未だに見えぬ朝を乞う   作:明科

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前回から引き続き、今回も急展開で本当に申し訳ないです。
このままズルズルしていると、いつまでたっても原作に入れないから無理したとかそういうアレでは無いんです。
無いんです···。(半分は正しい)






9:哀愁は雪の中

「クラピカ、私今夜はシチューがいい。」

今朝もミメイは髪の毛をマフラー替わりにして、仕事に行く準備をする。

そんな彼女を横目に、クラピカは食器を水に浸けて洗い始めた。

「またそれか。」

2枚の皿についた汚れを洗剤の泡で落としながら溜め息をつく。

「だって美味しいんだもの。

ま、貴方の料理はどれも美味しいけど。」

「そうか。」

手放しに褒められてほんのり綻ぶクラピカの顔。

それを確認したミメイはしてやったり、と先程のお願いを重ねるのだ。

「だからシチューよろしくね。」

「···考えてはおく。」

クラピカがこう返すのならば今夜はシチューに違いない、そう確信したミメイは足取り軽やかに小屋を出て行った。

 

 

 

ミメイがクラピカを拾って早3週間。

ぎこちなく「おかえり」と「ただいま」を繰り返しているうちに、氷がぬるま湯に解ける様に2人は馴染んでいった。

お互いの詳しい身の上話も無しの状態での共同生活だったが、多くを語らずとも同族意識の様な何かは芽生えたらしく案外上手くやっている。

ミメイは外で用心棒、クラピカは式神達と一緒に中で家事、見事な分業制が出来上がっていた。

 

長々と面倒を見るつもりは更々無かったミメイなのだが、勿論今も無いのだが、まだクラピカが本調子ではないから、まだ熱っぽい日があるから、そんな言い訳をしてズルズルこの生活を続けている。

全てを“成り行き”という言葉で済ませてしまうのは簡単である。

ミメイも例にも漏れずそう自己に言い聞かせているのだった。

妹のシノアに似ているから、自分の心に棲む鬼宿に似ているから、だから見捨てられない、そう自己に刻みつけているのだった。

 

ミメイが自身に言い聞かせていることは全て正しい。

だが彼女はそれだけが正しいのだと思い込んでいる。

いや、思い込まずにはいられない。

“それ以上”はなく、正しいのはそれだけで。

だから彼女はまだ気付けない。

鬼宿からすれば馬鹿みたいに可愛過ぎる自己矛盾を抱えていることにミメイは気付けない。

何かの拍子に気付くことがあったとしても、見なかった振りをして封殺する。

 

 

けれども、そんな優しい猶予期間(モラトリアム)が永く続く筈もなかったのだ。

 

 

 

 

───────

「ようミメイ、最近どうよ。」

いつもの様に賭場の入り口に立っていれば、同僚の男が声をかけてくる。

彼はミメイより弱いのだが、距離感を間違えないミメイ的に“良い”男である為今の所ミメイにぶちのめされた事はない。

賭場の主人と彼、そして客だけが職場でミメイに声をかける人間である。

あとは大体ミメイに心身を滅多打ちにされた恐怖に怯える弱者の為、ミメイに話しかけることはこれから先も無いだろう。

 

「ぼちぼちって所ね。」

マフラー替わりにした長い髪の中に顔を埋めて暖を取りながら素っ気なく返す。

「お前の借金ももうそろそろで終わりか。

次の給金が入ったら、まずは防寒具を買えよ。」

「言われなくてもそのつもりよ。」

今ミメイの腰に下げられている刀は、用心棒としての報酬2ヶ月分を先払いで貰って買い叩いた業物である。

つまりその2ヶ月間は実質タダ働きという地獄と引き換えだった。

だがその地獄ももう終わる。

賭場での仕事が報酬以上だと賭場の主人に認められ、残り1ヶ月弱分の借金は帳消しになった。

来週からは通常通りの給金がミメイにも支払われることになる。

 

