未だに見えぬ朝を乞う   作:明科

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セーラー〇ーンで1番好きなのは、ほたるちゃんです。
純真無垢な12歳姿も、えっちな美女姿も、転生してロリロリになった姿も全部好きです。


それはさておき、前の方の話の再編集に伴っていくつか話が統合されているのでご注意下さい。
しおりの位置がズレているかもしれませんが、これが最新話です。
2020/08/10時点ではこれが最新話です。






33:ちぐはぐサーカス団結成秘話

「アリサ、この男が貴方の叔父さんで良いのね?」

一等地に建つ高級マンションらしく大量に配置されていた警備を薙ぎ倒して、アリサの叔父が所有している階へと侵入したミメイは口髭を蓄えた男の喉を掴み上げる。

「はい、そうですわ。」

叔父がさっきまで座っていた肘掛け椅子に座るアリサは、緩慢に足を組みながら頷いた。

「アリ、サ···貴様···!」

ミメイに首を締め上げられて尚ギラギラとした目でアリサを睨む男は確かに少しアリサに似ていて、2人の血の繋がりを感じるミメイだった。

 

「御機嫌よう、叔父様。

(わたくし)に刺客を差し向けて下さったのでしょう?

うふふ、素敵なプレゼントでしたわ。」

叔父の豪奢な自室の肘掛けに我が物顔でもたれかかるアリサは、可憐なお姫様を通り越して女王様然としている。

やはり見込み通りだった、と満足したミメイも愉悦混じりの笑みを浮かべた。

「ゾルディック···使えん奴らめ···!」

「あ、やっぱりゾルディックだったの。

ならまあ、ついた護衛が私じゃなければ今頃アリサは殺されてたでしょうね。」

アリサの叔父の恨み言に肩をすくめ、彼の首筋を掴む指に更に力を込めるミメイ。

そんな彼女に憤慨したのか、アリサはプクリと頬を膨らませる。

「酷いですわ、お姉様。」

「良いじゃない、生きてるんだから。

で、まだ殺しちゃ駄目なのよね?」

生かさぬように殺さぬようにという状態を保ちながら、ミメイはアリサの方を振り返る。

 

「はい、少し待って頂きたいのです。」

ドアの向こうが騒がしいのに気付いたアリサは桃色の唇で弧を描きながら、すらりと足を組み替える。

「ああなるほど、王子様の御登場ね。」

「ええ、そうですの。

ご紹介致します、(わたくし)の従兄弟のエドガー────エドですわ。」

タイミング良くドアが開き、人の良さそうな顔をした黒髪の青年が姿を現す。

「ご無事ですか、父さん!」

拳銃を構えながら勇ましく入ってきた青年は、部屋の中心でミメイに締め上げられて宙に浮いている父親を目にして怒りのあまり手を震わせた。

「エ、ドガー···!」

父親の方も息子の登場に期待で目を輝かせ、バタバタと無駄な抵抗を始める。

「暴れないでくれる?

間違って指を貫通させそうだから。」

「父さんを離せ!」

ミメイが困った困った、と呟きながらアリサの叔父の首に指をめり込ませれば、その息子────エドガーとやらがミメイに拳銃を向ける。

 

「あは、オモチャみたいな拳銃ね。

触っただけで壊れちゃいそう。

さてどうするの、お姫様?これでキャストは揃ったんでしょ?」

アリサの叔父が無駄な言葉を撒き散らさないように強く締め上げて、ミメイは舌を見せながら笑う。

「ええ、ありがとうございますお姉様。」

肘掛け椅子にゆったり腰掛けたアリサが口を開いて初めて、アリサの従兄弟は彼女の存在に気付いたらしく瞠目する。

「アリサ、どうして君がここに?」

「あらエド、今の今まで(わたくし)に気が付いて下さらないなんて酷い方。」

肘掛けに片肘を置き、そうして立てた方の腕を愛しの従兄弟に伸ばす。

「いや、それはごめん···ってそうじゃないだろ?!

どうして君がここにいるんだ?!」

「······そんなこともお分かりになりませんの?

ああ、分かりたくないんですのね。

エド、貴方はいつもそうですわ。

貴方は叔父様が1番で、叔父様しか見えなくて、叔父様が世界の中心だから。

私のことなんて、弱々しくて可愛い妹程度にしか思えないんですの。」

目を白黒させる従兄弟に華のような笑顔を向け、アリサはすっくと立ち上がる。

 

「ねえエド、(わたくし)今日とても怖い思いをしましたの。

私を殺したいと思っているどなたかの依頼を受けた刺客が私を襲ったのです。」

「刺客だって?······まさか。」

裾にフリルがあしらわれたドレスを見せつけるように美しいターンを決めるアリサと、ニヤニヤ笑うミメイと、そのミメイに首を絞められている父親を順に見て、アリサの従兄弟は絶句する。

「やっとお分かりになりまして?

ええそうですわ。

叔父様が私を殺す為に暗殺者を雇われたのです。

私は死にたくなかった。

だからそこにいらっしゃるお姉様に守られて、私はここまで来ましたわ。」

「待ってくれ、アリサ。」

拳銃を握る手に力が入らなくなったのか、拳銃を取り落とした青年は可哀想なくらいに顔を青くする。

「もうこれ以上待ちませんわ。3年前からずっと待っていたんですの。

両親が死んだあの日から、叔父様に殺されたあの日から、ずっとこの日を待っていましたわ!」

綺麗なリボンで結われたツインテールを揺らしながら、アリサは思いの丈を吐き出すように力いっぱい叫んだ。

 

「そんな、父さんが···伯父さんと伯母さんを···?

