未だに見えぬ朝を乞う   作:明科

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遅くなりましたが評価ありがとうございます。






4:袖触れ合うも糸の途切れ目

ミメイ=ヒイラギが流星街に流星として落ちて早くも半年。

 

日々カツアゲをして日銭を稼ぎながら、四大行を基本に修行を詰み、徐々に応用技に手を出し始めるまでにオーラの使い方に慣れていく。

特質系といえど、具現化系と操作系にも強い適性があったらしいミメイは、呪符や式神など柊家お得意の呪いを念能力と融合させた新しいものへと進化させた。

 

具現化系の能力はイメージ修行が大変らしいが、親の顔より見たことのある呪符を思い描くことなどミメイには容易い。

その呪符に自分の血で呪文を書き加え、紙製の呪符よりも強いものを生み出すことに成功。

式神も同様にオーラを十分込めた血を垂らすことにより、従来よりも強力なものが出来上がった。

呪符オタク(とミメイは勝手に思っている)の深夜に見せたらどんな反応をするだろうか、そんな取り留めのないことを考えながらミメイは今日も飯屋の敷居を跨ぐ。

 

 

「オヤジさん、いつもの」

年代物のコインをカウンターの向こうで洗い物をする飯屋のオヤジに放り投げ、溜め息をつきながら足が1本取れかけの椅子に座る。

「また茶漬けか」

呆れ顔のオヤジがヒエとアワ9割のご飯にお湯を注ぐ。

三食茶漬けは栄養が偏っていると言いたいのだろうか。

「資金難なのよ」

ミメイとて申し訳程度に魚の切れ端が浮いている茶漬けには飽き飽きしている。

だがこれが1番安いのだ。

最近はカツアゲが難航している為、節約生活を強いられているミメイにとっては強い味方である。

 

「そりゃミメイよ、お前が見た目通りの可愛らしい女じゃねえってことが知れたからだ」

ミメイから椅子1つ分離れた所に座った男が鼻で笑う。

彼もミメイと同じくこの飯屋の常連で、どうやって稼いでいるかは知らないがそれなりに羽振りが良さそうな格好をしている。

「毎日毎日カツアゲしてりゃあ噂も立つだろうよ。

紫の髪の女はヤバい、逆に身ぐるみ剥がされるぞ、って」

今度はテーブル席に座る一団、その中の1人がミメイの方を見て残念そうに溜め息をつく。

「顔は良いからな、お前」

「私は可愛いけど、それに惹かれて襲ってくるバカが悪いの。

でもそのバカがいなくなると、私としては商売上がったりよ。

何か割の良い仕事知らない?」

茶漬けをスプーンで掬いながら、店内の男達に見せつける様にして足を組み替える。

 

それにゴクリと息を飲みながら男達が口々に提案する。

「お前ぐらいになれば一晩で稼げるだろうさ」

「それこそ見た目は良いからな。」

「今晩どうだ?暇か?俺ならそれなりに払ってやれるぞ」

「いやミメイのことだ。

連れ込まれた後は男を殴り潰して、金目の物を奪うに決まってる」

 

好き勝手言う彼等が気に障ったミメイは、持っていた金属製のスプーンをぐにゃりと握り潰す。

そのスプーンだったものを男達の方にダーツの様に投げつけてから、ニッコリと笑う。

「あは、身ぐるみ剥がされたい?

