マスター必須技能:コミュ力   作:ブリーム=アルカリ

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人理継続保証機関カルデア
危険な転職


 僕の名前は藤丸立香である。既に色々とお察しの事だと思う。そういう事だ。自分は異世界から、いや正確には第四の壁の向こう側からやって来た(転生)者である。

 

 …恥ずかしい。こんな事に意味はあるのだろうか?いやあるはずだ。僕は自分が二次創作の登場人物と踏んで貴方に呼びかけている。どうか答えて欲しい。

 

「…当然返事などなし、と」

 

 このむなしい現実への抵抗も優に百回を超える程繰り返し、そして百回を超える程落胆を繰り返してきた。意味は無いと分かっていてもそれでもやめられない。こんな恐ろしい世界からは早く逃げてしまいたいからだ。一ミリでも助かる可能性があるならそれを諦められない。

 

「立香ー。ごはんよー」

 

「…はーい」

 

 そして今日も一日が始まる。

 ベットから降りて曲がった毛布もそのままに母の待つ居間へ急ぐ。

 

 

 父は既に食卓についていた。挨拶をかわしつつ自分の席に着く。

 

「今日はね〜。スクランブルエッグとベーコンもつけちゃいました〜」

 

 朝に驚く程弱く、普段はトーストしか焼かない母が随分と張り切っている。

 

「え、なに?なんかいい事あったの?」

 

「いや、別に?なんでもないわよ〜」

 

 明らかに嘘だ。声が上ずっている。よく見ると父もなんだか浮かれている様に見える。…嫌な予感がした。

 

「なあ母さん。もう言ってしまおう。立香も勘付いている様だし」

 

「そうかしら?そうみたいね!」

 

「実はな、立香。カルデアってとこからお前にスカウトが来たんだ」

 

 …あ?

 

「時計塔の天体科のお偉いさんが作った所でな。お前にレイシフト?適正があるから是非スタッフに迎え入れたいそうだ」

 

「これはすごい事なのよ立香!ロードが作った施設のスタッフになれるの!エリートよエリート!」

 

 …いや、いやいや

 

「な、なんで!そんな検査もしてないのに分かる訳ないじゃないか!絶対何かの間違いだよ!」

 

 死ぬ!死んでしまう!無理だよ!僕には無理だ!聖杯探索なんてできるわけないだろ!

 

「それがね〜。献血に偽装して検査してたんですって!」

 

 死にたくない!もうあそこには行きたくない!何がなんでも!

 

「違う!献血なんて行ってない!」

 

「ど、どうしたの…?この前お菓子とジュースを献血で貰ったって言ってたじゃない…」

 

 くっ、クソ…なんで…歴史ごと燃えて死を避けようと思ったのに…!そう思ってカルデアに応募しなかったのに…!なんでだよ…!

 

「ね、ねえ立香…ひょっとして嫌なの…?貴方普段からいいとこに就職したいって言ってたじゃない…」

 

「いいとこだけど…!あそこは…!あそこだけは…!」

 

 さきほどから静観していた父が宥める様に口を開いた。

 

「なあ、立香。これはお前の為でもあるが藤丸家の為でもあるんだ。家訓は覚えているだろう…?」

 

 家訓というにはあまりに俗物的な代物。祖父の執念が篭ったそれは晩年何度も聞かされていた。忘れようもない。

 

「いつか必ずや藤丸の名を残せ…でしょ?」

 

「ああ…私の代ではついぞ果たせなかったが、これは大きなチャンスなんだ。時計塔に近づき名を上げる為のな」

 

「いや、でも死んだら元も子も…」

 

「確かに魔術師の仕事は常に死の危険を伴う。しかしスカウトのハリーさんは万全なバックアップがあるから安心と言っていた。」

 

 父は知らないのだ。カルデアの業務はなんなのか。藤丸立香が、僕がどんな目に遭うのか。

 

「それにお前は当家きっての天才だ。何があっても安心だろう」

 

「いや、でも…」

 

「頼む!」

 

「あ、貴方…」

 

 父が土下座していた。息子である僕に。いつも威厳のあった父が。頑固であまり人を頼らない父が。

 

「親父の悲願なんだ…時計塔にもう一度藤丸の名を轟かせなくちゃならないんだ…」

 

「起きてよ父さん!らしくないよ!」

 

 かっこいい父のこんな姿、見たくはなかった。

 

「お前がこの話を承諾するまで私は頭を上げないぞ」

 

 本気だ。父は一度言ったことを決して曲げない。

 

「分かったよ!行くよ!行けばいいんだろ!?」

 

「行ってくれるか!よし!」

 

 そう叫ぶやいなや父はスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。

 

「あ、ハリーさんですか?はい、息子が承諾してくれまして…」

 

 ハリーというのはさっき話題に上ったスカウトだろう。抜け目のない父は僕の退路を塞いだのだ。

 

「手段を選ばないのが藤丸家の男よ…」

 

 母は静かに笑っていた。ここまで父の計算どおりだったのだろうか。もう怒る気も起きない僕は握ったままだったコップを静かに机に置いた。

 

 

 

 

 

 

 あのあと、温め直した朝ごはんを頂いた僕は出発の準備をしていた。パスポート。着替え。薬。人形。そして魔術道具。そこそこ詰め込まれてはち切れそうな気もするカバンを床に置き、ベッドへ身を投げ出して師匠へとお別れのメールを打った。正直師匠も燃えるので挨拶の必要もない気がするがそこはそれ礼儀である。というか師匠燃えるんだろうか。なんだか普通に生きてそうなイメージだが。

 送信が終わると一気にすることがなくなった。もとより友などおらず、大学は行かず家業を継いでいる。僕がいなくて困る人などほとんどいないのだ。

 することがなくなると、どうでもいいことが次々と思い浮かぶ。厳しい現実を前に逃避しているのだろう。実に脆弱なメンタルである。なんだか勢いに呑まれて現実味が薄いが、僕はカルデアに行くのだ。そして聖杯探索の旅に出るのだ。

 

「──死にたくないなあ」

 

 たぶん僕は死ぬだろう。特異点Fで死ぬだろう。スケルトンあたりにばっさり斬られて。

 

「──死にたくないなあ」

 

 特異点Fをどうにかやり過ごしてもきっとオルレアンで死ぬだろう。個性の強いサーヴァント達についていけず協力も得られず。

 

 そしてまた行くのだろう。あの虚無に寂寞に喪失に滅びに死が死が死が死が死が死が

 

「ああクソッ!」

 

 もう生きるしかないんだ。みっともなくても足掻くしかないんだ。あそこから逃げるためには。

 もうやってられなくて。カーテンを締切って布団を被った。

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