アリサのことも殺そうとして······嘘だと言って下さい、父さん!」

父親に縋るような目を向けるアリサの従兄弟を嘲笑うように見下ろして、ミメイは掴んでいる首に指を突き立てる。

ブチュリという生々しい音が広い部屋に響き渡り、鮮やかな赤色がミメイの顔に飛び散る。

「さあどうするの?まだ間に合うわよ?

一応急所は外しているもの。」

アリサとエドガーを交互に見てから、ミメイは(アリサ)の手下らしく正義の味方(エドガー)に優しく笑いかける。

「ミメイお姉様。」

ギュッと拳を握りしめて、桃色の唇を震わせて、アリサはミメイを呼んだ。

「なぁに、アリサ。」

くるんとアリサに向き直りながら、首からポタポタ血を垂らす男の体をその息子に見せつけるように軽く振る。

「殺して下さい、叔父様を。

······その憎い男を殺して下さいまし!」

青灰色の瞳に激しい怒りを走らせて、アリサは咆哮した。

 

「喜んで。」

そう言い終わるか終わらないかのうちにミメイの掌に大量のオーラが集められ、そのまま拳を作るように優しく指を折る。

肉が裂ける音も骨が砕ける音も悲鳴にさえならない断末魔も、全て一緒くたに纏められて真っ赤に汚される。

そしてその汚れは、金糸がふんだんに使われた絨毯にコロリと転がった。

「父さん、父さん、ああああああっ!」

馬鹿の一つ覚えのように、頭を失った父親の体に縋りつく青年を興味無さそうに見下ろしたミメイは、血痕を踏み潰しながら部屋を後にした。

アリサが想い人を手に入れる所を邪魔しないようにと気を使い、高そうな絵画が飾られた廊下で待つことにしたミメイであった。

 

 

「アリサの演技、良かったなぁ。

やっぱり恋する乙女は最強ってことね。」

愛しの従兄弟であるエドガーが入ってきた瞬間アリサの演技は始まっていた。

彼女の両親が死んだのは間違いなく叔父のせい。

けれど彼女がそのことで叔父を憎んでいたかと問えば、答えは勿論Noである。

憎んで憎んで、憎むほどに復讐の機会を望んでいたかという問いの答えも恐らくNoである。

アリサは両親の死を悲しんでいる。

彼女の部屋に飾られていた両親の写真と、その隣の綺麗な花が活けられた花瓶から察するに、彼女は両親が死んだこと自体は悲しんでいる。

けれど若いながらも資産家として成功している彼女のことだ、感情よりも効率を優先する冷徹さを持っているだろう。

利益の追求に繋がるのであれば、親の仇とも手を組むくらいはしたに違いない。

しかしアリサはそうしなかった。

叔父の懐柔策や折衷案を全て無視して切り捨てた末に、叔父から刺客を差し向けられると予想出来ても、彼女は叔父の手を取る選択はしなかった。

愛しの従兄弟を手に入れたいから。

ただそれだけで、彼女は危ない橋を渡ると決めたのである。

 

アリサや彼女の叔父、従兄弟の言動から察するに、彼女の従兄弟は随分父親に心酔していたのだろう。

そして父親の方も自分の息子を猫可愛がりしていたと考えられる。

アリサはそれが面白くなかった。

アリサは好きな人の全てが欲しかった。

自分だけを見る、自分だけに従う、自分だけを愛する、自分だけを憎む従兄弟(エドガー)が欲しかった。

そんな素敵な彼を手にするには彼の父親が1番の邪魔者だった。

だからアリサはその邪魔者を殺した上で、愛しのダーリンを手中に収めようと画策していたのである。

「調教+洗脳かぁ。

可愛いお嬢様の顔してえげつないなぁ、アリサ。」

ドアの向こう側から男の狂ったような叫び声が聞こえてくるが、それも少しずつ落ち着いて悲痛そうな啜り泣きに変わっていく。

今頃はどうせ従兄弟の憎しみを全身で浴びて笑いながら、それでいて辛そうに涙を流す演技をしながら、アリサは従兄弟を慰めている。

 

アリサの両親を殺し、アリサをも殺そうとしたのは自分の大切な父親。

その父親を、ミメイという護衛を使って殺したのは妹のように可愛がっていたアリサ。

そうして申し訳なさと、憎しみと、やるせなさと、悲しみとがぐちゃぐちゃになって狂いそうになったアリサの従兄弟は、世を儚んで自殺でもしようとしたに違いない。

しかしそれをアリサは止める。

死ぬ気は更々無い癖に、自分の体を犠牲にしてでも止めようとする。

そんないたいけなアリサに、親の仇であるアリサに心打たれた彼女の従兄弟は、泣きながら拳銃を取り落とすのだ。

そうしてお互いに憎しみ合いながら、お互いに仇でありながら、深い傷を負った2人は手を取り合い慰め合いながら生きていく。

そんなお涙頂戴物語の完成だ。

アリサの従兄弟が信じる、アリサが彼にそう信じさせる物語が。

 

 

さて、どこからが偶然だろう。

どこまでがアリサの掌の上だろう。

彼女と同じような思考回路に走りがちなミメイは、赤く汚れた手袋を手から引き剥がしながら鼻で笑う。

「何にせよ、恋する乙女は好きな人を手に入れた。

自分だけを見て、自分だけを憎んで、自分だけを愛してくれる───そんな共依存の関係に嵌れる人を手に入れた。

はい、これでお終いよ?」

後頭部の高い所で結い上げた髪を揺らしながら、ミメイは廊下の端に立っている着物姿の子供にそう言った。

「残念ながら、貴方達ゾルディックに暗殺の依頼をした男はもう死んだわ。

思ったよりここまで来るのが遅かったわね。

陽動が上手くいき過ぎたのかしら。」

街に流していた何体もの蝶が犠牲になったと気付いていたミメイは、汚れた手袋を廊下に捨てようとして、脳内でクラピカが咎めてきたことにより渋々ズボンのポケットにしまう。