「そういえば聞いたか?」

「何を。」

コートを買おう裏起毛のコートを、と防寒具に思いを馳せていれば、まだ話したいことがあったらしく同僚の男はミメイとの距離を詰めてくる。

「一攫千金だよ。1人捕まえれば相当な値になるってさ。」

同僚は夢みたいだよな、と笑っているがミメイには何のことか分からない。

お尋ね者のことだろうか。

今は情報が殆ど無い幻影旅団とかいう盗賊が旬らしいが。

 

「何の話?」

「知らないのか?あれだよ、クルタ族。

去年あたりに幻影旅団に滅ぼされた一族だ。

そいつらの目は興奮すると赤くなるらしくてな、その美しさに惹かれた金持ち達が生き残りを血眼になって探してるんだと。

少数民族だったからか流通量が少なかったらしい。」

「目を抉り出して飾るの?それとも体丸ごと?」

良い趣味ね、とミメイは鼻で笑う。

「さあ。目単品でも価値は高いだろうが、生きてる状態で捕まえられたならもっと値は上がるんじゃないか?」

「ふぅん。」

「あ、興味無さそうだな。」

セーラー服の袖を弄り始めたミメイの様子から、同僚は敏感に感じ取ったらしくケラケラと笑った。

 

「だってねぇ。捕まえるのなんて面倒じゃない。

生け捕りとか無理よ。抵抗されたら殺すに決まってるもの。」

「目単品でも良いらしいぞ。」

どうやら同僚は、ミメイがクルタ族の生き残り狩りに参加することを望んでいるらしい。

ミメイが狩りに成功して得たおこぼれにでも与かろうと考えているのだろうか。

だがミメイには、その狩りに参加する気は更々ない。

元々物探しは得意ではないのだ。

 

「貴方1人でやったら?」

もう話は終わりだとミメイはヒラヒラ手を振って同僚を追い返そうとする。

「つれないやつだな。」

尚も食い下がる同僚に溜め息を返し、そもそもの疑問を投げかける。

「まず本当に生き残りなんているの?

それ自体デマなんじゃない?」

 

素性不明の幻影旅団だが、やることなすこと全て徹底しきっていることは有名である。

尻尾を全く掴ませない原因である情報の隠蔽から、旅団が生業とする盗みまで。

その旅団が1つの少数民族を滅ぼして、その目を奪って売り払おうと決めたなら、容赦なく皆殺しにするに違いない。

生き残りは後々旅団に対して怨恨を抱く面倒な存在になるからだ。

柊家も、敵対勢力を潰すと決めたなら完膚なきまでに断絶させるか、ほんの少しだけ残して厳しい監視下で飼い殺しにしていた。

 

 

「いや、生き残りがいるってのは本当だよ。

目撃情報があるんだ。

突然目が赤くなったガキがいたってな。」

「ガキ?へえ、その生き残りは子供なのね。」

意外だわ、と少しだけ目を見開く。

「興味が出たか?」

「全く。」

すげなく返答したミメイだが、同僚はそんなことを気にせず口を動かす。

「この前来た客が言ってたんだがな、多分女らしい。」

「ねえ、興味ないって言ってるんだけど。」

仕方のない同僚から距離を取ろうと、ミメイは彼に背を向けて歩きだした。

のだが、次に同僚の口から飛び出た言葉にピタリと足を止めた。

 

「細っこくて小柄で···ああそうだ、長い金髪だとか。

まあ髪の毛はなぁ、染めたりカツラを被ったりすれば分からなくなるからなぁ。」

「金髪?」

 

 

嫌がられようとも逃げられようとも、とっ捕まえて毎晩強制的にミメイが櫛を入れている金の髪。

サラサラとあの子の背中で揺れる金の髪。

埃っぽい小屋の中でやけに光って見える、眩しい金の髪。

 

 

