未だに見えぬ朝を乞う 作:明科
どうぞ今年も宜しくお願い致します。
「ミメイ、これからどうするんだ。」
一月余りを過ごした小屋の方をチラチラと振り返りながら、隣で嬉しそうにコートをはためかせるミメイにクラピカは問いかけた。
「賭場の主人に紹介状みたいなのを書いてもらったわ。
それを使ってもっと良い条件で雇ってくれる職場を探すの。
クラピカ、貴方もちゃんとコートは着るのよ。」
2人お揃いのポンチョタイプの黒いコート。
ミメイの退職金を使って購入したものである。
「わ、分かっている。」
ちゃんと外に出たのは久しぶりなクラピカは、身を切る様な寒さにくしゃみを漏らしながらコートの襟に顔を埋めた。
足が埋まる程に積もった雪の中をサクサク進むミメイと、その1m後ろを歩くクラピカ。
2人とも最低限の防寒をしてはいるものの寒い事に変わりはない。
出来ることならば小屋から出たくはない、こもってしまいたい、それが本心なのだがそうもいかない。
理由は簡単、ミメイが職場を追われたからである。
何故そんなことになったかというと、数日前の事件がそもそものきっかけだ。
クラピカが噂のクルタ族ではないかと疑ったならず者達は、ミメイがいない隙に小屋に強襲をかけた。
小屋のドアが破られるほんの少し前、式神達の警告により自身の危機に気付いたクラピカは、ならず者達の裏をかいて風呂場の小さい窓から脱出。
狭い小屋でなすがままに捕まるのは避けられたが、林に逃げ込むクラピカにすぐ気付いたならず者達は彼を追う。
その激しい逃亡劇の末にクラピカの目は赤く染まり、ならず者達に彼がクルタ族だということが露見してしまい、目を抉られそうになった丁度その時、ミメイがならず者達を皆殺しにしたことで事件は収束した。
金髪の子供がクルタ族であるという噂が真実だと知る人間はミメイの手によって始末された。
依然として噂は流れるだろうが、そんな訳がないと一蹴すれば良いことだ。
元々噂は噂程度で、本気にする馬鹿の方が少ないのだから。
だが問題が発生した。
クラピカの当面の安全は保証されたが、どうやらミメイが殺したならず者達はミメイの職場である賭場のお得意様の関係者だったらしい。
襲ってきたのはそちらだ、正当防衛だ、とクラピカの出自の事は誤魔化しながらミメイは弁明した。
しかし、すったもんだの末にミメイは賭場の用心棒という職を失うことになる。
賭場の主人は腕の良いミメイを手放したくなかった様だが、お得意様にゴネられては仕方ない。
今までの働き分だという退職金を奮発されては、申し訳なさそうに言われては、ミメイとしても辞めるしかなかった。
食と住が保証された良い職場だったのだが。
そんなこんなで、職場提供の小屋を今朝出ることになった2人だったのだ。
いくら賭場の主人に紹介状を貰ったとはいえ、退職金があるとはいえ、次の住処と職を見つけるのは先になる。
それを見越したミメイはクラピカとの共同生活も潮時かと考えたのだが、今クラピカを1人にするのは危険極まりないと思い直した。
噂に踊らせる馬鹿共の中に1人いるよりも、安定しないとはいえミメイと共にいた方がマシだろう。
ミメイは最早クラピカを見捨てることは出来ない。
妹のシノアを見捨てられなかった様に、グレンの手を振り払いきれなかった様に。
これに何と名前をつければ良いのかは考えない。
ミメイに新たな世界を見せてくれたクロロや、“父親”になろうとしてくれた飯屋のオヤジと同じ様に、クラピカが特別な存在になりかけているのは分かっていたとしても。
だから後々決断を迫られるというのも、初めから嫌という程知っている。
それでも今は、今だけは、このままでいたいと思うのだ。
「取り敢えず大きな街に行ってみようかしら。」
元職場である賭場を通り抜け、人の足で雪が踏み固められた街道へ出る。
「大都市か。···。」
ミメイの隣に並んだクラピカは人の行き交う街道をじっと見つめる。
「人が多いのが心配?」
「ああ。噂を知る人間も多いだろうから。」