「······。」

子供は何も言わない。

何も言わないまま、廊下の端からじっとミメイを見つめている。

 

サラサラの黒髪おかっぱに、生地の良さそうな着物、そして整い過ぎた無表情。

その独特な雰囲気故に、ゾルディックの暗殺者らしき子供が妖怪の類のようにも思えるミメイであった。

「流石はゾルディック家ってことかしら。

貴方みたいな小さな子供にも仕事を請け負わせるんだもの。

でもそうね、物心がつかないくらいから殺していた方が後々楽よね。

なぁんにも考えなくて済む。

実際私がそうだから言えることだけど。」

有象無象を好きに殺めて良い場所だった。

いや、殺めなければいけない場所だった。

殺めなければ苦しい訓練が追加される場所だった。

そんな狂った(柊家)の中でミメイは生まれた。

だから心臓の重さを知りながら、命の軽さを知っていた。

 

「ところで貴方、女の子?それとも男の子?

普通に気になるから教えてくれないかしら。」

いくら鼻が利くとはいえ性差の小さい子供の性別までは判定できないミメイは、血なまぐさい座敷童子にそう尋ねた。

しかしながら座敷童子は何も答えないまま踵を返し、一陣の風を残してミメイの前から去ってしまう。

「あーあ、逃げられちゃった。」

蝶を生成して後を追わせても良かったが、自分から離れ過ぎると消えてしまう蝶ではもう追いつかないとすぐに察することが出来た為、ミメイは大人しくしていることにした。

大人しく、すっかり静かになったドアの向こうの気配を嗅ぎ取る。

「アリサ、終わった?」

「はい、たった今。」

ドアが内側から開き、ミメイの目の前にやけに頬をツヤツヤさせたアリサが現れる。

 

「···手が早いなぁ。」

この僅かな時間にどこまでヤりやがったのかと邪推しながら、ミメイは自分の携帯を取り出して任務完了の報告を上司サマ(ボス)に送信する。

「嫌ですわお姉様、少し味見しただけですのに。」

「あ、そう。」

「叔父様の面影がベッタリ貼り付いたこの部屋を、初めての場所にするほど(わたくし)の趣味は悪くありませんわ。」

「お幸せに。」

ドロドロとしたピンクのハートを飛ばすアリサの圧を振り払いながら、ミメイは肩をすくめる。

「うふふ、ええ。私幸せです。

そしてこれからもっと幸せになりますわ。」

「ところで貴方の従兄弟(王子様)は?」

「エドは眠ってしまいましたの。······強過ぎましたわ。」

「最初は軽めの薬にしておいた方が良いよ。

薬漬けにするなら徐々に慣らしていった方が色々楽しめるでしょ?」

柊家での経験値がものを言うミメイは、危ない薬の存在を仄めかすアリサに先輩らしく助言した。

「ええ、今度からはそう致しますわ。」

アリサもキラキラと青灰色の目を輝かせ、更なる欲望を夢を見て可憐に笑う。

 

「じゃあ私の仕事はもう終わりね。」

後はお熱い若人達で、とババくさいことを思いながらヒラヒラ手を振って歩き出すミメイ。

そんな彼女の背中に躊躇いがちなアリサの声がぶつかる。

「あの、ミメイお姉様!」

「なぁに?」

そうして足を止めて振り返れば、花も恥じらう可憐な顔を赤らめたアリサがミメイに向かって紙切れを差し出していた。

「また···(わたくし)と会って頂けますか?」

恐らく携帯の電話番号とメールアドレスが書かれているであろうそれを受け取りながら、ミメイはニタリと笑った。

「良いよ。貴方みたいな子は好きだもの。」

「嬉しいです!私、お姉様にお電話しますわ、メールも差し上げますわ!」

「程々にしておいてね。」

「はい!」

アリサが背後で可愛らしく手を振っているのを感じたミメイは廊下の端にあった窓を開け放つ。

そしてその隙間に身を滑らせ、自然な動作で32階から落ちていく。

地上から吹き上げる夜風を全身で受けながら、ミメイは髪を結んでいたゴムを引きちぎる。

途端にぶわりと広がった自分の髪が強い風に煽られるのを十二分に楽しんでから、人気のない路地裏のゴミ箱の上に華麗に着地する。

そうして普段通り紫の髪を後ろに流したミメイは、夜の闇の中に消えていった。

 

 

 

 

───────────

夏が終わり秋を越え冬がやってこようかという頃、ミメイはハンター試験について調べていた。

ジンにハンターになれと言われた時正直とても驚き、反抗心のようなものを見せていたミメイ。

最も高潔だと言われる職業が、殺した人間の数を覚えていないような自分に向いているとは到底彼女は思えなかったのだ。

しかし冷静になって考えてみれば、ハンター試験を受けることで生まれるデメリットは皆無である。

過酷な試験との噂だが自分とっては児戯に等しいと考えているミメイだった。

 

そもそもの話、流星街に墜落したミメイは戸籍を持っていない。

今はミメイを「お姉様」と慕うアリサから貰った、社会から消された誰かの身分証明書で表向き真っ当な生活を送っているが、戸籍に代わるハンターライセンスを得る意味はある。

ジン曰く、ハンターにしか入ることを許されない場所がこの世界には多数あるという。

恐らく“外”に関係する場所もそうなのではないかと推察すれば、この先きっと必要になるだろうという予想が簡単にできる。

そして何より、力を求めるクラピカはハンター試験を受けるのではないかと考え付いたのだ。

情報も力も権限も金も、幻影旅団を潰す為に必要な全てはハンターになることで得られる。

ならばきっと、彼はハンターになることを決意するだろう。

 

