誓約   作:カヴァス2001世

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第2話
ちゃんと書けてるといいけど


誓約#2

誓約#2

 

降下開始ーー

高度4500メートル、地対空ミサイルの射程限界の壁を急降下で飛び越えたヘリから、WA2000達5人は一斉に飛び出したWA2000と9Aー91は熱光学迷彩に身を包んで西へ。陽動部隊の3人は当初降下する予定だった東の方へ。人間では呼吸すら覚束ない遥か上空から、WA2000達は戦場に飛び込んだ。一瞬でヘリが遥か後方に流れていく。続いて東に飛んだFAL達は腰につけた降下用ジャンプユニットの推進剤を点火。地上に向けてグングン加速していく。照準波を検知、殆ど間を置かずにヘリに向かって歩兵携行サイズの地対空ミサイルが上がって来るのを、WA2000は熱光学迷彩の内側から見る紫色に変色した視界で確認した。恐らくは避けきれまい。2秒後に直撃する。同じく熱光学迷彩に身を包んだ9Aー91と共に、WA2000はジャンプユニットの姿勢制御翼を操って降下地点への推進剤を使わない自由落下に入った。隠密部隊である2人がわざわざ熱源をばら撒く理由もない。後方でミサイルが炸裂したのを音によって感じる。ヘリから飛び降りるのがもう少し遅かったらヘリと共に5人とも撃ち落とされていた。戦術ネットワークがヘリの識別信号をロストする。問題は次だ。再び照準波を検知。標的はFAL達陽動部隊だ。しかしFAL達も無防備ではない。落下中でも、ジャンプユニットに装備された電子戦兵装による戦闘行動は可能だ。部隊の各員が最大望遠で地上を走査。陽動部隊の全員で地対空ミサイルを装備した鉄血の人形を見つけアクティブレーダで照準を妨害する、が遠すぎる。十分な効果は得られず、ミサイルの照準を許してしまう。FAL達が地上を目指して6000メートル/分の速さで降下し、更に加速しているが間に合わない。ミサイルが発射される。数は5。今度は直撃まで1秒もない。即座にフレアをばら撒きながら乱数回避機動を開始。人形のメンタルモデルと直接接続された姿勢制御翼が実際に体の一部であるかの様に自在に閃き、FAL達の回避機動を実現せしめる。同時にFALがジャンプユニットに装備されているミリ波レーダーをアクティブに。地対空ミサイルのシーカーを焼き切ろうとし、成功。2発はあらぬ方向に飛翔し炸裂した。残り3発。スコーピオンとMP5が弾幕を展開する。歩兵携行サイズの地対空ミサイルならSMGの2人の9ミリ弾でも当たりさえすれば撃墜出来る。照準を補正する情報が必要だ。WA2000と9Aー91は3発のミサイルの軌道を観測、SMG2人との相対距離、相対速度、予測機動、風による外乱、コリオリの力まで算出し戦術ネットワークによって共有、照準予測をサポートする。ほんの僅かな時間斉射された9ミリの弾幕により、2発撃墜。残り1発。殆ど反射的に、WA2000はミリ波レーダーをアクティブに。ミサイルを高指向性の電磁波で狙撃する。メンバーの中で最も高性能な照準ユニットを持つWA2000のレーダー波でミサイルのシーカーは機能を喪失し目標を見失う。SMG2人の丁度間で炸裂した。三度の迎撃ミサイルが発射される前に3人は急降下。そのままFAL達は地上まで残り500メートルの位置まで降下すると推進剤の噴出を停止し、降下予定地点への自由落下機動に入ったーー

 

