持ってくる。お茶と茶菓子を提供し、一息ついてから本題に入った。
「オールマイト、傷の具合はどうなんですか?」
「君の薬のおかげでこの通り殆ど治りかけさ」
そう言って服を捲るとオールマイトの左脇腹にちょっとした傷があるのが分かる。前に比べて傷が消え、あと少しで完治するだろうということが分かる。
「だいぶ治癒してきましたね、体重はどこまで増えました?」
「この前測った時は265kgかな。最近美味しいステーキハウスを見つけちゃってね! それで太ったのかもしれないよ」
「筋肉モリモリな人が言っても嘘にしか聞こえませんよ」
HAHAHAと笑うオールマイトに対し、首を横に振りながら嘆息する。
「体重の方も大分戻ってきましたね。パワーの方はどうですか?」
「んー、そうだね…。大体全盛期の8割くらいってところかな?」
そう言って確かめるように拳を握り締めると筋肉がはち切れんばかりに膨張する。相変わらずいつ見ても凄い筋肉だ。
「なるほど、じゃあ最後に最近体に不調などはありませんか?」
「そこは全くもってNo problemさ!」
そう言ってムン、と力こぶをつくりニッコリ笑う。
「あと少ししたら薬も必要なくなりそうですね。はい、じゃあこれ今月分のお薬です」
「Thank you!」
オールマイトは持ってきていたポーチに薬を仕舞うとまた茶をすずりホゥ、と息を吐いた。暫くはのんびりと時間が過ぎていったが、そうだったとオールマイトが言い出した。
「紫萁少年、君は進路先を決めたのかい?」
「いえ、特には…」
「なら、雄英ヒーロー科に来てみないか? 君ならきっと良いヒーローに────」
「その申し出はありがたいのですがお断りさせていただきます」
オールマイトの言葉を遮るように否定した。だって、私が良いヒーローになんてなれるはずがない、いや、なっていいはずがないのだから。
「………何故か聞いても?」
「私にはヒーローになる資格がありませんから」
悪人とは言え、人を躊躇いもなく殺すようなものが人々の希望となりうるものになっていいはずがない。そんなものに惹かれてしまえばロクなことにならない。それに最近少しだけ殺すのが────いや、やめよう。これは考えてはいけない。
「そうか────」
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「そうか────」
ああ、やはり紫萁少年はあの日のことを忘れられていない。いや、忘れろというのは無理な話か。何せ親を祖父母を目の前で惨殺されたのだから。どれほど辛かった事だろうか。大切な家族の尊厳を徹底的に壊し、陵辱し、尊敬していたであろう父親を化け物に作り替え、殺戮の限りを尽くさせるなど。
どれだけ人の人生を狂わせれば気が済むのだオール・フォー・ワン…!
紫萁少年は人と関わる事を極端に恐れている節が見える。それは大切な人を失ってしまったからという過去が原因だろう。大切なものを失う恐怖心を幼心に刻み付けられてしまった。だからこそ、大切なものを作りたくないのか人との関わりを避け、周りに対して壁を作っている。
今では私に対しては少し心を開いてくれているだろうが、それもあの出来事が無ければ彼は誰にも心を開かなかっただろう。私と彼が出会ったあの日がなければ。
✦‧✧‧✲゚✧✽*✼✼✽*
「ゴホッ、もう活動限界か…!」
人気のない裏路地でボタボタと血が落ちる音が鳴り、全身から煙が吹き出る。口から零れ落ちた血を拭き取り、壁を背に座り込む。あの日以来、昔のように体を動かす事が出来ない。それもそうだ、オールフォーワンとの戦いで重傷を負い、呼吸器官は半壊、生き長らえるために手術で胃袋も全摘した。
はっきり言ってまともに戦える体ではない。
けれど────
「私は倒れるわけにはいかんのだよ。皆を安心させるために、精神的支柱となるために私はまだ倒れるわけにはいかない」
拳を強く握り、己を奮い立たせる。私はまだ動けるのだと、人々を救い続けるのだと。目を閉じ深呼吸をした。────だからこそ、気づくのが遅れてしまった。
「オール…マイト…?」
そこには昔とある事件により関わっている少年が立っていた。
「紫萁少年…? 何故こんなところに────」
いや、それどころではない。早く、早くこの場から離れなくては。そう思うも現実は非常であった。ボフンと音を立てて体が萎んでしまった。筋骨隆々の体はまるで骸骨のようにやせ細り、隠していた
(Shiiiiit!!!)