お望みなら貴方達の言う通り、1人で美人局でも何でもやってあげるわよ」

顔に張り付いた純真な少女の様な微笑みと、ダーツの様に飛ばされて壁に突き刺さるスプーン“だった”金属片。

それらを交互に見て男達はさあっと顔色を変えた。

 

「すみませんでした」

平身低頭、ここは謝るに限る。

ミメイは若輩者だ、しかも見た目はか弱い少女だ。

だがそうだと見くびってなめてかかると、次に壁に突き刺さるのは自分達であると男達は知っている。

しかしミメイの虫の居所は悪いままの様だ。

「あは」

足りないわよ、と言わんばかりに立ち上がる。

「すみませんでした、ミメイ様」

「申し訳ないっす、ミメイお嬢様」

「すいやせん、お嬢」

ははーっ、と大袈裟に頭を下げ、腹が減って仕方ないミメイの為に親子(鶏とは明言されていない)丼を注文する。

それにひとまず満足して、座り直して親子丼を待つミメイ。

 

「ねえ、段々ヤのつく自由業みたいになってるのは気のせい?」

長い足を組み、呆れたように頬杖をつく。

そんな些細な動作が一々絵になるミメイを見て、男達は大きく頷く。

「気のせいっすよ、ミメイのお嬢」

「···当たらずも遠からずかもね」

今度からお嬢って呼ぶか、とふざける男達の笑い声を遠くに聴きながらミメイは小さく呟いた。

 

 

名門柊家がやっていたことはヤクザも真っ青のレベルである。

得意技は尋問、拷問、人体実験。

まあ、百夜教よりはマシだとミメイは思いたい。

兄の暮人もそう言っていた気がするし。

百夜教を思い出してミメイの頭に浮かぶのは、あの忌々しい“終わりのセラフ”。

百夜教が推し進めていたあの実験のせいで何人が死んだか分からない。

世界を滅ぼしてまで天使の力を得たいのか。

いや、世界を滅ぼす引き金───“終わりのセラフ”を実際に発動させた男はそんなものが欲しくてやったのではない筈だ。

世界の最期を見ることが出来なかったミメイだが、あの男が世界を滅ぼしたであろう事は確信していた。

だってあの男なら、彼なら、きっと耐えられない。

全てを願い全てを欲した彼は、仲間が死ぬのに耐えられない。

死んだ仲間のために世界だって滅ぼしてしまうだろう。

 

癖のある黒髪を風に遊ばせ、つまらなそうにポケットに手を突っ込んでいるのが分かる背中。

顔は見えないがきっと無表情で、けれどその瞳には炎が宿っていて。

瞼の裏にやけに鮮やかに映る男の姿を、終ぞ正面から見つめることは叶わなかった。

だから思い起こされるのは背中か横顔ばかり。

 

ねえグレン。

貴方は私だけを見てくれたことは無かったよね。

 

薄く目を閉じて、脳裏に浮かぶ男の姿に語りかける。

当然答えてくれはしないけれど。

彼がミメイを見ていても、その向こう側に誰がいるのか直ぐに分かってしまうのに、それなのに正面から見つめ返すなんて酷な話である。

ミメイは何度思ったか分からない。

自分を通して真昼を見、それから真昼との距離を感じて無力感を味わうくらいなら、年中安売りセールをしている自分だけを見ていれば良いのにと。

その優秀さ故に有力な当主候補と見なされていた真昼と違い、ミメイはスペアにさえなれないオマケに過ぎなかったのだから。

真昼のオマケと一瀬のネズミなら、そこまで柊家が騒ぐことも無かったかもしれないのに。

 

昔の話だ。

夢物語だ。

そんなことは分かっていた。

真昼はグレンのもので、グレンは真昼のものだった。

そこにミメイの入る隙なんて有りはしなかった。

世界を巻きこんだ2人の恋物語にも、脇役としてしか登場出来なかった。

諦めている、最初から。

望めべくもない。

 

けれど、感情を押さえつけ、捨て、殺し、無かったことにした代償がこれだ。

時折ふとどうしようもない感傷にミメイは襲われる。

別世界などというアホみたいに遠い場所に来てしまったせいか、それは緩やかに加速して。

もう二度と帰れはしない、もう二度と会えはしない、そんな嫌な直感も相まって、ミメイの心はいとも簡単に揺れる。

 