かつてクラピカと住んでいたマンションの一室で、自分で集めたハンター試験に関する情報を見て考え込んでから、ミメイは携帯の電話帳を開いて電話をかける。

相手は勿論、護衛任務をしてから早数ヶ月が経った今でも連絡を取り合う、いつでも頼れるハイスペックお嬢様のアリサである。

「もしもしアリサ。」

「まあお姉様、丁度良かったですわ。

ジャポンの上質な絹を使った着物が手に入りましたの。

トップクラスの品質を誇るキョウユーゼンというブランドのものですのよ。

(わたくし)、是非ミメイお姉様に着て頂きたいんです。」

今日もワンコールで繋がったことに呆れを覚えながら、ミメイにまた服をゴリ押してくるアリサを軽くいなす。

 

「はいはい、京友禅ね。

着物は嫌いじゃないけど、足の可動範囲が狭くなるのが駄目なの。」

あとどちらかと言えば、ミメイは加賀友禅の方が好きだった。

しかしそんなことを口にすれば大量の着物がアリサの屋敷に運び込まれ、次に遊びに行った時にミメイはリカちゃん人形になること間違いなしである。

実際、昔チャイナ服を貰ったことを口にした時には、何十着というチャイナ服を着せられてからその全てを貢がれそうになった。

マフィア支給の仕事用の黒スーツ、プライベートで着るセーラー服、パジャマであるTシャツ短パンと、服を3セットしか持っていないミメイだったが、それで事足りているのである。

 

「お仕事の時ではなくてプライベートで着て下さいまし。

私とデートする時などに。」

「アリサ、貴方とのデートでいつも私がしていることって何か分かるかしら?」

「まあ、何でしょう?」

分かりませんわとコロコロ鈴を転がしたようにアリサは笑う。

「ボディガードを外した貴方をこれ幸いと狙う刺客の処理よ。

いつも殺しても殺しても、またすぐ湧いてくるんだもの。

そうね、デートで貴方がボディガードをつけるなら着物を着てあげても良いわ。」

「ミメイお姉様と私のデートを邪魔するボディガードなんて要りませんわ。」

幾つもの企業を所有し、多くの事業を手がけるレンフィールド家の御当主様が買う恨みは尋常な量ではないのだ。

そう、いつだってアリサはその命を狙われている。

「そう、なら着物は無しね。これでこの話はおしまい。」

「···残念ですわ。

それでミメイお姉様、本題は何ですの?

お姉様の方から私に電話を下さることなんて殆どありませんでしたのに。

何か大切なお話でも?」

少し畏まって声のトーンを下げたアリサに倣い、ミメイも携帯電話の通話口を自分の唇に近付ける。

 

「今年のハンター試験の試験会場、どこか分かるかしら?」

「あら、それを御自分で調べるのもハンター試験の内ではありませんの?」

ハンター試験の会場は大雑把にしか公開されていない為、正確な試験会場に連れて行ってくれる案内人を見つけ、その案内人が出す試練を突破して試験会場に辿り着かなければならないのである。

この仕組みのお陰で、大量の受験者をふるい落とすことができているのだ。

「だから貴方に訊いたのよ、アリサ。

ハンター協会とのパイプを持つ貴方にね。

どうせ何かしらの情報が横流しされてるんでしょ?」

ミメイはその案内人としてアリサを────アリサの持つ情報を使おうと考えていた。

 

「お姉様、ハンター協会も一枚岩ではありませんのよ。

(わたくし)が個人的に取引している、“お金が大好きなネズミさん”が知り得ないことを私が知れる筈もありませんわ。

とは言っても、あの“ネズミさん”も私に流す情報は選んでいるようですの。

ですから金に物を言わせれば恐らく出来ないことはありませんわ。」

アリサと()()()のネズミさんとやらは随分金が好きらしい。

それを少し蔑むように笑うアリサは、そのネズミのことが好きではないのだろう。

しかしながら『類は友を呼ぶ』という素敵な言葉がある。

“ネズミさん”がどんな人間なのかが凡そ想像できたミメイは、控えめな笑みを浮かべながら話を纏めることにした。

「なら貴方の口座に振り込んでおくね。」

「ビジネスですのね、それならば承ります。

どこまで情報を探れるかは未知数ですし後払いで結構ですの。

入手できた情報に応じて値を付けさせて頂きますわ。」

「よろしく。」

 

 

通話が切れた携帯電話をベッドに放り投げてからその隣に体を横たえる。

部屋の中をふよふよ自由に飛んでいる赤い蝶に視線を向ければ、迷わずミメイの方にやってくる。

その羽ばたきを見つめ、心を落ち着けるように深呼吸を繰り返せば少しずつ重くなる瞼。

トロリトロリと漣のように襲い来る睡魔に身を委ねながら、ミメイは全身の力を抜いていく。

 

当初はこの蝶の念にミメイはかけられなかった。

しかしながら時間をかけた上で念にかかりたい、夢の中に堕ちたいと思えば、ミメイも眠って夢を見ることができる。

望んだ通りの夢を見ることができる。

そうやって自分の欲望を満たす夢を見ることで、ミメイはどうにか吸血衝動を抑え込んでいた。

誤魔化しに誤魔化しを重ね、焼け石に水と知りながら自分で自分を騙し続ける。

 

そうだ、何度も何度も、あの白い首筋に噛みつく夢を見る。

あの赤い瞳には憎悪、端正な顔には羞恥による朱がはしっていて。

襲ってきたミメイを引き離そうとクラピカは暴れるも、それさえミメイは易々押さえつけて。

その上で彼の血を啜り、彼の命を喰い荒らし、そうして満足するのだ。

満足している筈なのにミメイの頬には涙が伝い、それを見た彼が目を見開いてから何か言う。

言ってくれる。

化け物になったミメイに何か言葉をかけてくれる。

それなのにいつも、そこで目が覚めてしまう。

夢だと気付いて、不快感と満足感と空虚感を抱えながら目を開ける。

そんな無意味なことを幾度となく繰り返して、ミメイは今生きていた。

その心臓を動かして人間として生きていた。

 

