永久の狩人   作:主水

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少女と狩人 Ⅷ

アルフレッドは腰にぶら下げたハンターポーチの中に無造作に手を入れると、ポーチの中から弾丸が装填されたスピードローダーを取り出し、目視で確認する。

普通であれば見るまでもなく手の感触だけで残弾数が把握できていたが、感覚の薄れた右手では今までのように指先で判断することは難しかった。

即座に弾丸を銃に装填するために用いるスピードローダーに残っている弾丸は20発ーーー森の主が「変異」してからすでに40発の弾を使っていた。

ローダーを銃の装填機構にあてがいながら、チラリと木の影から森の奥に目線を移す。

漆黒のワイバーンがまるで視界を奪われた獣のように、手当たり次第に周りの半分炭と化した木々の残骸を破壊し、暴れ回っている姿が見える。

 

「アルフレッドさん…」

 

漆黒のワイバーンの一挙手一投足を見逃すまいと注視していたアルフレッドにヘスが小さな声で話しかける。

ヘスの声に反応はしないものの、森の主がこちらの姿を捉えていないと判断したアルフレッドは、ゆっくりと視線を戻す。

アルフレッドと同じ木の影にヘスとヘルガ、チコの姿も見える。

 

「だ、大丈夫ですか…アルフレッドさん…」

 

惧れとも憂わしげとも取れる表情を見せるヘスと、不安な視線を見せているヘルガ。

二人とも、生傷と泥まみれになっている。

 

「…チッ、うるせぇ」

 

虚勢をはったものの、感覚が薄れ、痙攣が起きている右手でうまく銃に弾が装填できない。

アルフレッドの右腕は上腕から手の甲にかけ、大きく火傷を負っていた。救急キットで応急処置は施したものの、負ってしまったダメージは大きい。

 

「…て、手伝います」

「うっせぇ。てめぇはあのバケモンを見張っとけ」

 

森の主が「変異」したのが約10分前。

その10分がとてつもなく長く感じるほど、森の主の攻撃は圧倒的だった。

「厄災」とそのまま形容できる桁外れな攻撃ーーー

まるで生きているかのように地面を駆け襲いかかってくる森の主の口から放たれる炎に、近づく物を焦土と化すその身に纏われた藍紫色の炎。

さらに、アルフレッドに火傷を負わせたあの攻撃ーーーーー

森の主の咆哮に呼応するように、まるで噴火の如く地面から藍紫色の火柱がいくつも噴出されたのだ。生物の動きを捉えることができるアルフレッドの「眼」も、常識を逸するその攻撃は捉えることが出来なかった。

そう、まさに常識を逸する怒涛の攻撃だった。

 

「…森の主の視力はどの程度で戻るのでしょうか…」

 

神に祈るように、ヘスがアルフレッドを仰ぎ見る。

一端身を隠すために、強烈な光を放ちモンスターの視力を一時的に奪う「閃光玉」を使いここへ避難していた。

今視力を奪っているとはいえ、効果は一時的なものだ。すぐにまたあの地獄とも言える攻撃が始まるだろう。そうなればーーー全滅の可能性は高い。

 

「持って5分ってとこか…。くそったれ、一番やべえのは…」

 

震える腕を押さえつけ、ねじ込むようにスピードローダーで弾を装填する。

 

「一番やべぇのは、弾が全く通らねぇ事だ。硬い甲殻に有効な徹甲榴弾すら通らねぇ」

「…何か策はあるのでしょうか…」

「…策?策だと?」

 

焦りの表情を見せるアルフレッドが再度森の主の姿を注視する。彼の頭には一つの打開策しか残っていなかった。

半ば賭けに近い打開策。

 

「オイ新米、あれが見えっか?」

「えっ?」

 

アルフレッドが震える右手で森の主を指さす。が、ヘスには何の事を指しているのか全く理解できない。

 

「な、何のことでしょうか…」

「アレだよ、ヤツの胴体…」

「あっ…」

 

凝らしたヘスの目にあるものが映し出される。先ほどアルフレッドが打ち込んだ「滅龍弾」だ。

変異した森の主の胸部にまだ突き刺さったままになっていた。

 

「でも、先ほどは全く効果が無かった…」

「…コイツは賭けだ。良いか新米。滅龍弾が効かねぇワイバーンはこの世に存在しねぇ。絶対だ」

「な、なぜそう言い切れるんですか?」

「…「祖龍」とヤった時に唯一効果があったのが滅龍弾だったからだ」

「そ、そ、そ、祖龍!?祖龍って…「始まりの竜」って言われている伝説のドラゴンですか!?」

 