だが、その好機を見逃さず心の深層から這い出てくる鬼宿の気配を感じ取って、はっとなり感傷から抜け出すのだ。

鬼を押さえつけ、感情を押さえつけ、欲望を押さえつけ、自虐とも言える禁欲を自身に強いて。

そうして現実に戻るのだ。

今日も同じ様に鬼宿を鎖で縛るイメージを持ってして、感情を切り離す。

感情も欲望も、全てミメイにとっては毒でしかないのだから。

 

 

「ミメイ」

目の前に現れた親子丼をじっと見つめて、それから普段通りの笑顔を作る。

「ありがとう、オヤジさん」

即席だが完璧な笑顔を顔全体に浮かべ、軽やかに礼を言う。

「···何かあったか」

思春期の娘に声をかけるが如く、オヤジはミメイの向かいに座り仏頂面のまま問う。

「何も。なぁんにも、無かったのよ」

折角ミメイが捨てようとしていた感情に気付いて、それを掘り起こす様にして気遣ってくるのを、気付かなかった振りをして親子丼に手をつける。

 

きっと飯屋のオヤジは人間として出来上がっていて、彼は何も悪くないのだ。

だがそれでもその優しさが痛い。

だからミメイは、人間らしい人間が嫌なのだ。

人間と深く関わるのが嫌なのだ。

人との関わりは感情を生み、感情は欲望を生む。

それがどうしようもなく辛いのだ。

 

誰もいない。

この世界にはミメイの家族も仲間も誰もいない。

心細い、寂しい、そうミメイの心は叫んでいる。

生き残るのに精一杯だった頃より、念の修行に勤しんでいた頃より、今は色々と余裕があって。

ぼんやりと考える暇があって。

真昼、シノア、グレン、深夜、暮人兄さん、美十、雪見、花依、五士。

ついつい家族と仲間の名を呼びたくなる。

この別世界からでは届くことはないのに。

 

「ねオヤジさん、良い仕事知らない?

出来ればそうね、何も考えなくていいタイプが良いわ」

心に湧き上がる感情を次から次へと殺しながら、そんな気配を微塵も見せずにスプーンを魔法のステッキの様に可愛らしく振る。

「···ミメイ」

「私、斬った張ったは大得意よ。分かってるでしょ?」

お仕事頂戴、とわざとらしく左手をオヤジの前でヒラヒラさせる。

「···」

尚も何か言いたげにミメイを見つめる彼にスプーンを向け、目を細めながら軽い殺気を滲ませる。

「オヤジさん、私あんまり踏み込まれるのは好きじゃないの。

勿論土足厳禁、関係者でも立ち入り禁止なのよ」

全身に纏っているオーラが自然に少し膨らむ。

それを抑えずに笑みを深くして、今すぐにでも殺してやろうという意志を持ってオヤジを見つめ返す。

 

「っ、すまんな」

予想通り怯んで、1歩ミメイから遠ざかるオヤジ。

首をスプーンで切り裂かれる様なイメージが頭に浮かんだ筈なのに、尻尾を巻いて逃げ出さなかった根性は流石である。

ほんの僅かとはいえ、ミメイの殺気に当てられなかった普通の人間は久しぶりだ。

殺気を向けられても逃げないほど、自分のことを思ってくれているのかもしれない。

そんな仮説がミメイの頭に持ち上がるが、そうであるなら尚更駄目だとスプーンを置く。

さあっと殺気が霧散し、ただそこに残ったのは冷や汗を流すオヤジと微笑を浮かべるミメイだけ。

 

「物分りが良くて嬉しいわ。

で、どんなお仕事かしら」

頬杖をついた状態で可愛らしく小首を傾げる。

「マフィア経営の賭場の用心棒だ」

渋々、といった(てい)でオヤジは1枚の紙切れを差し出してきた。

それにざっと目を通し、指紋を付けないように注意を払って紙をカウンターから取り上げる。

「マフィアの名前は······知らないわ。

ま、報酬は十分だから何でも良いけど」

ゼロが幾つも並んでいるのを満足げに見て、ミメイはくっと喉を鳴らす。

 