「あは。」

空っぽの笑みを最後に浮かべて、ミメイは今日も夢に堕ちていく。

 

 

 

 

────────────

───────ハンター試験当日

 

「お前さんは本当に強かった。

うむ、その強さに惚れたわい。

お前さんなら来年も案内しようぞ。」

アリサから教えられたハンター試験の案内人の元へ直行し、その試練(花札)を早々と達成したミメイは案内人である老人に導かれて、古本屋の前に立っていた。

「ありがとう。」

「おや、そうならないようにするとは言わんのか。

1年目の新人さんは皆そう言って、意気揚々と向かうんじゃが。」

面白そうに眉を上げる老人に対し、ミメイはクスリと笑ってから折り畳みの日傘を閉じた。

「そうね、全ての目的を達成出来れば今年で終われるんだけど。」

「お前さんの目的とやらは、ハンターになるだけではないんじゃな?」

折り畳み傘を腰の後ろに付けているミメイを興味深そうに老人は見た。

 

「······会いたい人がいるの。

きっと彼ならハンター試験を受けに来る。

だから私も、ハンター試験を受けに来たの。」

古本屋の中に入る老人に続くミメイはそう小さく呟いた。

「ほっほっほ、青春じゃな。

ワシも若い頃は婆さんとこっそり逢い引きをしたものじゃった。

おお店主さん、本を探しているんじゃが。」

老人のその言葉に、古本屋のカウンターにいる店主らしき男が眼鏡の奥の目をキラリと光らせる。

「···何をお探しで?」

「『ニジイロオオトカゲとセイタカゴウラガメの美味しい食べ方』。」

「奥へどうぞ。」

老人が口にした本の題名は合言葉だったようで、店主がカウンター奥のドアを開けた。

 

「え、ちょっと待ってその本普通に気になるんだけど。」

血に飢えた時は野生の動物を狩って食べているミメイの興味を引く本だった。

しかし本の題名に入っている2種類の動物は食用には向かないことで有名なゲテモノらしく、老人も店主も若干引いた目でミメイを見る。

「お前さん、そんな可愛い顔してゲテモノ好きなんじゃの···。

まあ取り敢えずこれを持っていけ、餞別じゃ。」

花札の布教活動に勤しむ老人は、花札が1セット入った箱をミメイに手渡す。

「ありがとう、おじいさん。」

試験が終わった後アリサと遊んでみるのも良いな、とぼんやり思うミメイであった。

「気をつけるんじゃよ。」

「ふふ、ありがとう。」

見送る老人に手を振りながら、ミメイは店主に(いざな)われて奥の部屋へと足を踏み入れた。

重い音を立てながらドアが閉まり、薄暗い廊下を歩く店主の後をミメイはついていく。

「たった今受験者を案内したばかりでしてね、申し訳ありませんが地下の会場に向かうエレベーターはその受験者と乗り合わせになります。」

「構わないわ。」

「···。」

申し訳なさそうにペコペコ頭を下げながら、ミメイからそっと視線を外す店主の様子にミメイは疑問を覚える。

 

「どうしたの?」

「いやあの、貴方のようなお嬢さんをあの受験者と引き合わせて良いものかと思いまして。」

やけに歯切れの悪い店主に首を傾げながら、廊下を抜けてエレベーターホールに辿り着くミメイ。

「どうせ試験で関わるかもしれないんだもの、問題ないわよ。」

「それなら良いのですが···。しかしあの男は少し、いやかなりマズいですよ。

私でさえ見て分かります、異常だと。関わるべきではないと。」

「ふぅん?」

どんな人かしら、と続けようとした唇が固まる。

エレベーター前で佇んでいた男が、奇抜な格好をした男が、ゆっくり振り返ってその目がミメイを捉えた瞬間ミメイは総毛立つ。

男のオーラの流れから彼が念能力者だと判断した頭より早く体が反応して、ミメイの全身から分厚いオーラが溢れ出す。

男を過度に警戒しているせいか暴れ気味なオーラを制御し、均一になるように全身に纏わせていく。

 

 

「······いいね、君♥」

奇妙なピエロのメイクを施した男はそう言って、ニチャリと笑う。

ミメイと店主がすすす、と理由も無しにその下半身に目をやれば、なんとまぁ立派なテントが張られていて。

 

「─────チェンジィィイ!」

間髪置かずにミメイは大声で叫んだ。

普段あまり大声を出さない彼女だったが、流石に堪らず悲鳴混じりの咆哮を上げる。

「無理です、無理なんですよ!」

店主も怯えたようにミメイの背に隠れながら、ブルブル首を横に振る。

「だってあれ、変態じゃない。間違いなく変態じゃない!」

人前で、しかもうら若き乙女の前で、ご立派なブツが天を突こうかという程に元気になっていることが、自身の理解の範囲内を超えてしまったミメイは男を指差しながら叫ぶ。

「無理無理無理ぃ!」

そう泣き咽ぶ店主は顔を白くしたミメイを置いて、来た道を走り去ってしまう。

「ちょっと待って流石に私の貞操が危ないっていうか······。」

恐る恐る振り返れば、全くもって治まる気配のない男がミメイをじっと見つめていて。

そのチャシャ猫のように細められた目と、動揺を隠しきれないミメイの赤い目が合って。

 