やらかした。やらかしてしまった。見られてしまった。平和の象徴の本当の姿を。口止めをしなければ────
「いや、あのね紫萁少年────」
「やはり身体にガタがきていたのですね」
「なっ────」
なぜ、そんな思いが交錯する。紫萁少年には言っていないはずだ。私が大怪我を負ったということも、こんな姿に成り果てているということも何も言ってなかったはずだ。なのに何故知っている?
「何でその事を知っているか…聞かせてもらってもいいかい?」
「簡単なことですよ。私はオールマイトを見てましたから」
微かに微笑みながらそう言う紫萁少年に驚愕と困惑を隠せなかった。
「見ていた?」
「ええ、オールマイトが大怪我を負ってから初めて私の所に来た時に気がつきました。オールマイトは無意識かもしれませんが、時折左脇腹をまるで守ろうとするかのような妙な動きをすることがあるんです」
まあ、それもほんの些細な動きですのでたまたま気づいただけですけど────そう呟く紫萁少年にまたしても驚愕を隠せなかった。
「たったそれだけで私が大怪我を負っていると?」
「いえ、他にもいろいろとありますよ。けれど、1番の決め手となったのはその動作でしたね」
隠せていたと思っていた。誰にもバレないようにする自信はあった。けれど、こうもあっさりバレてしまうとは…。
「はは…、なら君にはかっこ悪いところを見せてしまったね」
「いいえ、かっこ悪くなどありません。あなたは為すべきことをした。人々の為に自身の命をかけて戦ったのです。それを褒めることはあれど侮蔑することなど以ての外です」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ」
「────けれどオールマイト。あなたは頑張りすぎています」
唐突にそう言った紫萁少年の言葉に疑問を抱いた。
「頑張りすぎている? 私が?」
「オールマイト、あなたは大怪我をしているはずです。しかし貴方はそれでもなお人々の為に尽くしています。……それはきっと尊いことなのでしょう。けれど、無茶を通せばいずれ己に返ってきますよ」
「けれど私は平和の象徴。私が休めばきっとヴィラン達は安寧な日々を壊してしまう。だから────」
「オールマイト、他のヒーロー達が信じられませんか?」
声が詰まった。
信じてる、信じていないわけがない、信じているはずだ…。
「他のヒーロー達も日々ヴィランを取り締まり、人々の安全を維持しています。貴方が休んだとしてもきっと貴方の後に続く人達がフォローしてくれます。だから、他のヒーローを…いや────」
「────人に頼ってください」
「オールマイト、あなたもヒーローである前に人間なんです。頼ったっていいんです。辛いのであれば休んでもいいんです。あなたが築き上げたものはあなたが思っているよりも強い。それに、顔色の悪いヒーローを見て安心できる人なんていませんよ。ですから、休んでください」
何故だろうか、紫萁少年の言葉がすんなりと心に入ってくる。こちらを労る優しさを孕む声が酷く心地いい。
人に頼る、か。お師匠が死んでから私は極端に人に頼ることが減った。なぜなら私は平和の象徴。私が率先して人に頼られねばならない。
そこまで考えてようやく気がついた。
────ああ、そうか。だから、人に頼ろうとは思わなくなったのか…。
「ハハッ…、まさか君のような中学生に論されるなんてね。私も随分と焼きが回ってしまった。そうだね、君の言う通りだ。私とて人間、休みは必要か。だから、私も頼るとしようか」
「そうです、それでいいんです」
ホッとしたように笑みを浮かべる紫萁少年。
「けれど!」
「────それでも私は平和の象徴。人々を安心させるのが私の仕事なのさ」
はぁっ、と嘆息する紫萁少年の姿に少しだけ申し訳なく思うもこればっかりは変えられない。
「強情な…。けれどまあ、いいです。あなたがそう言うのは分かっていましたから。ですから、これを受け取ってください」
そう言ってなにやら袋を渡してくる。それを受け取り中を漁ってみると赤の錠剤と青の錠剤が1粒ずつ入っていた。
「それは特殊な錠剤です。青の錠剤は一時的に痛覚をシャットダウンします。そして赤の錠剤ですが、これは回復促進剤です。あなたの怪我も7割ほどまでならこれで治すことができます。ですが、副作用としてショック死するレベルの激痛が襲ってきます。ですので、必ず青の錠剤を飲んでから赤の錠剤を飲むようにしてください」
怪我が治る…? いくら手術しても治らなかった私の傷が?