「ああ、噂では。

女の子らしく胸辺りまで伸びた長い髪だってさ。」

足を止めたミメイにこれ幸いと同僚はペラペラ話す。

「···ねえ、その情報誰から聞いたの?」

胸辺りまで伸びた金の髪。

そろそろ切ろうかとボヤいていたのをこの前耳にした。

 

「あ?さっきも言ったろ、客の1人だよ。

何でも最近、この近くでまた目撃情報があったとかでな。

ま、本当かは知らねえが。」

「そう。」

地面にぺたりと付けていた足を再び動かす。

そのまま動かす速さを上げて、地面を蹴りあげて。

気付けばミメイは走り出していた。

「おい、どこ行くんだ?」

「馬鹿ね、トイレに決まってるでしょ。」

後ろからぶつけられた問いには、相手が何も言えなくなる様な答えを返し、ミメイは足の腱をしならせて駆ける。

 

 

 

変な予感がした。

嫌という訳でも好きという訳でもない。

ただ、変な予感がした。

今ここで動かなければいけないという形容しがたい使命感。

それに突き動かされてミメイは走る。

白い雪が赤茶けた土を覆い、所々が凍って滑りやすくなっている道を難なく蹴っていく。

 

住処である小屋までの正規ルートは雪の積もった一本道のみ。

だから分かる。

今朝小屋を出たミメイの足跡以外がついているのはおかしいのだ。

くっきりくっきり、大きな足跡が幾つも刻まれているのはおかしいのだ。

その足跡を上から踏み潰しながらミメイは緩やかな坂を駆け上がる。

 

クラピカは外に出ない。

まともな防寒具が無い状態で寒空の下に出れば、また体調を崩すのが分かりきっているからである。

 

 

腰の刀を右掌に握らせて、小屋の入り口の向かいに生えた木の陰に身を隠す。

ちらりと小屋に視線を走らせれば、キィキィと情けない音を立てて風に揺れるみすぼらしいドア。

その下にはぐにゃりと歪んだ蝶番。

どう見ても、何者かが無理矢理小屋に押し入った様にしか見えない。

 

聴覚に意識を集中させれば、小屋からは何の音もしないとすぐに判明した。

風の通る音からしてベッド近くの窓が開いている。

そして恐らく風呂場の窓も開いているのだろう。

小屋の中を通り抜ける風の音が大きい為きっとそうだ。

風呂場の窓は子供一人がやっと通れるかという小ささである。

聡明なあの子は式神達と共にそこから這い出たに違いない。

そうすれば少しは逃亡成功確率が上がると信じて。

 

念の為窓の外から小屋を覗いておこうとそちら側に足を向けた丁度その時、ミメイの体を小さな衝撃が襲う。

この世界に来て早々、クロロに式神を消された時と同じ衝撃が。

式神とミメイは微弱なオーラで結ばれており、自動的にエネルギーが送り込まれている。

だが今、その繋がりが切れた。

パチンと切れた。

つまりはエネルギーを送る対象であった式神が消滅したということだ。

 

適当に作った式神とはいえ、一応はミメイのオーラと息を吹き込んである。

高い所から落下したり、水の中にぼちゃんしたりしたくらいでは消滅することはない。

ならば答えはただ一つ。

それ以上の非常事態が起きたということだ。

 

 

 

「鬼宿。」

心の奥で鎖で拘束されたシエスタを優雅に楽しんでいるだろう鬼を叩き起す。

『なぁに?』

ミメイの聞きたいことなどもう分かりきっているだろうに、このいやらしい鬼は態々尋ねるのだ。

「どっち?」

あの子が、クラピカが逃げたのはどっち?

『あは、知りたい?』

きゃはははは、と嬌声をミメイの頭に響かせる。

「勿体ぶらずに教えて。」

『ねぇねぇ、なんで知りたいの?なんで?