今すぐにでもその紙を返せと言わんばかりに、そんなミメイを睨むオヤジ。

「危険だぞ。

お前が普段しているカツアゲとは段違いだ」

「ならオヤジさん。

上手くやっても下手を打っても、世界が滅びる手助けをしてしまう仕事、そんなの知ってる?」

紙をセーラー服のスカートのポケットにそっと仕舞いながらミメイは立ち上がる。

 

「何を、」

戸惑うオヤジを無視して言葉を紡ぐ。

「何をしてもどうやっても、自分の無力さ加減が露呈するだけの仕事、そんなの知ってる?」

ミメイが今持っている中で1番値打ちがあるであろう金の指輪、それをオヤジに手渡しながらミメイは目を細めた。

「あのね、私は知ってるの。

よく、知ってるのよ」

骨ばったオヤジの手、温かい手、それに指輪をしっかり握らせて、それからその熱を振り払う様にミメイは自分の手を離す。

「だから良いの。

どんな仕事だって、あれよりはマシだろうから」

真っ直ぐ腰まで垂らした紫の髪を靡かせて、ミメイはオヤジに背中を向ける。

「じゃあさよなら、オヤジさん」

今までありがとう、そんな言葉が続きそうな雰囲気でブーツのヒールを鳴らす。

 

 

「待て」

たったさっきミメイから渡された金の指輪。

それから少しずつミメイの熱が消えていくのを掌で感じ取り、飯屋のオヤジはもう一方の手を伸ばす。

「待て!」

 

ミメイの姿が、何年も前に失った小さな娘の姿に重なる。

背丈も見た目も、何もかも似ても似つかない。

そもそもミメイは16で、あの時飯屋のオヤジの娘は10そこそこだった。

だから重なる筈がないのだ。

ないのだけれど、

 

『行ってきます、おとーさん』

そう言って向けられた小さな背中。

それがオヤジの見た娘の最期の姿だった。

娘はお使いに出掛け、その出先でゴロツキの喧嘩に巻き込まれて死んだのだ。

お使いになぞ遣らなければ良かった、その背中を止めれば良かった、そう何度思ったか分からない。

 

 

「待ってくれ、アザミ!」

ミメイの背中が、飯屋から出て行こうとするミメイの背中が、かつて飯屋から出てそれから二度と帰って来なかった娘の背中に見えた。

 

「アザミ!」

 

亡き娘の名を再び叫んでからはっとする。

店内の客が何事かと自分の方を見ている。

それに頭を下げ、なんでもないのだと謝って、飯屋のオヤジは再びドアの方を見る。

だがそこには最早何も無かった。

オヤジが自分の娘と重ねた少女の姿は既に無かった。

行ってしまったのだ。

愛娘のアザミの様に、行ってしまったのだ。

そうしてきっと、アザミの様にあの少女も二度と帰っては来ない。

飯屋のオヤジには分かっていた。

生きた姿であれ死んだ姿であれ、二度と会えないと分かっていた。

第二の娘の様に思っていたあの少女は行ってしまったのだ。

 

最後に見せた突き放す様な鋭い瞳、それがオヤジの頭の中にありありと浮かび上がる。

これ以上は駄目だと言わんばかりに、踏み込んでくるなと線引きする様に、あの少女はオヤジを拒絶した。

自分の何が少女の気に障ったかは分からない。

娘扱いしたのがいけなかったのかもしれない。

今となっては分からない。

 

しかし。

「ミメイ」

せめて生きて幸せになってくれ。

そんな願いを込めて、1つ残された金の指輪を握りしめた。

それくらいしか、彼に出来ることはないのだ。

 

 

 

 

 