もう大丈夫だろう。後は3人次第だ。WA2000はそこまで見届けると、FAL達から視線を切りもう一度眼下を俯瞰した。廃墟化したコンクリートジャングル。灰色の街が見える。建物の外壁はボロボロに崩れ落ち、建物自体もいつ倒壊するか知れない。死んだ街。WA2000達の降下先はその街の工場区画、FAL達が降下した住宅街の西2キロに位置する。そこはG36達守備部隊が残した戦闘データから算出した、最も鉄血の勢力が手薄なエリアだ。目標である通信施設はそこから北に5キロの場所、ヘリの上から見たビルの、更に4キロ先にある。しかし降下地点から目標までの直線上には、恐らくは守備部隊の主戦場となった、G36が死んだ横倒しになったビルがある。鉄血の大軍が詰めているだろう。避けるしかなかった。大きく迂回するしかなく、途中に川を2度渡る必要がある上、実質的な行程は10キロ近くなると思われた。しかし陽動部隊が敵の注意は十分過ぎる程引いてくれている。こちらもこちらで極めて難しい任務だが、不可能ではない。

地上に着くまでの僅かな間に、WA2000はこの任務のブリーフィングを思いだす。ブリーフィングは2日前、S09地区グリフィン支部のブリーフィングルームで行われていた。

 

WA2000がブリーフィングルームに入室した時には、既に召集された他の人員は席に着いているようだった。FAL、9A-91、スコーピオン、MP5、ヘリパイロットの人形、その他後方の人形達の姿も見られた。部屋全体は薄暗く、光源は部屋の奥に備え付けられたスクリーンの明かりのみだった。備え付けられているはめ殺しの窓からは曇った灰色の空が覗いている。

遅れました、と一言して、WA2000はスタスタと部屋の奥、指揮官の隣まで歩き副官の定位置についた。WA2000の後ろに後方幕僚のカリーナが控える。

隣に着いたWA2000に、指揮官は一瞬目線を送ると、ブリーフィングを開始した。

 

「揃ったな。それじゃあ始めるぞ。今回の目標はS09地区居住エリアの南に50キロの位置にある通信施設、これの奪還だ。奪還が困難だと判断した場合は、主要施設を破壊し撤退する。部隊は一つ。ヘリで現地まで飛び、5キロ手前から鉄血を殲滅しつつ目標を目指せ。降下予定地点にダミーを準備している。隊員一人につき5体だ。現着した後、速やかにダミーを掌握。戦闘を開始しろ」

 

スクリーンに各種の情報が表示される。衛星画像。降下予定地点。進行ルートに、補給地点だ。今回の作戦では人形のダミーは降下予定地点に既に準備されているらしい。

 

「部隊は一つ、ですか?指揮官」

 

はい、と手を挙げてからFALが質問した。

WA2000もその疑問には同意出来る。確かに、使用する部隊が1つ、と言うのはおかしい。この種の任務には、最低でも2部隊。4部隊使う事もざらだ。1部隊と言うのは、作戦目的を考えると異常だと思える。

FALの質問に予想通りだという風に指揮官は答えた。

「その通りだ。通信施設を奪還する事さえ叶えば、一帯の鉄血の殲滅には別動隊を逐次投入する予定だが、施設奪還そのものは、ここにいる少数でやってもらう事になる」

 

「つまり、鉄砲玉みたいに突っ込んで死んで来いってこと?」

 

「部隊が少数でなければならない必要性がある。と言うのもこの施設半径4キロメートルでは無線通信が一切通じない。施設が保有している通信設備に、一帯の通信が掌握されているからだ。相当広帯域がジャミングされてる。当然戦術ネットワークも通じない。ここに大軍を送り込んだ所で、もれなく各個撃破の憂き目にあって仕舞うわけだ。何しろ向こうは第三次以降の戦術を駆使してくるってのに、通信が通じないんじゃこっちは石器時代の戦術が精々なんだからな」

 

「それで?」

 

「それで、だ」

 

そう言って指揮官は徐にスクリーンの表示を切り替えた。表示された内容ーーこれは、新世代のメンタルモデルとコアのアップデートの概要か?