あの子供のことなんて放っておけば良い。

いつかは自分から出て行くだろう、そう予想したのは未明だろ?』

「教えて。」

『教えてよ、どうして?

理由を僕に教えてよ。どうしてあの子供1人に必死になってるのか。』

オウム返しの様にしてミメイの心に漣を立てる。

 

『未明、君が必死になったことなんて数えるくらいしかない。

1度目は君が拐かされた時、2度目はシノアが拐かされそうになった時、3度目は世界が滅亡の向こうへと駆け出したあの時。

たったのこれだけだ。

君は僕に心を喰われたくないから、鬼になりたくないから、欲望を押さえて感情を殺して、外にも中にも決して出そうとしなかった。

それが当たり前だった

薄っぺらい安っぽい感情ばかり適当に表に出して、例え何かを望んだとしてもすぐに無かったことにした。』

「だから?」

今聞きたいのはそんなことじゃない、とミメイは鬼宿の鎖を締め上げる。

と同時に小屋の裏に広がる林に意識を向けた。

真っ白な雪に刻まれた足の形が丸分かりの小さな足跡は、その奥へと続いている。

そして、その上からは大きな靴の跡が押し付けられている。

 

『それなのにどうして君は、今そんなに必死なのさ。

あの子供は妹のシノアじゃない。

そして、君の家族でも仲間でも何でも無いんだよ。』

「···。」

幾つもの足跡を押し潰して、ミメイも林に足を踏み入れる。

 

『ねえ、どうしてなの。』

「そんなの分からないわ。

どうしてかは私にも分からない。

ただ、こうしなければいけないと私は今思ったの。」

ナイフでつけられたと見受けられる鋭い傷が木の幹に刻まれているのを発見する。

その傷を軽く指先でなぞりながら、血痕がまだ見当たらないことに小さく胸をなで下ろした。

 

『···どうして、ねえどうして?

未明、今君は安心しただろ。

流血の痕が無いのに安心しただろ。』

何故か喜色を隠しきれていない震える声。

「そうね、安心したわ。

どうしてかは分からない。

どうしてあの子を探しているのかも分からない。

理由も言い訳も、言おうと思えば言えるんでしょうね。」

でも、とミメイは唇を噛む。

右掌に握らせたままの刀を掴み直して、乱れた足跡の上を走る。

 

 

 

足跡が途絶えた先、木々が伐採されて開けている狭い場所、そこでミメイの視界に入り込んできたのはナイフを振り上げる男。

その周りで下卑た笑みを浮かべる5人。

そして地面に転がり、男が振り上げるナイフを腕で受けようとしている小さな体。

既に1度ナイフは振り下ろされたのだろう。

金糸の様な明るい髪がバラバラと雪の上に散らばっている。

切り離された沢山の金の房の一部が、何本かが、ふわりふわりと風に舞い上がっている。

柔らかな陽の光を集めて輝くそれ目掛けて、ミメイは大きく踏み込む。

 

 

 

 

 

一閃。

鋭い白刃が空間を斬り裂いたかと思えば、何よりも早く赤が白い雪を染め上げる。

6人分の血は十分温かかったらしく、赤くなった雪がじわりとその姿を崩して地面に消えていく。

 

 

「ミメイ···?」

自分の目の前にすらりと立つ見慣れた人影に、地面に転がったままのクラピカが恐る恐る声をかければ、紫の髪を靡かせて振り向いたのは勿論ミメイである。

その周りで沢山の重い体が雪にのめり込んでいく音がドサリと響くが、ミメイはそれを微塵も気にとめず、右手の刀の刃先を伝う赤を自然に払った。

またピシャリと雪の白が赤に侵された。

 

「無事ね。」

たった今1度で6人の命を奪った刀を鞘にしまって、クラピカの前にしゃがみ込む。

そして逡巡した様子の後、袖を引き伸ばしたセーラー服から覗く掌をクラピカに向けた。

「···あ、あ。」

掠れた声と共に、ミメイの手をそっと掴む冷えた掌。

それを握り返して、ミメイはクラピカの背を支えてやる。

 

「ミメイ、」

無残に切られてしまった金の髪を振り乱し、クラピカはミメイに縋り付く様にして哭いた。

「どうしたの?」

「すまない。」

「どうして?」

「すまない。巻き込んでしまってすまない。」

申し訳なさそうに肩を震わせるクラピカを見て、ミメイは小さく首を傾げる。

「私がこの人達を殺したことを気に病んでるの?