──────────

「···最後に呼ぶのは娘の名前だったわ。

まあそうよね」

紫の髪を指にクルクルと巻き付けながら、普段通りの微笑を浮かべているが、その瞳は心なしか暗い。

かつりかつりと夜道に響くヒールの音を止め、中天に昇った月を見上げる。

「···」

月を見ると嫌に心がざわつく。

鬼をはじめとする異形の物は皆こぞって月やら夜やら、そういうものが大好きなのだ。

 

『あの人間が好きだったの、未明?』

頭にくすくす笑いを響かせる鬼宿。

「まさか」

かぶりを振って否定し、馬鹿らしいとミメイは再び歩き出す。

『はは。ほんと未明は素直じゃないなぁ。

仕方ないから教えてあげるよ。

ああいうのが父親って奴さ。

未明にはいなかった、父親って奴だ』

僕って親切、と喜色を滲ませる声。

 

「父親はいたわよ。父上、柊天利、柊の王。

いたわよ、ちゃんと」

『あれが父親か。

あははは、馬鹿言うなよ。誰がそんなこと思ってたんだか。

真昼もシノアも暮人も、勿論養子の深夜も、誰もそんな風には思って無かっただろ。

未明だってね』

「···」

『ねえどうだった、あのオヤジさんとやらは温かかったんだろ。

クロロとは全く違った“特別”だったんだろ』

ねえねえ、と煽る様に言葉を重ねる鬼宿を無視し、ミメイはただただ足を動かす。

飯屋のオヤジ紹介の仕事、その紙に記載された仕事場に向かっていた。

 

『ねえ未明、もう我慢する必要なんてないじゃないか。

欲しいなら欲しいって言いなよ。

それで僕に力を求めなよ。

ほんとはクロロと一緒に行ってみたかった。

ほんとはオヤジさんの娘になってみたかった。

そういうのさ、少しは望んでみなよ』

「望んだら最後、貴方は私を喰う癖に」

甘言には乗らないわ、と更に歩くスピードを上げる。

指定された賭場はもう近い。

 

『そりゃ喰うさ。

欲望が僕の、鬼の糧なんだから。

でもさ未明、鬼呪装備を手にしたら遅かれ早かれ鬼に心を喰われるんだ。

喰われ具合は人それぞれだけど。

喰われ過ぎて鬼になっちゃう人間もいるよね』

「真昼みたいに、でしょ」

グレンが欲しい、シノアを守りたい。

その二つに板挟みになって、柊家に囚われたまま鬼になった真昼。

 

『そうさ。真昼は欲望に忠実に鬼を暴走させた。

でも未明はそうしなかった。

何でだろうね』

不思議でたまらないや、と分かりきっている癖に質問するのが憎たらしい。

「私は真昼みたいに鬼を暴走させちゃ駄目だった。

鬼を武器にするには暴走という欠陥があったから、どうにかして呪で鬼を縛らなきゃいけなかった。

強く強く、鬼を制御出来る呪を作らなきゃいけなかった。

完璧な鬼呪装備。それを私は作らなきゃいけなかったのよ」

鬼宿の質問に忠実に答えてしまう自分も憎たらしい。

だがどうせ心を共有しているのだ。

シノアの様に自分だけの心を閉ざしきって、鬼の侵入を完璧に防ぐことは難しい。

どう頑張っても鬼宿にはある程度筒抜けになる。

 

『ああそうだ。

鬼呪装備の雛形を作ったのは真昼だけど、適性さえあれば万人が使える武器にまで完成させたのは未明だもんね』

「そうよ」

鬼呪装備の所有者と鬼呪装備に宿る鬼。

その両者が対峙する時に鬼を拘束している呪の鎖、それら全てはミメイが普段鬼宿に嫌という程巻き付けている鎖の子分的存在である。

ミメイが数えきれない程生み出してきた鎖を研究し、解析し、結果その一部が数多の鬼呪装備に取り込まれて、そこで制御機能として確立したのだ。

 