金髪の子供がクルタ族の生き残りだという噂は、恐らく巨大マフィアが根城にしている大都市から流れてきたものだ。
クラピカはその大都市に足を踏み入れるのを警戒している。
「人が多い分、その中に紛れるのは容易いわ。
それに貴方、髪切られたから男の子っぽいもの。
金髪の女の子が生き残りだっていう噂とは違うから、誤魔化しやすいんじゃない?」
胸あたりまで伸びていた美しい金髪は、誘拐未遂事件の際にならず者達によって肩上まで切られてしまった。
それをミメイがせっせと整えて、クラピカの髪は今やスッキリとしたショートカットである。
年齢以下の細身な体の為性別不明感は拭いきれないが、男だと思ってみれば13、4歳程の少年だと判断出来る外見になっていた。
クラピカとしては村を出た時と同じ長さの髪になったお陰で悪い気分ではないのだが、他人の長い髪を弄るのが好きなミメイは少し不満らしい。
「···そうだな。」
この機会に自分が男だと申告すべきか否か迷ったクラピカだが、どうにも言い出しにくい。
妹と重ねられて可愛がられることに不快感を抱いていたのは初めだけで、ふとした時にミメイが見せる慈愛の目はくすぐったくも心地好い。
しかしそれはクラピカが妹に似通った部分を持つ妹だからで。
実は男だと申告した場合、ミメイがどんな反応をするのかが少し恐ろしい。
そもそも勝手に女だと決めつけたのはミメイの方であり、クラピカに責はない。
性別詐称を積極的に行った訳ではない。
だが人の良いクラピカは、年頃の女(らしくはないが)であるミメイに対し罪悪感を感じているのだった。
「クラピカ?」
俯いていたのに気付いたのか、クラピカの短い髪に指を通しながらミメイが首を傾げた。
「いや、大丈夫だ。」
なんでもないのだと首を横に振り、性別申告は取り敢えず後回しにする。
今は兎に角、次の住処を探さなければいけないのだから。
「それじゃあ行きましょうか。
目指すはマフィア蔓延る大都市。好条件な職場が私を待ってるわ。」
腰に下げた刀をポンと叩き、ミメイは広々とした街道を歩き出す。
その後を追いかけて、今度は隣にぴったりとくっついて足を動かすクラピカ。
背中に括りつけた木刀の重みを感じながら歩いていれば、ふとミメイの刀が目に入る。
数日前はこの刀を抜き放って一度に6人を斬り殺していたが、ミメイの強さを目の当たりにしたのはクラピカにとってあれが初めてであった。
女だてらに賭場の用心棒をしているのだから、それなりに強いのだろうと予想はしていた。
だがあれほどまでとは。
返り血1つ浴びずに、顔色1つ変えずに、ならず者達を一刀のもとに斬り捨てたミメイに僅かな恐怖を感じながらも、それ以上に抱いたのは尊敬と憧れ。
クラピカも年齢相応の少年である。
自分以上の強さを、力を見せつけられて何も感じない筈がない。
力無ければ成し遂げられぬ復讐という悲願を持つのならば尚更である。
「ミメイ、お前はその刀を使いこなしていた様だが、その技はどこで身につけたのだ。」
「技って程のものを教えられた覚えはないわ。
家の方針で一通りの武器は扱える様な訓練は受けたけど、それだけ。
何派とか何流とか、そういうものは一切無しよ。」
一体全体どんな家だ、という疑問は胸にしまう。
クラピカをならず者達から守る為に盾になって消えた式神達から、ミメイの生まれた家が特殊だということは聞いていた為、詳しく踏み込むのは後回しである。
「独学に近いのか。」
「基本のきは仕込まれたけど、その後は専ら実戦よ。
殺さなければ殺される。
なら殺す為に、この武器を使いこなさなきゃいけない。
···そうね、人を殺す為だけに編み出されたミメイ流って所かしら。」
格好つけてる訳じゃないわよ、と苦笑を漏らす。
「そうなのか。
···ミメイ、私に稽古をつけてくれないだろうか。」
「話聞いてた?私、まともな稽古らしきものを受けてないのよ。
そんな人間が人にものを教えられると思う?」
やれやれとミメイが首を振るが、クラピカは尚も食い下がる。
