「マスター!おかえりなさい!」
喜色満面といった表情のキリエライトさん。意外にも機嫌はいいようだ。
「その…すいません、帰るのが遅くなってしまって」
「いえ。ドクターから通信で話は聞きました!義手を受け取りにいった、と」
Dr.が?まだ用事があったのだろうか。
「ブリーフィングを始めるそうです。管制室に行きましょう。マスター!」
七つの特異点を補足し、行くべき場所も当たりをつけたという事だろう。
キリエライトさんと共に部屋を出る。
何か話題が欲しい所だが、まったく思いつかない。会話のネタと言えば趣味や特技だろうか?
生憎と僕に趣味はない。特技も魔術くらいのものだ。
…いや読書。前世ではよく本を読んでいた。
「キリエライトさんって本は読みますか?」
「はい!」
キラキラと瞳を輝かせこちらへ向くキリエライトさん。その虹彩は美しく、一点の曇りも見受けられない。あんな事を言ったのに、あんな姿になったのに、彼女は純粋なままなのか?
「マスター?」
「えっ…あっ、どんな本を読みますか?」
「そうですね…推理小説等をよく読みます!特にシャーロック・ホームズシリーズは大好きで…」
シャーロック・ホームズゥ?
「
「そうですね!あんな人、マトモじゃありません」
「ん?」
あれ、なんの話をしてたんだっけ。
えーと、キリエライトさんはシャーロック・ホームズをよく読むんだっけ?
「自室に戻ったらシリーズ全てを捨てておきます」
「え!?捨てちゃうんですか?」
「はい!もう必要ないので」
好きなシリーズだったのではないのだろうか。…僕はほんのちょっっっっとだけシャーロック・ホームズは好きではないけれど、本は大事にしなくちゃいけない。要らないなら僕が貰おう。
「要らないなら貰っていいですか?まだ読んだことないんです」
ちょっとだけ嘘をつく。既に総て読んでいるが、キリエライトさんは知らないしバレないだろう。
「?」
不思議そうな顔をする彼女。やっぱり捨てるのが嫌になったのだろうか。
「いや、捨てないなら貰いませんよ?きっと元の持ち主の手にある方が本も喜ぶでしょうし」
「では私が持っておきますね!」
捨てるのは止めにした様だ。うん、それが一番だ。
なんて事を話していたら管制室に着いた。
キリエライトさんを先頭にして中に入る。
「やあ、待ってたよ二人とも」
正面にはDr.がいた。手前には二つの椅子が置かれている。座れという事だろう。
「まず謝らせて欲しい。藤丸君、ボクは君の意思を軽視してしまった」
「いや、問題ありませんよ。動転するのも止むなしです」
チラッとキリエライトさんを見て目配せする。
旧知の仲である彼女が変わってしまったのだ。他に気が回らなくても仕方がないだろう。
というか本当なら腕を斬られてしまった僕が謝るべきなのだ。しかし彼女の手前、その事を話す事はできない。
「そう言ってくれるとボクも助かる。でもちゃんと確認させて欲しいんだ」
はにかんでいた顔から引き締めるDr.
「君は世界を救う旅路に出てくれるかい?」
「はい」
「それが辛く苦しいものだとしても?」
「はい」
「ひょっとしたら死んでしまうかもしれないよ?」
「えっと…はい」
じゃあ嫌です。そう言えられれば楽なのだが。
「お父さんと約束したんです。家の名を残す、と」
「お父さんと約束した、か。ふふっ」
突如として笑うDr.。え、なんか笑うところあった?
「人類の為に〜とかじゃなくてさ。身近な人の為に頑張れる。キミは優しいんだね」
「はい!マスターは素晴らしい御方です!私に全てをくださいました!」
は?僕が優しい?何処がだ?違うだろう?そういう言葉はさ。カルデアの皆みたいな────
「それじゃあブリーフィングを始めるね。まず今回向かってもらうのはフランスだ」
おっとお話はちゃんと聞かなきゃマズイ。失礼だし、何より自分の命がかかっているのだ。
「じゃあこれでブリーフィングは終わり。理解してもらえたかな?」
「恐らく特異点の原因である、聖杯の探索及び奪取ですね」
「うん。大正解だよマシュ」
告げられた内容に大した変化はなかった。まあ大きな変化があっても困るのだが。
「それじゃあ次の大仕事だ」
「大仕事?」
「うん。君が使役するサーヴァントを召喚するんだ」
…サーヴァントの、召喚。
協力してくれるだろうか。アンデルセンさん辺りが来たら、上手くやっていく自信がないのだが…
「二人で召喚室に向かってくれ」
「Dr.は行かないんですか?」
「忙しいし…それに、サーヴァントとの初対面だ。邪魔はないほうがいいよ」
苦笑いを見せる彼。…悔いているのだろうか。
「ではマスター!まだ見ぬ新たな仲間に会いに行きましょう!」
興奮気味のキリエライトさんに促され、召喚システムに足を向ける。
召喚室は真っ暗だった。
廊下から光が差し込んでいるというのに何も見えない。まるで僕の未来の様だ。
キリエライトさんが戦闘体に変身し、盾を台座に置く。変貌してしまった彼女だが、その盾の性質は変わらないでいてくれるだろうか。でなければ何も召喚できなくなってしまうのだが。
「準備完了です、マスター。エネルギーは一回分ですね。…相性の良い方がやって来られるのを祈りましょう」
召喚方式からして、人理修復に否定的なサーヴァントが来ることはないが、それでもソリが合わなければ戦力にはならないだろう。
…大博打だ。
「…キリエライトさん。お願いします」
「了解しました!」
真っ暗だった部屋が、突如として光り輝く。星座の様な蒼い光が宙を漂い、小さな光達が星の様に瞬いている。
「宇宙みたいで綺麗ですね…」
キリエライトさんが背中にそっと体を預けてくる。彼女も不安なのだろうか。
光が集まり、柱となって天井まで伸びていく。かと思いきやスパークし、視界全てが白く染まった。
「────サーヴァントセイバー」
ああそうか。そうだよな。
「ジル・ド・レ。参上致しましてございます」
俺の最初期サーヴァント。ジル・ド・レがそこに居た。
いつまで幕間続くんだろう