「·······えへへ。」

そうして何かが色々決壊してしまったミメイは、自分の掌を爪で切り裂いて大量の蝶を生成する。

突然現れた赤い蝶の大群に男が反応する前に、蝶の力でその意識を塗り潰して強制的に夢に引き摺り込む。

グラリと体を傾けてから冷たい床に男が倒れ伏す重い音と、エレベーターが到着したことを知らせる涼やかな音が重なって初めて、ミメイは大きく息を吐き出せた。

上昇した心拍数を抑えようと胸に手を当てながら、視界いっぱいに広がる蝶を全て消す。

1つだけ残すというコントロールをする余裕もなく、全て纏めて消してしまう。

普段通り周りに飛ばしていた1匹さえも虚空に葬り去ってしまう。

「······取り敢えずひっくり返そうかしら。」

肉や煎餅の類を焼いている時のようなことを呟いたミメイは、下半身がやけに立体的な状態で仰向けに倒れている男の足首を掴んで裏返しにした。

その足首を掴んだまま、男の顔面が床に擦れていることも気にせず彼を引き摺ってエレベーターに乗り込む。

流石に男をこのまま放置するのは気が引けるくらいには、最低限の慈悲の心を持っているミメイであった。

 

ゆっくり動き出したエレベーターの中で、少し離れた場所にうつ伏せの状態で配置した男をミメイは見下ろす。

直接視界に入らなければ何ともなかった。

セーラー服の長袖の下いっぱいに広がっていた鳥肌も既に治まっている。

「···びっくりした······。」

それがミメイの正直な気持ちだった。

ミメイは柊家で性的拷問に対する訓練も一通り受けているからか、普通の可憐な乙女よりも耐性がある。

幼少期にあった諸々のせいで、悲しいことにブツを見たこともある。

そのお陰で、ストーカー紛いの露出狂に恥部を見せられた時にも鼻で笑った後に鳩尾を蹴り飛ばすことができた。

その時は驚きもしなかった。特に何も感じなかった。

ただ、邪魔なものが目の前に存在する。だから排除する。それだけで。

ミメイにとってどうでも良い上に、いつでもその命を奪える圧倒的に弱い存在に対してどうやって驚けば良いというのだろう。

 

けれどこの奇妙な男は違う。

見た目から変態性が滲み出ていたからというのも勿論だが、男が間違いなく強者だと分かったからこそミメイは貞操の危機を感じたのである。

念能力の相性によってはどうこうされそうな程、クロロと同等の力を持っていそうな程の強者の気配。

勝利条件を殺されないことに設定すれば、戦いの中でそうそうミメイは負けはしない。

しかしそれ以外を勝利条件に置いた場合、強者相手では勝ち逃げられるかは未知数である。

だから今回は、貞操を守らなければという本能的防御反応により先制攻撃をしたのだった。

エレベーターという密室を良いことに、搦め手か何かを使われて「あ〜れ〜」なんて展開は御免蒙るミメイである。

セーラー服がコスプレになりそうな歳であったとしても、立派な恋する乙女である。

一途で健気で可愛い女の子なのである。

 

 

鈍い機械音が支配する狭いエレベーターの中、閉塞感を味わいながらミメイは蛍光灯を見上げる。

四方の壁は灰色に塗り潰されており、地上のビルのように窓から外が見えるということもない。

そもそもこのエレベーターはゆっくり地下に降りていて、見ることができる景色などないと分かりきってはいた。

気を紛らわすものさえないこの密室であとどのくらい過ごさなければならないのかと考えながら、チカチカ目を刺す人工的な光を見ては柊家の実験室を思い出す。

そんな短くて昏い安寧をぶち壊す声が、少しばかり黄昏ていたミメイの隣から放出される。

「過激なコだね♥」

「······。」

ミメイは今度は驚かなかった。いかなる声も上げなかった。

声の主である男がべっとりとしたオーラを全身に纏わせ、やる気満々状態であったとしても特に反応しなかった。

僅かに眉を上げながら、男のピエロメイクを静かに見据えるのみ。

 

「生憎そろそろ『()』って歳じゃないの。」

この世界での成人が幾つか知らないミメイだが、故郷では立派な大人として認定される歳まであと半年程。

まだ子供でいたいとも、早く大人になりたいとも、どちらも願ったことのないミメイはその節目自体は何とも思わない。

自分に貼られるレッテルが子供であろうが大人であろうが関係ない。

昔からただ強くなりたかっただけで、結局人間をやめて強くなってしまうミメイにとってそれらは些事であった。

しかしこの男に『子供』扱いされるという事実に、言いようのない寒気を覚えたのである。

子供だからというだけで、大人に良いようにされる存在として見られることにゾッとしたのである。

「でも君、まだ15くらいだよね♠」

「······もう少しで20なんだけど、私。」

いくら高校入学時とほぼ変わらない服装とはいえ、成長が緩やかとはいえ、その見解には首を傾げてしまうミメイ。

「若く見えるんだね♣︎」

「なんでかな、褒められてる気がしなーい。」

割と本気でそう思いながら、ミメイは隣に立っている男を見上げる。

 

そのニンマリ細められた目を見ていると、変な既視感を覚えていた理由が判明する。

「ああ、貴方似てるんだ。」

男の顔を覗き込んで、ポンと軽く手を叩きながらミメイは呟いた。

「誰にだい?」

「欲しいと少しでも思ったら躊躇いがなくなる、守備範囲が広めの犯罪者。」

死神然とした黒衣の男を思い出して言う。

一応ミメイをその手に収めた、ある意味ではミメイのご主人様。

念という首輪もついていることであるし、あながちその表現は間違っていないことにミメイが笑いを漏らせば男も喉を鳴らす。

「くっくっく♥」

「でもあの人はそんな笑い方はしなかったかな。

結構好青年の面被ってたし。」

「彼と君は“そういう”関係かい?」

「まさか。」

冗談でもそんなものは御免なミメイは、鼻で笑いながら即座に否定する。

いつだって1人に向かってまっしぐらな彼女にとって、他の人間との深い関係を邪推されることは単純に不愉快であった。

 