ヘスが森の主に届かないように無意識に小さい声で叫ぶ。

祖龍…ドラゴンの祖にして、最初の竜と伝えられている伝説の「黒龍」だ。

 

「アルフレッドさん、祖龍を狩ったんですか!?」

「…あ〜ごちゃごちゃうるせぇな。ンな事今はどーでもいいだろ。俺が言いたいのは「竜の祖」に効くモンが、その子孫共に効かねぇわきゃねぇだろってハナシだ」

「…た、たしかに…そう言われるとそうかもしれません。けど、子孫に免疫がついちゃったのかもしれないじゃないですか…」

「ンじゃ聞くが、なんで最初、ヤツの表皮はボロボロに崩れ落ちたンだ?」

「…そういえばそうですね…」

 

アルフレッドは左手で頭をボリボリと掻きむしる。

 

「…効かなかったんじゃねぇ、ヤツの「変異」で滅龍弾が甲殻の外に押し戻されたんだ」

「…崩れ落ちた表皮の下から新しく作られた真っ黒い甲殻に…ですか?」

「そうだ。刺さっている滅龍弾を奥へ押し込む形で、その甲殻をぶち破ることができれば…。ンで、てめぇの言う「策」のハナシだ」

 

アルフレッドが苦笑いとも取れる笑みをヘスに向ける。

ーーーー何か嫌な予感がヘスを襲った。

 

「20発ほど試してみたんだがよ、うまくタイミングが取れねぇせいでヤツに刺さった滅龍弾に当たりゃしねぇ。この右腕のせいだ。命中率は以前の10分の1ってトコだな」

「…な、なるほど…」

「あ〜…いちいち反応しなくて良い。このガキみてぇにおとなしく聞いとけ」

 

左手でぽんとヘルガの頭をあやしながらアルフレッドが続ける。

ヘルガは、アルフレッドの言葉を一門一句聞き逃すまいと身構えて聞き入っていた。傍らのチコと一緒に。

 

「まず第一に、ヤツの身を起こす必要がある。弾が刺さっている滅龍弾に当たりやすくするようにだ。ンで第二に…」

 

ちらりと自分の右手を見やり、続ける。

 

「第二に、俺の右手の代わりに引き金を引く役が必要だな。メンツ的に言うと…こっちがガキだな」

 

急に重大な任務を与えられれ、ヘルガがびくんと身を起こす。

照準はアルフレッドが定め、自分はただ引き金を引くだけ…とはいえ、タイミングが遅れてしまえば弾は外れてしまう。

引き金を引くだけというその言葉以上に、極めて重要な役割だ。

 

「となると、ヤツの身を起こす役は…てめぇだな新米」

「…!」

 

アルフレッドの笑みの理由が判った。

先ほどのアオアシラの時と同じ囮か、もしくは更に危険な役割ーーーー。

ヘスもアルフレッドと同じく、笑みを浮かべるしか無かった。

 

「命の補償はできねぇし、五分の賭けだ。うまく身を起こすことが出来て、滅龍弾をヤツの甲殻の下にねじ込めたとして…てめぇが言うように効かないかも知んねぇ」

「…」

「だがな、やんなきゃ全滅だ。次あの攻撃を受けきれる自信はーーー悪りぃが無ぇな」

 

アルフレッドは自らに言って聞かせるようにそうつぶやく。

アルフレッドのその言葉に、沈黙に包まれてしまったヘルガとヘスの2人を鼓舞するかのようにさらにアルフレッドが続ける。

 

「まぁ、心配すんな。てめぇら…特にガキには命張ってもらう必要は無ぇ。…今は俺の依頼主だしよ」

「お、おじさん…」

 

と、アルフレッドはハンターポーチの中から小さい小樽を出す。小さくドクロマークが描かれた小樽。

任務が失敗した時に打ち上げる、「失敗の狼煙」用の打ち上げ小樽爆弾だ。

 

「…チコ、てめぇにこれを渡しとく。今回の依頼は半分ギルド絡みだからラスタ共が助けに来てくれンだろ。ーーーもし失敗したらよ、命がけで新米を助け出すからそれ持って3人で街目指して突っ走れ」

「だ、旦那はどうする…ニャ…」

「さぁな。まぁ大丈夫だろ?」

 

アルフレッドが不敵な笑みを浮かべる。だがそこに居る誰もが判っていた。

彼が皆を安心させるために見せている精一杯の「強がり」だということを。

 

「オラ、新米。てめぇが一番危険な役割だ。…頼むぜ」

「…ま、任せて下さい。必ずやり遂げてみせます」

 

アルフレッドはゆっくりと立ち上がり、漆黒の銃を構える。

頼もしいヘスの返事に、軽くヘスの胸を小突くと、アルフレッドはただ彼の武運を祈った。

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