『未明が作った制御機能、その価値が1番よく分かっていたのは暮人じゃないかな。

彼も未明と同じ様に、鬼は完全に制御して支配下に置きたいタイプだから』

「暮人兄さんは強いもの」

兄は強かった。

真昼の次に有力当主候補として名を挙げられるくらいには。

『そうだね。

でも未明、勘違いしたら駄目だよ。

暮人はどこまでいっても、後から鬼を心に棲まわせた。

初めから心に僕を棲まわせていた未明とは違うんだ。

僕達は1つなんだよ。

どれだけ君が否定しようと、拒絶しようと、制御しようと、欲を絶とうと、僕達は1つだ』

「···」

『僕は未明で、未明は僕だ。

だからね、未明がずっと否定してるのは()であり、()なんだ』

「だから何?」

もう黙って、とは言えない。

何を言おうとしているのは大体分かっている。

それを聞くのは不愉快で、気に食わなくて、何より心が痛いことだとも分かっている。

それでもミメイは何も言えない。

 

 

『未明がずっと捨ててるのは()だ。

ずっと殺してるのは()だ。

ずっと見ていないのは()だ』

 

言われなくても、改めて鬼宿(自分)に言われなくても、分かっていたことだった。

 

 

「···そうね。

そうなんだろうな。うん、そうなのよ。

知ってるわ、タマ」

何の感慨も無さそうに声を絞り出してはいるが、余計なことを言う鬼宿を拘束する気力も湧かない。

『ならもう良いだろ。

未明はもう十分頑張ったじゃないか。

もう我慢しなくて良いんだよ』

「···ほんと、口が上手いんだから」

馬鹿ね、と力無く手を垂らして、またもや月を見上げる。

『折角柊家とか、身分とか、そういう面倒臭いものが無い世界に来たんだ。

何かに囚われる必要は無いんだよ』

ね、そうしよう、何故か涙声で鬼宿はミメイの袖を引くようにして訴える。

『自由に生きようよ、もう未明の好きな様に生きよう。

じゃないと、そうじゃないと、余りに未明の人生は寂しいよ』

ミメイを喰い物にしようと狙っている筈の鬼宿が、どうしてこんなに辛そうに叫ぶのかは分からないが、ミメイは緩やかに首を横に振った。

「ほんと、油断も隙もあったものじゃないわ」

体に残っていた僅かな力をかき集め、慣れた仕草で鎖をイメージして鬼宿を心の奥で拘束する。

「おやすみ、タマ」

良い夢を、と幼い子供に言い聞かせる様に優しく呟く。

 

『······馬鹿、未明の馬鹿!

これじゃ、囚われてるのは僕じゃなくて君だ。

囚えているのは柊家とかじゃなくて君自身だ。

この重い鎖に1番縛られてるのは君じゃないか、未明!』

じゃらりじゃらり、耳障りな音を残し鬼宿の気配はフェードアウトしていく。

 

 

金色の月から目を離し、同じく金色の光を発する賭場へと足を向ける。

裏口らしきドアを叩いて、すぐに開いた向こう側へと、ミメイは傾国と謳われた姫君も裸足で逃げ出す様な笑みを投げつけた。

「こんばんは。

私、この賭場で用心棒として働かせて貰おうと思って来たの。

誤解されそうだけど冷やかしじゃないわ。

それを証明するには何人か殺して見せれば十分でしょ?

だからひとまず、一晩働かせて。

その一晩で何人だって殺してあげるわ」

 

別に誰だって良かった。

兎に角今は殺したかった。

ぐっちゃぐちゃに殺してやりたかった。

 

このぐちゃぐちゃな心ごと、殺してやりたかった。

 

 

 

 

 




所々にフラグの断片を散らしてみました。
まあ“鎖”といえば、ハンターで思い浮かぶのは···ね、1人ですから。
出さない訳にはいかないでしょう。
彼か彼女か明言されていませんが、ここでは彼でいこうと思います。

ちなみにその彼の登場は近いです。


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