「でも彼の方は君に随分執着してるように見えたけど、ボクには♣︎」

「······知り合い?」

クロロの(首輪)のせいで核心的なことは何一つ言えなかったというのに、ミメイの示している人間が誰か明確に把握しているかのように話す男。

世間は狭いものだと改めて思いながら、ミメイは溜め息をついた。

「ん〜、どうかな♦」

「貴方も愉快な仲間たちの一味なの?」

「大正解♥」

ニマニマ笑う男の観察を続ければ、彼とクロロが1番似ているのは匂い、もしくは雰囲気や気配の類だと分かる。

クロロと色形は違えど、血の匂いが濃い上に底が見えない欲望を男も持っているとミメイは全身で感じ取る。

「ふぅん。幻影旅団ってほんと、色々いるのね。

マチさんみたいに親切な人から、貴方みたいな変態さんまで。」

目の前にいる男が幻影旅団だと認識したミメイの喉は、通常通り言葉を発することができた。

ミメイは預かり知らない所だが、クロロのかけた念───幻影旅団に関する全ての情報を他者に伝えられないようにする\ただし団員の前では無効───はあくまでミメイの認識依存である。

たとえ目の前に団員がいたとしても、彼女がその人間を団員だと知らないのであれば旅団に関することは何も伝えられない。

口に出そうとすれば舌が痺れ、文字に起こそうとすれば腕が痺れるのだ。

 

 

「変態、か♦それは君の方じゃないかな♠」

「女の子に向かって変態は無いと思うんだけど。」

まだ名前さえ知らない男に好き勝手言われていることにミメイの心はささくれ立ち、綺麗な曲線を描いている眉がピクリと上がる。

性癖が捻じ曲がっている自覚はあれど、それを赤の他人に言われる筋合いは無いのだから。

「君の念、好かったよ♥

ボクでもついつい嵌りかけたぐらいだ、普通の人間だったら永遠に囚われるレベルだね♣︎」

「数分で復活した人に何言われても、あんまり褒められてる気がしないなぁ。

で?私の念と変態性がどう結びつくの?

私の念なんて、人間の欲望を虚ろで満たしてあげる程度の代物よ。

結局貴方みたいに自我を保つことが出来れば、すぐに夢から醒めちゃうし。」

夢だけで生命体の命を枯らしていた鬼宿には遠く及ばない。

鬼宿の力を飲み込んだ今の状態で吸血鬼(化け物)の体を得たとして、彼ほどになれるのかはミメイには分からない。

 

「君、人間は好きかい?」

「好きよ。」

藪から棒に飛んできた問いに小首を傾げながらも、ミメイは素直に答えた。

「何の面識もない人間や、すれ違っただけの人間も?」

「普通に好きよ。」

得体の知れないもので澱みきった水のような笑顔。

何か嫌なものがべっとりと喉に張り付いてくるような緊張感。

クロロと似ているようでいて、彼よりもいやらしくて粘着質な気配。

そんなものを纏わせた道化師は、ミメイの答えを聞いて更に笑みを深くする。

「くっくっく······どんな博愛主義者だって今の君みたいな顔ではそのセリフを吐かないだろうなぁ♠」

「あら、私は一体どんな顔をしてるのかしら。」

男が自分の頬に向けて伸ばしてきた指を、ミメイは乾いた音を立てて弾き返す。

 

「心底どうでも良さそうに嘲笑(わら)ってるよ♥」

ミメイによって与えられた痛みに、どこか恍惚とした笑顔を浮かべながら男はそう言った。

「だってどうでも良いでしょう?

私が興味のある人間以外はみぃんな、私にとっては似たようなものだし。

結局人間は皆愚かで矮小で、それでいて欲望に支配されてるの。

でも、それこそが生きていることだと私達は言うんでしょう?

だから私は人間が好き。

欲望の為なら何だってする人間が。

今を精一杯生きている人間が。」

この好意が全ての人間に対して平等であったなら、ミメイは神にでもなれただろう。

鬼宿も神になれた筈なのだろう。

けれどもミメイは恋をしている。

行く末を見届けてみたい人間もいる。

全てを平等に見ることなんて出来る筈もない。

生まれながらに混沌であった鬼宿だって、何かを求めて彷徨っていた。

その永い旅路の中で人間を知り、彼等が持つ心というものに幻想を抱いていた。

恋をした神は堕ちる。

幻想を抱いた神も堕ちる。

だからミメイも鬼宿も、神にはなれないちっぽけなナニカでしかない。

 

「ぐっちゃぐちゃに穢して壊して堕として、そうやって傷つけてやりたいくらいに人間のことが好きよ。」

尖った牙をちらりと見せて、濃艶な舌を唇の隙間から覗かせて、ミメイは表面だけは楚々とした微笑を浮かべる。

その大きな赤い目に映るのは欲望の色。

深い深い混沌の切れ端。

愛くるしい少女らしさを失わないままの細い体の内側から、見た目に似合わぬ澱んだオーラが溢れ出す。

色を付けてみるならば、紛れもない赤、紅、緋、朱。

本能的恐怖を掻き立てる禍々しい色。

どこか人間らしくない雰囲気を湛えたそのオーラを全身で感じる男は、悩ましげな呻きを上げてから今にも蕩けそうな微笑を浮かべた。

 

「···本当に君はいいね♥クロロが君に執着するのも分かるよ♠」

「そういう貴方は、随分クーさんにご執心みたいね。

クーさんの名前を出す度に下半身が反応してるの、見て見ぬ振りしてあげてるだけなんだから。

······だから、見て見ぬ振り出来ないくらいに興奮するのやめてくれる?」

男からそれとなく距離を取り、イヤイヤと可愛らしく首を振るミメイ。

生理的拒絶により彼女は顔を顰め、その瞳には最大限の呆れが浮かぶ。

その姿が余計に琴線に触れたらしい男はジリジリとミメイに近寄るも、彼女の派手な回し蹴りを避ける為にすぐに飛び退く。

ちなみに今日のミメイは黒タイツを穿いていたからこそ、セーラー服のスカートの中身を気にせずに足を振り回せたのである。

 