 

「少数部隊を送り込み施設を奪還してもらう。敵のジャミングは非常に厄介だ。部隊が少数だろうが大軍だろうが送り込めば全滅する。それを何とかする為に、君たちには最新の通信プロトコルとその構成モジュールにアップデートしてもらう。この措置が可能なのが、精々5体なんだ。メンタルモデルとコア両方のかなり根本的な所をアップデートし、ジャミングを回避する、らしい」

 

「らしいって、貴方ねぇ?」

 

「IOPから技術者が来てる。詳しい説明はそいつがしてくれるだろう。そいつ曰く、テスト段階の技術で非常に手間と金が掛かるらしく、5体が限界らしい」

 

「簡単に言うけど、それって脳味噌弄られる様なものじゃない。鉄砲玉じゃなくてモルモットって事?」

 

「IOPの技術者と言うのは俺と旧知でな。信頼出来る奴だ。信頼して脳みそを預けてくれ」

 

人形達は苦笑した。命令なら、どの道否はない。

 

「まあ良いニュースもある。予想される敵戦力だ。衛星画像で確認されている限り、敵戦力は旧世代の雑魚ばかりだ。ハイエンドモデルも確認されてない。数は多いが、まあ連携が取れればそう苦戦する事もないだろうと見てる」

 

確かに、スクリーンに表示された敵戦力は貧弱だ。数だけは多いようだが、グリフィンの戦術人形の数世代は下の基幹技術で動作している。予想戦力がこの程度ならば、戦術次第でなんとかなるかもしれない。

 

「既に現地ではG36率いる部隊が降下予定地点の制圧、確保に動いている。通信不可能領域の境スレスレでの作戦行動でリアルタイムの情報は分からないが、何とか降下地点を確保出来そうだ」

 

指揮官はそこまで言ってWA2000達を一度見回し質問が無い事を確認すると、よし、と言って纏めに掛かった。

 

「では実働部隊の5人はアップデートを。カリーナが部屋まで案内するから、全員纏めて行け。作戦開始は2日後の0700時だ。詳細は戦術ネットワークに上げておくから、各自で確認しておくように」

 

ーー解散

指揮官の解散の合図を皮切りにバタバタと人形達が解散し、兵站管理の人形達や電子戦担当の人形達は皆自分の持ち場に戻って行った。

 

それが、2日前の話。WA2000達はそれからカリーナに連れられアップデートを行い、メンタルモデルとコアの馴らしや準備を行なった後、現地に飛んだ。

 

地上まで100メートル。敵味方識別にFAL達のダミーが登録される。陽動部隊の方は当初の案の通りにダミーを掌握したようだ。直に戦闘が始まるだろう。FAL達は強い。WA2000は彼女達を信頼していた。死ぬことになっても、きっとギリギリまで時間を掛けて陽動を行なってくれるだろう。WA2000は降下地点を見定めると姿勢制御翼を操り着陸姿勢に入る。ジャンプユニットのパッシブセンサで辺りを走査、鉄血の反応がない事を確認し、推進剤を点火した。地面が急速に近づいて来る。

激突するーー

今ーー!

 

推進剤を一気に噴射し、地上50メートルから急減速を掛ける。殺人的なGがWA2000を襲い、頭の中で各所に想定外の負荷が掛かっている事を示すアラートが鳴り響くが、減速の手を緩める訳にはいかない。残り10メートルと言う所で何とか落下の勢いを殺しきり、ジャンプユニットをパージ、地面に着地した。

WA2000は全く散々な降下だったと嘆息したが、本当に散々な目にあうのはこれからだ、と気を引き締め直し集中する。

9Aー91から通信が入った。

 

「9Aー91、降下成功です」

 

「合流した後、無線封鎖で目標を目指すわ。こっちに来なさい」

 

「了解」

 

9Aー91がこちらに向かって来る。合流したら、作戦開始だ。

作戦に当初の案は使えない。WA2000達にはダミーもないし、鉄血にはハイエンドモデルもいる。難しい任務だ。

 

ーーだけど、指揮官はやれと言ったから、多分出来る。そう思う。

 

WA2000は野に解き放たれた獰猛な獣だった。機が来るまで静かに潜み、獲物を見つけると素早く飛びつく。首に噛みつき、へし折るまで決して離しはしない。WA2000は舌舐めずりをしながら静かに自分を研ぎ澄ました。

 

ーーさぁ、作戦開始だ

 

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