それなら気にしないで。別にこれが初めてじゃないわ。

顔も名前も知らない人間なだけマシよ。」

周りに転がる男達の方に目を向けることもなく、さもどうでも良いことの様にミメイは呟いた。

 

世界の終わりの直前には、かつて同じ学び舎で学んだ友と呼ぶべき人間を沢山殺した。

真昼を救う為、世界を救う為、一刀の元に斬り伏せた。

今でもまざまざと思い出すことが出来る。

グレンの、深夜の、十条の、花依の、雪見の、五士の、同じ様に人間を殺めた彼等の顔を。

もうこうするしかない、それは分かっている、けれども理解したくない。

そんな感情がありありと浮かんでいた顔を。

 

 

「そんなことは分かっている。

お前が用心棒をやっていることも、過去に何か血なまぐさいことがあったのも、式神達から聞いて知っている。」

今やただの紙切れとなって白い雪の中に紛れている元式神達。

どうやら彼等はちゃんと、クラピカの盾としての役目を全うして消えたらしい。

物言わぬ紙から視線を外し、ミメイは自分の腕を掴むクラピカの背をそっとさする。

 

「それでも、すまない。」

か細く震える声。

「どうして貴方が罪悪感を抱いてるの?

貴方が殺したんじゃない、貴方は殺されかけた側なのよ。

何も気に病む必要なんてない。」

ミメイは不思議でたまらない。

たかが6人殺したくらいで、しかもクラピカに害をなそうとした人間を殺しただけだというのに、何故そんなにもクラピカが罪悪感を抱いているのか。

 

「私の為に、お前に人を殺させてしまった。

私の為に、私がやらなければいけないことをお前にさせてしまった。」

絞り出す様にして告げられた言葉は、一瞬だけミメイの動きを止める。

「···馬鹿ね。貴方には無理だったでしょ。」

私が間に入らなければ殺されたのは貴方だったのよ、そんなニュアンスを持たせてミメイは緩く笑う。

「それでもだ。」

ミメイのセーラー服の裾を引っ掻くように掴み、キッと睨み上げてくるクラピカの目は美しいまでに赤かった。

理屈では分かっていても心が従えない、目は口ほどに物を言うとはこのことだろう。

そして、こんな頑固者をミメイは嫌という程知っている。

 

「馬鹿だなぁ。クラピカって、ほんと馬鹿。」

白い首辺りで無残にナイフで切られた金髪に指を通す。

ああこんなにバサバサになってしまった、しっかり櫛で梳かさなければ、そんなことを思いながら、血の様に炎の様にギラギラと燃え上がるクラピカの瞳を覗き込む。

「綺麗ね。」

無意識的にこぼれ落ちたミメイの言葉にビクリと肩を揺らすが、ミメイにその目をどうこうする気が全く無いのは分かりきっているのか、クラピカは自嘲的に口角を上げる。

「感情が昂るとこうなる···これがクルタ族特有の体質だ。

緋の目といってな、世界7大美色の1つにも数えられている。」

「世界7大美色ね···。あら?どこかで聞いた様な言葉。」

どこで誰に聞いたのだったか、賭場に訪れた客の1人に聞いたのだったか、よく思い出せない。

一応後で大体の記憶を共有する鬼宿にも確認してみようと心にとめておく。

 

 