「本当に、本当に治るのか?」
藁にもすがる思いでそう聞くと無言で頷いた。
震える手で青の錠剤を摘み上げ飲み込む。
「飲んだのなら一度自身を抓って見てください。痛みが無ければそのまま赤の錠剤を飲んでください」
そう言われたので自身の腕を抓ってみる。
────痛みは、ない。
そして赤の錠剤を手に取り飲み込む。
瞬間、傷跡から激痛が走った。
「グゥッ、オオオォオォオオ!?」
「────」
紫萁少年が何かを言っているが、あまりの激痛で聞き取ることが出来ない。傷跡に焼き鏝を押し付けられているかのような激痛と熱が迸る。身体から大量の汗が吹き出て地面に水溜まりを作っていた。
そうして、一体どれほどの時が経ったのだろうか。悠久にも思える時間が過ぎ、ようやく身体の痛みが消えうせた。痛みで火照った身体を冷ますように大きく深呼吸を繰り返しているとあることに気がついた。
────息苦しくない。
いつもであれば吐血する様な出来事が起きていたのに吐血しない。というよりも、なんだか身体が動かしやすくなっている気がする。これは、もしや本当に────
「お疲れ様です、オールマイト」
「紫萁、少年」
「これであなたの体はある程度は治りました。後はこの緑の錠剤を毎日1回飲んでください。少々時間は掛かりますが、いずれ完治するはずです」
そう言って手渡してくる薬を見て私はある事を呟いた。
「また激痛が襲ってきたりしないだろうね?」
そう聞くと紫萁少年はキョトンとした顔をした後、フッと笑った。
「いいえ、痛みなどありませんよ。これは治癒促進剤みたいなものですから」
「それは、よかった。今みたいな痛みは二度とゴメンだからね」
そう言うとまた紫萁少年は少しだけ笑い、釣られるように私も笑った。
少しの間裏路地にて笑い声が響いた。
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「オールマイト?」
「ああいや、すまない少々昔のことを思い出してね。それで、ヒーローになる資格がないだったか。なんでそう思うんだい?」
そう聞くと少しだけ悩んだ素振りを見せた後にこう答えた。
「私は、貴方のように人を導く存在ではないし、人に優しくできません。だから、駄目なんです。ヒーローだけはなったらいけないと思うんです」
「違う、違うぞ紫萁少年。君は十分ヒーローになる資質を持っている。あの時、私を救ってくれたではないか」
あの日、あの路地裏で受けた恩を私は決して忘れることはないだろう。そして今も君に助けられているのだ。だからこそ私は今もヒーロー活動に専念できているし、皆を助けることが出来る。
だから────
「君にヒーローになる資格がないだなんて誰にも言わせはせんさ。胸を張っていい、君はきっと良いヒーローになれる」
そう伝えると酷く動揺したようで、自身の手を弄っている。心を落ち着けようとしているのだろうか。しかし、これで分かった。
やはり紫萁少年はヒーローになりたいと心の内で思っている。けれど、過去の事件のせいで自分がヒーローになったとしてもまた人を巻き込んでしまうのではないかと思って、一歩踏み出せないのだ。
ならばこそ、私がその一歩を後押ししよう。
彼がヒーローになりたいと言うのであれば全力でサポートしようじゃないか。彼から受けた恩を返す為にも。
「紫萁少年、雄英ヒーロー科に来てみないか? きっと君なら最高のヒーローになれるさ」
そう言って紫萁少年に向けて手を伸ばす。
紫萁少年は深く悩んだ後、此方をジッと見つめて────
ここで分岐ルートが発生
雄英にいけばヴィラン生存ルート
行かなければ殲滅ルート
どっちにしようかなー
そう言えばなんで赤の錠剤を飲むとショック死するレベルの激痛が来るって知ってたんでしょうねー(すっとぼけ)
オールフォーワンの存在のせいで主人公のことを微妙に勘違いするオールマイト
そして主人公のせいでオールマイトの怪我が治りつつあるためヴィラン勢が軒並み酷い目に遭う(確信)
しかも自身のことも鑑みるようになったので基本的に身体の調子がいい。仲間にもガンガン頼るぞ! 連携もめちゃくちゃ取ってくるぞ!