「殺す為の力なのだろう。それは私にうってつけだ。
幻影旅団は強い。
彼等全てを殺せる程の力を持たなければ、私の復讐は達成出来ない。
私は力が欲しい。力が、欲しいのだ。」
ならず者達から逃げることしか出来ず、抵抗もまともに出来ず、地面に転がされるしかなかった自分が嫌だった。
自分を狙っての行為だったのだから、自分が始末しなければならなかったのに、ミメイにやらせてしまった自分が嫌だった。
弱い自分が嫌だった。
悔しくて情けなくて、嫌だった。
こんな弱い自分が復讐を成し遂げられる筈もない。
だからクラピカは力が欲しいのだ。
自分を狙ってきた愚か者に対処出来る力が欲しい。
ミメイに役目を押し付けなくて済む力が欲しい。
そして何より、復讐を達成する為の力が欲しい。
「···クラピカ。」
ミメイを睨む様にして見上げていれば、すっと白い手が両瞼に当てられる。
溜め息混じりに名前を呼ばれたことから、また感情の昂りにより自分の目が赤くなったのだとクラピカは悟った。
そのままミメイに手を掴まれて道端に連れて行かれ、街道に面していない方に顔を向けさせられる。
「少しは気を付けて。」
クラピカの体を人の行き交う街道からさりげなく庇いながら、依然として瞼の上に掌を重ねるミメイ。
「すまない。」
人通りの多い所で緋の目を見せるなんて、自殺行為そのものだと痛い程分かっている。
「感情が昂るとすぐに赤くなるのは危ないわね。」
ミメイが責める口調ではないことが、余計にクラピカの気持ちを沈ませる。
お陰で感情の昂りは収まって、頭に上っていた血もすっと冷えていく。
「···すまない。」
そろそろ良いだろうとクラピカから手を離したミメイに頭を下げる。
「感情が激しいのは悪いことじゃないわ。
感情は欲望を、欲望は目的の達成を導くもの。
感情が激しければ欲望も強くなる。
強い欲望は強い力を与える。
強い力があれば、どんな願いだって叶えられるでしょ?」
励ます様に口にした言葉だったが、クラピカにはミメイが自身に言い聞かせている様にも見えた。
そして言い聞かせながらも、その言葉を拒否する様に瞳を揺らしているのも見てとれた。
いつもと変わらぬ柔い微笑を浮かべたままだったが、目は口ほどに物を言う。
まだ短い付き合いだが、ミメイの感情が表面に現れている微笑だけではないということにクラピカは気付いている。
貼り付けた様な慇懃無礼な笑み、裏表を感じさせない無邪気な笑み、どうにも胡散臭い笑み、完璧な美しさを誇る笑み、儚さを抱かせる透明な笑み······様々な種類の笑みを、微笑を使い分けている。
その笑みが本心からなのか、作り出されたものなのか、それを完全に見抜くことは出来ないが、どこまでも美しい笑顔のみがミメイの感情表現ではない。
よくよく彼女を観察してみればそれらに気付くことが出来た。
何故そこまでして自分の感情を隠そうとするのかは知らない。
いやそもそも隠そうとしているのではなく、何か他の意図があるのかもしれない。
だがクラピカは、笑顔の向こう側に僅かに見えるミメイの感情を見逃さない。見逃したくはないと思った。
口では、顔では、笑顔では、“そう”言っていたとしても、瞳の揺れ方や些細な仕草などから導き出された“そう”ではない彼女の本心を汲み取りたいと思った。
その本心を汲み取って、本当はこうしたいのだろうと言ってやった瞬間にミメイが浮かべる驚いた色を。
その後彼女が浮かべる、花が咲く様な酷く優しい笑顔を。
それらを見たいと思った。
「自分にも言い聞かせている様に聞こえるが。」
だからクラピカはまた、ミメイの隠された感情を暴こうと言葉の矢を放つ。
「気のせいじゃないかしら。
ねえクラピカ、貴方が本当に心から願うのは復讐?」
一瞬虚をつかれた顔をしたのを誤魔化す様に、ミメイは歩を進めながらクラピカに問いをぶつける。
「ああ。同族を辱めた幻影旅団に復讐すること。
それが私の願いであり、目的であり、意味だ。」
再び目が赤くならないよう、細心の注意を払って感情を抑制しながら答えた。