「この目の為に同胞は皆殺しにされ、その亡骸には1つの目も残っていなかった。

だから私は決めたのだ。

必ず同胞を辱め、殺した幻影旅団を捕まえるのだと。

死んで尚晒される同胞の目を全て集めるのだと。」

目の赤みが更に濃くなる。

「それが貴方の願いなのね、クラピカ。」

「ああ。」

何を言われようとも自分の意見を曲げる気はないという強い赤い目。

それに既視感を覚えながらミメイは微笑んだ。

ここで微笑むのは見当違いではなかろうか、そんな自覚はあったのだがただ微笑んだ。

 

「復讐は無駄じゃないわ。意味のあることだと私は思う。」

「···そうか。」

拍子抜けした様にクラピカは少し肩の力を抜く。

「意外?まあそうよね、普通復讐なんてやめなさいって諭すのが歳上の役目だもの。

でも諭したって貴方は聞くタイプじゃないでしょ?

そういう馬鹿を私は知ってるの。

世界を救いたい、愛する女を救いたい、仲間を救いたい、全てを救いたい、そう叫んだ馬鹿を知ってるのよ。」

そして結局、自分を犠牲にして人間をやめた馬鹿を。

 

「だから復讐でも何でもすれば良い。

それが貴方の生きる意味だというのなら、その意志は間違いなく貴方を強くする。」

「ミメイ、」

それは本当か、そう言葉を続けようとした唇を人差し指で押さえ込む。

「でもね、これだけは覚えていて。

犠牲無くして力は得られないのよ。

犠牲を重ねれば重ねる程、沢山得られるのが力なの。

どんな願いも叶える為には力が要るわ。

そしてその力を手にするには、多くを犠牲にするしかないのよ。」

心に棲む鬼のことを思う。

いつでも望めば簡単に得られる力を所有する鬼のことを。

 

「まともな人間として生きて、まともな人間として死にたいのなら、人の手に余るものには手を出しちゃ駄目よ。」

クラピカの白い頬に指を添え、赤みが段々と薄くなっていくその瞳を見つめる。

「ミメイ?」

少し様子のおかしい、何故か悲壮感を滲ませるミメイに戸惑って、赤い瞳を揺らす。

 

「約束なんか要らないから忘れないで。

私が言いたいのは、言えるのはそれだけよ。」

己が身を裂く様な衝動に突き動かされて、ミメイはクラピカの背に手を回した。

雪の上に転がされていたからか少し冷たい。

それを暖めてやる様に、ミメイはきつくクラピカをかき抱いた。

 

 

 

ああ駄目ね。

認めたくないけれど、私はこの子にグレンを重ねている。

クーさんに感じたものとはまた違う。

この子の悲惨なまでに追い詰められた生に、強い願いを秘めた心に、意志の堅さを映す瞳に、グレンを重ねている。

年齢に似合わない大人らしさはシノアにも確かに似ている。

けれどそれ以上に、私はこの子にグレンを見出してしまった。

 

気付いてしまった。

出来ることなら気付きたくなかった事実に気付いてしまった。

 

 

 

「クラピカ。」

「何だ、ミメイ。」

「帰ろう。ここは寒いわ。」

「ああ。」

手を取り合って立ち上がる。

雪を踏みしめ、血に濡れた雪を踏みしめ、物言わぬ幾つもの亡骸を越えて、ただの紙となった2枚を残して、2人は林の中を歩く。

沢山の足跡に踏み固められた木と木の間の道を歩く。

ただ、来た道を帰るのだ。

 

2人が暮らすあの家へ帰るのだ。

本当の意味で、ミメイが家だと認めたあの家へ。

 

 

 




ここまで来て、まだクラピカちゃん(女)だと思っている主人公。
もう作者にもバラすタイミングが掴めないです。


しおりやお気に入り、評価等本当にありがとうございます。
12月23日の日間ランキングに入れたのも皆様のお陰です。
ありがとうございます。
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