「そんなにボクの下半身が気になるの?好奇心旺盛だね♦

何なら今夜じっくり見てくれても良いよ♥」

「どうしてクーさんといい貴方といい、口説き文句は赤点なのよ。

···ああ、分かった。顔の良さだけで押し切ってきたんだ。」

「クロロにも口説かれたのかい?」

「天空の城を一緒に探さないか、って。」

「······。」

微妙な顔になった男を無視して、この前アリサと一緒にジ〇リ作品を全制覇したミメイは熱く語る。

「私はどちらかと言えば、動いてる城の方が好きなのに。」

「あ、そう♣︎」

そこなんだね、という男の小さな呟きは聞こえなかった振りをしたミメイは、エレベーターが一番下まで降りたのを感じてドアの方を向いた。

 

 

「同じ受験生同士仲良くしようよ♥」

重い音を立てて開いたドアの向こうへ足を踏み出すミメイの隣に、楽しそうにトランプを切る男が並ぶ。

「貴方といるのは飽きなさそうだからまあ良いけど、もう少し自重してくれないかしら。」

「気が向いたら♠」

「それ、しない人間のセリフ〜。」

99という受験番号が書かれたプレートを試験官らしき存在から受け取りながら、ミメイは溜め息をついた。

「一応貴方の方が早かったし、交換する?」

ミメイの後に100と書かれたプレートを受け取った男に、99番のプレートを見せながらミメイは言った。

「別に構わないよ♣︎」

「そう。ところで貴方、名前は?」

周りの受験者の視線を集めていることを物ともせず、ミメイはにっこり笑って要求する。

「ヒソカ♥」

男────ヒソカの方もにったり笑って名を口にした。

「私はミメイ。あ、携帯の番号も交換する?」

「急にグイグイ来るね、君♦

積極的な子は嫌いじゃないから良いけど♥」

お互いに携帯を取り出して連絡先を交換する2人は、この殺伐とした試験会場で浮きまくっていた。

そこだけクラス替え直後の学生の雰囲気を漂わせているのだから、それも当たり前である。

 

「さっきまでボクへの警戒を解いてなかったのに、突然どうしたんだい?

女心は秋の空って本当だ♠」

連絡先の交換を終え、受験者達がまだ集まっていない壁際に辿り着いた2人は楽しいお喋りを始めた。

「やだ、貴方への警戒を解いた訳じゃないわ。

でもね、貴方の言う通り仲良くはしようかなって思っただけ。」

「それはどうして?」

「使えるものは使う主義なの。例えそれが変態であっても。」

携帯をポケットにしまったミメイは受験者の群れをつまらなそうに一瞥してから、胸の前で腕を組んで下を向く。

「切れるカードは多い方が良い。

貴方は愉快な仲間たちの一味ってだけで価値のあるカードだもの。

自分の手札に加えておいて損は無いでしょう?」

「さしずめ僕はジョーカーかい?」

パラパラとトランプを切りながら、ヒソカは面白そうに目を細める。

「ううん、『桐に鳳凰』ってとこかしら。」

ついさっきの試練が花札(こいこい)だったせいか、思考が花札色に寄っているミメイであった。

 

「ボク、花札のルールは知らないんだ♣︎」

ミメイがポケットから取り出した花札を見ながら、引き続きトランプを切るヒソカ。

そんな彼を見上げるミメイは、少し考えてから花札の箱を仕舞い直す。

「実は私、ポーカー以外のトランプ遊びやったことないのよね。」

幼少期に子供らしく遊ぶ暇が少なかったミメイと姉妹達は、夜寝る前に絵本を読む程度のことを娯楽としていた。

グレン達仲間と遊んだ時も、学生らしくテレビゲームが主流だったためテーブルゲームの類はしていない。

では何故花札は知っているのかと問うならば、答えはたった1つである。

柊家は殆ど扱わないものの、花札を媒体として使用する呪術が存在していたから。

しかし、そうではないトランプ遊びは人生初に近いのではないだろうかと思い当たったミメイは、流れ星のように光る赤い目に好奇心を浮かばせる。

「ババ抜きでもするかい?

試験が始まるまでまだ時間がありそうだし♥」

「やりたい。

······ところで、ババがジョーカーで合ってるかしら。

で、ジョーカーが最後まで残ってた人が負けで良いのよね。」

徐々に人が増え始めた試験会場中の視線の的になりながら、ヒソカとミメイはトランプの二等分を始める。

薄暗い壁際で道化師姿の男とセーラー服姿の女が、せっせとトランプを広げている光景は異様という言葉以外に似合うものが見つからない。

 

「ほんとにトランプやったことないんだね、ミメイは♦」

「家庭環境が斯々然々。」

なんとなく知っているだけのルールを思い起こし、自分の手札の中から同じ数字のカードを目敏く発見するミメイ。

既にゲームに夢中な彼女は、全くもってヒソカの話を聞いていない。

「説明する気がゼロの説明をありがとう♥」

「あっ、ジョーカー。」

大量の手札の中に紛れ込んでいる、奇妙な道化師が描かれたカードを見てミメイは声を上げる。

「······君、マイペースだってよく言われない?」

ボク、どちらかと言えば他人を振り回す方だと思ってたんだけど、というボヤきも勿論ミメイは聞き流している。

「あんまり。あ、私が先攻ね。」

同じ数字だったカードをポイポイ投げ捨て、そう勝手に宣言するミメイは間違いなく傍若無人な女王様であった。

 

 

 

 




♥や♣︎を使うのが思っていたより面倒で萎びそうな作者です。

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