「そう。それだけ?本当にそれだけで良いの?」
「どういう意味だ?」
大通りに戻り、2人並んで大都市への街道を歩く。
「ううん。貴方がそれで良いなら私には関係無いもの。
勝手にすれば良いわ。
ただ、それだけを願っていたつもりでも、他の願いを抱いてしまうのが人間なの。
愚かで可愛い人間なのよ。」
「私が成すべきは復讐のみ。
それ以外は無い。
その為ならば死も怖くはない。
1番恐ろしいのはこの怒りが風化してしまうこと、それだけだ。」
爪が掌に深く食い込む程強く拳を握りしめる。
ミメイが何もしないことから恐らく緋の目になってはいないのだろう。
そう判断しながらもクラピカは昂りを抑える為に息を深く吸い込んで、それからゆっくりと吐き出した。
「禁欲的ね。それでいてドロドロの欲望が渦巻いてる。
あーあ、これだから目が離せないのよ。
グレンみたいに愚かで、可愛くて、馬鹿で、人間らしい。」
紫がかった灰の髪を揺らして、雪景色の中で保護色の様になりながらも嫌に目を引くその髪を揺らして、ミメイは小さく笑った。
「前々から思っていたのだが、グレンとは誰だ。
何度か耳にした覚えがある。」
「あは、言ってなかったっけ。
双子の姉の恋人よ。
ロミオとジュリエットの様な悲劇そのものだったわ、あの2人の恋は。
まあ、たとえ悲劇であったとしても恋の物語だった。
素敵とは言い難くても確かに恋の物語だった。
私はそれを、見ていたの。」
今にも雪が落ちてきそうな灰色の空を見上げて、ミメイは白い息を吐き出した。
その横顔はまっさらで、感情の一欠片さえも浮かんではいない。
とてもわざとらしく。
「ただ見ていたわ。
2人を結びつけるキューピットにもなりきれず、何にもなりきれず、ただの脇役として見ていた。
優柔不断で中途半端で出来損ないの私にはそれがお似合いだった。」
「ミメイは出来損ないなどではない。」
あんな強さを誇るお前がそれを言うか、と抗議の声を上げるクラピカ。
「あはは、ありがとう。
でも私の故郷では、精々私なんて人間にしては強いって程度だったわ。
人間の中では頂点に位置する強さを持っていたとしても、それじゃあ足りなかったの。」
それはまるで自分は人間で、自分以上の強者は人間ではないかの様だ。
その言葉を飲み込んで、クラピカは代わりの質問を口にする。
「それで、私に稽古をつけてくれるのか?」
「あら、それまだ続いてたの?
改めて言うけど嫌よ。
私、人にものなんか教えられないわ。」
素っ気なく先程と同じことを繰り返す。
「どうしても駄目か。」
「駄目。でもそうね、貴方がもう少し強くなったら良いわよ。」
「どの位だ?」
「貴方が私に、」
キョトンと首を傾げるクラピカの額にミメイは手を伸ばす。
目を狙われているのではと反射的に身構えるが、そんな筈はあるまいと力を抜いたのと同時に、クラピカの額にペチンと間抜けな音が響いた。
「何を、」
間抜けな音にしては痛みがジンジンと額から頭全体に伝わる。
その患部を擦りながら恨めしげにミメイを睨めば、してやったりと緩く口角を上げる。
「デコピン出来たらね。」
たった今クラピカの額を弾いた人差し指で、自分の額をトントンと叩くミメイ。
「頑張って私の額を狙いなさい。」
「な、」
馬鹿にしているのか、と声を張り上げようとする前にミメイが被せる。
「馬鹿にしてる訳じゃないわ。
デコピンみたいな簡単なことでも今の貴方には出来やしないもの。
弱い貴方には、ね。
ほら、もう1発。」
「な···ミメイ···!」
怒りで顔を赤らめるクラピカに再びデコピンをかます。
馬鹿にされたことに更に怒りを燃やすクラピカから逃げる様に、ミメイは軽やかに駆け出した。
「待て!」
背中に括りつけた木刀をカラカラと揺らしながらクラピカはミメイの後を追う。
「嫌よ。」
踏み固められているとはいえ走るには適さない雪道を、優雅に踊る様に跳ねるミメイ。
「取り敢えず額を出せ、馬鹿者!」
「馬鹿は貴方でしょ。せめて闇討ちぐらいしたら?
正面から向かってくるなんて余りにお、ば、か、さ、ん。」
余裕そうに振り向いて、投げキッスを送ってくることが更にクラピカの怒りを煽る。
まあミメイはそれを狙ってやっているのだろうが。
「何だと···?!」
「あははは。クラピカ顔こわーい。」
「誰のせいだと思っている?!」
「てへぺろ。」
「可愛くないぞ。」
「やだ、ツッコミは冷静なのね。」
街道を行く人々───とはいってもまばらだ───の間をするりと駆け抜けながら笑うミメイ。
その後を必死の形相で追い掛けるクラピカ。
似てはいないがこの2人は姉弟か何かだろうか、と旅人達の目は生暖かい。
彼等に見守られながら、2人は街道を走り行く。
そのせいかクラピカが思っていたよりずっと早く、ミメイにとっては予想通りの早さで、目的地である大都市に到着してしまうのだった。
─────────
「あは、人がゴミの様だわ。」
高台から大都市を見下ろして、眼下で蠢く人の群れを笑う。
それから錆びついた手すりに頬杖をついて、風で捲れ上がるスカートも気にせずに景色を見渡す。
「それを言いたいが為にこの高台に登ったのか。」
息を切らしたクラピカが坂を登りきってやってきた。
それとなくミメイの捲れたスカートからは視線を外して、彼女の後ろによろよろと立つ。
そちらを振り向かずに長い髪を風に遊ばせながら、中天を過ぎた日の光に照らされるビルにミメイは目を細めた。
「ほら、これが都会よ。
クラピカ貴方、こういうのを見るのも初めてでしょう。
1度離れた所から見ておくのも良いかと思って。」
街道をそのまま下れば目的地に足を踏み入れられるというのに、態々登り坂を駆け上がってこの高台までやってきたミメイ。
彼女の意図が分かったクラピカは、今まで走りっぱなしだったせいで疲労しきった体を引き摺る様にして手すりに手をついた。
「とても壮大だな。」
数多のビルが立ち並ぶ大都会。
今まで見てきた街とは比べ物にならない程の圧迫感を感じる。
「気を抜いちゃ駄目よ。
今までとは人間の数が桁違いでしょうから。
貴方の常識をひっくり返す様なことが幾つも起こるかもしれないわ。」
「ああ···肝に銘じておく。
······隙あり、だ···!」
黄昏ているミメイの額目掛けて指を伸ばすが、容易くその手は掴まれてしまう。
「甘いわよ。
そもそもこの程度のランニングで息をきらす様だとまだまだね。」
「くっ···。」
ミメイに片手を掴まれたまま唇を噛む。
「強くなりたいなら、力が欲しいなら、まずは基礎体力をつけなさい。
それから筋肉。
女の子でも頑張れば筋肉はつくわよ。
しなやかで上質な筋肉がね。」
「···ああ。」
そうだった、誤解されたままだった。
思い出した途端クラピカの頭が痛くなる。
「なぁに、その気の抜けた返事は。
女の子だってゴリラになれるのよ。
復讐したいんだったら、ゴリラになりたくないとか筋肉は可愛くないとか、そんな文句は言ってられないわ。
まあ、貴方はそんな馬鹿みたいなこと言うタイプじゃないけどね。」
「···そうだな。」
今は否定する元気も湧かない。
何がこの程度のランニングだ。
10km、いや15kmは走ったぞ。
それを息一つきらさずに走りきるとは、恐ろしい奴だ。
今目の前で穏やかに笑うミメイという女は底が知れないと改めて思ったクラピカであった。
「さ、行きましょう。
取り敢えず幾つか適当に賭場をあたろうかしら。」
よいしょ、と手すりから勢いよく離れて坂を下る。
「殴り込みはやめておけ。」
「そんなことしないわよ、失礼ね。」
お揃いの黒いコートをはためかせて、2人は並んで大都会へと足を踏み入れた。
早く原作に突っ込みたいのに何故だろう、まだ3年前だ。
蛞蝓並の筆の遅さのせいですな。